真実
過去の自分を払拭しようと、怒りは気力に変わり、闘争心と使命感に変わった。
「待っていてくれみんな。俺が必ず助ける」
俺はまず、ステータスウィンドウからイチゴーたちの画面を開いた。
意識を失う直前、みんなストレージに収納していた。
クラウスが俺を放置して立ち去ったのは、イチゴーたちは全員破壊したから、そして復興の荷物運びのために作ったばかりのロクゴー以降は、弱くて大した戦力にならないからだろう。
だけど、クラウスは知らない。
ゴーレムは、俺の魔力ですぐに直せることを。
ゴーレム生成スキルの応用で、大量の魔力を使い、イチゴー、ニゴー、サンゴー、ヨンゴー、ゴゴーのボディを再生成。
まんまるボディに刻まれた痛々しい亀裂を、すぐに修繕していく。
「おっ、本当にラビが捕まっているぞ?」
「ドレイザンコウを倒した英雄も、クラウスの敵じゃないか」
「本当に救世主候補なのか?」
見張りだろう。
安全エリアの入口から、見慣れないローブ姿の大人たちが三人、姿を現した。
「お前らも革命軍のメンバーなのか?」
俺の問いかけに、三人は顔を見合わせてから鼻を鳴らした。
「そうだ。オレらはこいつらを人質に王に退位を迫る」
「オレらが世界を変えて、平民中心の世界を作るんだ」
「今まで威張り散らしていた貴族共がオレらの前に這いつくばる姿が目に浮かぶぜ」
——こいつらは、クラウスとは違う。
言っていることは同じでも、クラウスは苦しむ人々を守るため、世界のために革命軍に入ったはずだ。けれど、目の前の三人は上級国民の失墜を望む、ただの小悪党だ。
——ごめんクラウス。俺はやっぱり、こんな連中の仲間にはなれない。
見たところ、冒険者ではあるものの、それほどの手練れには見えない。
イチゴーたちなら簡単に倒せるだろう。
だけど、俺が騒ぎを起こすことで、別室のハロウィーとノエルの身に危険が及ぶかもしれない。
俺への見せしめで二人が傷つけられる光景を想像して、歯噛みした。
「なぁなぁ、このガキ共、どうせ後で全員殺すんだろ? じゃあちょっとくらい楽しんでもいいんじゃねぇか?」
「だよな。これだけ貴族のお嬢様方が揃っているんだ。こんな機会、滅多にないぜ」
「それならさっきあっちの部屋に連れて行かれた金髪の女がいいな。乳とケツのサイズがはんぱなくってよぉ」
「隣の紫髪でショートカットの女も小柄なくせに乳だけはデカかったよな」
さっき連れて行かれた、金髪の少女と小柄な紫髪ショートカットの少女。
間違いなく、ノエルとハロウィーだろう。
今すぐこいつらを叩きのめしてやりたい衝動と、二人を助けるために冷静になろうとする俺がせめぎ合う。
すると、三人の見張りは話題を変えた。
「それにしてもクラウスの奴はつまんねぇよな。何が彼女たちは丁重に扱えだ」
「どうせ殺しちまうのにな。ていうか貴族嫌いじゃなかったのかよ」
「回復のポーションまで使ってな」
やっぱり、クラウスはノエルとハロウィーを気遣っているらしい。
そんな話を聞いてしまうと、ますますクラウスへの情が強くなってしまう。
クラウスは、俺らのことが憎いわけでも、敵になったわけでもない。
きっと、クラウスも悩んでいるんだ。
平民を救う理想と、俺らに反目することの間で苦しんでいるんだ。
今は革命軍の手からみんなを助け出さないといけないのに、クラウスを助けてあげたいという気持ちさえ湧いてきた。
すると、三人の見張りは下卑た忍び笑いを漏らした。
「それにしてもクラウスって笑えるよな。自分が戦争の引き金になるとも知らずに、オレらをほいほい学園に手引きしてよぉ」
「毎日必死になって平民科の生徒たちを仲間に引き入れて、裏門からオレらが入れる準備をせっせと整えてな」
「平民を救うためぇとか言って、テメェが一番平民殺す手伝いしているってのに」
三人の会話に、妙な引っ掛かりを覚えた。
「おい、お前らって、貴族同士で争わせて内部分裂させるのが目的なんだよな?」
三人の視線が一斉に俺に向くと、見張りたちはそろって噴き出して笑い始めた。
「ギャハハハハハ、そうなる可能性もゼロじゃあないって話だ!」
「貴族のガキを殺したのはオレらなのに何で反王派とかできるんだよ!?」
「オレらの目的は平民軍と貴族軍の世界大戦に持ち込むことだよ! 貴族と平民との溝が致命的になって、貴族が大規模な粛清をすれば、国中の平民がオレらに協力せざるを得なくなる。それが世界中に波及して、貴族と平民との世界大戦が始まるってわけだ」
「なんて、クラウスは知らないけどな」
「そんなの詐欺じゃないか!」
「人聞きの悪いことを言うなよ。嘘は言っていないぜ。貴族同士で潰し合う可能性だってあるし、そうなれば儲けものだと思っているからな」
「世界大戦なんて言ったら、今回の作戦に協力しないだろうから、最悪の事態は伏せておいただけだぜ」
「あ、でも一個だけ嘘ついたんじゃね? ほら、オレらは冒険者ギルドに太いパイプがあるから、いざとなったら平民出身の冒険者はみんなこっちにつくって」
「いやいや、嘘じゃないだろ。だって冒険者ギルドに依頼を出せば実際こっちにつくんだから。もっとも、依頼は誰でも出せるから、誰でも持っているパイプだけどな!」
有頂天になって語る男たちの話に、俺は強い憎しみと危機感を覚えた。
こいつらは、革命軍なんかじゃない。
ただのテロリストだ。
苦しむ人たちを救いたいというクラウスの純な願いをむさぼる寄生虫だ。
騙されていると知らず、これで大勢の人たちが救われると信じて、俺やノエルやハロウィーを傷つける苦しみに耐えてまで力を尽くした結果、大勢の平民が虐殺された時、クラウスの心はどうなってしまうのか。
クラウスを助けたい。
その一心で、俺はAIチャットを起動させた。
——イチゴー、どうすれば安全にこの計画を止められる?
——あいてがじぶんでにげるようにうながすー。
俺がこいつらを倒せば、ノエルとハロウィーを人質にされてしまう。
だけど、革命軍が勝手に逃げるならその限りではない。
——革命軍が逃げる理由……計画が失敗したと思わせる……ヨンゴーの立体映像で憲兵の姿を見せる……いや、それじゃ襲ってきて立体映像だってバレるだけだ……見ただけで逃げ出すような……。
「おい、見張りは順調か?」