表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

158/185

聖主者発表!

 先生も、惜しみなく俺を評価してくれた。


「いやぁ、でも俺平民だしなぁ。Aリーグ優勝者って線もあるんじゃないですか?」


 噂をすれば陰というか、ブランたちの声がした。


「あ、いたいた。ラビ、優勝おめでとう、ヴァレと一緒に見ていたよ」

「ブラン、ヴァレンタイン」

「表彰台ぶりだねラビ、ボクのことはヴァレでいいよ」


 クールな目つきながら、口ぶりは軽い。

 表彰台の彼女はつまらなさそうだったけど、家のお礼があるからか、俺には少し気さくに見えた。


「そっか、でもヴァレだって優勝したんだから、選ばれるかもしれないぞ?」

「よそ者のボクが選ばれるわけないだろ? 先生が平民科生徒は全員参加とか言うからバニーのためにも出てあげたけど、雑魚しかいなくて退屈だったよ」

「Aリーグが雑魚って……」


 ――こいつ、本当に何者だ?


 そこへ、ハロウィーが不思議そうに尋ねた。


「でもヴァレ、わたし、一年生にAランク冒険者の生徒がいるなんて聞いたことないんだけど?」


「聞かれなかったしね。ボクがAランク冒険者になったのはずっと昔の話だし」

「中等部時代はクエスト受けないし、高等部になってからも僕と一緒にFランククエスト受けていたからね」

ブランが申し訳なさそうに苦笑いをした。


「ヴァレがAランク冒険者ってわかった時は本当に大騒ぎだったよ。先生なんて白目剥いちゃうし、嘘つき呼ばわりした生徒はみんな決闘ふっかけてくるし」

ブランは当時のことを思い出しているのか、声に罪悪感が滲み出ていた。


「どうでもいいよ、クラスの連中なんて。それよりバニー、お願い聞いてあげたんだから、今夜はいっぱい仲良くしようね♪」


 ヴァレが小悪魔めいた笑みでブランの肩を抱き寄せると、彼は赤く縮こまった。


 ――それにしても、俺らと同じ一年生でAリーグか……。


 つまり、外国の史上最年少級の天才Aランク女子が編入してきた、ということなのだろう。人の経歴を尋ねるのは失礼な気がするのは聞けていないが、外国の英雄や勇者の類だろうか。


 まさにファンタジーだけれど、この世界にはそうした存在が実在する。

 特別な血統で、生まれながらに強い力を持つ者。

 あるいは、伝説の武器に選ばれ、勇者と呼ばれる者。


 ヴァレも、そうした類なのかもしれない。

 足元から、イチゴーたちのメッセージウィンドウが表示された。


『きっとマスターがえらばれるよー』

『あるじどのいがいにみちはない』

『マスターがんばったのだー』

『マスター、おまえがナンバーワンだっす』

『ゴゴーもそうおもうのです』


 イチゴーたちからの期待は素直に嬉しい。

 それはこの子たちの無邪気さ故だろう。

 もちろん、ノエルやハロウィー、それにイースターも期待してくれた。


「そうだラビ。今年の聖主者は貴君意外に考えられないだろう」

「救世杯優勝でお店も大人気だったもんね♪」

「それもゴーレムフル活用でしたからね。救世主って愛称をつけるお客さんも多かったですよ」


「う~ん、救世主は微妙だな」

「なぜです?」

「いや、俺それが原因で革命軍に狙われたし」


 俺は渋い顔をするも、イースターはゲスイ顔をした。


「まぁまぁ、逆にこれを利用すればおいしい思いができるかもですよ」

「お前は本当にブレないな」


 俺が肩を落とすと、会場がどよめいた。

 顔を上げると、誰もが注目する舞台の上に、豪奢な服装の人たち上がっていく。


 陛下の右腕である宰相様と、その側近たちだ。

宰相様が、部下から投票の集計結果を受け取っている。


 周囲に緊張感が走り、どよめきは静まり、会場を静寂が包んだ時、宰相様は宣言した。


「発表する! 今年の救世祭! 聖主者は! ……救世杯Dリーグ優勝! ラビ!」


 会場が歓声に飲み込まれた。

 そして俺は、周囲の生徒たちから次々背中を叩かれていく。

 ノエルたちも祝福してくれた。


「やったなラビ!」

「おめでとう!」

「やっぱりワタシの目に狂いはありませんでした! さぁ壇上へ」

「ほらね、ボクの言ったとおりだろ?」

「よかったね、ラビ♪」


 ノエル、ハロウィー、イースター、ヴァレ、ブランの五人に送られて、俺は壇上へと向かった。


 人ごみをかき分けながら歩く中、足が少しフラつく。


 正直、今でもちょっと信じられない。

 俺だって、期待しないわけではなかった。

 優勝したし、店も大盛況だし、もしかして、と。

 期待の淡さは、自分への保険だった。

 選ばれなかった時のショックをやわらげるための。


 だけど、本当に選ばれてしまった。

 いつの間にか人々が左右に割れて、俺は左右の人垣から肩や背を叩かれ、笑顔に溢れた道を進みながら、壇上に辿り着いた。


 そして階段を上がり、壇上へ。

 高くなった視界でふと首を回すと、数万人の視線が俺に集まっていた。

 それはコロシアムでも同じはずなのに、何故か緊張する。


「おめでとうラビ。君に、王室より勲章を授与する」


 そう言って、宰相さんが威厳のある表情で俺に歩み寄り、金と銀で構成された勲章を俺の胸につけてくれた。


 会場は拍手に包まれ、俺は手の平に汗をかきながら理解した。


 ――これが、認められるってことか。


 華やかなバトルもゴーレムダンスも他の選手もいない。

 俺の功績を称える場で、みんなが俺に注目し、俺個人に拍手と笑顔を向けてくる。

 みんなが俺の成功を祝ってくれる。


 前世も今世でもなかった経験。


 いや、コマンダーメイルやドレイザンコウを倒した時も賞賛はされた。


 でも、あれはハロウィーたちと協力したからという印象が強かった。

 だけど今回は、俺が救世杯で優勝して、俺がお店を盛り上げた。

 もちろん、イチゴーたちの力あってのものだ。


 なのに、嬉しいと感じている。


 ――周囲から認められて、自分を認められるようになったのかな。


 俺は昔から、卑屈、とはまではいかないけど、『いやいや俺にそれは無理だろう』と自己評価の低い人間だった。


 だけど、自分で自分を肯定できる、他人からの賞賛を受け止められることに感動してしまう。


 ――おっと忘れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