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欲望に忠実だな・・・

「ラビ、ニセモノってどういうこと?」


 小首をかしげるノエルへ、俺は雑学を披露するように答えた。


「スキルによると(嘘)、カカオ豆とコーヒー豆っていうのがあると、チョコレートとコーヒーっていうおいしいお菓子と飲み物を作れるみたいなんだ。けど、スキルで作れる物の一覧に似たような風味の代替チョコレートと代替コーヒーっていうのがあったんだ」


 代替チョコレートと代替コーヒーは、麦、大豆、ドングリ、ナッツ、植物油脂、とうもろこし、タンポポなどから作れる。


 もちろん、本物を知る俺からすれば全然物足りない。


 チョコ味、コーヒー味のアメやゼリーを食べているというか、あくまでもそれっぽい風味があるだけだ。


 それでもこの世界の人からすれば未知の味わいに違いない。

 不思議そうに眺めてから、ハロウィーは代替チョコレートを、ノエルは代替コーヒーを口にした。


「「!?」」


 二人の目が、丸く見開かれた。


「えっ!? なにこれ甘い! だけじゃなくてなんだろうこの味。やわらかくて口の中でトロけて、すごくおいしい!」

「おぉ、この奥行きのある苦味はいいな。飲み込んだ時に鼻から抜ける香りと口に残るかすかな酸味が心地よい!」


 どうやらこの世界の人にも、チョコとコーヒーは好評らしい。


 ――流石は地球で最も愛されている味の一つだ。


「チョコは甘くてコーヒーは苦いから、交互に飲み食いすると飽きないぞ」

「あ、ほんとだ」

「これは最高の組み合わせだな」

『ふっ、ヨンゴーのじつりょくをみたっすか?』

「いや、お前は何もしていないよな?」

『いやいや、きっとヨンゴーのおまじないがきいているんす』

「どんなおまじないだよ」

『ラブラブもえもえ! もえもえキュンキュン! らぶちゅうにゅう!』


 ――どこで覚えた、いやマジで!


『ゴゴー、ふたりにダークネスネクタールとくろきしんえんのかじつのおかわりをおもちするっす』

「コーヒーとチョコに珍妙な名前をつけるな」


 俺はヨンゴーをひっくり返した。

 頭が平らなので、起き上がるのにちょっと時間がかかっている。かわいい。


『ふっ、このなまえのセンスがわからないとは、マスターもまだまだっすね』


 起き上がったヨンゴーを再度ひっくり返した。


「ところでラビ、アクセサリーの件はどうなったのだ?」


 ノエルが建設的な話をすると、サンゴーの頭をなでながらチョコとコーヒーを交互に食べていたハロウィーが恥ずかしそうにうつむいた。

 そしてヨンゴーはイチゴーに起こしてもらっていた。


「それなら一応解決したぞ。校舎裏の森で花畑があったから、そこの草花を完コピしてみた。よっっと」


 ストレージを展開。

 リビングの壁が赤いポリゴンに覆われると、そこには無数のアクセサリーが並んだ。


「わっ、たくさんある」

「ほぉ、自然物を模倣しただけだが、それだけに瀟洒な魅力があるな」

「チョコとコーヒーを楽しみながら好きに眺めてくれ。売れそうにないものがあったら指摘を頼むな」

「ううん、どれも素敵だよ」


 ハロウィーはやや興奮気味に、壁のアクセサリーに目を輝かせていた。


「ああ。もちろん好みはあると思うが、どれも及第点以上だろう。美しいアクセサリーを眺めながらコーヒーとチョコレートを楽しむ、こんな放課後も悪くないな」

「そうだね、こういうカフェがあったら放課後に来ちゃうかも」


 ハロウィーの明るく弾んだ声に、俺は天啓を得た。


「それだ!」

『どれっすか?』


 ヨンゴーがゴゴーをひっくり返して遊んでいた。

ゴゴーは楽しそうだった。


   ◆


 家を出た俺らは、学園の外へ出ようと校門へ向かっていた。

 うしろにはイチゴーたちがぴょこぴょこついてくる。


「カフェ形式の店か、悪くはないな」

「だろ? 素人が露店にアクセサリー並べたって誰も来ないしな。だったらおいしい飲み物とお菓子で釣って、飾っているアクセサリーで気に入ったのがあればご購入下さいってしたほうがいいだろ。まぁ思いついたのは二人のおかげだけどな」


「じゃ、わたしも手伝うよ。給仕する人は必要だよね?」

「いいのか? 給仕ならイチゴーたちにさせるし、働いていたら救世祭楽しめないだろ?」


「ううん、わたしも一度、出店する側に回ってみたかったの。それにイチゴーちゃんたちと働くの楽しそうだし」


 今更だけど、ハロウィーは可愛い。

 男子受けする、と言ったら下品かもしれないけれど、人目を惹く外見をしている。

 可愛いハロウィーが給仕をしていたら、集客につながりそうだ。


「う~ん、そういうことならありがたく頼もうかな。お礼に気に入ったアクセサリーはあげるよ」


「わ、ありがとう♪」

「お礼に釣られるわけではないが、私も手伝おう」

「言わなくてもわかるよ。ノエルは謝礼目当てで動く奴じゃないからな」


 ていうか、仮にも子爵令嬢だしな。アクセサリーぐらい、もっといいのを持っているだろう。


「ただ、救世祭当日はノエルの都合を優先して欲しい。今年も救世杯に出るんだろ?」

「うむ、今年こそは優勝を狙っている」


 ノエルは力強くうなずいた。


「ならその合間だけ頼むよ。もちろんハロウィーと同じお礼はするぞ。アクセサリーでも新しい武器でも」


「礼などいらん。私とラビと仲ではないか」

「しばらくゴーレムを貸す権利でも」

「ゴーレムを貸してくれ」

「わたしもそっちがいいな」


 二人は欲望に忠実だった。

 俺は忍び笑った。

 が、そこでノエルが表情を改めた。


「む、待てラビ、出店場所はどうするのだ?」

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黒き神宴の果実・・・ 神の宴に捧げられる得も言われぬ甘美な実。 これか?
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