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呪いのつぼ  作者: Satoru A. Bachman
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第2章 花香の秘密(Ⅳ)

 第2章 花香の秘密(Ⅳ)


挿絵(By みてみん)

 はあ。花香は溜め息をついた。4歳の頃の淡い思い出。彼女の頬に涙が伝った。

花香はまた歩き出し、ジャンス階段を下り、ウィルソンプラザの芝生広場を歩きながら深呼吸した。感傷に浸りながらお漏らしをして快楽を得るという異常な性癖。尿と便で汚れたおむつを履いたまま、彼女は悦に浸った。いけない性癖を抱えていると花香は自分でも分かっていた。


 花香はコヴェル・コモンズの食堂の前を通り過ぎ、小高い丘の階段を上がり、リーバーホールに戻ってきた。きっとみんなはまだヴェニスビーチで遊んでいるはず。寮に誰かがいたとしてもクラスの違うエレナくらいだろう。リーバーホールのロビーからエレベーターに乗ると、2人の他の学生と乗り合わせた。2人ともアジア系の男子学生だ。エレベーターのドアが閉まり、上の階へ向かい始める。その2人の男子学生は鼻をくんくんさせながら何やらきょろきょろ周りを見ていた。そして花香のほうも一瞥した。花香は彼らから視線を外し、下を向いた。こんなエレベーターの中という密室だから、彼女から漂う異臭が充満するのは当然である。4階に着くと、そのままトイレへ向かった。

花香はトイレの個室内でたぷたぷに膨らんだ紙おむつ越しに手で股間を触って、さすった。1人でオーガズムに達するまで股を刺激すると、ようやく花香はおむつを外して、丸めてビニール袋に入れた。そして、ゴミ箱に放り込んだ。シャワー室で体を綺麗に洗うと、バッグから替えのアテントのおむつを取り出し、パッドを重ねて履いた。


 花香は日本にいるときでも、特に休日はおむつを当ててトイレを全く使わない生活をしている。彼女は大学3年生になった今でもバービーやリカちゃんなどの人形が好きで、アゾンレーベルなどのドールショップへよく行く。自分の部屋では50体以上の人形をコレクションしている。ゴスロリの格好をさせたものから、きらきらのディスコスーツを着せたものや婦警のユニフォームを着せたものまで。くまさんの顔がついた涎掛けやピンクのリボンの飾り付きのホルダーが付いたおしゃぶりなどベビー用品もいくつか人形と一緒に並べてある。クローゼットの中にはアテントにライフリーにパンパースにおしめ布、それからキティちゃんの柄のおむつカバー。

挿絵(By みてみん)

「こんなんで私はお嫁に行けるのかしら」

と花香は思うことがよくあったが、自分の生活を変えようとは鼻から思ったことはない。そんな生活から抜け出せないのも悩みだった。

 精神科医ならきっと、花香のおむつ愛好とベビー用品コレクションを彼女の絶対に満たされることのない両親願望と同一視するに違いない。



 その後、花香はコヴェル・コモンズに行き、1人で夕食を取った。パスタとサラダと豆の入ったトマトスープをペロリと平らげた。今は春夫も他の友人もいないからゆっくり丁寧に食べる必要は無かった。ドリンクバーでコーヒーを注いで、のんびり過ごした。明日の放課後が楽しみだ。ティムとたくさん話そう。まず、日本での生活環境のこと、意地悪な継母のこと、セクハラしてくる義兄の成亜のこと、勉強がしたいというよりも開放感を求めてアメリカに来たということを聞いてもらおう。そして、おむつのことも?いや、それは言えないだろう。でも、セラピストなら、何でも親身に聞いてくれるかも。花香に勇気さえあれば…。色々考えているとコーヒーを味わうことをすっかり忘れていたようで、気付くと両手で持っていたマグカップの中のコーヒーはあと一口分も無かった。かといって、おかわりも欲しくなかったから、トレーと皿とマグカップを使用済みの食器を置くところがあるカウンターに下げて、花香はコヴェル・コモンズを出た。外は暗くなっていた。



 リーバーホールに戻るが、407号室にはまだ理圭もエレナも戻っていなかった。花香は友人たちを探して寮の廊下や談話室を歩き回った。廊下は閑散としていて誰もいない。談話室には何人かの学生がプリントやパソコンを見ながら険しい顔で勉強をしている。きっと宿題をやっているのだろう。肌の浅黒い学生たち。彼らは南米系だろうか。5階に上がり、517号室のドアをノックすると、ヤリが出てきた。

「ハーイ、ハンナ!」

花香は外国人の友人からはよくハンナという愛称で呼ばれた。部屋にはレオンもいて、しばらく男子寮にお邪魔してゆっくりおしゃべりでもすることにした。春夫の居場所を聞いてみると、

