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火災発生

 そのまま、俺らはなんとなく連れだって歩き出した。


「それでラビさん、こんな時間までどこにいたんですか? こっちは男子寮付近で二時間も張り込んでくたくたですよ」


「森にレベル上げにな。つっても一つも上がらなかったけど」


「あはは、そりゃ一日やそこらで上がったら苦労しませんよ。レベルなんて毎日コツコツと魔獣を倒し続けて何週間も何か月もかけて上げていくんですから」


 俺がイチゴーたちのおかげで自動レベルアップ状態でなおかつ現在二〇レベル越えであることを知ったらどんな顔をするだろうか。


 下手なことは言わず、俺は苦笑いで誤魔化しながら男子寮へ向かった。

 すると、何やら男子寮の前に人だかりができている。


「なんだ? 何かあったのか?」

「あー、さっき火事がどうとか言っていましたよ。誰かの部屋でボヤが起きたようです」

「マジかよ!?」


 俺の部屋に火の気なんてないけど、隣の奴がボヤを起こしていたら大変だ。

 こっちにまで被害が及びかねない。


 そう思って俺が人ごみをかき分けて男子寮の玄関を通り抜け、男子たちの視線を追うように廊下を進んだ。


 案の定、野次馬の流れは俺の部屋に向かっていた。

 そして俺の部屋、そのもののドアが無くなっていた。


「んなぁっ!?」

「うわぁ、結構燃えていますね……」


 俺の部屋は、全焼こそ免れているものの、ボヤなんて生易しいものではなかった。


 床の中心は完全に炭化しているし、部屋の家具も大半が燃えて、壁や天井も煤で汚れていた。


 まるで、部屋の中心で火炎魔法が破裂したような有様だ。


「な、なんでこんなことに?」


 正直、わけがわからないなんてもんじゃない。

 考えられるとすれば、炎石で作ったコンロが爆発したか?


 これは問題だ。

 3Dプリンタスキルで作った商品に欠陥があれば、商売どころじゃない。


 俺の作った商品が元で事故が起これば賠償責任、いや、万が一にも貴族がケガをすれば、処刑もあり得る。


 やはり商業業界への参入はやめるべきか。

 俺が苦悩していると、イースターが探偵のように鋭い目つきで部屋の中を見回した。


「これはワタシの出番ですかね。秘儀、観察スキル!」


 彼女の視線が、油断なく部屋を一周した。


「なんだそれ? 鑑定スキルとは違うのか?」

「えぇ、ちょこっと違いますね。鑑定スキルは対象の情報を読み取りますが、観察スキルは対象の存在そのものに気づくんです。たとえば一〇〇人の人混みの中から特定の人を見つけるのって時間がかかりますよね? 視界には全員収めているのに。このように人間は視界に入っているのと、実際に認識できるかは別なのです。見落としですね。しかし観察スキルは、視界に入る全ての情報を漏らさず認識できるんです」


「他の人から見れば『焦げた火事場』でひとくくりでも、イースターにはあらゆる情報の集合体として認識できるってことか?」


「おっしゃる通りです」


 イースターは大きく頷いた。


「ん? これは……」


 イースターが拾い上げたのは、一本の釘だった。

 熱でわずかに変形している。


「ふ~む、鉄が熔けるほどの温度となると、かなりの高温ですね」

「やっぱ炎石で作ったコンロが暴発したのか……」


 俺はがっくりと肩を落とした。

 一方で、イースターは難しい顔をしたまま、床に散らばる壊れた窓の破片に注目していた。


「どうかしたのか?」

「いえ、ちょっと――」

「ラビ!」


 イースターが何か言おうとすると、背後から鋭い声が割り込んできた。

 背筋を伸ばして振り返ると、そこには学年主任の女性教師が怒り顔で仁王立ちしていた。


「先生!?」


 眼鏡の奥から鋭い視線でこちらを射抜き、先生は威圧するようにすごんできた。


「今回の件で話があります。すぐ、生徒指導室へ来るように!」


 俺は黙って頷くしかなかった。


   ◆


 職員室へ連行された俺が部屋に入ると、二人の生徒が壁際にソファに座っていた。


 一人は知っている。


 長い金髪片側ドリルヘアーで碧眼のスレンダー長身美少女。エリザベス・レッドバーンだ。


 俺の同期で貴族科主席の一年生。


 実家は王国四大貴族の一つである公爵家で教会とも縁が深く、何人もの上級神官を輩出している名門中の名門だ。


 おまけに、この前のスキル授与の日に神々しい聖女型ゴーレムスキルを授かったというのだから、その名声、評判は天井知らずだ。


 もう一人は平民科の制服を着た知らない女子、いや、制服がズボンだから男子だろう。


 こっちの世界では珍しい黒髪で目は大きく優し気なタレ目の美少女顔。小柄で首も肩も華奢で、女の子が男装をさせられている印象を受ける。


 顔は青ざめ、おびえるような表情だった。


「ラビ」


 先生は執務机の席に腰を下ろすと、両手を重ねながら厳格な声で俺の名前を呼んできた。


「もう知っているとは思いますが、貴方の部屋で火事が起きました。こちらのエリザベスさんが見つけなかったら今頃どうなっていたか」


 なるほど、この二人は第一発見者か。

 エリザベスは男子に人気の美貌を不機嫌そうに歪め、こちらを睨んでくる。


「まったくラビ、貴族科から追放されても問題を起こしますのね貴方は」


 相変わらずの高飛車な口調。

 元とはいえ貴族の面汚しめ、そんなニュアンスを含む口調に、俺は口をつぐんだ。


 この場で俺が何を言っても、不利にしかならないだろう。


「私が火事に気付かなかったら、男子寮は全焼していたかもしれませんのよ? わかっていますの? 大方、ゴーレム作りの機材かマジックアイテムの管理を怠っていたのでしょう。貴族に戻りたくて躍起になるのはいいけれど、盲目になっては困りますわよ?」


 胸を張り、居丈高に高説を垂れるエリザベスに、学年主任の先生も深く同意した。

「エリザベスさんの言う通りです。テロの鎮圧やドレイザンコウ討伐でもてはやされ、気が緩んでいるのではないですか!?」


 そんなことはない。

 むしろ、ヒーロー扱いに困っていたくらいだ。

 けれど、それを口にしても信じてもらえないだろう。


 弁明できない歯がゆさにやきもきしながらも、俺はすいませんと頭を下げるしかなかった。


「とにかく、これ以上、貴方を学生寮に置いておくことはできません。そうそうに出て行ってもらいます」


 その言葉に耳を疑い、俺はうつむいた顔を上げた。


「え!? 出ていくって、別の部屋に移動するってことですよね?」

「何を言っているのですか? 貴方に与える部屋なんてありません」


 語気を強める先生に、俺は愕然とした。


「では、あらためて貴方達に処分を伝えます。平民科、一年二組ラビ、一年九組ブラン、両名を退寮処分とします!」

「……え?」


 俺は、力なくうなだれる美少年を見やった。

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