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何やってんだバカ!

 翌日の放課後。

 俺とイースターは、王都郊外の森に来ていた。

 普通は馬車で一時間以上かかるらしいが、イチゴーたちに牽かせるゴーレム車に乗れば三〇分もかからなかった。


「ここに俺でも採れない石灰があるのか?」

「ええ、それも大量に」


 深い森の中を、なかなかいいペースで駆けて行く。

 イースターは肉体派の戦士ではなく、自称デバフ要員の術師系だ。


 なのに、俺を引き離さんばかりの勢いで大樹の根に足を取られることもなくハードル走選手よろしく器用に障害物を飛び越えながら、次々先へ進んでいく。


 ――こいつ、こんな運動神経良かったのか?


「おっと、石灰がいましたよ」

「いた?」


 イースターの言い回しに違和感を覚えると、彼女の足が止まった。

 視線を追うと、開けた場所に白い丘が見えた。


 だが、目を凝らせばそれが巨大な貝だとわかる。


「ライムクラブ、全身が石灰の材料でできた全高さ七メートル級の巨大陸生ヤドカリでございまーす」

「おい、あれBランク冒険者が狩る奴だよな?」


 得意げに紹介するイースターに、俺はツッコんだ。


「確かに貝を砕いて焼けば石灰にはなるけど、わざわざあんなのに喧嘩売らなくてもいいだろ?」

「喰らえ! 渾身の一撃ぃ!」


 イースターが絶叫しながら手の平を突き出すと、どす黒い何かが放たれた。

 闇色の砲弾はライムクラブの貝殻を直撃。

 貝の入り口から、巨大なハサミや足を飛び出した。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」


 そして腹の底に響く魔獣の咆哮。

 森木々から小鳥たちが一斉に飛び立った。


「何やってんだよ!?」


 俺が詰め寄ると、イースターは小悪魔めいた笑み浮かべた。


「まぁまぁ、ドレイザンコウよりは弱いですよ。ワタシの毒呪文で弱っていますし。まっ、それでもラビさん一人じゃ勝てませんけど」


 そういうことを言われると、俺も少し負けん気が芽生えてしまう。

 俺は戦士じゃない。


 だけど、これでもモリハイエナやコマンダーメイルを倒してきた自負はある。

 前世と今世の記憶が混じる俺の感覚は複雑だけれど、一言で言えば俺のイチゴーをなめるな、という感じだ。


「イチゴー、イケるか?」

『まかせてー!』


 イチゴーを筆頭に、ニゴーやサンゴー、ヨンゴー、ゴゴーも一斉に駆けだした。

 五人は同時に加速すると、ロケット頭突きをかました。


「よし! ……え?」


 ライムクラブは、まったく動じていなかった。

 イチゴーたち五人はぽてんと地面に落ちて、きょとんとしている。


『■■■■■■■■■■■■!』

『にげてー』

『むねん』

『かたいのだー』

『ATフィールドっすか!?』

『わー』


 一撃で馬車も切断しそうな左右の巨大バサミが、削岩機のような勢いで地面を抉っていく。


 イチゴーたちは右往左往しながら必死に逃げ回っていた。


「ハイゴーレムのイチゴーたちの攻撃が効いていない? 兄さんのグリージョにだって通じるんだぞ!? ニゴー、バーニア機能だ!」

『しょうち!』


 ハイゴーレムに進化したイチゴーたちが獲得した追加機能は、どれもサポート能力ばかりだ。


 そんな中、ニゴーに付加したバーニアだけは攻撃力に繋がる。

 ニゴーの体から魔力が溢れ、ジェット噴射のように背後に放たれた。

 反動で、ニゴーは弾丸以上の加速度でライムクラブの顔面を穿った。


「■■■■」


 ライムクラブの頭がのけ反り、ハサミの動きが止まった。


「よし、効いている」

「それはどうですかねぇ」


 イースターの言葉の意味は、すぐにわかった。

 ライムクラブは体を貝の中に引っ込めると、その場で回転を始めた。

 その回転速度は徐々に加速し、ついにはドリルのように高速回転するに至った。


「いや、それドレイザンコウの必殺技!」

『■■■■■■■■■■■■■■!』


 案の定、ライムクラブは高速回転しながら、コマのように横移動をしてきた。

 イチゴーが上空にストレージを展開。

 大岩を降らせるも、全て削岩されて木っ端みじんになった。


「サンゴーのバリアで勢いを止めてから限界出力でバーニアだ!」


 俺の指示通り、サンゴーはバリアを展開。

 バリアの強度に運動エネルギーを持っていかれたライムクラブの回転が鈍化。


 その隙を見逃さず、ニゴーは体内の魔石を解放。

 出力を倍以上にしたバーニア機能で地面から飛び上がった。

 砲弾どころか、特大の貫通弾頭と化したニゴーが貝の側面を直撃した。


 だが、貝にはヒビ一つ入らなかった。


「そんな……」


 そして、また回転が加速した。

 こっちの最大攻撃が効かない。

 絶望的な状況に俺が肝を冷やすと、静かな声音が耳朶に触れた。


「安心してください。ここからはワタシが参戦します」


 普段とは違う、平坦で、冷めた口調。


 デバフ要員を名乗っておきながら、イースターはまるで戦士のようにライムクラブの巨体へ向かって歩みを止めなかった。


 その背中に手を伸ばそうとして、俺は気づいた。

 彼女の右手から、黒い影が溢れている。

 漆黒は棒状に伸びると、その先端に死神のような大鎌の刃を形成した。


「行きますよ、ワタシのヘルサイズ」


 イースターが駆け出した。


 速い。

 ノエルに比肩するほどの疾走を発揮しながら見上げるように巨大な魔獣相手に臆せず迫る。


 そして、通り過ぎざまに漆黒の大鎌、ヘルサイズを叩き込んだ。


「■■」

「これでお前の防御力は落ちました。ヘルサイズは死へのカウントダウン。死刑執行の鐘を打つ鐘突き杖。お前には何回目の鐘でギロチンが落ちるのか、見定めてあげますよ」

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