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AIチャットはやっぱり有能

 が、そこでノエルが表情を改めた。


「む、待てラビ、出店場所はどうするのだ?」

「え? そりゃ王都の広場だろ? 今からでも役所に行って申請すれば間に合うだろ?」


 俺は不思議そうに尋ねるも、ノエルは逆に不可解そうな顔をした。


「いや、それはそうだが、店先に商品を並べるのと違い、カフェならそれなりのスペースを取るだろう。出店経験のないラビに、いきなりそんな土地を貸してくれるだろうか?」

「そうなのか!?」


 想定外の事態に、俺は足を止めて驚いた。


「そういえばわたしも商人の生徒から聞いたかも。思ったよりも狭い土地を割り当てられたって」

「ん~、困ったな」


 ノエルも難しい顔をして考えてくれる。


「人気の少ない場所なら貸してもらえるだろうが、それでは客が来ないだろう」

「何かいい方法ないかなぁ」


 ハロウィーも頭を悩ませると、そこへ人の空気など一切読めない、むしろ読む気がない声が飛び込んできた。


「ぅわが名はイースター! 今世紀最高の大魔法使いにして救世主の導き手! 喜んでくださいラビ! このワタシが貴方のチームに電撃参戦してさしあげます!」


「とりあえず役所に行ってどこなら貸してくれるか聞いてみるか?」

「行くだけ行ってみるというわけか」

「最近ラビ活躍しているし、都合してくれるかもしれないしね」

「沈黙と無関心は人を殺すと知れ!」


 イースターが荒ぶる鷹のポーズで叫んだ。

 ヨンゴーも隣で同じポーズ――手足が申し訳程度なのであくまでたぶん――をキメた。


 俺らはイースターの横を通り過ぎた。


「わぁ~ん! 無視しないでぇ~! お願いだから仲間に入れてくださいよぉ~! 高等部に進学してから誰もチーム組んでくれないんですよぉ~!」


 今世紀最高の大魔法使いは涙を流しながら追いすがってきた。


「ハロウィー、あいつなんで誰も組んでくれないんだ?」

「え? 説明いるの?」

「……いらないな」

「そこ! 聞こえていますよ!」


「悪いけどセールスは後にしてくれ。いま俺らは救世祭の出店場所の確保で大変なんだから」


 イースターの顔が上がり目をらんらんと勝利に輝かせた。


「そういうことならこのイースターちゃんにお任せですよ! その代わり、ワタシをチームに、げへへへへ」

「嫌な予感しかしねぇよ」


 大正時代の高利貸しでもここまで悪どい顔はしないであろうゲス顔の極みを恥ずかしげもなく見せつけてくるイースター。


 この子がボッチの理由が痛いほどよくわかる。


『まつっすマスター。しゅってんするにはかのじょのきょうりょくがひつようっす。それに、デバフまほうよういんがいないものじじつではないっすか?』

「お前は暗黒魔法が欲しいだけだろ?」


 俺が額を突つくとヨンゴーはバランスを崩して尻もちを着いた。かわいい。

 とは言え、ヨンゴーの指摘も一理ある。


 嫌な予感はあくまで予感。

 まだ、彼女が俺に害を成すはわからない。

 それよりも、いまは出店場所の確保をしたい。


「…………」

「ふふふ、見る目がありますねヨンゴーちゃん」

『あんこくどうめいをむすぶっす』

「いいですよ。いまからワタシとヨンゴーちゃんはソウルメイツです。シャッキーン!」

『しゃっきーんっす』


 イースターがその場で一回転してからのけぞり、顔に手を当てると、ヨンゴーも同じポーズをキメているつもりなのだろう、短い手をおでこに当ててのけぞった。


「おっ、やりますねヨンゴーちゃん、ならこの動きにはついてこれますか? まずしゃがんでから勢いよく回転しながら立ち上がり」


 すぽーん


「あ、めがねぇ~」

『キャッチっす』

「あ、ありがとうです」


 ヨンゴーから眼鏡を受け取り、お礼を言いながら頭をなでくるイースター。


「お前ヨンゴーとは、もうすっかり仲良しだな」

「そうです、ワタシはヨンゴーちゃんと仲良しなのです!」


 謎のアピールで目を期待に輝かせてこちらを見上げ来るイースターに一言。


「だからと言って仲間にするわけじゃないけどな、行くぞみんな」

『はーい』


 ノエルやハロウィー、イチゴーたち全員を連れてぞろぞろと俺はその場を立ち去った。

 背後からは、劇的に何かが膝を屈する音がした。


   ◆


「はぁっ~」


 役所から出ると、大きなため息を吐きながら、俺は肩を落とした。


「まさかあそこまでいちげんさんお断りとはな……」

「あのスペースではカフェどころか露店がせいぜいだな……」

「しかも広場の端っこだしね……」


 ノエルとハロウィーも沈鬱な表情で眉間にしわを寄せた。


「う~ん、ラビなら英雄オーラで特別扱いしてくれると思ったんだけどなぁ」

「そこはお役所仕事っていうか、俺って書類上は平民の学生のDランク冒険者だからな」

「なぁラビ、やはり私の実家であるエスパーダ子爵家の名前を前面に出したほうがよかったのではないか?」


 ややじれったそうな声のノエルに、俺はたしなめるように言った。


「それは嫌だな。洪水被害の時みたいな人助けならともかく、今回は完全に俺の都合だ。自分で実家に戻らず平民を選んでおきながらいざとなったらノエルの貴族パワーを使おうなんて最低だろ。ていうか、ノエルだってそういうの嫌いだろ?」

「それはそうだが……ラビの役に立つなら……」


 ノエルは、はがゆさと嬉しさがないまぜになったような複雑な赤面でうつむいた。

 何故か、俺の足元でイチゴーとゴゴーが小躍りしている。


 ニゴーが不思議そうにしている。ていうか頭上のメッセージウィンドウで【?】を浮かべている。


 それからヨンゴーに小突かれて、お腹を押し当てられ情報を共有。

 途端にニゴーはビクンと体を跳ねさせ、そわそわとし始めた。


 ――意味不明の行動。小さな子供って見ていて飽きないよな。


「というわけで困った時のゴーレム頼みだ。イチゴーさんイチゴーさん、俺はこれからどうすればいいですか?」


 イチゴーを抱き上げると、コックリさんよろしく俺は尋ねた。

 もちろん、AIチャットだ。


『えっとねー、しょうにんギルドでうしろだてをつけるのー』

「そっか、ラビは有名だもん。商人さんなら英雄の名前にあやかりたい人が力になってくれるかもだよね」


 ハロウィーが手を叩いて納得すると、ノエルも頷いた。


「よし、ではラビ、すぐに商人ギルドへ向かおう」

「ああ!」


 こうして俺らは、イチゴーを先頭に走り出した。

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