かつての強敵も今では楽勝
翌日、昼休み後の五時限目。
俺とハロウィーの二人は、授業でダンジョンに潜っていた。
クラスメイトたちは地下二階までしか潜れない一方で、俺とハロウィーには制限がかかっていない。
そして目の前には、なつかしい姿があった。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」
古式ゆかしいフルアーマーから響く呪怨のような金属音。
地下五階層のボス、カースメイルだ。
かつて、俺とハロウィーにクラウスを加えた三人で挑み、そして死線を彷徨った相手だ。
けれど……。
「サンゴー、バリア」
『わかったのだー』
サンゴーが両手を前に突き出すと、カースメイルが半透明のバリアに閉じ込められた。
「■■■■!」
突然の拘束に抵抗せんと、呪詛のような音を鳴らしながら剣を振るう。
だが、カースメイルが両手で構えたロングソードをいくら振り回そうと、バリアが砕ける気配はなかった。
「どうやら、同じ鎧でもカースメイルに兄さんのグリージョほどの攻撃力はないらしいな。イチゴー、ぺっしゃんこだ」
『わかったー』
イチゴーがもちもちと左右に体を揺らして踊ると、カースメイルの頭上にストレージの赤いポリゴンが展開された。
ポリゴンはみるみる広がり、五メートル四方を超えた。
そこから、巨大な岩が落ちてくる。
岩がバリアの頂点に触れた。
『のだー』
バリアが消え、巨岩はカースメイルごとダンジョンの床を叩き潰した。
「カースメイルも、今となっては大した相手じゃないな」
「うん」
ハロウィーは同意するも、リザルト画面は出ない。
「これはもしかして」
案の定、前回と同じ展開となる。
巨岩の下から光の粒子が吹き上がり、少し離れた場所でまとまり、四本腕の鎧へと再構築されていく。
地下五階層の隠しボス、コマンダーメイルだ。
「またこいつか、全然隠れていないじゃないか!」
「出現条件、もしかして少人数で短時間で倒したらなのかな?」
「なるほど、よし、じゃあサンゴー、バリアだ」
『まかせるのだー』
さっきと同じく、半透明のバリアがコマンダーメイルを覆った。
が、コマンダーメイルは間髪を容れず、四本の腕に握る四振りのロングソードを同時に突き放った。
四の剣尖がバリアの一点を突き、半透明の力場に亀裂が生じた。
「ッ」
前は見なかった技。
きっと、コマンダーメイル最大の貫通攻撃なのだろう。
四の切っ先から魔力の光が迸り、バリアが砕かれた。
だけど、悔しさよりも誇らしさが勝った。
――流石、俺に異世界で最初に死を覚悟させた奴だ。そうでなくちゃな。
こいつには三人がかりでも歯が立たなくて、奇策でようやく勝ちを拾った。
けど、今ならきっと。
「みんな、フルボッコだ」
『おー!』
ドレイザンコウを倒し、ハイゴーレムとなり格段にスペックの上がったイチゴーたち五人がコマンダーメイルに飛び掛かった。
イチゴーたちの頭突きはコマンダーの鎧をひしゃげさせ、ロングソードはニゴーの拳に弾かれ床に落ちた。
イチゴーとゴゴーが高速側転しながらコマンダーメイルの膝から下を砕き、機動力を欠いたところを狙い、ニゴーが渾身のスキルを放った。
弾丸のように加速したニゴーがコマンダーメイルの胸板を粉砕し、内部が露出した。
空っぽの鎧の中に、青紫色に光る炎のようなものが見える。
それを、ハロウィーの放った魔力圧縮の矢が射抜き貫いた。
「■■■■■■■■■■■■!」
人のものとは思えない、おぞましい断末魔の音をダンジョンに轟かせ、コマンダーメイルは動かなくなった。
凡庸な言い回しだけれど、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちて完全に沈黙する。
数秒後、リザルト画面が表示されて、俺は勝利を確認した。
かつては死を覚悟させた強敵を簡単に倒せたことに自身の成長を感じられた。
「よしっ。ありがとうなハロウィー、最後のタイミングばっちりだったぞ」
「一年生でコマンダーメイル相手に圧勝なんて、みんなが聞いたら驚くよね」
「イースターには黙っておこう。また俺を持ち上げられる記事を書かれても恥ずかしいし」
「わたしはうれしいけどな、ラビのすごさがみんなにわかって」
「俺を褒めてもゴーレムしか出てこないぞ?」
俺の意思を受けて、イチゴーがハロウィーに甘え始めた。
ハロウィーは頬をゆるゆるさせながらイチゴーをなでくり回した。