ホットドッグ誕生秘話!
そして迎えた救世祭当日の朝。
店の壁には自慢のアクセサリーをずらりと並べ、棚には男の子向けにカッコイイ系の魔獣の人形も配置した。
さらにノエルとハロウィーにも耳、髪、首、制服にアクセサリーを付けてもらい、カフェをオープンさせた。
広場は開園と同時に人が押し寄せ、大賑わいだった。
今日という日は王都中の住人が朝食を摂らず、出店で腹ごしらえをしてからコロシアムへ向かうのがスタンダードと言われている。
けれど……。
「客が来ないな……」
店の前には、大勢の人が集まってはいる。
けれど、みんな全面ガラス張りのタワーカフェを物珍しそうに眺めるばかりで、誰も入店しようとはしない。
看板を眺めながら、
「コーヒーってなんだ?」
「チョコクッキー? 普通のクッキーと何が違うんだ?」
とか囁きあっている。
「これはしくじったかな?」
人は良い物を欲しがるのではなく、他人が持っている物を欲しがる。
どれだけ物が良くても、知らないものは欲しがらない。
以前、3Dプリンタスキルに目覚めたばかりの頃、それを理由に現代商品無双は机上の空論だと悟ったはずだった。
けれど、目の前でノエルとハロウィーがチョコとコーヒーを褒めてくれたので、思わずいけると思ってしまった。
「よくわからんものに銅貨五枚は出せないか……それか……」
お店の前で頭上に『いらっしゃい』とメッセージウィンドウを出しているイチゴーたちを見つめた。
ハロウィーたちと違い、他の人たちはかわいいと食いついてはいない。
――魔獣型ゴーレムが接客する店っていうのがよくないのか?
平民は貴族ほど信仰に熱心ではない。
魔獣型ゴーレムに対して、それほど強い嫌悪感は示さない。
だからといって、好意を抱くわけでもない。
魔獣型ゴーレムが接客する店、という初めて見るものに好感はないし、どうせなら人間が接客してくれる店がいいのかもしれない。
「イチゴーたちと看板下げたほうがいいのか? いやでもノエルとハロウィーに接客してもらえると思ってドローンが配膳したら詐欺だって言われそうだしな」
「くっ、ゴーレムの魅力がわからないとは……」
ノエルが口惜しそうに握り拳を作った。
「イチゴーちゃんたちかわいいのに」
ハロウィーが残念そうにイチゴーの頭をなでた。
「店が目立っても客が入るかは別、商売って難しいなぁ」
――そういえば昔、大阪で有名な看板人形があったけど、人形ばかり有名になって肝心の食堂に入る客がいなくて閉店、とかいう話があったな。うちも似たようなものか。
「とにかくこのままじゃまずい、何か手を打たないとな。こうなったら試食でもさせるか。紙コップと紙皿を作ってコーヒーとチョコクッキーを無料で配れば……」
俺が頭を悩ませていると、隣の店から絶望的な声が聞こえてきた。
「ウィンナー! エイプリル商店の熱々ウィンナーはいかがですかー!? そこのお姉さん、お祭りのお供におひとついかが?」
「いや、手が汚れるし」
「ほかのお店行こう」
「ぐぅっ! 昨今の綺麗好き志向がこんなところで足かせにぃ! 父さん、今からでも包み紙を用意しましょう!」
「あれは客のポイ捨てが多すぎるからってレッドバーン公爵家が禁止にしただろ?」
「くぁああああ! 許すまじレッドバーン公爵家! いつかゴブリンの肉で作ったウィンナーを生で食わせてやります!」
聞く人が聞けば不敬罪で処罰されそうな毒を吐き捨てるチームメイトの荒れように、俺はちょっと店をあけた。
「どうしたイースター? そっちも不景気か?」
「そうなんですよラビ! 去年までうちは手が汚れないよう、ウィンナーに紙を巻いて販売していたんですけどポイ捨て客のせいで王都がごみだらけになるとかで救世祭を運営するレッドバーン公爵家が紙に税金をかけて実質禁止状態なんですぅうううう!」
この前までの暗躍者オーラはどこへやら。
そこにはポンコツ残念美少女が涙目で絶叫する残念と残念を煮込んだような姿しかなかった。
――これが演技ならアカデミー賞ものだよな。二面性なのか?
イースターという人間をどう見ればいいのか悩みつつ、俺は腕を組んだ。
「それにしても、またレッドバーンか……」
寮の火事を最初に発見した生徒であり、貴族科一年生首席の生徒エリザベス・レッドバーン。あいつの実家が紙の使用を制限したようだ。
「流石に公爵家には逆らえないよなぁ」
元伯爵貴族の俺は深く同意した。
四大貴族筆頭だけあり、父さんも、レッドバーン家の顔色をうかがうのに苦労していた。
――でもそうか、ごみが出るとまずいのか。じゃあ俺が紙コップや紙皿を提供しても睨まれそうだな。
起死回生の試食作戦が暗礁に乗り上げたことに肩を落としつつ、俺はイースターに提案した。
「ふ~ん、じゃあ紙以外のもので包めばいいんじゃないのか?」
「他の物って何があるんですか?」
涙目のイースターに、俺は戸惑った。
「そりゃあ……」
鉄板の上で焦げるのを待つ熱々のウィンナーを眺め、俺はあるものを思い出した。
「ホットドッグ」
「え?」
「パンで挟めばいいんじゃないか? パンなら食べてなくなるだろ?」