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第二話 パラレル - フィールド


「あんたここでなにやってんの?魔力がダダ漏れで位置もバレバレだよ。」


後ろを振り向くと、そこには今日の朝出会った、あの女子生徒がいた。

なんでここに?

格好は朝のときと随分変わっている。

今の彼女は、制服は来てないし、メガネも掛けてない。

それでも、俺は彼女を朝出会ったあの女子生徒と確信した。

朝見たあの顔は、とても印象に残っている。

いや、あの顔、と言うよりは彼女をどこかで一度見たことがある、

という感覚が印象に残っていると言った方がいいか。


そして魔力って一体全体何の話だ?

昔、魔法が盛んだった、という話は聞いたことがあるが、

あれはあくまでも空想上の存在だったはずだ。

そしてその魔力がダダ漏れ?

位置がバレバレ?

何を言っているのかさっぱり分からない。


まだ気になることがある。

まず、首に掛けてあるネックレスみたいなものについてる、あの赤い石だ。

今朝俺が拾ったものと色こそ違うが、まるで何かの偶然か、と言いたくなる程に、

大きさ、形が随分似ている。


次に、何故今ここに彼女がいるんだ?

ひょっとして何か形でこの爆発に関わっているのか?


頭の中で疑問が湧き続ける。

一体何が起きているのかわからない。


しばらく呆気に取られていると、彼女が聞いてきた。

いや、問い詰めてきた。

「あのさあ…。黙っていても分からないんだけど。」

朝のときと全く別人格のようだ。


「ちょっ、ちょっと待ってって。あなたが何を言っているのかさっぱり分からないんですけど!」

俺は咄嗟にそう答えた。

「ええ?とぼけないでくれる?」

が、彼女は耳も貸してくれない。

彼女は続ける。

「大体、ここにいる時点でもうあなたは容疑者なのよ。

ココらへんは人が他の所と比較的少ないし、普通の人は爆発音が聞こえたら逃げると思うのよね。」

確かに俺は、他の人と違ってこの場所に近付こうとしたが、

それだけで何かの容疑者と断定してしまうのは気に入らない。

「ちょっと待ってくれ!容疑者って一体何なんだ!言っておくが、俺は何もしてないぞ!」

俺はそう叫ぶ。

濡れ衣を着せられるのはゴメンだ。

しかし、彼女は俺の必死な様子なんかお構い無しなようだ。


「一々話を聞くのもめんどいし、逃げないように拘束しちゃうね。

痛いけど我慢して。」

そう言われた途端、俺の体は、彼女に触れられていないにも関わらず、一度宙に舞い上がり、そして背中側から地面に叩きつけられた。

悲鳴を叫ぶ暇もない。

一瞬息ができなくなる。

地面に落ちてる瓦礫やガラスの破片が体に食い込んできてすごく痛い。

俺はこの一瞬がまるで数時間のように感じられた。

俺は体を動かそうともがく。

が、動かない。

まるで全身が縄で縛られているようだ。

どう頑張っても動かない。

俺は諦めて、おとなしく彼女に拘束されることにした。

そんな俺を上から見下ろしながら彼女は言う。

「安心して。強くはやってないから、骨折とか大きな怪我はしていないはずだよ。」

いや、安心できるか!背中がすごく痛いんだよ!

と心の中でツッコミを入れる。

俺がしばらく痛みに耐えていると、彼女が言った。

「しばらくおとなしくしててね。」

すると、俺の体が飛び上がり、高さが2メートルぐらいの所でピタリと止まる。

そして彼女は、携帯を取り出すと誰かに電話し始めた。

別に俺に聞かれても構わないようだ。

まあ、別に聞かれてもこっちが何かできるっていう訳じゃないしな。


「もしもし。」

「うん。怪しい人を捕まえた。」

「ええっ…!そっちでも一人捕まえたの?」

「こっちは何か様子が変なのよね。この爆発について何も知らないようだし、

 しかも見つけたとき、私達の所へ来ようとしたのよね。」

「羅針盤が反応したから違うと思うけど…。」

「えっ…。そういう風には見えないんだけど…。」

「うん、まあ確かにね。」

「まあ、とりあえず連れて行くね。話はそこで聞けばいいよ。」

「うん、りょうかーい。」

電話の相手の声は聞こえないが、彼女の声は聞こえる。

それで、大体の今俺が置かれてる状況がわかってきた。

電話の相手の方で、一人の容疑者を捕まえたらしい。

多分この爆発を引き起こした人だろう。

そして、多分羅針盤というのは、俺の位置を割り出した道具のことのようだ。

確かに彼女の手には、コンパスのような、時計のような、そんな道具が握られている。

そして、俺はどこかに連れて行かれるようだ。

宙に浮きながら、ね。

彼女の超能力か魔法かどうかは知らないが、彼女が俺を浮かせていることだけは明確だ。

さっき俺を取り押さえたときも、彼女が動いたように見えなかった。

一体どうやって?

