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アカウント名とパスワードをお忘れですか?

「貴君は姉さんの言っている言葉の意味がわかるのか? 聞きなれない単語ばかり口にしているが、今のはゴーレム製造の専門用語か?」

「えっ!? あーはいそうです! ゴーレム使いの専門用語です!」


 つい、前世の感覚で話してしまい、俺は慌てて取り繕った。

 学園長にも、前世のことはまだ伏せておきたい。

 ただし。


 ――俺の知識にツッコミを入れないってことは、この姉さんゴーレム、地球を知っているんじゃないのか?


 俺の中で、ますます二〇〇〇年前の女神は異世界転生者説が濃厚になってきた。


「…………う~む」


 学園長の怪訝な表情に、俺は話題をそらす意味も込めて提案した。


「とにかく、保証はできませんが、エルダーゴーレムの直し方がわかったら知らせますね」

「本当か!?」


 学園長は疑惑の眼差しをぱっと切り替えて、表情を明るくした。


「はい。俺もゴーレム使いとしてはいつかエルダーゴーレムを作りたいと思いますし、その時は是非、協力させてください」

「感謝するぞ。貴君の実家や兄であるフェルゼンに依頼した時は何もわからなかったのに、貴君は優秀だな」

「え、そうなんですか?」


 ――いや、そりゃうちはゴーレム使いの名門だし、頼んで当然か。


 正直、兄さんよりも優秀であると言われて嬉しい。

半面、今回の一件でますますイチゴーのことが気にかかる。


 ――エルダーゴーレムと通信規格が同じ。イチゴーって、何者なんだ?


「ん?」


 ふと、俺の目の前にログインダイアログが出てきた。

 学園長の目線から、俺にだけ見えているらしい。

 アカウント名とパスワードを入れる空欄。


 

 保存済みのパスワードを使いますか?

 ●●●●●●●●




 という表示に【OK】を押すと、アカウント名とパスワードの両方が埋まり、何かのインストールが始まった。


 ただし、シークバーは99パーセントまで溜まったところでストップ。一ミリも動かなかった。



【本体性能が不足しています】



 ――ハイゴーレムのイチゴーでも性能が足りないって、何をインストールしようとしているんだ?


 この正体を尋ねていいものか、俺が逡巡していると、学園長が好意的な口調をかけてきた。


「ラビ、できればイチゴーをしばらく貸してはくれないか?」

「いや、こいつがいないと使えないスキルがいくつかあるのでそれはちょっと」

「むぅ、そうか」


 学園長が気勢を削がれたようにおとなしい顔になった。きっと姉と積もる話もあるだろう。


「でも、今日のところはイチゴーを置いていくので、お姉さんとたくさん話してください。CPU、えっと、お姉さんの体に負担のない範囲で」


 学園長の声がはずんだ。


「うむっ。ではラビ、今回は本当に助かった。何かお礼がしたい。私にできることはないか?」

「いえいえ、そもそもクラウスたちのことのお礼で俺が協力したわけですし」


 俺は両手、はイチゴーを抱えるので埋まっているため、顔を横に振って断った。


「そう言うな、それに今後も、たびたびイチゴーには姉さんと取次いでもらいたい。何かさせてくれ」

「そうですか? じゃあ……」


 この学園で俺が困っていることと言えば、やはりあれだろう。


「貴族科と平民科の生徒の溝を、なんとかできませんか?」


 露骨な差別はない。


 それでも、日常の端々で貴族科の生徒は平民科の生徒を見下しているし、逆に平民科の生徒たちは貴族科の生徒を悪だと色眼鏡を向けている。


 俺としては、こういうギクシャクとした関係を解消したい。


 今回のテロ騒ぎで、それは加速してしまうだろう。

 けれど、俺の一言に学園長は表情を曇らせた。


「すまない。大口を叩いておいて情けないが、それは私の力ではどうにもできん」

「どうしてですか?」


 軽く拳を握り、学園長は一度伏せた視線を上げた。


「私とて、生徒同士のいさかいや差別意識は取り除きたい。そも、戦場に出れば身分など関係ない。身分を理由に手心を加えてくれる敵などいないからな。だが、貴君も知っての通り、我が学園に貴族科と平民科を差別する校則は無い。無論、学生寮の設備レベルや授業の待遇などの差はある。だがそれらは王室や学園外部からの援助の名目で整えられたものが多い」


 心苦しそうに説明してくれる学園長に、俺は尋ねた。


「では、この前のギルド登録や初クエストの時も?」

「うむ。平民科の生徒は冒険者ギルドまで足を運び、貴族科の生徒にはギルドのほうから職員が足を運んだ。だがそれも、ギルドのほうから申し出たことだ。全一年生が一度に来られるとギルド会館がパンクするので、貴族科にはこちらから職員を派遣します、とな」


「じゃあ、平等にするために平民科の生徒には学園が支援するとかは……」


 俺の問いかけに、学園長は深い溜息を吐き出しながらゆっくりと首を左右に振った。


「難しいな。情けない話だが、大戦の英雄などと持て囃されてはいるが、所詮、私も雇われ学園長に過ぎない。貴族社会からの反感を買えば首をすげ替えられるだけだ」


 また、ここでも見えない理不尽が働いてしまうのかと肩を落とした。

 そんな俺の様子に、学園長は落ちた俺の肩に手を置いてきた。


「そう落ち込まないでくれ。その代わり、五月の救世祭ではできるだけ便宜を図ろう」


「あー、そういえばもうそんな時期ですね」

「忘れていたのか? この国一番の祭りだというのに」

「実家を追放されたり貴族科から平民科に堕ちたりしましたので……」

「そうか。では他にも困ったことがあれば何でも言うといい。もちろん、貴君もな」


 学園長の人差し指が、イチゴーのお腹にちょこんと触れた。

 イチゴーはくすぐったそうに手足をぱたぱたさせた。


「それと、貴君がダイヤモンドを作れることは私の胸に内に秘めておこう」


 失言に気づいた俺は苦笑いを浮かべた。

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