「パソコン室で宿題やってるんじゃないか?」

とヤリが答えた。

春夫もヤリも、それからときどきみんなに絡んでくる金髪の冒険男の卓も、この部屋の男子はみんなホラー映画が好き。彼らの机の上はハリウッドの土産屋で買ってきたフレディやジェイソンやゾンビのフィギュアでいっぱいだ。ジョージ・A・ロメロ監督の映画に出てくるような肌が青白く腐ったような色をしたゾンビのフィギュアが花香は苦手だった。

「それ、こわーい…」

リアル過ぎて腐敗臭が漂ってきそうだ。肌が焼けただれたフレディ・クルーガーのフィギュアを見ると鳥肌が立った。そのくらい花香は怖い映画や化け物は嫌いだった。レオンはホラー好きではないようだが、彼の机の上には小さな仏壇が置いてある。いつでもどこでも宗教活動に熱心なのだ。しばらく部屋で3人で談笑した後、レオンは経本を開き、仏壇の前でぶつぶつと唱え始めた。日課の勤行の時間のようだ。ヤリは恋人のサラとパソコンでビデオ通話を始めた。ヤリはサラが映るパソコン画面にキスをし始めた。さすがイタリア人。花香はそう思い、そろそろ男子寮を出ることにした。春夫くんはパソコン室で課題か。忙しいんだろうな。

407号室に戻ると、理圭とエレナが戻って来ていた。理圭は机の前の椅子に座ってパソコンで心霊動画を見ていた。彼女の見ているパソコン画面には樹海のような森が映っていて、面白半分ではありつつ相当ビビっている若者数人が探検している。

「あっ、ここにもホラー好きがいた」

花香がそう言うと、理圭は花香を一瞥して笑った。エレナはベッドで寝転がりながら、ヨセミテ国立公園のツアーのパンフレットを見ている。彼女の机の上にはめずらしい雑貨や装飾品が置いてある。ドリームキャッチャーや鳥や人間や何か動物(猿だろうか?)の形をあしらったトーテムポールや吸血鬼ノスフェラトゥの顔の形のカップが置いてある。まさかエレナもホラー好き?

人はみんなそれぞれに趣味や個性がある。自分もきっと例外ではない。花香はそう思うと少し安心した。そして、ワンピース越しに自分のおむつで膨らんだ尻にそっと手を当てた。人には言えないけどこれも個性だ。花香は心霊動画を見ている理圭の隣に座って

「私も見せて」

と言った。

「いいよ」

と理圭が答えた。怖いけど、誰かと一緒なら見れる。誰かと一緒なら楽しめる。悩んだときは1人になってはいけない。



その頃、

春夫はパソコン室で楽しそうにネットサーフィンをしていた。次は何を観ようか。彼はグーグルの検索欄に“Wet set”と打ち込んだ。それで見つけたページを次々と開いていく。ブロンドの女性たちが映っている画像や動画がたくさん出てきた。その女性たちの股間や足元はびしょびしょになっていたり、尻が汚れていたりした。女性の失禁をテーマにしたネットポルノだった。それらを閲覧しまくっている春夫のジーンズの股間部分が大きく盛り上がっていた。

「やっぱり…日本人のがいいかなぁ」

と彼は独り言ちると、“のーのー丸”のサイトを探した。アメリカの英語しか打てないキーボードでは日本のサイトを探すのはなかなか大変な作業だ。“のーのー丸”というサイトで失禁系のアダルトDVDの新作情報を見た後、“三和エロティカ”というページへ飛んだ。そのサイトで紹介されている専門誌の「おむつ倶楽部」の新刊をチェックした。

「まあ、わざわざ失禁系のネットポルノやおむつプレイのアダルトDVDなんて探さなくても、俺にはおむつをした彼女がいるじゃないか」

と春夫は思い、にやりとした。可愛いおむつっ子の花香。彼女はおむつのことを俺に知られているなんて思ってもみないだろう。今は恋人として慎重に扱い、いつか彼女の方からその趣味をカミングアウトしてくれる日を気長に待とう。だけど、だけど…。もう、我慢出来ない。春夫はパソコンの電源を切ると、リーバーホールの5階へ上がり、517号室に帰る前にトイレの個室に駆け込んだ。そして、スマホをポケットから取り出し、データフォルダのアルバムを開き、バッグから小さなプラスチックの容器に入った透明のローションを取り出した。アルバムの中から一番いい感じな花香とのツーショットを探した。今年の春に撮った美船外語大学のグラウンドの桜が背景の写真を見つけた。楽しそうに笑顔で映っている2人。春夫はじっと写真の花香を見た。彼は花香の少し目尻の上がった茶色い瞳が好きだった。白いシャツに青のデニムスカート姿の花香。ウエストとスカートの下から伸びるほっそりとした脚。このデニムスカートの下に履いているものはきっと、普通の下着じゃなくて、きっと…おむつ。

春夫の興奮が絶頂に達する。

彼は個室で楽しくマスをかいた。





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