ゴーレムたちは庶民に大人気である
続く二回戦の相手は経験豊富なベテラン冒険者だった。
巨大なバトルアックスを両手で振るうパワーファイターだったけど、小さなイチゴーたちには当たらない。
むしろ、ヨンゴーはその場から離れてバトルフィールド外周を走りながら、また幻影機能で店の宣伝をしている。
相手は横薙ぎの一撃が空振った直後、ニゴーのパンチを顔面に受けて昏倒した。
『勝者! ラビ!』
俺の勝利宣言がされるとヨンゴーが戻ってきて、イチゴーたちは再びのゴーレムダンス。
もちもちコロコロ跳ね回る姿に、観客たちは大笑いだった。
頭上には店の宣伝映像と、今の戦いのリプレイが流れている。
そして店に帰れば、長蛇の列ができていた。
見上げれば店内は五階の窓際席まで埋まり、レジカウンターでは壁に飾っているアクセサリーを手にした客を、ノエルがさばいていた。
ドローンたちもフル稼働だ。
「十階建てにすればよかったかな?」
「あ、ラビおかえり」
空っぽのお盆を手にしてハロウィーが明るい笑顔で迎えてくれた。
「ただいま。また勝ったぞ」
「おめでとう。わたしなんてさっき初戦敗退だったのにすごいね」
「え? ハロウィーも出ていたのか?」
「そりゃわたしだって平民科だもん。先生に出ろって。でもほら、わたし狙いをつけるのに時間かかるから」
ちょっと恥ずかしそうにお盆で鼻から下を隠しながら、ハロウィーはほんのりと赤くなった。
狙いをつけている間に集中攻撃を受けてダウンするハロウィーを想像して、申し訳なくなる。
俺に言わなかったのは、自分が負ける姿を見られたくなかったからだろう。
「ほら、ハロウィーは後衛だからさ」
俺がフォローを入れると、店内から子供や女性客の笑い声が聞こえてきた。
「あ、さっき踊っていたゴーレムさんだ」
「お菓子もってきてくれたの? 偉いね」
「おどってー♪」
ロクゴー以下のゴーレムたちは配膳を済ませると、お客様の期待に応えるよう、イチゴーたちとそん色のない動きでくるくると踊りだした。
それがまた、みんなにバカウケだった。
一部の子供たちが動きを真似している。
男性客も、俺の足元にいるイチゴーたちを目にして、違う意味で喉をうならせていた。
「おい、あのゴーレムだろ? 洪水から町を救ったって」
「一日で復興させるとかまるで女神のゴーレムだよな」
「小さな巨神兵だな。ドレイザンコウも討ち取ったんだろ?」
「流石はハイゴーレム使い」
「新聞見た時はデマかと思ったけど、さっきの試合すごかったもんな」
「胸のオーブ、あれニセモノじゃなくて本物なんだな」
「あの年でハイゴーレムを使うなんて天才だろ」
「それだけじゃない、王立学園のテロを防いだのも、あのゴーレムたちだって新聞に書いてあったぞ」
「あんな小さいのに高性能なんだな」
「そりゃハイゴーレムだしな」
「あっちの普通のゴーレムでもいいからうちにも一台欲しいもんだぜ」
俺だけでなく、ゴーレムもすっかり噂の中心だ。
コロシアムでの勝利。
独特なダンス。
今まで積み上げてきた功績。
それが一つとなり、みんなの中でイチゴーたちがどんどん受け入れられている。
これは素直に嬉しい。
――もしかして、貴族と平民の溝を埋めるだけじゃなくて、魔獣型ゴーレムのイメージアップもできるんじゃないのか?
淡い期待に胸が躍った。
――よし、ゴーレムダンスを派手にするためにも、ロクゴーからジュウゴーも連れて行こう。
店はジュウイチゴー以下に任せることにして、俺がロクゴーたちをストレージに入れた時、ノエルよりも聞き慣れた声に呼びかけられた。
「随分と繁盛しているようだな」
「兄さん!?」
店の入り口に立っていたのは、俺の兄、フェルゼン・シュタインだった。
思いもよらない人物の登場に、俺はつい駆け寄ってしまった。
「来てくれたんだ」
「勘違いするなよ。客ではない、もっとも、この様子では元から入れそうにないが」
兄さんの視線は、満員の客席と、その周囲で踊るゴーレムたちに注がれた。
「コロシアムでの活躍は見た。よくやっているじゃないか」
表情はそっけないも、思わぬ賞賛に気分が上がった。
「ありがとう。兄さんも参加しているのか? 冒険者ランク、俺と同じDだよな?」
「馬鹿を言うな。私は運営側だ。我がフェルゼン家が製造、納品したゴーレムがコロシアムの警備に使われている。その管理、運用を任されている」
「そういえば去年、父さんもやっていたっけ? その仕事、任せてもらえたんだ」
「将来、実家に戻ればお前がやることもあるだろう」
俺の貴族復帰を望むような発言が胸に響いた。
エリート志向で魔獣型ゴーレムが嫌いな兄さんなりに、俺を評価してくれているらしい。
「それに私がDリーグで優勝してもいいが、今年はレッドバーン家のご令嬢が参加している。仮に参加しても勝ちを譲る必要がある。なら、最初から出る必要もない」
兄さんの言葉に、俺はやや引っかかった。
「Dリーグでレッドバーン……あ、もしかしてエリザベス?」
俺が察すると、兄さんは首肯した。
「そうだ。今日、私がここに来たのも、お前にその話をするためだ」
兄さんはたたずまいを崩して、やや上から目線に語り始めた。
「王立学園貴族科一年生首席にしてレッドバーン公爵家のご令嬢、そして聖女型ゴーレムスキルを授かり教会からも覚えめでたく、一年生の五月でありながら冒険者ランクをFからつい先日Dにまで上げた期待の大型新人、エリザベス・レッドバーン。忖度を抜きにしても、彼女の優勝は堅いだろう」
最後のDランク昇進以外は知っている情報ばかりだけど、あらためて並べられると凄い肩書だ。
元は同じ貴族科だけに、エリザベスの実力は知っている。
中等部に入学してからの三年間、エリザベスの抜きんでた才能はいつだって注目のマトだった。
正直、勝つどころか勝負する気にもならなかった。
「でもまさかこの時期にDランクなんて、あいつ何をしたんだ?」