婚約破棄を言い渡された公爵令嬢、頼るべき幼馴染はわたくしが頂いておきます。
「あら、やだ。面白い。うふふふふ。面白いわ。」
シュレンティーナ・アットス公爵令嬢は、コルティウス帝国から隣国のレルト王国へ留学してきた令嬢である。
学園を案内してくれているレルト王国宰相子息アレクトス・ハーリア公爵令息がシュレンティーナの言葉に振り向いて、
「何が面白いのです?アットス公爵令嬢。」
「貴方のお話が面白いと申し上げているのです。」
金の髪のこのアレクトスという男性、とても素敵だわ。
背が高くて筋肉質で、青い瞳。さぞかし、女性にモテるでしょうね。
でも…
「もう一度、お聞きしたいの。何故?18の歳になって貴方程の方が婚約者がいらっしゃらないの?」
公爵令息で、増してや宰相子息。18歳の歳になるまで常識的に婚約者がいないとは考えにくい。
容姿も人一倍、美しい。
シュレンティーナはその男を目を細めて見上げた。
廊下に差し込む日差しが眩しい。
彼は一言。
「結婚する気が起きない。ただそれだけです。」
シュレンティーナはこのレルト王国へ留学したのは、一つは結婚相手探しと言う目的もあった。
長年、自国コルティウス帝国で婚約をしていた皇太子に婚約を解消されてしまったのだ。
相手が他に想う人が出来たという理由である。
怒る気にもなれなかった。政略による婚約。愛など皇太子に対してなかったからである。
どことなくよそよそしく、この人と結婚するという自覚も薄かった。
皇妃教育は厳しかったけれども、シュレンティーナは誇りを持って耐え抜いたのである。
しかし、婚約は解消されてしまった。
自分ももう18歳。帝国の高位貴族の令息達はあらかた、婚約者が決まっている。
そこで、隣国レルト王国で、まだ婚約者のいない高位貴族の男性はいないのか調べたらアレクトスが浮かびあがったのだ。
彼は優秀で美男で有名であった。
そして名門公爵家の宰相子息。何か問題があるのか?
同性に興味があるのか?調べたがその気はないらしい。
ただ、彼は…一途に一人の令嬢を思っていた。
そう、幼い頃から彼が思いを寄せている令嬢がいたのだ。
ミルシア・カレンティーノ公爵令嬢。
彼女はレルト王国の王太子の婚約者である。彼女に一途に思いを寄せているようなのだ。
それでいまだに婚約者がいない?
もったいない。
ならば、わたくしが彼の目を覚まさせて自分に夢中にさせてやりましょう。
そう、シュレンティーナは考えたのである。
だから、レルト王国の王立学園に留学し、彼に接近した。
自分は銀の髪に青い瞳、美しいその姿、帝国の皇太子の婚約者として、日々教育を受け精進してきた。大いに自分に自信がある。
そっと、アレクトスの手を両手で握り締めて、
「過去にばかりこだわっているのなら、幸せは逃げてしまいますわよ。わたくしと共に未来を見つめません?」
「未来を?」
「貴方様とて、いつまでも結婚しない訳にもいかないでしょう?公爵令息で、確か嫡男でしたわね。」
「そうですが。」
「だったら、わたくしとお付き合いしません事?」
シュレンティーナはにこやかに、
「お付き合いをして、わたくしの事を気に入ったならば、家に話を通して。婚約者にして頂きたいわ。」
「いえ、私の心は…」
「じれったい方ね。それならば、まずはお友達で。いいですわね。」
「友達ならば。」
しかし、まさか苦戦するとは思いもしなかった。
ミルシア・カレンティーノ公爵令嬢。
このレルト王国の王太子ジョルジュの婚約者でありながら、やたらとアレクトスに頼り、ベタベタしてくるのだ。
翌日の放課後、シュレンティーナが教室にいるアレクトスに声をかけようとすると、スっと前を横切りアレクトスに近寄った令嬢がいる。ミルシアだ。
「アレクトス。調べ物をしたいの。付き合ってくれないかしら。」
その金の髪に透き通ったすみれ色の瞳の美しきミルシア。
