第2章 花香の秘密(Ⅰ)
第2章 花香の秘密(Ⅰ)
「もう、あんたって子はっ!こっち来なさい!」
継母が花香の腕を掴んで居間へ引っ張っていった。仏壇と埃まみれの本棚と気味の悪い日本人形が置かれたかび臭い居間。
「お義母さん、ごめんなさい、もうしません!」
薄いTシャツと下着しか身につけていない、瘦せっぽちな12才の花香を継母は乱暴に畳の上に押し倒した。そして無抵抗の花香の体を抱きかかえるように押さえつけ、彼女が履いていたもこもこした白い下着を尻から剥ぎ取るように脱がした。それがびりっと破ける音がした。
「あなたいくつ!?もう中学生でしょ!なんでこんなもの履いてるのよ」
破けた紙おむつを片手に持って継母は花香に怒鳴りつけた。紙おむつを投げ捨て、
「ねえ、どうして!?」
両手で花香の肩を押さえて乱暴に揺さぶる。出目金のようにぎょろっと大きな目の継母の顔が自分の顔にくっつきそうなくらい目の前にあり、怒鳴る彼女の口から唾が飛ぶ。継母の息は公衆便所のような臭いがする。おえっとなりそうになるのをこらえ、花香は顔を背けた。
「何でそんな顔するの!こっち向きなさいっ!」
継母と断固目を合わせない花香。
「もう、お仕置きね」
継母は下半身が裸になった花香を四つん這いの姿勢にさせ、平手で尻を叩いた。パシンッ!
「ああっ!お義母さん、痛いよ」
更にもう一度。パシンッ!
「お義母さん、やめて」
パシンッ!パシンッ!パシンッ!
「これは郁美のおむつでしょうが!あの子は病気なの。でもあなたはちゃんとおトイレに行けるでしょ!」
そして、とりわけ力を込めてまた尻を叩いた。わんわん泣き出す花香。
「ごめんなさい…ごめんなさい、お義母さん」
パシンッ!パシンッ!パシンッ!パシンッ!白かった尻が真っ赤になり、じんじんと痛んだ。畳に突っ伏してえんえん泣き続ける花香を残し、継母は居間を出て行った。花香は涙でびしょびしょになった顔をTシャツで拭い、継母が出ていった戸のほうを見た。その半開きになった戸の隙間から義兄の成亜がこちらを覗いている。彼の腫れぼったい目つきでぷっくりとした顔には吹き出物がボツボツと無数に出来ていて、でっぷりとした腹の肉がシャツとズボンの間からみっともなくはみ出している。かさっかきでデブの成亜は尻が丸出しの花香を見て、にたにた笑っていた。
8月28日、火曜日。
朝、花香は目を覚ますと、顔中が涙で濡れていた。いつもの2段ベッドの下段。そこがリーバーホールのベッドであることを確かめてほっとした。少女時代の夢を見た。こっそりおむつをしていたことが継母にバレた日の夢。
花香は起き上がり、窓を開けて外を見た。黄色い太陽と青い空、寮の白い建物とパームツリー。そんな景色が気分を少し晴らしてくれた。新しい一日が始まった。だが、継母と義兄の成亜の顔が脳裏に浮かぶ。ああ、無理。本当に無理。