1話【神とデブ】
初小説です。
一一誰もが憧れるであろう、剣と魔法の世界。そこに抱く幻想や理想は人によって違う。ある人は、魔法によって便利になった世の中、ある人はハーレム。だが、実際はそんなものは無い。
確かに魔法により、利便性が向上した事は事実だ。だが、それにより魔法の才があるものと無いもので、階級が生まれる社会になった。
魔法を巧みに扱える者は、王族的立ち位置にされ、世界でもトップクラスの権力を握る。権力を握った人間がマトモさを保てる訳もなく、ただ独裁的な政治を続けるのみ。
それでもこの世界が破綻しないのは、やはり"魔法"の存在が大きく関わってるのだと思う。
誰かが発見した人間の理屈や論理では計り知れない恐ろしくも、便利なもの。そんな魔法の発見により人間にも"魔力"が備わっていることが明らかとなった。
だが、それが格差を産む原因となっていた。魔力が低きものは、高きものに差別される。
魔力が高くても、頭が悪く、術式を覚えれない者は魔法を使用できる者に差別される。
そういった格差社会というものが、"魔法"の発見により、誕生してしまった。
―――――――― ――――― ――…
そんな世界で俺は、生まれつきの肥満体質且つ魔法に限らず全てに於いて才能なし、魔力量も少ないという、最悪的で、この世界では間違いなく『邪魔者』の存在として生まれてきてしまった。
"魔法が使えない時代の人間"という意味合いで、"古人"とも呼ばれており、差別されている。
そんな俺だが、両親の優しさと、仕事場の同僚や先輩の優しさに包まれ、周りからは冷たい目で見られながらも、一生懸命に生きてきた。
そんないつものような日常。キツい肉体労働を仲間と共にこなしてる最中に、俺は致命的で、初歩的なミスを犯してしまった。
足元を見てなかったのだ。そのせいで少し尖っており、地面に張り付いている石に足をひっかけ、転げてしまい、打ちどころが悪くそのまま半死亡状態に陥ってしまった。
そのまま、幾つの時が流れただろうか。実感が無い。俺は今どこにいるのだろう。
そういった疑問を一蹴するように、何処からか、奇妙な笑いと共に声が聞こえてきた。
「フォホホ、ここは生と死の狭間じゃろうて。お主は今、死ぬか生きるか。その狭間を行き来してる状態なんじゃよ。そしてこのまま行くとお主は死ぬ。それをわしが引き止めてる状態じゃろうて。」
「生と死の狭間…?意味がわからない。そしてお前は、誰だ…?どこから話しかけている。」
「フォホホ、わしの姿は概念体のようなものじゃ。観測することは出来るまいて。更に疑問に答えると、わしのことは『神』とでも思ってくれたらいいじゃろうて。」
「神だと?そんなものが実在すると思っているのか?」
(一体こいつは何を言っているんだろう。『生と死の狭間』といい、自身を『神』と言い張ったりどこか抜けているのだろうか…)
「存在すると思うも何も、わしの存在がその証明じゃろうて。まぁ、信じまいとわしからすればどうでも良い事じゃがな。わしはそこに固執する気も無いじゃろうて。取り敢えず、本題に入りたいのだが、良いかの?」
正直全然良くない。物事を把握しきれてない。元から物事を把握するのが苦手であった俺だが、これに関しては才能なんて関係ないのではないだろうか。
そもそも俺はまだ『生と死の狭間』すら把握できてないのだ。そこから更に「本題」だと?キャパがもたない。
だが、気になるのも事実だ。
「まぁ、色々把握してないのもあるけど、とりあえず本題に触れてくれないか?取り敢えずそこを把握するのに集中するよ」
「フォホホ、本題に入ってくれるのか!嬉しい限りじゃのぉ…なら結論から言わせてもらうとしよう、そなたには、是非『魔王』になって欲しいのじゃよ。」
「魔王…?それは一体どういうものなんだ?聞いたことすらないのだが。」
俺は、なんの才も持たぬ人間であるが、だからこそ努力はしてきた。特に勉強に関しては、色んな人間から"全知"と表現されるほど知識量に長けている。
そんな俺ですら聞いたことが無いのだ。一体どういうものなんだ?
