学園長
ノエルやハロウィーと別れて、俺は独り、王立学園の学園長室を訪ねていた。
入学して初めて入る学園長室の空気は堅く、俺はこれから起こる事態に全身で身構えてしまった。
「そう堅くならなくていい」
執務机に腰をかける長身の女性こそが、この学園を統べる最高責任者のアレクタニア・ヒルデガンドだ。
経歴を半世紀前までさかのぼれる年齢でありながら、その肌艶は二〇代のソレで、声から漲る気迫は軍神のソレだ。
彼女は俺がバグで飛ばしたメモを指先で机に押し付け突き出してくる。
「仕事は片付いている。君の望み通り、革命軍のメンバーは全員牢屋行き。そしてクラウス以下、加担した生徒たちは一週間の自宅謹慎処分で各方面を納得させておいた」
「どんな魔法を使ったんですか?」
神がかった手際に俺が息を呑むと、学園長はこともなげに鼻を鳴らした。
「大したことではない。平民科生徒に催眠ポーションを飲ませてから薬物検査を行い、全員心神喪失でお咎めなしだ。そもそも彼ら彼女らが行ったのはダンジョン内での他クラス生徒への暴行のみだ。その程度で退学や牢屋行きなら、先日君らを襲ったダストンやその舎弟たちはとっくにお縄だ。それに貴族のプライドも利用させてもらった。誰だって、平民科の生徒に奇襲を受けてまんまと捕まった、なんておおっぴらにしたくはないだろう?」
いかにも仕事のできる女然と説明し終えた学園長に、俺は背筋を硬くした。
「恐れ入ります。それに、感謝致します。それで、俺はどうすればいいのでしょうか?」
これだけの事件の隠ぺいを、まさか無償で行ってくれるわけもない。
俺は、それ相応の対価を要求されるのを覚悟していた。
「話が早くて助かる」
学園長は力強く立ち上がると、部屋の衣装ダンスを優しい手つきで開いた。
中の物に、俺は目を見張った。
そこに収められていたのは、少女の肉体だった。
いや、それは教会に安置されていたものと同じ、ロボットのようなゴーレムだった。
カチューシャに見えるヘッドセットに、額の液晶ディスプレイは、この世界には無いものだ。
「君の兄、フェルゼンから聞いたよ。君のゴーレムは自分で考えて動くらしいね。この子と同じように」
——同じ!?
学園長の言葉に動揺する俺に、彼女は続けて言った。
「……なぁラビ……君のゴーレムなら、彼女と話ができないか?」
学園長の視線は酷く真面目で、そして悲哀に満ちていた。
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