たぶん彼女の言っていた魔力とかが関係しているのだろう。

ということは、彼女はファンタジーの世界の住人ということになる。

いや、ひょっとしたらこの世界には俺達みたいな科学の世界の人間が気づいていないだけで、

魔法みたいなファンタジーな存在があるのだろうか。

消防のサイレンがうるさく耳に響いてくる。

おそらく、誰かがこの爆発を聞いて通報したのだろう。

彼女は俺を、おそらく爆発が起きたところであろう、あの大破した建物に連れて行こうとしている。

でも、あんな所に一体何があるというのだろうか。

今更抵抗する気はない。でも、誤解は解いておきたい所だ。それに色々と聞きたいこともある。

俺をもう拘束した後だから、流石に話を聞いてくれるだろう。

彼女に話しかけてみる。

「なあ…。俺をどこへ連れて行く気か?」

一応聞いておく。

「私の仲間たちの所へよ。決まっているじゃない。」

「それじゃあ、そこで俺に何をするつもりなんだ?」

「それは、仲間たちの意見を聞いてから決めるわ。」

仲間というと、さっき電話してた人か。

彼女の仲間とやらが、まともな人間であることを願う。


そして俺は一番聞きたかった質問をぶつける。

「なあ、魔力って一体何なんだ?どうやって俺を浮かせているんだ?」

そう質問すると、彼女はこちらを振り向き、こう答えた。

「知らないの?」

どうやら、予想していなかった質問らしい。

とても驚いているようだ。

とすると、今まで彼女は俺が、魔力、とやらを知っている前提で、

俺に話しかけていたようだ。

「ああ、本当に知らない。」

「…。ひょっとして民間人だったりするの?」

「ああ。だから、ずっと俺は何も知らないと言い続けただろ。」

「嘘ついてたりしないよね。」

彼女は鋭い眼光で俺を見つめる。

もし嘘だったら俺を殺さんとばかりの形相だ。

「嘘はついていないぞ。」

「そう…。まあ、話は後で聞くわ。」

そう言うと、彼女は俺を縛りつけている力を少し緩め、地面に下ろしてくれた。

俺に対する彼女の敵意は少しは減ったみたいだ。

だけど、俺を完全に開放したりはしない。

足から上はほとんど動かせない。

まあ、そりゃそうか。

俺が嘘をついていないという証拠はないもんな。

とりあえず、今は彼女に従うほかはない。

あ。そう言えば名前を聞いていなかったな。

「なあ、名前、何て言うんだ?」

彼女はしばらく何か考えているような様子を見せた後、こう言った。

「…。味方でもない人に名前は名乗らないことになってるの。」

まあ、聞くだけ無駄だってことを全く予想しなかった訳ではない。

そして彼女は俺に名前を聞いてくる。

「…そう言うあんたは?」

俺も名乗らなきゃ駄目なのか。

そもそも彼女はまともに名前を名乗っていない。

だけど、まあ一応名前を覚えてもらうことにデメリットはないはずだ。

「俺の名前は佐藤海。佐藤にうみと書いてカイと読む。」

自己紹介なんて結構久しぶりだ。

なんか恥ずかしい。

「……ふーん。」

彼女はそうとだけ言った。

何かを考え込んでいるように見える。


しばらくして、彼女が突然聞いてきた。

「ところで、あんたの顔をどこかで一度見たことがあるんだけど、私達どこかで

一度会ったこと、ある?」

彼女は俺達が朝に一度会ったことを忘れているらしい。

「あるには、ある。」

「へえ、やっぱり。どこで?」

「…今日の朝。」

「…あっ!思い出したよ!あのぶつかった人か!」

「ああ、そうだよ。」

「ふーん。…。」

彼女はまた何か考え込み始めたようだ。

このとき、俺はあの時拾った石のことについてようやく思い出した。

不可解なことが連続で起きたから、さっぱり忘れてた。

「聞きたいことがあるんだけど…。」

「何?」

俺は頑張ってポケットからあの石を取り出そうとするが、

体が思うように動かない。

彼女は、俺が何かしたいことを察すると、体の自由を少し戻してくれた。

