聖主者発表!
先生も、惜しみなく俺を評価してくれた。
「いやぁ、でも俺平民だしなぁ。Aリーグ優勝者って線もあるんじゃないですか?」
噂をすれば陰というか、ブランたちの声がした。
「あ、いたいた。ラビ、優勝おめでとう、ヴァレと一緒に見ていたよ」
「ブラン、ヴァレンタイン」
「表彰台ぶりだねラビ、ボクのことはヴァレでいいよ」
クールな目つきながら、口ぶりは軽い。
表彰台の彼女はつまらなさそうだったけど、家のお礼があるからか、俺には少し気さくに見えた。
「そっか、でもヴァレだって優勝したんだから、選ばれるかもしれないぞ?」
「よそ者のボクが選ばれるわけないだろ? 先生が平民科生徒は全員参加とか言うからバニーのためにも出てあげたけど、雑魚しかいなくて退屈だったよ」
「Aリーグが雑魚って……」
――こいつ、本当に何者だ?
そこへ、ハロウィーが不思議そうに尋ねた。
「でもヴァレ、わたし、一年生にAランク冒険者の生徒がいるなんて聞いたことないんだけど?」
「聞かれなかったしね。ボクがAランク冒険者になったのはずっと昔の話だし」
「中等部時代はクエスト受けないし、高等部になってからも僕と一緒にFランククエスト受けていたからね」
ブランが申し訳なさそうに苦笑いをした。
「ヴァレがAランク冒険者ってわかった時は本当に大騒ぎだったよ。先生なんて白目剥いちゃうし、嘘つき呼ばわりした生徒はみんな決闘ふっかけてくるし」
ブランは当時のことを思い出しているのか、声に罪悪感が滲み出ていた。
「どうでもいいよ、クラスの連中なんて。それよりバニー、お願い聞いてあげたんだから、今夜はいっぱい仲良くしようね♪」
ヴァレが小悪魔めいた笑みでブランの肩を抱き寄せると、彼は赤く縮こまった。
――それにしても、俺らと同じ一年生でAリーグか……。
つまり、外国の史上最年少級の天才Aランク女子が編入してきた、ということなのだろう。人の経歴を尋ねるのは失礼な気がするのは聞けていないが、外国の英雄や勇者の類だろうか。
まさにファンタジーだけれど、この世界にはそうした存在が実在する。
特別な血統で、生まれながらに強い力を持つ者。
あるいは、伝説の武器に選ばれ、勇者と呼ばれる者。
ヴァレも、そうした類なのかもしれない。
足元から、イチゴーたちのメッセージウィンドウが表示された。
『きっとマスターがえらばれるよー』
『あるじどのいがいにみちはない』
『マスターがんばったのだー』
『マスター、おまえがナンバーワンだっす』
『ゴゴーもそうおもうのです』
イチゴーたちからの期待は素直に嬉しい。
それはこの子たちの無邪気さ故だろう。
もちろん、ノエルやハロウィー、それにイースターも期待してくれた。
「そうだラビ。今年の聖主者は貴君意外に考えられないだろう」
「救世杯優勝でお店も大人気だったもんね♪」
「それもゴーレムフル活用でしたからね。救世主って愛称をつけるお客さんも多かったですよ」
「う~ん、救世主は微妙だな」
「なぜです?」
「いや、俺それが原因で革命軍に狙われたし」
俺は渋い顔をするも、イースターはゲスイ顔をした。
「まぁまぁ、逆にこれを利用すればおいしい思いができるかもですよ」
「お前は本当にブレないな」
俺が肩を落とすと、会場がどよめいた。
顔を上げると、誰もが注目する舞台の上に、豪奢な服装の人たち上がっていく。
陛下の右腕である宰相様と、その側近たちだ。
宰相様が、部下から投票の集計結果を受け取っている。
周囲に緊張感が走り、どよめきは静まり、会場を静寂が包んだ時、宰相様は宣言した。
「発表する! 今年の救世祭! 聖主者は! ……救世杯Dリーグ優勝! ラビ!」
会場が歓声に飲み込まれた。
そして俺は、周囲の生徒たちから次々背中を叩かれていく。
ノエルたちも祝福してくれた。
「やったなラビ!」
「おめでとう!」
「やっぱりワタシの目に狂いはありませんでした! さぁ壇上へ」
「ほらね、ボクの言ったとおりだろ?」
「よかったね、ラビ♪」
ノエル、ハロウィー、イースター、ヴァレ、ブランの五人に送られて、俺は壇上へと向かった。
人ごみをかき分けながら歩く中、足が少しフラつく。
正直、今でもちょっと信じられない。
俺だって、期待しないわけではなかった。
優勝したし、店も大盛況だし、もしかして、と。
期待の淡さは、自分への保険だった。
選ばれなかった時のショックをやわらげるための。
だけど、本当に選ばれてしまった。
いつの間にか人々が左右に割れて、俺は左右の人垣から肩や背を叩かれ、笑顔に溢れた道を進みながら、壇上に辿り着いた。
そして階段を上がり、壇上へ。
高くなった視界でふと首を回すと、数万人の視線が俺に集まっていた。
それはコロシアムでも同じはずなのに、何故か緊張する。
「おめでとうラビ。君に、王室より勲章を授与する」
そう言って、宰相さんが威厳のある表情で俺に歩み寄り、金と銀で構成された勲章を俺の胸につけてくれた。
会場は拍手に包まれ、俺は手の平に汗をかきながら理解した。
――これが、認められるってことか。
華やかなバトルもゴーレムダンスも他の選手もいない。
俺の功績を称える場で、みんなが俺に注目し、俺個人に拍手と笑顔を向けてくる。
みんなが俺の成功を祝ってくれる。
前世も今世でもなかった経験。
いや、コマンダーメイルやドレイザンコウを倒した時も賞賛はされた。
でも、あれはハロウィーたちと協力したからという印象が強かった。
だけど今回は、俺が救世杯で優勝して、俺がお店を盛り上げた。
もちろん、イチゴーたちの力あってのものだ。
なのに、嬉しいと感じている。
――周囲から認められて、自分を認められるようになったのかな。
俺は昔から、卑屈、とはまではいかないけど、『いやいや俺にそれは無理だろう』と自己評価の低い人間だった。
だけど、自分で自分を肯定できる、他人からの賞賛を受け止められることに感動してしまう。
――おっと忘れていた。