アレクトスは頷いて、
「ミルシアの頼みなら、いくらでも付き合ってあげるよ。」
二人で図書室へ行ってしまった。
ジョルジュ王太子は何をしているかと言うと、色々な令嬢達に囲まれながら、賑やかに過ごしていて、ちっともミルシアを大切にしていない様子。
シュレンティーナはイラついた。
何よ。これじゃアレクトスに近づけないじゃない。
まだ婚約者ですらない。付き合ってもいない。友達として許可を貰ったばかりのシュレンティーナ。
そっと図書室へ行って、二人の様子を覗いてみれば、仲良く調べ物をしながら談笑をしている。
誰がみても仲が良いカップルにしか見えない。
えええ?あの女、婚約者がいるのよね。何であんな距離感でアレクトスに近づいているのよ。
そこで、まずはアレクトスだけでなく、ミルシアにも接近して、距離を詰める事にした。
「あの…わたくしも探したい図書があって、お二人に協力して頂きたいのですが。」
にこやかに、二人に近づいて様子を見る。
ミルシアは頷いて、
「ああ、貴方は確か、シュレンティーナ様でしたわね。よろしくてよ。一緒に捜してあげましょう。」
アレクトスは二人きりの時間を邪魔されて、不機嫌そうだ。
でも、ミルシアの様子を見てると、
「何の本かしら?」
「レルト王国の美術史の本を。お勧めはあるかしら。」
「美術史ね。」
この令嬢に、アレクトスに対する恋心はない?
アレクトスはミルシアの事が好きみたいだけど、このミルシアは恋に疎い?
それとも、恋に疎いふりをしている?
恋に疎い女程、男に取って厄介な物はない。
いくら思いを寄せても、相手に響かないのだから。だから余計に男は燃え上がる。
わざと?わざと、恋に疎いふりをしてアレクトスを縛っている?
ミルシアはアレクトスを平然と頼っているのだ。
婚約者がいる令嬢とは思えない距離感。普通ならもっと用心してアレクトスと距離を取るであろう。
このレルト王国には王妃教育はないのか?
自分は皇妃教育を嫌と言う程、やって来たというのに。
いくらジョルジュ王太子が浮気三昧?色々な女性を侍らせているのを見たので、
これはあまりにもアレクトスが気の毒だ。
シュレンティーナはそう思った。
美術史をミルシアは探してくれた。
シュレンティーナは礼を言う。
「有難うございます。このお礼に、今度、カフェでお茶しません?三人で。三人ならば、いかに婚約者のいらっしゃるミルシア様とは言え、文句は言われないでしょう?」
「カフェね。行きたかったの。嬉しいわ。今度、三人でお茶しましょう。」
ミルシアは嬉しそうに頷いた。
数日後、三人で街のカフェでお茶をした。
ミルシアとアレクトスは幼馴染である。
嫌と言う程。二人の幼い頃の話を聞かされた。
ミルシアがにこやかに紅茶を飲んでから、
「アレクトスとは王都の家が隣同士なの。だから、よくお互いに行き来したわね。遊んだわ。」
アレクトスも頷いて、
「同じ年だからな。まったく、ミルシアは木登りが得意で。」
「あら、貴方だって登ったじゃない?」
「そりゃ、私は男だから、女には負けたくなかったから。」
「うふふ。そういう所が、今も変わらないのではなくて。」
シュレンティーナはため息をつく。
何で惚れ気を聞かされなくてはならないのだろう。
チョコレートケーキにフォークを入れながら、
「何でそんなに仲が良かったお二人が、婚約者にならなかったのかしら。家柄も公爵家同士。釣り合いも取れているのではなくて?」
アレクトスが眉を寄せて、
「王家の申し込みは断れないだろう?私はミルシアと結婚したかったんだ。」
ミルシアはアレクトスの方を見て、
「まぁそうだったの?わたくし達は単なる幼馴染でしょう?」
「そりゃ幼馴染だけれど…」
シュレンティーナはアレクトスの顔を正面から見つめて、
「ミルシア様は王太子殿下の婚約者。少しは他を見たらよいのでは?」
ミルシアは頷いて、
