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説得

「聞いてくれクラウス。お前は騙されているんだ! そいつらに、平民を救う気なんてない!」


「騙されている? 誰に何を吹き込まれたのか知らないけれど、いい加減なことを言わないでくれるかいラビ。君らしくもない」


 僅かに不愉快そうな響きを込めた声に、俺は怯まず言い返した。


「嘘じゃない。見張りの連中が言っていたんだ。クラウスの奴は何も知らずに笑えるって。この作戦が成功したら、大勢の平民が虐殺されるんだぞ」


「なるほど、そういうことか。ラビ、僕だって何の犠牲も無く革命が成功するとは思っていない。貴族同士の内紛に巻き込まれる平民もいるだろう。だけど、世界中の何億という平民を救う為には、仕方のないことなんだ」


「こんな計画が成功すると、本当に思っているのか?」


「思っているさ。国王が人質を見捨てれば、反王派が生まれるのは必然だ。王族と貴族の確執は支配層の弱体化を招き、彼らは力を失う。そこへ、君の装備で平民出身の冒険者たちが活躍して、平民に自信をつけさせて貴族にNOと言える社会にする。完璧なシナリオじゃないか。ラビ、あらためて言わせてくれ、今からでも僕らの仲間になるんだ」


 革命軍を信じて疑わないクラウスに、俺は叫んだ。


「貴族の子供をさらったのも殺すのも平民のお前らなんだぞ! 貴族だって、見捨てた王様じゃなくて実行犯のお前らを恨んで平民を粛清するに決まっているだろ。どれだけ自分に都合よく考えているんだ!」


「それも前に言ったじゃないか。王族貴族が平民の粛清を始めれば、僕らは自衛の大義名分を得て堂々と貴族を打ち倒すまでさ」


「その戦いにどれだけの人たちが巻き込まれるのかわかっているのか?」


「大事の前の小事だよ。僕だって辛い。できることなら一人の犠牲もなく、革命を成したい」


 左手で胸をかきむしるように制服を握りしめてから、クラウスは語気を荒らげた。


「でもそんな事は不可能だ。今、ここで僕が立ち上がらなければ、今後一〇〇年、いや一〇〇〇年先まで平民は苦しみ続ける! だから、ここでやるしかないんだ! 僕らは貴族との戦いに勝って、身分制度と封建社会を終わらせ平民中心の社会を作るんだ!」


 自分に言い聞かせるように叫ぶクラウスに、俺は一喝した。


「勝てるわけないだろ! 革命軍なんて名ばかりの素人集団とは違う! 王族貴族は本物の軍隊を持っているんだぞ! それに王族の資金力なら、高ランク冒険者を雇える。勝ち目なんてないんだよ!」


「冒険者だって平民だ。お金ではなく僕ら平民の味方をするさ!」

「金で動く冒険者たちが、本当にそんなことをすると思っているのか……」


 理想に取りつかれたクラウスに、冷や水を浴びせるようにして俺はそう告げた。


「動くさ。それに、僕らには冒険者ギルドに強いコネがあるんだ」


 胸を張るような態度。

 それが、クラウスの勝算なのだろう。

 見張りの男たちの嘲笑を思い出して、俺は胸が辛くなった。


「その話なら嘘だ。さっき見張りの男たちが言っていたよ。全部、学園内で信頼されているお前の協力を取り付けるためのでまかせなんだ」


「そんなわけがないだろう。ですよね、セドリックさん?」


 セドリックと呼ばれた壮年の男は、やや荒っぽい声音を響かせた。


「おうよ。オレは冒険者ギルドの役員とは知り合いでな。平民出身の役員や各ギルド長とは裏で話がついているんだ」


「ほらね。冒険者ギルドそのものが僕らの味方なんだ。冒険者たちだって従うさ。それに、冒険者だって平民出身の人は多い。貴族を打倒したい気持ちは、僕らと同じさ」

「ボロが出たな」


 淀みなく話し続けるクラウスの前で、俺は冷たく言った。


「Sランク冒険者にコネがあるならともかく、冒険者ギルドの役員にギルド長? そんな管理職になんの力があるんだ?」


「何を言っているんだいラビ? 冒険者ギルドは有事の際、ギルド権限で冒険者を強制的に緊急クエストに就かせることができるんだ。破れば冒険者ギルド登録は抹消。命令を無視する冒険者なんていないさ」


 ——クラウス、お前はどこまで真っ直ぐなんだよ。


 頭が悪いのではない。

 クラウスは純粋だからこそ、まさかここまで愚劣なことをするとは思いもしないのだ。

 だけど俺は、断腸の思いでクラウスに告げた。


「あのな、冒険者は金と名声を貰う手段として冒険者ギルドに登録しているんだ。王族貴族から多額の謝礼金と名声、それに爵位を約束されれば向こうに付くだろ」

「……え?」


 クラウスは瞼を上げて、呆然と固まった。


「それに高ランク冒険者ほど、受けるクエストは大貴族や王室からの依頼が中心になるんだ! 強力な高ランク冒険者程、王族貴族と懇意なんだよ! うちのシュタイン伯爵家に出入りしている冒険者も、みんな高ランク冒険者だ!」


「そんなバカな! セドリックさん!」


 クラウスは剣を下ろしてセドリックを見上げた。

すると、セドリックは舌打ちをした。


「ちっ、これだから頭の回るガキは嫌いなんだよ」


 その言葉が、何よりも残酷な返答だった。

 目を見開き、表情を硬くするクラウスに男は歯を見せた。


「悪ぃなクラウス。坊主の言う通りだ。オレたちが蜂起しても、冒険者たちが味方に付く保証は無ぇんだわ」

「そんな……」


 クラウスは青ざめ、声を震わせた。


「だけど安心しな、実は冒険者は動かなくても構わないんだ。いや、むしろ動かない方が好都合なんだよ」


「ど、どういうことですか?」


 絶望に染まったクラウスに、セドリックは飄々と告げた。

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