ぽにょーん
放課後。
俺の部屋に三人で集まった。
ハロウィーとノエルをお茶とクッキーでもてなしつつ、俺は二人の前に佇んだ。
「と、いうわけでこれから俺の3Dプリンタスキルで作れる物を紹介していくぞ」
『れでぃーすあんどがーるぅ』
俺の足元では、イチゴーがくるくると回って踊り始めた。かわいい。
ハロウィーが笑顔で小さく拍手をすると、ノエルも慌ててちっちゃく拍手をしてくれた。
俺も調子に乗って、ちょっとテレビショッピング風の口調でストレージを展開した。
「ではまず最初にご紹介する商品はこちら、折り畳み式のイスとテーブルだ」
「折り畳み式?」
「組み立て式とは違うのか?」
「手間が天地だな。ほら」
言って、俺はストレージから取り出したテーブルの脚を立てて床に置いた。
「なっ!?」
「さらにイスもこうして開くだけで完成だ」
「ラビ、これはすごいぞ」
ノエルは素っ頓狂な声を上げて、その場から立ち上がった。
「野営用、陣中用に運びやすいよう、脚が外れる組み立て式のイスやテーブルならこれまでもあった。だが、これなら組み立てる時間がかからない分、準備の時間が大幅に短縮できる」
「しかもケイ素樹脂製で軽いぞ」
ノエルとハロウィーはイスとテーブルを手にして、その軽さに驚いている。
その様子が、ちょっと、いや、かなり心地よかった。
――これが現代知識無双。クセになりそうで怖い。
人を馬鹿にするのはいけないことだとわかっていても、本能的優越感をどうしても感じてしまう。
「さらに次はスプリング式ベッドだ」
部屋が狭くなるので折り畳み式のイスとテーブルをストレージ送りにして、代わりにスプリング入りのベッドを取り出した。
「ハロウィー、ちょっと寝てみてくれ」
「えっ、う、うん……」
何故か、ハロウィーはぽっと頬を染めて、ためらいがちにベッドに座った。
ノエルもちょっと複雑な表情を浮かべている。
けれどそれも一瞬。
ハロウィーの目は丸く開かれて止まった。
「え? えぇ? すごい、なにこれ?」
ハロウィーのお尻はベッドに沈んでから押し上げられた。
その場で彼女が体を上下に動かすと、ベッドはギシ、ギシ、とハロウィーを上下にはずませた。
「あは、なにこれ、ちょっと楽しいかも」
「おいおい、子供じゃないんだから、早く横になってくれよ」
「あ、ごめんね、はしゃいじゃった」
また、ハロウィーはふわっと顔を赤らめた。かわいい。
そしていつのまにかイチゴーが思い切り跳ね弾み遊んでいた。
「やめなさい」
ぽにょーん、ぽにょーん、と跳ね回るイチゴーを空中キャッチ。そしてノエルはちょっとうらやましそうだった。
誰の何にかはあまり考えないでおこう。
「うわぁ、寝心地も最高だね。まるで雲の上にいるみたい」
――雲は霧みたいなものだから突き抜けちゃうんだけどな。
そういうリアルなツッコミは避けておいた。俺は大人だと思う。
「そんなに良いのか?」
「うん♪ こんなの知ったらもう女子寮の硬いベッドには戻れないよ」
「じゃあサンプルとしてこれはハロウィーにあげるよ」
「本当!?」
「おう。もちろんノエルにもな」
「べ、別に私はッ……」
さっきからそわそわと熱い視線を送っていたノエルは、誤魔化すように両手を左右に振った。
「あとはこの、人をダメにするイス、もといビーズクッションソファを試してくれ」
「人をダメにするソファ?」
「なんだそのぶっそうな名前は? 呪いのマジックアイテムか?」
ノエルが怪訝な表情を浮かべる一方で、ハロウィーは好奇心を含んだ表情でころりとベッドからソファに転がり座った。
「ふゃっ!?」
そして、かわいい声を上げた。
「どうしたハロウィー!? 魔力でも吸われているのか!?」
ノエルが心配する一方で、ハロウィーの表情はみるみる弛緩し、みるみるトロけていく。
「こ、これすごぃ……もう、うごきたくないぃ……」
「何を言っている? おいラビ、これは本当にマトモなものなのか!?」
「まともに決まっているだろ。ただ座り心地が良すぎるだけだって」
「それだけでこんな酩酊状態になるわけがないだろう!」
「じゃあノエルも試してみればいいじゃないか」
俺がビーズクッションソファをもう一つ取り出すと、ノエルは勇ましい表情で腰を下ろした。
「人を堕落させるほどの座り心地なんてあるわけがぁ……ッッッ~~」
勇ましい表情が一転。
右手で口を押さえながら、ノエルは溢れ出る何かを噛み殺すように悶え始めた。
「ぐっ、これ、は!? ふざけるな、私はこの程度では屈しないぞっ……ッ~~」
けれどビーズクッションソファはノエルの体の型を取るようにして沈み込み、彼女の体にミラクルジャストフィットしつつ、確かな低反発力で押し返し、彼女の魂を堕落地獄へといざない離さないことだろう。
現に、今のノエルは魔王に魅入られつつも洗脳にあらがう姫騎士のようにしか見えなかった。
「私は、負けない……ッ」
だけど、そんな風にあらがわれてしまうとこっちも対抗心が芽生えてくる。
二十一世紀の令和日本が誇る堕落グッズが負けるわけがない。
これは日本の威信をかけた、日本VS異世界の代理戦争なのだという謎の使命感すら沸いてきた。
だから俺はイチゴーを抱きかかえ、ノエルのお腹に置いた。
「ふぁぁぁ…………」
ノエルは堕ちた。
威厳も凛々しさのかけらもない緩み切った表情で四肢を投げ出したまままぶたを閉じ、夢の世界へと旅立っていった。
が、このままではコンペにならないので起きてもらう。
「…………」
至福の顔で眠る二人の美少女の姿に、俺はイスへ座った。
――コンペにならないので起きてもらおう。一時間後ぐらいに。
俺は一人、次なる商品説明の段取りを考えた。
◆
そして一時間後。
頬を染めて恥じらうハロウィーと協力し、両手で顔を覆ってしまい動かなくなったノエルをはげましてからコンペを再開。
俺は組み立て式ラック、ジップロックやサランラップ、結束バンド、ペッパーミル、スライド式計量スプーン、魔法瓶など数々の便利グッズを紹介し、その全てにハロウィーとノエルは惜しみない賞賛をくれた。
「さらに次はお待ちかね。みんな大好きマジックアイテムです。ゴゴーが見つけてきた魔法石で作り出したヒートソード。魔力を込めれば誰でも簡単に炎の斬撃を操れる優れものです。これがあれば今日のコロシアムでも大活躍間違いなし。さらにアイスソード、サンダーソード、ウィンドソードなど各種属性のマジックソードを取り揃えております♪ お値段なんと、一本金貨一〇〇枚!」
「それは凄い。選手は皆こぞって買うぞ。ハロウィーもそう思わないか?」
「う~ん……」
ノエルに同意を求められたハロウィーは、急に考え込んでしまう。