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プロローグ 種火

新作異世界、始めました。

 リードガルドと呼ばれる大地がある。

 そこに住むエルフ、ドワーフ、並人の代表者がある日、会合を持った。

 話の途中でふと、エルフの大老が口にした。


「天の下、最も貴き食べものと言えば、それはもう『カレヱ』であることに疑いはないが。諸兄らは『カレヱ』を普段、口にすることはあるかな?」


 それを聞いたドワーフの大棟梁が、くわっ、険しい顔つきになり、大きなぎょろ目で反駁する。


「カレヱなんて、ただ辛いだけのボンクラ料理よぉ。山海のあらゆる珍味で出汁を取り、それを柔らかな麺が纏め上げる『らめぇん』こそが、最高の美食に決まってらァな!」


 エルフとドワーフが鋭い目つきで対峙する卓上にあり。

 両者の顔色を窺いながら、並人の首長は、おずおずと、自信なさげに呟いた。


「ご、ごちゃごちゃ混ぜて、ぐらぐら煮込んで、素材の味が、わけわかんなくなる料理は、そもそも下品でェ……うちの国の『スーシィ』と『サッシミー』は、素材の持ち味を最大限に活かす料理法なんでェ……まあ、文化程度の低い遅れたあなたたちには、うちらが重視する『引き算の美学』は、わからないでしょうけれどォ……」


 もっとも、並人の首長が言ったことは、声が小さすぎ、早口すぎて、広い卓を囲む相手には届きにくかった。


「またなにか並人がわけのわからんことを、ごちゃごちゃモソモソ言っているな」


 という程度の認識しか、エルフの大老は持たなかった。

 ドワーフの大棟梁に至っては、若干、耳が悪いので、そもそも並人が話していたとすら気づいていない。


 かような一瞬の緊張があったものの、彼ら三人の重要な会合は、無事に終わった。

 議題の中心、それは。

 お互いの領域の食料品の、貿易取引についてであった。

 帰り道、エルフの大老は侍従のものに言って聞かせる。


「ドワーフと並人の土地を、カレヱ漬けにしてくれる。カレヱなしでは生きられないようにしてやれば、エルフ伝来の調理法や特産物が、この大地を席巻し、リードガルドの天の下は、遍くカレーの楽園になるであろう」

「大老の深謀遠慮、まことに畏れ多く」


 イエスマンの侍従が恐縮しているのに気分を良くして、大老は根拠地の森へ帰って行った。

 一方、屈強な仲間を引き連れて故地に戻っているドワーフの大棟梁。

 闘志、いや、ともすれば殺気とも言えそうな鈍い光が、その瞳をギラつかせていた。


「こりゃあ、戦争かァ!?」


 若い衆も、黙っていない。


「らめぇんを甘く見るなんて、許さねえ。アツアツで塩気も辛味もあるのがらめぇんだぜ!」

「おうよ! うかつに手をだしゃ火傷するってこと、思い知らせてやろうじゃねえか!」


 そうして、ドワーフはらめぇんの販売拡張を、エルフはカレヱの大規模顧客開拓を「国是」と定めた。

 並人は東の果てにある田舎の島々で、今日もせっせと魚を獲って食べていた。


 エルフのカレヱ、ドワーフのらめぇん。

 そして全くお呼びでない並人のスーシィ、サッシミー。

 リードガルドの大地において、仁義なき食の三国志が、今、始まろうとしている!!

次回もお楽しみに。

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