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革命ののろし

「なに、これ!?」

「襲われているだと!?」


 二人が驚愕の悲鳴を呑み込んだ。

 俺も固唾を呑みながら事態を見守った。


 平民科の生徒たちは、貴族科の生徒を地下一階の、安全エリアと呼ばれる魔獣の出ない部屋へ放り込んだ。


 そこには、一組から三組までの、大勢の貴族科の生徒たちが眠っていた。

 去年まで貴族科だった俺にとっては、誰も彼もが知っている顔だ。


「見ろラビ、クリストファー達もいるぞ」

「みんな眠らされているみたいだな」


 平民科の生徒たちは、出入口を固める見張りの生徒と挨拶をすると、また下の階層へ向かった。

 音量を大きくして、彼らの声を拾ってみる。


「貴族っていってもちょろいよな。こんな簡単に捕まるなんて」

「そう言うなよ。向こうだって散々戦って体力と魔力を消耗したところに味方から攻撃されるんだ。油断もするって」


「ちょっと、味方って言葉使わないでよ。同じ学校に通っているだけの他人でしょ?」


「そうそう。どうせあたしらのこと、バカにして見下しているのよ!」

「アタシらの税金で贅沢しているクズへの天罰よねぇ。マジざまぁ」


「貴族共を尾行して、オレらはあいつらが掃除した道を安全に通る。消耗した連中を体力も魔力も充実したオレらが襲う。完璧な作戦だな」


「トップランカーも、数で叩いちまえば意外となんとかなるもんだよなぁ」

「まっ、所詮貴族なんてこんなもんだって」


 彼らの話を聞いて、俺は全てを理解した。


「そういうことだったのか」

「ねぇラビ、これってもしかして……」


 青ざめたハロウィーに、俺は息を呑みながら頷いた。


「革命軍だろうな」

「同意だ。貴族科の生徒のほとんどが安全エリアにさらわれている。実行犯はかなりの数だろう。おそらくは平民科の生徒の多くが革命軍に扇動され、加担していると見るべきだ」


「……」

「どうしたラビ?」


 ノエルに声をかけられて、俺は考え事を切り上げた。


「い、いや、なんでもない」

「ならいいがどうする? 先生達に助けを求めるか?」

「いや、それは難しいだろうな」

「何故だ? ラビのゴーレムなら簡単ではないのか?」


「映像を見る限り、地下一階は平民科の生徒たちに占拠されているみたいだ。ゴーレムやドローンは見つかる。先生たちに手紙を書いてバグに運ばせるのは……バグだけならともかく手紙が見つかる。小さく折り畳んだら、先生が見てくれるかどうか……」


 この世界の人からすれば、紙屑のついた未確認飛行物体だ。

 バグから小さく折り畳んだ紙屑を外して、開いて、中に書いてあることを鵜呑みにしてくれるかはわからない。


「一応やるだけやってみるけど、俺らで行動したほうが良さそうだな。みんな、ポーションを飲んでくれ」


 俺はストレージから今作れる一番いいポーションを三本取り出して、みんなで飲んだ。


 それから、ストレージから筆記用具を取り出して簡潔な事情を書いてメモ用紙を折り畳むと、バグにセットして飛ばした。


「よし、行くぞ」

 ノエルとハロウィーは力強く頷いてくれた。


   ◆


 地下五階へ上がると、ゴゴーの探知能力で平民科の生徒たちを見つけた。

 さっきの生徒とは、別人だ。

 彼らの背後を取ると、俺は声をかけた。


「おい、お前らも帰る途中か?」


 平民科生徒の全員が共犯かわからないので、一応声をかけておく。

 向こうは、こちらの存在にちょっと狼狽えている。


 何かひそひそ話を始めた。

 俺には聞こえないよう、囁き合っているらしい。

 けれど、これが二〇レベルの聴覚なのか、俺の耳にはかすかに聞こえていた。


「おい、ノエルは貴族科だぞ。どうする?」

「バカ、ラビに勝てるかよ」

「いや、でもラビだって後ろから痺れ玉を使えば楽勝だろ」


 頷き合ってから、連中は愛想笑いを浮かべた。


「そうなんだよ、オレらも帰るところなんだ」

「オレらは戦利品を整理したいから、先に行っていいぞ」


 男子たちは上へ続く階段の前をわざとらしく空けた。


 俺は作戦に乗ったふりをして連中に背中を見せて、階段を上り始めた。

 すると、背後から悲鳴が聞こえた。


 階段の下を見下ろすと、男子たちが股間を押さえて白目を剥いていた。

 イチゴーたちがダメ押しのパンチを手の甲に叩き込んでいる。


 たぶん、起き上がっても武器は握れないだろう。

これで、追いかけてきても背後から攻撃される心配はない。


「ラビ、毎回こんなことをしていたら時間がかからないか?」

「そうだな。一番楽なのは地下一階まで強行突破して直接安全エリアに乗り込むことだけど」


「でもそれだと総力戦になっちゃうよね? 革命軍の黒幕が凄く強かったら困らない?」


「そうだな……」

「その心配はないよ」


 俺が少し考えると、上から足音と共に聞き慣れた声が聞こえてきた。


「クラウス!?」


 洗練された長身に艶やかな茶髪、品のある美貌。


 そして右手に握られたロングソードは、俺のことを親友だと言ってくれた、クラウスその人だった。


 クラウスの表情はいつもの爽やかな笑みとは違い、どこか切なげな、愁いを帯びた表情だった。


 俺とクラウスは互いに無言で見つめ合い、それから一縷の願いを託すようにして、俺から口火を切った。


「クラウス。今回の事件に、お前は関わっているのか?」


 悲し気に視線を伏せてから、彼は静かに口を開いた。


「ラビ……おとなしく捕まってくれ」


 俺が辛い現実を処理する刹那、クラウスは剣を振るい、烈風が吹き荒れた。

 俺らは階段の下まで落ちて、イチゴーたちに受け止められた。


「クラウス!」


 剣を構えたまま、長い足で階段を蹴り、クラウスは上に逃げた。

 俺はすかさず階段を上り、後を追った。

 すると、クラウスは階段を上がった地下四階の広い通路で待ち構えていた。

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