お祭りに合うかな?
「う~ん……」
ノエルに同意を求められたハロウィーは、急に考え込んでしまう。
「どうしたのだハロウィー、さっきまではあんなに盛り上がっていたのに」
「何か気になることがあるなら言ってくれ」
「あ、ごめんラビ。いや、商品はどれもすごいよ。わたしも欲しいし実家に送ってあげたい。でも思ったんだよね。これ、お祭りで買うものなのかなって?」
「「え?」」
俺とノエルの声が重なった。
俺らの沈黙に、ハロウィーは淡々と説明してくれる。
「ほら、お祭りの醍醐味って、やっぱり楽しい時間を過ごすことでしょ? みんな思い出になるものが欲しいと思うの。だけどラビの商品はどれも生活を便利にするものばかりだもん。普段ならそれでもいいんだけど、お祭りで売り出すものとしてはズレているんじゃないかな?」
「うっ」
痛いところを突かれて、俺は胸を押さえた。
「ふむ、言われてみればそうだな。そもそも折り畳みのイスやテーブルを買って、家具を抱えたまま祭りを回る者はいないな。これが大商会ならば、後日自宅への配送サービスもできようが、ラビでは難しいだろう」
「それは、ドローンに運ばせればいいんじゃないか?」
俺の提案に、ハロウィーが難しい顔をした。
「大商会ならともかく、ラビが言って信用してくれるかなぁ」
言われてみれば、ほとんどの客にとって俺は初対面の子供に過ぎない。
後日ゴーレムが商品を届けますから、なんて言って信用してもらえるはずもない。
それこそ詐欺の常套句だ。
「商売には信用が大切ってことだな」
「ではラビ、販売は他人に任せて卸売をしてはどうだ?」
「それもいいけど、それこそイースターが言っていたみたいに買い叩かれて搾取されそうだ」
気が付いたら捨て値で五〇年間無制限に商品を引き渡さないといけないことになっていた、なんてなれば目も当てられない。
「3Dプリンタスキルで作れて、お祭りでみんなが欲しがるような物か。そもそもお祭りでみんな何を買うんだ?」
「うちの農村だと収穫祭になったら食べ物が中心かな」
「都市部ならアクセサリーも多いな」
――ぶっちゃけ宝石なら作れるんだけどな。
炭素原子の結晶であるダイヤを筆頭に、実は宝石のほとんどは何かの元素の結晶だ。
天然では珍しいというだけで、構造は実に単純だ。
なので、3Dプリンタスキルで簡単に作れる。
ただし宝石を大量生産したところで価値が暴落するだけなので、できれば使いたくない。
それと、バレると確実に悪い組織が近づいてくるのでノエルたちにも秘密だ。
「川で採取した砂金ならある程度あるけど、これで金メッキのアクセサリーはダメかな?」
「あまり高いと庶民が買えない。かといって貴族は個人出店の店など利用しないだろう」
「なら素材は黒曜石や水晶、鉄、銅だな」
「うむ。メイン層の平民相手なら素材ではなくデザインが重要だろう」
「だけど俺にデザインセンスなんてないしな。そうなると、またレベル上げだな」
「なぜだ?」
「俺の自立型ゴーレム生成スキルは五レベルごとに新しいサブスキルに目覚めているだろ? だから二五レベルになったら自動デザイン生成スキル、みたいなのが目覚めないかと思って」
「それはちょっと都合が良すぎないか?」
眉根を寄せるノエルに、俺も苦笑いを返した。
「まぁな。けど、やるだけやってみるよ」
とはいえ、悪くない賭けだと思っている。
これまで目覚めたサブスキルは事実上のAIチャットや3Dプリンタ、ドローンにバグ。どれも、令和日本で進歩の目覚ましい分野だ。
なら、次は自動デザイン生成スキルの可能性は十分にある。
俺は二人の部屋にスプリングベッドとビーズクッションソファを運び込むと、ニゴーたちが暴れている森へ向かった。