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お引越し

 数分後。

 俺はブランと二人で、男子寮の荷物をまとめると、校舎裏へ向かい始めた。


 後ろには、ブランの荷物と焼け残った俺の荷物を担いだゴーレムたちがみにみによちよちと歩いている。


 ストレージに入れれば簡単だけど、初対面であるブランにはストレージのことを秘密にしておきたいのでこうした。


「うわぁ、ラビのゴーレムってちっちゃいのに力持ちなんだねぇ」

「まぁな」


 やわらかい声で好意的な感想を漏らすブラン。

 平民だからか、魔獣型ゴーレムに偏見は薄いのかもしれない。


「それで、俺はともかくなんでお前まで退寮させられているんだよ、えーっと、ブランだっけ?」


「うん、こうして話すのは初めてだよね。前までは科も違ったし、今もクラスは遠いし。まぁ、クラスメイトでも僕とラビじゃ釣り合わないと思うけど」


「謙遜するなよ。俺なんてゴーレムが凄いだけだ。俺の力じゃないよ」

「え? ゴーレムスキルはラビの力でしょ?」


 ブランは丸い目できょとんとした。


「う~ん」


 誰もがスキルを得るのが当たり前のこの世界では、スキルは才能の一部と捉えられている。


 昔の俺もそう思っていた。


 ただし前世、日本の記憶を思い出した俺にとって、スキルは神様からのもらいもの、便利道具という印象が拭えない。


 スマホの電卓機能で計算をして、『君って暗算得意なんだね凄い』とか言われている感覚だ。


 イチゴーにしても、中等部時代のように俺が自らの魔法で自作したゴーレムではなく、スキルを発動させれば自動で生み出された存在だ。仕組み、構造は知らないし、俺の実力じゃない。


「まぁ、それは置いといて、なんでお前まで退寮させられているんだよ」

「え、それはぁ……」


 気まずそうに声を濁してうつむくブラン。

 その顔は恥じるように赤い。

 何かセンシティブな話題に触れてしまったのかと、俺は言葉を撤回した。


「いや、言いにくいならいい。無理するな」

「いやいやいや、そういうわけじゃないけど、ただ、その……」


 俺の気遣いが重かったのか、ブランは取り乱してから、ぽつりと呟いた。


「彼女が寝泊まりしすぎだって……」

「へ?」


 ブランの消え入りそうな声に、俺が疑問符を投げかけると、彼は胸の前で両手の指を合わせながら、地面に視線を落としたまま告げた。


「えと、実は僕、彼女がいるんだけど、その子が凄い積極的で、毎日僕の部屋に寝泊まりしているんだ。それで先生たちから男子寮に女の子を泊めるのは禁止だって何度も注意されていたんだけど、聞いてくれなくて昨日も……しかも隣の部屋の子から、僕の部屋からッ……へ、変な声が聞こえるって苦情まで入っちゃってそれで……」


「お、おーう……」


 ブランはブラン(白)なのに、顔が真っ赤だった。

 おどおど系男子とぐいぐい系女子のカップル。

 まるで漫画みたいだと思いつつ同情した。


「俺と違って難儀だな」

「いや、ラビも大概だと思うよ。火事で追い出されているし」

「俺は自業自得……いや、待てよ……」


 ブランと会話したせいか、ちょっと頭が冷静になる。


 ――おかしくないか?


「なんで俺の部屋で火事が起きたんだ?」

「え? エリザベスは機材管理がどうとか言っていたけど違うの?」

「ああ。俺も最初は炎石を使ったマジックアイテムが暴発したのかと思った」


 だから3Dプリンタスキルで作ったものに欠陥があるのかと気が気じゃなかった。


「でもコンロ、俺が作ったマジックアイテムはテーブルの上に置いていたんだ。それで床全面が焼けるもんか?」

「言われてみれば変だよね」


 ブランもハッとしながら同意してくれた。


「誰かが床の上に発火装置を置いたか、魔法で焼いたか……」

「でもそれだと犯人の範囲が広すぎるよ。王立学園に炎系の魔法を使える人なんて山ほどいるし」

「それに発火用のマジックアイテムなら、それこそ誰にでもできるしな」


 以前、ノエルと決闘したダストンの手下が、爆裂魔法を込めたマジックアイテムで自爆しようとしたのを思い出す。


 誰かが俺の部屋にあれと同じものを投げ入れたのだとすれば、犯人の特定は困難を極めるだろう。


 そうやって俺が頭を悩ませていると不意に、ブランが申し訳なさそうに尋ねてきた。


「あのぉ、ちなみに僕ら、いまどこに向かっているの?」

「ん?」


 そういえば、男子寮で荷物を回収してから俺が行くか、と言って、そのままだったことに気づいた。


「校舎裏だよ」

「そこにテントでも建てるの?」

「まさかだろ」


 不安げなブランに、俺は明るく返した。


「校舎裏に、家を建てるんだ」

「家? あ……」


 ブランは得心したようにぽかんと口を開けた。

 彼だって、洪水被害から町を救った新聞は読んだのだろう。


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