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剣士ノエル

「ど、どういうことですか?」


 絶望に染まったクラウスに、セドリックは飄々と告げた。


「はっ、王族貴族による粛清が始まり平民が大量虐殺されれば、中立だった大勢の平民もオレら革命軍の味方をせざるを得ない。平民の数は貴族の一〇〇倍。それに貴族共はオレらを殺し過ぎれば労働力と生産者が減るっつう躊躇いもある」


 セドリックの声は徐々に加速し、そして邪悪に歪んでいく。


「革命の波はやがて国外に届き世界中に広がるだろうぜ! 見せしめに貴族共の死体をそこら中に吊るせば誰だって奮い立つ!」

「みせしめ……うっ!」


 クラウスは頭痛に苦しむように頭を押さえた。

 クラウスの父親は、貴族に減税を訴えに行き、見せしめに殺された。

 きっと、そのことを思い出しているのだろう。


「世界中の平民が貴族と対立し、殺し合う。数百万の民兵が死ぬ頃には王族貴族も疲弊するだろうなぁ! 数で有利な民兵のほうが、持久戦には強いからな!」


 朗々と語られた酷薄な未来に、クラウスは膝を震わせ、すがるようにしてセドリックに手を伸ばした。


「ま、待ってください、数百万の民兵が死ぬって……」


「あん? 何か問題か? お前も言っていただろ。大事の前の小事だってな。数億の平民を救う為の犠牲が数百万で済むなら安いもんだろう。そしてお前は革命を成し遂げた少年英雄として、歴史に名を残すんだよ」


「違う……僕は、そんなことは……」


 父の形見である剣を落とし、クラウスはその場で膝を折った。

 それは、まるで悪い大人に騙され熱に浮かされた少年活動家が取り返しのつかない事件を起こし、夢から覚めたような姿だった。


「あ~、ガキには少し刺激が強かったか。だがクラウス、お前はもうあと戻りはできないぜ。若くて見栄えするお前は旗頭には都合がいいんだ。最後まで付き合ってもらうぜ。それに心配するな、オレの目的はお前と同じ、平民中心の世界だ。全てが終わった時、人々の笑顔を前にお前は自分が正しかったことを理解するだろうよ。だが、その前に」


 セドリックは背中の剣を抜くと、俺と対峙した。


「この坊主にお灸をすえてやらないとなぁ。お前ら!」


 柱の陰から、側近らしき黒ローブの男たちが姿を見せるや否や、俺は指示を飛ばした。


 ゴゴーたちが一斉に床を駆け抜けて、側近たちに拳を振るい始めた。


「おぉ、強いねぇ。あれでもあいつら、Dランク冒険者なんだぜ。女神のように高性能ハイゴーレムを操る少年、革命派にはいい宣伝材料だ。死なない程度にしつけてやるよ!」


 セドリックが駆けてきた。

 俺はすかさずストレージから剣を取り出すと、初太刀を受け止めた。


「ほっほぉ」


 セドリックは感心したように喉を唸らせると、そこから息吐く間もないような猛攻を浴びせてきた。

 俺は意識を集中させて剣を振るい、防御に専念した。


 ――重いッッ。


 単純な体格差と体重差、そして、剣に込めた殺意が、一撃ごとに手の平に伝わって来る。


 この容赦のなさ。人を殺すことに、何の躊躇いもないらしい。


「流石はお貴族様だ。その歳でこれだけの剣術を身に付けるなんて、英才教育の賜物だな」


 セドリックは興が乗ったようにバックステップで退くと、剣を揺らして誘ってきた。


「攻守交代だぁ。攻めて来いよ」


 圧倒的な自信がないとできない挑発に、俺はあえて乗った。

 これでも俺のレベルは二〇。

 プロの冒険者でも通じる身体能力がある。

 相手が俺を侮り油断してくれている最初が肝心だと、俺は全速力で踏み込んだ。

 裂帛の気合いと同時に振り下ろした剣は、だけど簡単に避けられた。


「ッ」


 臆せず、二撃、三撃と剣を振るうも当たらない。


 ——強い。単純な技量なら、ノエル級か?


「悪いけど、オレの実力だけじゃないぜ。先読みスキルって言ってな、オレは相手の一瞬先の行動が読めるんだ」


「だったらこっちもスキルで勝負してやるよ!」


 俺はセドリックがくれた攻撃のチャンスを手離し、バックステップでノエルたちの隣まで戻った。


「ラビ、後は私に任せろ。先読みでも追いつかない程の速度で奴を切り伏せる!」

「いや、剣を合わせればわかる。あいつ自身の技量も相当だ。それより相手は悪党だ、正々堂々、全員でブチのめすぞ」


 俺はノエルとハロウィーに作戦を伝えると、イチゴーを介して3Dプリンタスキルを発動させた。


 セドリックと俺らの間に次々青いポリゴンの柱が立って、鋭利な円錐が出来上がっていく。


「なんのつもりだ? これで障害物のつもりかよ? ナメられたもんだなぁおい!」


 セドリックは鋭い円錐を足捌きでかいくぐり、俺らに迫って来た。

 けれどこれは俺のトラップだ。


「頼んだぞノエル!」

「心得た!」


 俺はノエルの体にストレージをまとわせた。

 赤いポリゴンが消えた時、そこにあるのはダストンとの決闘で着た、あの全身カーボンスーツだった。


 軽く、動きやすく、それでいて頑丈な、俺に作れる最高の鎧だ。

 それも、俺のレベルアップに伴い性能が上がっている。


「セドリックゥウウウウウ!」


 ノエルのサーベルが、セドリックのロングソードと打ち合った。


 速い。


 流石はノエル、電光石火の斬撃を矢継ぎ早に浴びせ、なおも加速していく。

 けれどこれが先読みスキルの力なのか、セドリックは剣で防ぎながらも、全て避けている。

 戦いの経験値、年季の違いを見せつけられている気分だ。

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