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貴族にとって平民はどうでもいい

 俺の言葉に、ノエルが心外そうな顔をした。


「待つんだラビ。それはどういう意味だ?」

「貴族と平民、どっちの世界も知っちまったからな」


 実家を追放された自分をあざ笑うように、俺は自虐的な笑みを浮かべた。


「ノエル、俺は貴族じゃなくなったけど、俺はラビじゃない何かになったのか?」

「そんなわけがないだろう? ラビはラビだ。私の幼馴染だ」


 それが当然というような、ノエルの疑問符が、たまらなく嬉しかった。


「そうだ。俺は父さんから実家を追い出された。でも、だからといって犬や猿や魔獣になったわけじゃない。スキルも魔力も人格も知識もそのままだ」


 クラウスも、前に似たようなことを言っていたなと思い出しながら、俺は語った。


「平民も貴族と同じで自分の意思があって、考えて、脅されれば怖くて殴られれば痛くて、辱められたら惨めになって、優しくされると嬉しい。貴族も平民も同じ人間だ」


 互いを意識し合うノエルとハロウィーに、俺はゆっくりと説明した。


「ここからはクラウスの受け売り交じりだけど、身分ていうのは人間が勝手に作った肩書でしかない」


 元貴族の俺が言うのもおかしいけれど、令和日本人の価値観もある俺には、十分理解できる話だった。


「なのに貴族は平民が稼いだ金や生産した物を徴税の名目で強奪して、逆らえば剣を振るう。敵国から守ってやっているとは言っても攻め込んでくる敵軍も貴族軍人だ。税金を橋や道路の整備に使っているとは言っても貴族が懐に入れている分はなんなんだって話だ」


「それは――」


 反論しようとするノエルの言葉を遮るように、俺は続けた。


「ノエルが平民に優しいのは知っている。ハロウィーと対等な友達になっているのを見れば一目瞭然だ」


 俺の言葉に、ノエルの表情が少し緩んだ。


「けど、みんながみんなノエルみたいな貴族じゃない。領民を自分が贅沢するための収入源、家畜のように生かさず殺さずいかに税を搾り取るか、それしか考えていない貴族なんて珍しくない。地方貴族には、領地経営を家臣に任せて自分は豊富な仕送りで王都暮らし。自分の領地を見ずに死ぬ人だって少なくない」


 それぐらい、多くの貴族にとって平民はどうでもいい存在なんだ。


「貴族時代から、それはなんとなく知っていた。だけど実感はなかった。でも、平民科でみんなが俺に向けて来る嫌悪感を浴びて理解したんだ。俺たち貴族って、本当に嫌われているんだなって。それぐらい、みんな辛い想いをしているんだなって……」


 もちろん、俺自身が平民をイジメたことも搾取したこともない。


 だけど、今まで自分がどれだけ恵まれていたか、何不自由なく暮らしてきた自分の陰でどれだけの人が辛い目に遭って来たか、俺よりもずっと苦しい生活をしている人たちの存在に、同情と、申し訳なさと、後ろめたさが湧いてくる。


 自然とテーブルに落ちていた視線を上げると、ノエルとハロウィーが大きな瞳に俺を映し、心配そうな顔で見つめていた。


「そんな顔するなよ。心配しなくても、俺はどっちにもならないよ。革命軍に入って打倒王族貴族もしないし、貴族に戻って平民から搾取もしない。元から家を継げないシュタイン家の次男だしな」


 自嘲気味に笑いつつ、俺は声を明るくした。


「将来は貴族に戻って領地を持たない土地なし貴族として、ノエルみたく平民から頼りにされる貴族冒険者になるっていうのが現実的かな」


 二人を安心させるように、だけど嘘偽りのない本心を口にした。

 すると、ノエルがなんだか頬を桜色にしてうつむいていた。


「どうしたノエル?」


 ニゴーをむぎゅりと抱きしめながら、ノエルはうらめしそうな上目遣いでこちらを見つめてきた。


「ラビ……わざとやっているのか?」

「え? 何が? ところでハロウィーはなんでそわそわしているんだ? あとなんでヨンゴーとゴゴーは左右から俺の脚を殴り続けているんだ? ちょっと痛いぞ?」


 さらに、ヨンゴーとゴゴーは短すぎる足で俺の足の甲を『えいえい』と踏みつけて来た。


 ツボにはまっていい感じに痛気持ちよい。


 ——指圧マッサージ機能でもついていたのかな?


 イチゴーの頭上に、やれやれ顔のアイコンが表示された。


 

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