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兄のプライド

 正直、勝つどころか勝負する気にもならなかった。


「でもまさかこの時期にDランクなんて、あいつ何をしたんだ?」

「高級食材であるムラサキクジャクの卵を手に入れたらしい」

「それって、そんな難しいのか?」


「難易度、ではないな。教会がレッドバーン公爵を晩餐会に呼び、ギルドにムラサキクジャクの卵を要求した。そのクエストをエリザベスが果たし、教会から多額の報奨金とDランクへの昇格推薦状をもらった」


「それって、自作自演……」


「この業界ではよくあることだ。今年の救世主祭最優秀賞、聖主者も、エリザベスになるよう教会の組織票は決まっているようだ」


 俺はげんなりを通り越して、げっそりとした気分になる。


「トーナメントの組み合わせ上、お前が当たるのは決勝戦。勝てずとも善戦しての準優勝なら父上も悪い顔はしない。貴族に復帰後、レッドバーン家ともつながりができる可能性もある。必ず決勝へ勝ち上がれ。この前の戦いでは私に勝てずとも、善戦はした。今のお前ならできるだろう」


 感情のこもらない、淡々とした言葉ながらも、そこには弟に対する強い期待が感じ取れた。


「それにエリザベスは教会が救世主候補に推す程の生徒だ。ゴーレム使いとして何か参考になるかもしれないぞ」


 その言葉には、少し考えさせられた。

 女神が世界を救った二〇〇〇年前の伝説によれば、世界が闇に覆われる時、救世主が現れるとされている。


 これは、現代では女神のようなゴーレム使いが世界を救うという意味だと解釈されている。


 だから革命軍は、俺こそがその救世主なのではないかと考え、俺を旗頭にしようとした。


 どうやら、教会も似たようなことを考えているようだ。


「でも、別に今って闇に包まれた世界じゃないよな?」

「解釈なんていくらでも変えられる。魔王がいなくても戦争や不景気、飢饉、自然災害、そうしたものでもいいだろう。それに、本物の救世主かどうかは関係ない。教会はあくまでも権威維持のための広告塔が欲しいだけだ。節操のない話だよ」


 教会への批判とも取れる言葉が少しに気になった。


「兄さんて教会嫌いだっけ」

「私が信仰しているのは至高のゴーレム使いである女神であり教会の老いぼれではない、とだけ言っておこう」

「なるほど……」


 やっぱり、俺の兄さんは他の貴族よりも賢いと感心した。


「ほぉ、大盛況のようじゃないか」

「あっ!?」


 突如として割り込んできた声に、俺と兄さんは背筋を伸ばした。


「学園長、何故こちらに?」


 兄さんが歩み寄ると、学園長は威厳のある声で、だけど気さくに答えた。


「噂は聞いているぞ、コロシアムで派手な宣伝をしたとな」

「はい、うちのヨンゴーが」


 視線を回すと、ヨンゴーが子供たちの前で幻影機能を使って遊んでいた。

 黒い影をまといながら、闇の暗黒ダークソルジャーとか名乗っている。全部意味同じ。


「それは重畳、どうやら私の力はいらないらしいな」

「嬉しいことにそうですね。あとまたお姉さんと話したくなったらイチゴーを貸しますね」


「おいラビ、なんの話だ? お前、学園長と面識があるのか?」

「ああ。この前学園長にゴーレムと会話できないかって言われたから、イチゴーを使って通信したんだよ」

「なん、だと……?」


 ――……あ。


 気づいた時にはもう遅かった。


 今のは俺が悪いし、迂闊だった。

けれど今更何を言っても言い訳にはならないし、後の祭りだろう。


 俺がフォローする方法を思案している間に、兄さんはその場から離れてしまった。


「そうか、では、せいぜい励め……」

「あ――」


 俺が呼び止めようとして、学園長に手で制された。


「私は来るべきではなかったな。すまなかった」

「いえ、俺が不注意でした」

「? どうしたの?」


 状況が呑み込めないハロウィーが、きょとんと尋ねてきた。


「簡単に言うと、前に兄さんができなかった仕事を俺が解決しちゃったんだ」

「すごい、さすがラビだね。お兄さんも鼻が高いんじゃない?」


 平民のハロウィーは、諸手を上げて喜んだ。


「いや、前にも言ったろ? 貴族は命よりも名を惜しむ、体面が保てないと息ができない人種だって」

「うん、それがどうかしたの?」


 ハロウィーは本当にわかっていない。

 けど、それも彼女の善良性が故である。


「次期当主の嫡男で人型ゴーレム使いの自分にできなかったことを弟で魔獣型ゴーレム使いの俺が成功させたからプライドが傷ついたんだよ」


「わたしなら妹がわたしの十倍弓がうまくてもうれしいんだけどなぁ」


 無欲だなぁ、と感心してしまう。

 ただし、どちらも間違っていない。

 

 嫡男として弟に負けたくないという兄さん。

 姉妹の功績を嬉しいと感じるハロウィー。

 

 どちらも正しく、そして相容れない。

 これが原因で、また兄さんから恨まれないか心配になる。

 何かいい方法はないか考えていると、隣の客の声が聞こえてきた。


「ホットドッグ食べながら観戦したいけど、ここで買ってもコロシアムに着くまでに冷めちゃうよねぇ」


 イースターが表情を曇らせた。


「う~んこの広場、コロシアムから微妙に離れているんですよねぇ」

「我が家のウィンナーは熱々じゃないと味が半減するからな」


 それから、コロシアム内の様子を思い出した。


 ――確か兄さんて、コロシアムの警備を担当しているんだよな……。


「学園長、ちょっと付き合ってもらえますか?」

「貴君の頼みならいくらでも」


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