「そうよ。わたくしはジョルジュ王太子殿下の婚約者。貴方の幸せを願っているわ。」
アレクトスは不機嫌そうに、シュレンティーナに向かって、
「私は押しつけがましい女は嫌いだ。だから、シュレンティーナ。君を見ろというのだろう?」
シュレンティーナは頭にきた。
「わたくし、前言撤回致しますわ。女々しい男は大嫌い。どうぞ、お好きになさって下さいませ。後ろ向きに一生、生きていけばいいわ。」
うんざりした。
席を立って、カフェを後にしたのであった。
翌日、王立学園の教室の席にシュレンティーナが座っていると、アレクトスが謝りに来た。
「すまなかった。昨日は頭に来てあのような発言を。」
「いいえ。こちらこそ。ああ、お付き合いの件は、撤回致しますわ。わたくし、政略もそうですけれども、恋愛結婚を望んでおりますの。一生、ミルシア様を思っている男と万が一にも結婚したら、不幸ですから。目が覚めたのはわたくしです。他の方を探す事にしますわ。」
アレクトスは真剣な顔つきで、
「君の言葉に目が覚めたんだ。一生、ミルシアを思って生きるなんて地獄だろう?彼女は私の事を単なる幼馴染としか思っていない。」
「あら、そうかしら。自覚がないだけで、貴方の事を思っているのかもしれないわ。」
「それでも彼女はジョルジュ王太子殿下の婚約者。未来の王妃だ。不毛な恋程、辛いものはない。だから、改めて私と付き合って貰えないだろうか。」
シュレンティーナは考えるふりをした。
そして、
「仕方ないわね。だったら約束して下さるかしら。ミルシア様と適切な距離を取って下さらない?それを約束して下さらなければ、首を振るしかありませんわ。」
「約束する。ちゃんとミルシアとは距離を持った付き合いをする。だから、シュレンティーナ。正式に私と付き合って欲しい。」
シュレンティーナは心の中で、やったわ と、押して駄目なら引いてみろ。
しつこい女は嫌われるのだ。
「わかりましたわ。でも、覚えておいて下さいませ。貴方が不実な行動を取った時にはわたくしは貴方を見限ります。だって、わたくし、帝国の皇太子殿下に、浮気をされて婚約破棄された女なのですのよ。相手が浮気して悪い癖にいかに、わたくしが悪いかのように擦り付けての婚約破棄。
勿論、後にこちらから婚約破棄の形に変更になりましたけれども。悪いのは皇太子殿下でしたから。
二度と、裏切られたくはないのです。もし、貴方様が裏切った時にはわたくしの心は壊れてしまいますわ。いいですわね。アレクトス様。」
「解った。君を裏切らない。私は誠実な男になろう。」
アレクトスはそれから、シュレンティーナと誠実に付き合いをするようになった。
ミルシアから、何か用事を頼まれても。
「すまない。ミルシア。シュレンティーナと私は付き合っているんだ。だから、君と適切な距離を取りたい。解るね?」
「え?だって、やましい事なんてないわ。ただ、わたくしは貴方に勉強を教えて貰おうと…」
「君は私の幸せを願っているんだったね?だったら…同性である女生徒に聞いてごらん。いいね。」
適切な距離を取ってくれるようになったのだ。
シュレンティーナはつれない態度をミルシアに取るアレクトスに聞いてみる。
「無理はしていないの?アレクトス。」
アレクトスは真顔で、
「じっくり考えた上、私は前を向く事にしたんだ。このままではお互いに良くない。ミルシアは王太子殿下の婚約者。私はシュレンティーナ。君と付き合っている。断固として誠意を見せないと男として失格だよ。」
シュレンティーナは嬉しくて思わずアレクトスに抱きついた。
背が高く金髪で筋肉質な美しいアレクトス。
シュレンティーナにとても優しく、学園にいる時はいつも傍にいてくれるようになった。
共にお昼ご飯を食べ、共に勉学に励み、中庭でダンスの練習をした。
シュレンティーナはアレクトスとダンスを踊りながら、