「フォホホ、魔王を知らぬのも当然じゃろうて。なんせ世界にら現存しないのだから。」
「現存しない…?どういう事だ?」
「つまりお主が"魔王"という新たな存在になるのじゃよ。そして、この世界の救済をして欲しいんじゃ。なぁに、お主は心配せんでも、他の者には無い、"魔王"に相応しい底なしの器が備わってるじゃろうて」
「 魔王に相応しい底なしの器…?この世界の救済?どれも不明点だらけだ。具体的に俺にもっと分かりやすく説明してくれ。」
「フォホホ、流石に情報が多かったかのぉ…なら順を追って説明しよう。"魔王"に相応しい底なしの器というのは、魔王になる為の最低条件じゃな。あらゆる欲望や、醜さ、その全てを肯定出来るほどの"器"それが無ければ、魔王にはなれぬ。次は、世界の救世についてじゃが、正直現状のこの世界は狂っておる。お主もそうは思わぬか?力が強ければ、優位に立て、弱ければ差別される。そんな腐った社会が現在じゃ。だからこそ、それを統べる新たな王が必要なのじゃ。それが"魔王"というわけじゃな。」
「理解できないな。救いたければお前が救えばいいだろう?なんせお前は『神』だ。そんな事は容易いはずだが?わざわざ"魔王"を作る意味があるとは思えない。」
「フォホホ、確かにわしはこの世界を救うことが出来る。じゃが、それじゃ意味が無いのじゃよ。こんな世界を作ったのは他でもない人間じゃろうて。ならここは"人間"が責任を取るべきじゃろうて。わしもこの世界は不快なんじゃ。だから早急にお主に世界を救って貰うことにしたってわけじゃよ。見たところお主は、人一倍正義感も強く、そういうのに向いてそうじゃないか。どうかね?1度受けてくれるのも良い判断と言えるじゃろうに」
「なるほどな。つまりはお前の恣意ってわけだ。確かに理にはかなってる。だが、本質は「自分が不快な世界を見たくないから」というとこにある。ならば、俺はそれの提案を拒否させてもらおう。」
「ほう…?何故じゃ?お主は笑顔じゃない人間を見たくない人間じゃろうに。人が幸福になるのを好む人間じゃろ?」
「残念ながら俺はそういう人間じゃないんだ。"不幸"と"幸福"ってのは=なんだよ。誰かが笑顔になれば、遠いどこかで誰かの笑顔が失われる。なら俺は、誰の幸福も願わないし、誰の不幸も願わない。生憎そういう考え方なんだよ。」
「フォホホ、なるほど。面白い考え方じゃろうて。ならばお主は余計に"魔王"に相応しい人材じゃろうて。誰かが幸福になる事が、誰かの不幸であるならば、理不尽なまでのお主の"魔王"としての力で全てを幸福にすれば良い。さすれば、誰も不幸になんてならぬ。」
「それ程までの力が、俺にはあると思えないな」
「だから、それをわしが与えてやるんじゃろうて。」
「何…?言っておくが、俺は魔法を与えられようと、魔力が少ない以上使うことは出来ないぞ。」
「フォホホ、そんなこと分かっておるわい。今からわしがお主に与えるのは"能力"じゃろうて。」
「能力…?そんなもの聞いたことが無いな。大体、この世に存在する不可思議は「魔法」のみのはずだ。」
「フォホホ、お主は余程自身の知識に自信があるようじゃのぉ。お主の知ってる事が世の全てじゃあるまい。それにこれは"魔王"同様現存しないのじゃ。わししかそれを持っとらん」
「どういうものだ?」
少し"能力"というものに興味が出てきた。仮にこれが嘘だとしても、どうせ俺は死にゆく運命だ。こんな茶番であろうと付き合ってやる。
「フォホホ、食いついてきたの。少しは興味が出てきたか?まぁ今はそんな事は良い。わしがお主に与えるのは"誕生"の能力じゃろうて。」
「誕生…?」
「そうじゃ。誕生…即ち生み出す力。それをお主に与える。最も、お主が"魔王"になるならば…じゃがな。」
「ここでそれを聞いてくるのか。果たして、その能力があれば俺は人々全員を笑顔にできるのか?」
「可能じゃろうて。この能力は上手く使えば全ての創成まで可能じゃて。」
「なるほどな…なら乗ってやるよ。俺も少し興味が出てきたし、俺が魔王になることによって、全てが救われるなら。どうせ死にゆく命だったんだ。それを活かせるなら最大限に活かしてやる。」
「フォホホ、その返答を待っていた。なぁに、魔王の立ち位置や城、根本的な解決が難しいこべりついた差別意識はわしが全て何とかしてやろう。じゃがその代わり、能力は自身で試せ。そうして世界を救え。」
「意外と待遇が良いんじゃないのか?」
「フォホホ、いずれ世界を救う男に、このくらいするのは当然じゃろうて。」
「確かにな。それじゃ後の手続きみたいなのは任せたぞ。『神様』」
「フォホーホッホ、任せておいたら良いじゃろうて。それじゃ何百年でも待ってるぞ。いずれ世界を救う『偽善の魔王』」
―そうして、先程よりも高らかなヤツの笑い声を聞きながら、俺は魔王としてこの世界に再び存在することとなった。
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