リミッター解放!
エリザベスの表情が驚愕に固まった。
視線の低さから、気づいてしまったのだろう。
イチゴーたちの胸に輝くハイゴーレムの証、オーブの存在に。
「まさか、嘘でしょう……先月スキルに目覚めたばかりの下民が、ハイゴーレムって……」
都合の悪い現実を必死に否定しようとするエリザベスに、俺は絶対零度の怒りを孕んで告げた。
「全機、リミッターを解放しろ」
イチゴーたち五人が、体内の魔石に充填した魔力を解放した。
途端に五人から放たれる魔力の波動、とも呼ぶべき気配が格段に質量を増した。
五人全員が、まるでニゴーのバーニア機能を発動させたように加速した。
「ディーヴァ――カハっ!?」
エリザベスが指示を出す前に、ニゴーの拳がみぞおちに深く食い込んでいた。
その間に、ゴゴーたちがディーヴァを徹底的に叩きのめしていく。
最後に、イチゴーがストレージから巨大な岩を取り出し、真上に落とした。
「げぼぁっ! わ、わたくしの、ディーヴァがぁ!?」
体をくの字にしてうずくまったまま、エリザベスは叫んだ。
「回収! 再召喚!」
ディーヴァが消失。
エリザベスのすぐ隣の地面に光の召喚陣が描かれ、そこからディーヴァが姿を現した。
ただし、その姿は見るも無残なものだった。
「ッ、待っていなさい、すぐにワタクシの魔力で元に戻してあげますわ!」
「待つわけないだろ?」
イチゴーの拳が、エリザベスの脇腹を殴り飛ばした。
「ぎゃあっ! ディーヴァは!?」
人型の残骸は各関節を震わせながら、破片同士が引き合い、少しずつ修繕に向かっている。
俺のサンゴーと比べれば、ナメクジのように遅い。
「そんなっ!? 何故!? 貴方のサンゴーはすぐに戻ったのに!?」
絶望の声を上げるエリザベスに、俺は鼻から溜息を漏らしながら教えてやった。
「あのなぁ、俺、一応ゴーレム使いの名門シュタイン家なんだよ。ゴーレムの構造、魔術式の知識はもちろん、スキルが無くても材料さえあれば自分の魔法でゴーレムを作れる。実際、父さんだって手作りのゴーレムを王都に納品しているしな。同じゴーレム生成系スキルでも、一〇〇パーセントスキル頼りのお前と、俺とじゃ経験が違うんだよ」
「そん、な……」
これは他のスキルでも同じことが言える。
仮に剣聖スキルをもらった生徒は、いきなりノエルと互角か?
いや、単純な技量は同じでも、戦闘経験値には天地の差がある。
そこから生まれる戦術、戦力を見抜く眼力も同様だ。
F1レースの勝敗がマシン性能だけで決まるならレーサーなんていらない。
「そのスキルに目覚めてから負けたことなんてないから、ゴーレムを直したこともないんだろ? その経験不足がお前の敗因だ」
「ふざけないで! 元伯爵の底辺ゴーレム使い如きがワタクシに説教ですの!? それを言うなら、ワタクシは本来ゴーレム使いではありません。思い出させてあげましょう。ワタクシがクラウスとかいう下民を遥かに超える、一流の魔法剣士であることを!」
エリザベスは左右の腰からサーベルを引き抜くと、剣身に炎をまとわせ駆けてきた。
一方で、俺はストレージからフリージングソードを取り出し迎え撃った。
「疾ッ!」
俺が真一文字に刃を振るうと、三日月形の青白い斬撃が大気を駆け抜けた。
絶対零度の余波で地面が凍土に変わり、受け止めたエリザベスのサーベルから炎が消えた。
「なっ!?」
「マジックアイムがあれば魔法の斬撃は俺にも撃てる。次は何がいい? 炎か? 雷か?」
俺は左右の空間に赤いポリゴンをいくつも出すと、そこから異なる魔法石を使用した剣の柄を出して見せた。
エリザベスは一流の戦士。
だからこそ、柄を見ただけで、これらがハッタリではない本物だと見抜けるはずだ。
「ッッッ! だからどうですの!? レベルも剣士としての腕もワタクシのほうがはるかに上ですのよ! 教えてあげましょう! ディーヴァを得たワタクシのレベルは十七! 一年生はおろか、二年生でも上位に食い込む強さでしてよ!」
一瞬で距離を詰めて、俺は剣を振り上げた。
「悪い、俺のレベル、二四なんだわ」
上段から構えた剣を、全筋力と速力を以て振り下ろし、柄頭をエリザベスの頭に打ち込んだ。
「ぎゃぁああああああああああああああああああ!」
サーベルを握ったままの拳を頭に当てて、エリザベスはその場で転げ回った。
その姿を無機質な表情で見下ろしながら、俺は告げた。
「お前よりもクラウスのほうが三倍は強ぇよ」
スペックはほぼ同じ。
だけど、クラウスには平等な世界を実現するためという熱意と、そこから生まれた地道な戦闘経験値と諦めない闘志があった。
一方で、エリザベスは生まれ持った才能に胡坐をかき、ただ力を振るってきただけだ。
だから、奇策にハマるし、予想外のことが起こると対処できないし、メンタルは脆くてすぐに実力の半分も発揮できなくなる。
今だって、クラウスなら言っただろう。
『レベルが高くて勝てるなら苦労はない。レベル差程度で、僕が諦める理由にはならない』
と。
頭を抱えてのたうちまわるエリザベスに、俺は背中を見せた。
「審判! 試合、続けますか?」
「え!?」
俺が実況席、関係者席に声をかけると、大人たちが慌てふためいている。