「社交界へ早くデビューしたいわ。こちらの王宮の夜会に出た事がないのですもの。」
アレクトスは微笑んで、
「私は何度か、見学させて貰った事はある。王宮の夜会は華やかだ。早く君とダンスを踊りたいものだな。うちの両親も君に会いたがっている。婚約の話を勧めたいと言っているよ。」
「まぁ嬉しい。わたくしも両親に手紙を書きますわね。反対はしないはずよ。レルト王国の宰相の息子である貴方と縁が結べるのは、我が公爵家にとっても得な事ですから。」
隣国の両親に頼んで、ハーリア公爵家と正式に婚約を結ぶ事にした。
婚約が決まった後、ミルシアがシュレンティーナとアレクトスが廊下を歩いていると、声をかけてきた。
「おめでとう。アレクトス。シュレンティーナ様。とても嬉しいわ。」
アレクトスはにこやかに、
「有難う。やっと私にも春が来そうだよ。」
シュレンティーナもアレクトスの手をぎゅっと握り締めて、
「お祝い嬉しいですわ。卒業式ももうすぐですわね。卒業後、王太子殿下とご結婚だとか、ミルシア様もどうかお幸せに。」
ミルシアは悲しそうな顔をするも、すぐに微笑んで、
「有難うございます。」
ジョルジュ王太子は最近、男爵令嬢マリアと仲良くしている姿を見かけるようになったのだ。
ミルシアの事は元々、大事にしていなかったようだが、生徒達からも噂が出ていた。
もうすぐ、卒業パーティ。まさか、これは…何かよからぬことが起こるのではないかと。
そしてそれは起こってしまった。
「ミルシア・カレンティーノ公爵令嬢、貴様は隣にいるマリアを虐めていたそうだな。貴様との婚約破棄し、ここにて、男爵令嬢マリア・マリーノとの婚約を改めて結ぶこととする。」
ジョルジュ王太子が高らかに宣言する。
隣ではピンクブロンドの男爵令嬢マリアが、べったりとジョルジュ王太子殿下にくっついている。
ミルシアは青くなって、
「わたくしは虐めた覚えはありませんわ。」
そう言って、アレクトスの方へ視線を向け、助けを求めて来たのだ。
シュレンティーナは心の中で叫ぶ。
助けてしまうの?アレクトスっ…わたくしを裏切るの?
お願い…助けないでっ。
アレクトスは、ミルシアの取り巻き令嬢達に、
「君達はミルシアの友達だろう?彼女と一緒にいる時間も多かったはずだ。私はシュレンティーナと一緒にいる時間が多いものだから、ミルシアの行動が解らない。証言してやってくれ。」
ミルシアはアレクトスの傍に来て、
「酷い。貴方だってわたくしを助けてくれたっていいじゃない。わたくし達はお友達でしょう?」
「友達だからこそ助けたい。だが、私は君の傍に居た訳じゃない。だから、令嬢達に証言をお願いしたんだ。」
ミルシアはアレクトスに抱き着いた。
「わたくし…やはり…貴方の事が。」
シュレンティーナは目に一杯、涙をためて、ほろりと流し、
「アレクトス様。貴方はわたくしの婚約者…でも、ミルシア様がやはり好きだというのなら、わたくしは身を引きますわ。裏切られるのはもう辛くて辛くて。さようなら。」
卒業パーティ会場を飛び出す。
これで、アレクトスが追ってこなければ、自分の負けである。
賭けだった。
アレクトスが追いかけて来て、背後から強く抱きしめてくれた。
「私の妻は君しかいない。ミルシアは過去の人だ。愛している。シュレンティーナ。君が私を前に向かせてくれた。」
そう言って、引き寄せ、貪るようなキスをしてきた。
その熱い想いを受けながらシュレンティーナは幸せを感じるのだった。
ミルシアは冤罪を着せられていたらしく、慰謝料を貰ってジョルジュ王太子殿下と婚約解消となった。
改めて、アレクトス・ハーリア公爵家へ、ミルシアのカレンティーノ公爵家から婚約の打診が来た。既にシュレンティーナと婚約しているのにも関わらずだ。
アレクトスははっきりと父のハーリア公爵に頼んで断って貰った。
「ミルシアは私を自分の物だと思っているんだ。小さい頃からずっと。私は何だったんだ?
