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ビルかな?

 おばさんは愛想よく笑い、あらやだわたしったらうふふふふ、と笑い始めた。

 外面はかなりいいらしい。


「あ、いえ、ていうかそろそろ回復してあげたらどうですか?」

「無理ですよ」

「え?」

「だって私はヒーラーじゃありませんもの、回復呪文なんて使えませんよ、ウフフフフ」


 ――なにぃっ!? この人、治せないの前提で夫と娘にデバフ魔法かけたのかぁ!?


 この人こそが暗黒だと、ドン引きだった。


「それでですね、ギルド長さんから話は聞いているんですけど」


 ――本当に放置するんだ。


「ラビさんはうちの隣に出店できるみたいです、ほら」

「うぐぅ」

「ふぐぅ」


 と、地面を転がる夫と娘を無視し、おばさんが手で指したのは、十メートル四方程度の土地だった。


「これ、店先はどれぐらい使っていいんですか?」

「明確な決まりはないけど歩行者の邪魔にならないようにっていうのが鉄則かしら?」

「うーん」


 一言で言えば、十分すぎる広さのスペースだとは思う。

 他の出店、露店に比べれば横幅は倍以上、単純計算で面積は六倍はあるだろう。

 ただし、配置できるテーブル、席の数を考えると、少しこころもとない。


「規模的にあまり稼げそうにないなぁ。でも給仕は二人だしこれぐらいがちょうどいいのか?」


 背後のノエルとハロウィーを振り返る。


 ――うん。


 身内の贔屓目ではなく、やっぱりノエルとハロウィーは見栄えする。

 そもそも、ノエルはその外見のせいで色々と苦労してきているんだ。

 この二人が給仕をするというだけで、かなりの客が来るだろう。


 そして二人のウェイトレス姿見たさに、男性客はなかなか帰らないに違いない。

 飲食店が儲かるには客の回転率を上げるのが鉄則とテレビで見た。


 しかし回転率を上げるには限界がある。

 そうなると、一度に受け入れられる客の数をもう少し増やしたい。


「ど、どうしたのラビ?」

「私たちの顔に何か書いているのか?」


 頬を染めてうろたえる二人に、俺は手を振り否定した。


「悪い悪い、そうじゃなくて、二人目当ての客がたくさん来そうだけど逆に帰らなさそうだなぁって」

「ふゃっ!?」

「なっ!?」


 二人は視線を逸らし、お腹辺りで両手を絡め始めた。

 反応が可愛い。


「くわっ! 母さん! いまワタシ何かものすごく大事なイベントを逃していませんか!?」


「貴女は関係ないから寝てなさい!」

「いやです!」

「寝ろぉ!」

「脇腹ぁああああ!」


 という親子の寸劇は無視しながら俺は敷地を改めて見回した。


「あまり席と席を詰めるとお客さんも嫌がるだろうし、どこまで席増やせるかなぁ……」


「では屋上席を作るのはどうだ? 高級レストランのバルコニー席のように」

「あ、ノエル冴えてる♪」


「そっか、上に伸ばせばいいのか」


 ハロウィーと一緒に、思わず俺も手を叩いた。


「じゃあ上に伸ばすか、五階ぐらい」

「「……ん?」」


 ノエルとハロウィーが笑顔で固まった。


「イチゴー、強度に問題はないか?」

『へいきー、えい』


 イチゴーがもちっとポーズを取ると、俺に与えられたスペースに巨大な青いポリゴンが立ち上った。


 ポリゴンは真上に十メートル以上も伸び、中で軽くて丈夫なケイ素樹脂がみるみる構築されていく。


 周囲の商人や労働者たちがどよめき、誰も彼もが見上げ、集まってくる。


「よし完成」


 ポリゴンが消えた時、そこには五階建てのタワーカフェが建っていた。


 内装は白を基調とし、周囲の壁はぐるりと全面ガラス張りで、救世祭を上から眺望できる。


 移動手段は場所を取らないように螺旋階段だ。


 屋上にはイチゴーの姿を印刷した看板で『カフェ・ラビのゴーレム』という店名を掲げている。


 平屋の店しかない広場で、この高さは人目を惹くだろう。

 それに、見上げてそこで誰かが何かを食べていれば気になるに違いない。

 大勢の客を呼び込めること間違いなしだ。


「うわぁ、ラビこんなの作れたんだ?」

「このように巨大な一枚ガラスなど、ドワーフでも作れないぞ……」


 ノエルの言うドワーフというのは、エルフと同じ亜人種だ。

 職人気質の民族性で、高い工業力を備えているらしい。

 メイド・イン・ドワーフの武器は、冒険者や騎士の間では重宝されている。


「俺のはスキルで作っただけだけどな。でもそっか、ガラス張りってのも目立っていいかもしれないな」


 そこへ、イースターの母親が声をかけてきた。


「あらあら、本当にすごいですねぇ。ラビさん、ガラスの販売とかされているんですか?」


 途端に、周囲の商人たちが押し寄せてきた。


「ラビさん、是非我が商会にあの一枚ガラスをお売りください!」

「高く買いますよ!」

「欲しがる貴族はたくさんいます!」

「うちもガラス張りにしてください」

「いや露店をガラス張りにしたら客が商品手に取れないだろ」


 そんなことを次々言ってくるので、ちょっとたじろいだ。


「いや、別に俺ガラスの販売業しているわけじゃないんで。まぁこの話は救世祭が終わった後にでも」


 それに、一枚ガラスに価値があるならこれでギルド長への貸しを相殺できるかもしれない。


 個人契約ではなく、商人ギルドを通してガラスを売るとか。

 まずはギルド長に相談しようと決めた。

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