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救世祭

 翌日の朝。

 教室では、先生が俺らに向けて救世祭の説明をしていた。


「さぁみなさん! 来週はついに救世祭ですよ!」


 手を叩き、声高らかに宣言する先生に、生徒たちの視線は否応なく集まった。


「今をさかのぼること二〇〇〇年前! 女神様が人型ゴーレムを率い、悪しき魔獣型ゴーレム達を討ち、世界をお救いになったことを祝う世界的な行事であり、王都では都市全体で大々的に開催しています!」


 ようするに、地球で言うところの終戦記念日みたいなものだ。


 ただし、宗教的要素も絡むため、熱の入り方は他の祝祭日とは比べ物にならない、世界的なお祭りだ。


 毎年王都には国中どころか、外国からも多くの人が集まる。


 ――去年はノエルと一緒にコロシアムを見物に行ったんだよな。


「毎年、我が王立学園も個人からチーム、時にはクラス単位で各種イベントに参加し、あるいは出店、自らイベントを開催するなど、あらゆる形で参加をし、盛り上げてきました!」


 実際、ノエルは自らもコロシアムに参戦して、五回戦まで進出した。


 金髪碧眼の美少女剣士爆誕として、一部界隈では話題をさらった。


 同時に、下品な一部の男性界隈で熱狂的な話題の中心となり、俺は剣に鞘をつけたまま振るうことになった。


 ――ノエルは何も言わなかったけど、たぶん、俺が何をしたか気づいているよな。


「そして今年は君達全員にコロシアムへの参加を義務付けます!」

『えぇええええええええええええええええええ!?』

「何勝手に決めているんですか!?」

「今年は彼女と一緒に祭りを楽しむ予定なんです!」

「横暴よ!」

「あたし錬金術師なんだけど!?」


 全生徒が絶叫と悲鳴を上げて抗議するも、先生は気にした風もない。

 むしろ、厳格な態度で鼻息を荒くした。


「立場を弁えなさい!」


 先生の一括に、教室は静まり返った。


「いいですか。君達は先日、貴族科の生徒達に暴行を加え拉致するというテロを行ったのですよ! 本来ならば全員退学の上、地下牢送り、いえ、処刑されていてもおかしくない立場なのです! それをテロリスト達からの催眠ポーションによる強制だったことで温情に温情を重ね、無罪にしてもらったのです。本来なら、こうして教室にいられない立場なんですよ!」


 その言葉に、みんなの心臓からギクリという音が聞こえた気がする。


 実際には催眠ポーションなどではなく、自ら進んでテロリスト達に協力した彼ら彼女らだ。


 後ろめたさと、藪蛇を避けたい気持ちでいっぱいだろう。


 一応、平民如きに拉致されたなどという恥を広めたくない貴族社会の都合もある。とはいえ、下手に刺激してやはり処罰するなどとなれば人生の破滅だ。


「そこで、学園としても世間からのイメージアップ、さらに君達の名誉と信頼回復の為に、救世祭最大のイベントであるコロシアムの救世杯には平民科全生徒で参加し、貢献することとしました」


 理路整然と話す先生とは違い、一部の生徒は声と表情を濁した。


「え~。でも先生、救世杯には国内外の冒険者や騎士戦士が参加するんですよね?」

「アタシらが優勝できるわけなくないですか?」


 当然の質問に、先生は人差し指を振った。


「大丈夫です。君達も知っての通り、救世杯は冒険者ランクを基準にSリーグからFリーグに分かれて行われます。冒険者登録をしたばかりの君達が参加するのはFリーグやEリーグだけ。それに目的は優勝することではなく、行事に参加したという事実です。とはいえ、高戦績を残したほうが名誉回復に繋がるのは明白です。是非とも優勝を目指してください」


 ――興味ないなー。


 先生には悪いけど、今の俺には関係ない。

 俺はテロを鎮圧した側だから責任はない。

 以前の俺なら、貴族に戻るための実績作りのために参加したかもしれない。


 だけど、今の俺はテロを鎮圧した功績で父さんから家に戻っていいと言われている。


 それでも平民のままなのは、自由が無くなるからだ。

 俺が平和な人生を過ごすには、貴族と平民の溝を無くす必要がある。

 今は、その方法を模索するのが先決だ。


「言っておきますが、これは皆さんにもメリットのある話です。毎年救世祭が終わった後に投票で選ばれる最優秀者には、仮想救世主である聖主者の称号が与えられ、王室より聖主者勲章が授与されます。その肩書だけで一生食べていけると言われているのですよ」


 救世主とは女神のように世界を救う人のこと。

 そして、聖主者とは救世主に次ぐ存在として広い意味で使われる言葉だ。


「選ばれるのはたいてい、救世杯各リーグの優勝者。将来有望な若者、大型新人として、FリーグやEリーグの優勝者が選ばれたことは何度もあります」


 先生の話に、みんなの表情がちょっと変わる。


「Fリーグで優勝すれば、君達の中の誰かが聖主者に選ばれるかもしれません。そうすればテロ行為への加担など補って余りある名誉を得られます。将来、冒険者になった時は貴族のパトロンがつくかもしれませんし、王室への士官も夢ではありません」


 王室への士官。

 それこそ、もっとも自由が無くなる進路だ。


 もしも俺が宮仕えなどすれば、平民科のみんなは王家にしっぽを振ったと後ろ指をさしてくるだろう。


 貴族科のみんなは、一度平民に堕ちた分際でと罵ってくるだろう。


 一方で、みんなは違った。


 頬が緩んでいるというか、もしかして自分でもワンチャンあるかもしれないと、夢を見ている顔だ。


 この世界では俺も十五歳だけど、前世を足せば余裕で大人の身としては、子供だなぁと思ってしまう。


 ――まぁ、でも期待は誰でもするよな。


 庶民が宝くじを買うようなものだろうと思い、上から目線の自分をちょっとたしなめた。


「ミスター・ラビ」

「え?」


 気づけば、先生の首がぐりんとこちらを向いていた。


「君はこのクラス唯一のDランク冒険者。是非ともDリーグ優勝を目指してください!」


「いや、俺はテロリストを鎮圧した側だから関係ないんじゃ」


 と、断ろうとする俺の機先を制するように、みんなは騒ぎ始めた。


「そうだそうだ。ラビならイケるだろ」

「Dランクとか言ってもドレイザンコウを倒したんだろ?」

「そうそう。いきなりのCランク昇格はできないからDランク止まりなだけなんだって?」


「じゃあ実質Cランク級ってことだろ? 余裕じゃねぇか!」

「ラビ君が優勝してくれたらアタシたちの汚名も消えるし頑張って!」


 ――主に最後のが狙いだな。


 と、俺は辟易した。


 ――お前らどんだけ俺に尻ぬぐいをさせる気だ。


 先生も、俺への期待が止まらない。


「先日のテロ事件で、王立学園は警備上の信頼を大きく失いました。頼みましたよ!」

「学園の都合ですか……」


 とはいえ、むげに断るのも気が引ける。

 俺に愛校心なんて殊勝なものは存在しない。


 けれど、先日の一件で少なからず学園長と縁ができた。


 学園の信頼が下がると、学園長に悪い気がする。


 それに、イチゴーたちの性能テストになるし、勲章があれば今後の活動に何かプラスになるかもしれない。


 ――まぁ、腕試しにはちょうどいいか。


 こうして、俺は救世杯に参加することが決まった。

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