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Wi-Fi

 ブランと一緒に校舎裏に到着した俺は、ステータス画面を開いた。

 それからスキルウィンドウを開いて、3Dプリンタスキルで作れるもの一覧から家を選択。


 膨大な家のカタログから、適当なものを選び、内装を決める。

最 後に、イチゴーに指示を出した。


「イチゴー、頼んだ」

『まかせてー、えい』


 もちっと謎のポーズをキメた直後、目の前の草地の、およそ二〇メートル四方が青く輝いた。


 そこから真上に青いポリゴンが立ち上り、中で土から生成したケイ素樹脂で家が構築されていく。


「うわぁっ! すご!? これがラビのスキル!?」

「派生したサブスキルだけどな、よしっと」


 確かな手ごたえの後にポリゴンが消えると、そこには二階建ての立派な家が建っていた。


 全体としての形状は立方体だけど、角が丸くて直角な部分や、継ぎ目はほとんどない。


 3Dプリンタならではの丸みを帯びた可愛げのあるデザインだ。

 その耐震性は、震度七の地震にも耐えられる。


 中は広々とした5LDKで、イチゴーたちも走り回れるだろう。


 退寮処分は、学園長に言えば撤回してくれると思う。

 けど、俺にはこっちのほうがずっといい。


「す……ご……」


 ブランは驚きすぎて絶句、目をまんまるにして見上げたまま固まっていた。


「ブランにも作ってやるよ。内装はこれでいいか?」


 俺が見取り図を見せると、ブランは両手を左右に振った。


「いやいや、こんな立派過ぎるものもらえないよ!」

「じゃあモニター、えーっと、レンタルするから使い心地を確認して報告してくれないか? 俺は将来、こういう家を販売して生計を立てるかもしれないんだ。使い勝手の悪いところがあったら商品開発に活かすから教えてくれ」


「う~ん、なら、ていうか勝手に敷地内に建てていいの?」

「建てていないぞ。ほら」


 俺の言葉を合図に、家はストレージの中に消えた。


「……?」


 ブランは無言のまま、家のあった場所と俺の顔を交互に見つめて、何度も瞬きをしている。


「今のは俺が作った家型ゴーレムだ。いつでも収納できる」


 と、いうことにしておく。

 平民の俺がストレージ、いわゆるアイテムボックスを持っていることがバレたら、よくない噂が立ちそうだ。


「建てるってのいうのは土地に根付いているものだろ? いつでも移動できるんだから馬車と同じだ。校舎裏に馬車を停めたからって悪くはないだろ?」


「え~、ずるいなぁ~」

「こっちは寮を追い出されているんだ。これぐらいいいだろ。それでどうする? ここなら彼女ともイチャつき放題だぞ?」


「そ、そういうのは期待していないよ! むしろ彼女が来ないように狭い一人部屋、いや、でもあの子なら狭い場所のほうが盛り上がるとか言いそうだなぁ、う~ん」


 ブランは頭を抱えて懊悩し、瞼を固くしぼった。

 あまりの苦悩ぶりに、つい口を出してしまう。


「俺が口挟むことじゃないと思うけど、そんなに嫌なら別れたらどうだ?」

「へぁっ!? ……ッッ」


 ブランはリンゴのように顔を真っ赤にするとうつむき、両手の指をもにょもにょと絡め始めた。


「いやぁ……それはぁ……ゃだなぁ……」


 ――かわいい。


「好きなんだな」

「……ぅん」


 ブランは控えめに頷いた。


「仲が良くていいですね。じゃあ彼女との新居作ってやるから待っとけ」

「お願いします……」


 俺の家の隣にブランの家を構築しながら、件の恋人を妄想した。


 ――言っちゃ悪いけどこんな小柄で可愛いくて押しに弱そうな小動物系男子の彼女だ。きっと同じくらい小柄で子供っぽくてそれで毎日『ブランちゃんスキー♡』とか言って抱き着いてくる感じなんだろうな。それか、いわゆるメスガキ系かな?



『あれれぇ? どうしたんすかブランちゃん? ビビッてるんすか? マジでチョロザコっすねブランちゃん♪ あひゃひゃひゃひゃ!』



 とか騒いでいるイマジナリーガールが頭の中に湧いて出た。

 だけど、当たらずとも遠からずだろう。


   ◆


 同じ頃、学園長室のドアがノックされた。


「入るよ」


 学園長の返事を待たず、開けられたドアから姿を現したのは、フード姿の少女だった。


 大きい。


 女子なら誰もが見上げる背丈に、制服のズボンとインナーが張り裂けそうなバストとヒップ。


 それでありながらウエスト部分の布はぶかぶかで、彼女の歩調に合わせて揺れ動く。


 骨格からして常人とは違うスラリとした手足の長さ、常軌を逸したプロポーションは、誰もが彼女に女神の美貌を期待するだろう。


 その期待を膨らませるように、首元から豊満過ぎるバストを乗り越え腹部へ垂れる絹のような髪は光沢を帯びた赤で、ルビーから紡ぎあげたように魔性の魅力を持っていた。


 そんな彼女が、フードをわずかに持ち上げ、正面を見据えた。


「アレクタニア、シオンが再起動したって本当かい?」


 絶世の美少女。

 見飽きるほどに使い古された単語では足りないほどの美貌がそこにはあった。


 ルビー色の長いまつ毛に縁どられたエメラルド色の大きな瞳。


 筋の通った鼻梁と、セクシーな桜色の少し厚めのくちびる。


 どれもが人ではなく、妖精や精霊の類を連想させるような、幻想的な美しさだった。


 メイクは一切していない。

 表情なんて、気だるげで、まるで与太話を聞かされる新聞記者の怪訝なものだ。

 それでもなお、彼女はそこらの舞台女優が恐縮してしまうような美少女だった。


 閉月羞花。

 月は雲に隠れ花が恥じらうほどの美人という言葉があるが、彼女の場合は太陽ですら隠れてしまうだろう。


 日食の美女、とでも言うべきか。


「ああ、本当だとも。聞いてくれ、今、話題のあのラビがやってくれたのだ」


 学園長である自分を呼び捨てにする女子生徒相手に、だがアレクタニアは機嫌を損ねるどころか、好意的に笑った。


「へぇ、あのボウヤにエルダーゴーレムを直せるだけの技量があったってこと?」


 少女はますます怪訝そうに、そんなまさかと言わんばかりの語調で肩眉を歪めた。


「いや、そうではない。姉さんは壊れていなかったのだ」


 上機嫌なアレクタニアに、少女は興味が湧いたように表情を改めた。


「ん? つまり解析しただけってこと? それくらいならあり得るかな? でもエルダーゴーレムの解析をできるなんて相当なものだね」


 感嘆の声を漏らす少女に、アレクタニアは首を振った。


「そうではない。彼がスキルで作りだしたゴーレムが、姉さんと会話したのだ」

「……」


 最後の言葉に、少女は明確な好奇心を露わにした。


「確かわいふぁいとか、ふぁいぶじーとかつうしんとか言っていたが、ともかく彼のゴーレムは姉さんと会話ができるのだ」

「……へぇ、そうかい」


 少女は不敵に笑うと、アレクタニアの姉、シオンの収められているクローゼットを一瞥してから背を向けた。


「なんだ、もう行ってしまうのか?」

「その子のゴーレムが無いと話せないならここにいたって仕方ないだろ? ボクはバニーのところに行ってくるよ」


 そっけない言葉を残しつつ、彼女は学園長室を出た。

 けれど、その口元はわずかに緩んでいた。



「Wi-Fi……こっちの世界に来た甲斐があったかな?」

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