あれだけ冷たくしたのに、ジョルジュ王太子殿下と婚約解消したら、私と結婚出来ると思っていたのだろうか。」
シュレンティーナはアレクトスの手に手をそっと重ねて、
「わたくしなら、貴方を大切に扱いますわ。貴方は物ではない。人間ですもの。わたくしも貴方も心を持った人間。二人で幸せになりましょう。」
アレクトスに優しく抱きしめられた。
二人で馬車で、洋服屋に行き、結婚式のウエディングドレスを仕立てに行った。
真っ白でフリルの沢山ついた豪華なドレス。
店員にドレスを試着を手伝って貰って、アレクトスに見せれば、同じく真っ白のタキシードを試着しているアレクトスが嬉しそうに目を細めて、こちらを見つめ、
「美しい。シュレンティーナ。私は幸せだな。」
「わたくしも幸せですわ。アレクトス様もとても素敵ですわ。」
互いに褒めて、見つめ合う。
バンと扉が開いて、ミルシアが飛び込んできた。
「アレクトスはわたくしの物なのよ。ずっとずっとわたくしの物。何でわたくし以外と結婚するのよ。」
目が尋常ではなかった。
涙を流しながら、ミルシアは、
「わたくしだって愛していたの。王太子殿下の婚約者でなければわたくしは…」
ナイフを持ってシュレンティーナに襲い掛かって来た。
シュレンティーナの前にアレクトスが飛びだして、そのナイフを叩き落とした。シュレンティーナはミルシアに近寄り、思いっきりミルシアの頬を叩いた。
「愛していたのなら、どうして彼の幸せを願ってあげられなかったの?貴方は彼の心を弄びずっと傍に置いていたわよね。ずっと自分の物にしていたわよね。思いを寄せる彼に、幼馴染だからってずっと言い続けていたわよね。結婚出来ない恋ならば、彼と離れて祝福すべき。違うの?自分が一人になったからって、嫉妬のあまり、わたくしを殺そうとした。貴方はあまりにも自分勝手だわ。」
ミルシアはわぁーーと涙を流して、
「お願い。アレクトス。わたくしと結婚して。わたくしは貴方を愛しているの。」
アレクトスはミルシアに向かって、
「シュレンティーナに恋するまでは君の事が好きだった。ずっと…でも、今の私が好きなのはシュレンティーナだ。君は彼女を殺そうとした。罪をしっかりと償ってくれ。」
誰かが騎士団を呼んだらしい。
ミルシアは騎士達に連行されていった。
シュレンティーナはアレクトスを見上げて、
「後悔はないの?ミルシアを見捨てて。」
「君が私の目を覚ましてくれたんだ。愛しているよ。シュレンティーナ。」
もし、王家がミルシア・カレンティーノ公爵令嬢に婚約を申し込まなければ、今頃はミルシアはアレクトスと結婚していただろう。
気の毒といえば気の毒。
でも…わたくしは恋の駆け引きに勝ったわ。
アレクトスとの幸せな未来を夢見て、彼の方を見上げれば彼は優しく微笑み返してくれた。
シュレンティーナはアレクトスと結婚し、ハーリア公爵家に嫁に入り、それはもう子供にも恵まれて幸せに暮らした。
ミルシアは修道院へ行き、寂しい生涯を送ったとされている。