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めがねぇえええええ!

 それらが夕日を反射して、幻想的な光景が広がっていた。


「すごいな、ここだけでなん十種類の花が自生しているんだ?」


 どの花も美しく、あるいは愛らしい姿をしていた。

 レア素材図鑑の挿絵で見たことのあるものもあるけれど、やはり本物は違う。

 美しさの圧、美圧、とでも言えばいいのか、そうした力を感じる。


 女の人ってこういうのが好きなのかな?


 などと思って、ハッとした。


「イチゴー、ここにある草花のデザイン、全部記憶できるか?」

『できるよー。ぼくのストレージは一ペタバイトもあるんだからー』

「そりゃすごい。じゃあここにある草花を元に3Dプリンタでアクセサリーを作れるか?」


『やってみるー……えい』


 周囲をきょろきょろ見まわしてから、もちっと可愛いポーズを取ると俺の目の前に青いポリゴンが出現した。


 俺が両手を広げると、中から草花を模した髪飾りやブローチ、ペンダントなどが落ちてきた。


「おっ、悪くないんじゃないか? よし、ここにある草花、全部暗記するぞ!」

『わかったー』


 俺の指示で、イチゴーたちは三々五々、思い思いの方向に散っていった。


 そうだ。

 アクセサリーのデザインなら、大自然という天然のデザイナーがいる。


 無理に俺のオリジナルじゃなくても、実在する草花を模倣すればいい。

 それに、そのほうが何それのパクりとか言われることもないだろう。


 この世界は著作権や特許の概念が未発達だけれど、いちゃもんはつけられないほうがいいに越したことはない。


「ん? 天然の……ッ!?」


 その時、俺の頭にひらめくものがあった。


 ――もしかして、魔獣の人形を作ったら男の子たちに売れるんじゃないのか?


 こうして、俺は女性向けにアクセサリーを、そして男の子向けに魔獣の人形を作ることにした。

 

   ◆


 深部の魔獣を倒しても、俺のレベルが上がらなかった。

 それでも、デザイン問題を解決できた俺は上機嫌で帰路に着いた。


 イチゴーたちも、ちょっと足が弾んで見える。

 夕日に染まる校舎の横を通り過ぎて、男子学生寮に向かいながら腕を組み、俺はあごをなでた。


「あとはどうやって売るか、だよな。ただ店先に並べるだけでいいのか? ネットもテレビもないこの世界で宣伝て、チラシとポスターとのぼりと、人脈が無いと難しいよなぁ……」


 人脈という単語と一緒に、昼間のハイテンション残念美少女が脳裏に浮かんだ。


「いやいや、イースターの手を借りるのは最終手段にしよう」


 あいつが絡むと後で何を要求されるかわかったもんじゃない」


『あ、イースターっす』

「え?」


 ヨンゴーが手で指した先を見上げると、校舎三階のバルコニー、その鉄柵に持たれる形で、イースターが眠りこけていた。


 口から垂れるよだれが残念美少女の残念ぶりを際立たせている。


 ――あいつ、あんなところで何をしているんだ? 日向ぼっこ? 違うよな、ここ日陰だし。


 触らぬ神に祟りなし。

 起こさないよう、ゆっくりとその場を通り過ぎようとする。


『イースター、そんなところでなにをしているんすか? おーいっす』


 頭上にメッセージウィンドウを表示させながら、ヨンゴーはそこらへんの石をぽいぽい投げつけ始めた。


「おい、危険かつ失礼かつ余計なことをするな。お前はもっと色々学べっ」


 ――でないと朝、俺を起こす時に何をするかわからない。


「ぶぎゃっ!」


 小石の一つがイースターの額にクリーンヒット。

 眼鏡の位置を直しながら、余計な奴が目覚めてしまう。


「はっ!? ナイスタイミング! 待っていましたよラビ!」


 鉄柵の上に足をかけ、ボブカットと制服を風になびかせながら威風堂々立ち上がる。


「ぅわが名はイースター! 今世紀最高の大魔法使いにして救世主の導き手! そしていずれ商人王として王国経済を牛耳る者! ちょわっ!」

天高くジャンプすると、イースターは空中に眼鏡を残して落下してきた。


「ぁぅっ! 眼鏡ぇっ!」


 そして着地の勢いを殺せず地面にお尻を激突させた。


「■■ッ!?」


 口からモリハイエナのような声を漏らしてイースターは動かなくなった。

 一泊遅れて、眼鏡が俺の手に落ちてきた。


「だいじょうぶかー?」


 地面にお尻を打ち付けたⅯ字開脚スタイルで、なおかつ、とてもではないが嫁入り前のお嬢さんがしてはいけない顔で固まったまま動かないイースターの顔に、眼鏡をかけてあげる。


「ッッ……」

「イースター?」

「ッッ……」


 ――あ、これ本気でヤバい時の顔だ……。


 人は激痛を感じると悲鳴を上げるが、激痛の向こう側へ行くと微動だにできなくなる。


 今、彼女はその境地に達しているのだろう。


「イチゴー、ポーションを」

『はーい』


 イチゴーからポーションを受け取った俺は、ガラス瓶のふたをはずしてイースターに差し出した。


 すると、イースターは歯を食いしばりながら顔中に血管を浮かび上がらせ、圧搾され尽くした声を上げた。


「へいき、でず……それよりもワタシを背負って部屋まで運んで下さい。そうすればワタシという美少女に恩を着せられますよ……」


 ――すげぇ、激痛の向こう側を乗り越えやがった。


 飽くなき執念に、一抹の敬意を払わずにはいられなかった。

 とはいえこれとそれは話が別だ。


「ゴゴー」

『えい』


 ゴゴーの手が、イースターの足首を突いた。


「ひぎゅんっ!」

「ほい、ポーション」

「ぐっ、計画失敗か! 悔しいです!」


 イースターは目に涙を浮かべながらポーションを飲んだ。


「んお? おー、治りましたぁ!」


 すっくと立ちあがって、イースターは上機嫌にぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 その姿はちょっとかわいい。


「そりゃハイポーションだからな。外傷はだいたい治るぞ」

「ぬぁっ!? そんな貴重なものをワタシに!? 飲むふりをして売ればよかった!」


「もっと自分を大切にしろよ。そもそもそういうせせこましいことをしてビッグマネーをつかめるのか?」


「むむ、それは一理あります。ラビさん、商人でもないのにいいこと言いますね」

「そりゃどうも」


 前世の受け売りである。

 そのまま、俺らはなんとなく連れだって歩き出した。

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