俺はようやくあの石を取り出して、彼女に見せることができた。

取り出す時、直接触れないようにハンカチ越しで取り出したから、

彼女からは変に見えたかもしれない。

そしてその石を見ると、白い方の石が何か薄くなっているような気がした。

「なあ、コレについて何か知ってるか?」

「…!その石、どこで手に入れたの?」

彼女は一瞬驚いたような表情を見せた。

「あの朝、俺達がぶつかったときだよ。これ、落としたのか?」

「ああ…。なるほどね。ちょっとその石借りるよ。」

「あっ!」

さっと彼女は俺の手から2つの石を取った。

「ふーん、あのさ、この石を触ったとき、何か変な感じしなかった?」

「ああ、したよ。何であんな感じになるんだ?」

「…。へえ…。」

彼女はまた何か考え込み始めた。


他にも俺は、聞きたいことが山ほどあったが、

答えを聞いたら余計に混乱しそうだから、彼女の仲間のいる所へと着くまで、

黙っていることにする。


またしばらくすると、あの最早建物とは言えないような建物に大分近づき始めた。

周りに落ちている瓦礫や石とかは、彼女が不思議な力を使ってどけているようだ。

おかげで何かにつまずくようなことはない。

建物の様子はなんとも悲惨なものだった。

屋根が吹き飛んでいるらしく、また、壁もほとんど崩れている。

やっぱり、この建物で爆発が起きたようだ。


建物の中に入っていく。

あちこちに大きな瓦礫、ガラスが散乱している。

よく見ると、ここは飲食店らしく、厨房だったらしきものが見える。

色々と道具だったような物が転がっている。

例えば、食器のかけらと思われるもの、テーブルや椅子の足と見受けられるものなど、沢山ある。

しかしこんな所に何をしに来たのだろうか。

そして、人の姿も全く見えない。さっきまではいたはずなのに。

俺は聞いてみる。

「なあ…。ここで一体何をするんだ?瓦礫しかないじゃないか。仲間とやらもいないようだぞ。」

「大丈夫。ちゃんと仲間もいるし、ちゃんとした場所もあるよ。ちょっとそこで見てて。」

そう言うと、彼女は座り込んだ。

そして床になにかしている。

俺は外を眺めてみる。

消防車のサイレンがさっきよりも相当デカくなっている。

もう、すぐ近くにいるようだ。

「ふう、終わった。」

作業が終わったらしく彼女は立ち上がってこちらを振り返り、言う。

「ついて来て。」

すると、地下室への入り口と見られるものが見えた。

なるほど、彼女は俺をこの下へと連れて行こうとしたのか。

別に何もする訳じゃないのに、変に緊張する。

この下へ降りれば、謎が分かるのか?


「何してんの、さっさと下りるよ。」

もう階段を下りきっている彼女に急かされる。

確かに動かなきゃ何も始まらない。

「ああ、うん。すぐ行くよ。」

そう返事をする。

雲に切れ目から、陽の光が漏れて辺りを照らす。

よし。覚悟を決めろ!

俺は階段を一段ずつ下りていった。


階段を最後まで下り、地下室を見渡すと、俺の予想とは全く違う光景が広がっていた。

部屋はそれほど広くはなく、数個のテーブル、椅子、そして大きな、余裕で人が中に入れそうな大きさのクローゼットがまず目に写った。

これの他には、適当に積まれたダンボールの箱。

全体的に荷物が多い印象だ。

だけどその割にはちゃんと掃除されているようで、ゴミやホコリは少ない。

また、彼女の仲間どころか、この空間には俺と彼女の他に人間がいない。

俺は、まるで狐につままれたような気分になった。

「一体どういうことだよ?誰もいないじゃんか。」

俺はそう言う。

当然の反応だと思う。

「ここがその仲間たちのいる所じゃないのよ。まだ続きがあるの。」

「続き?でもここは行き止まりだぞ?」

「いいからついて来て。」

「ついて来てって…。」

俺はますます分からなくなった。

でも、まあ例の魔法か超能力かなんかでどうにかするんだろう、ということだけは分かる。

すると、彼女は壁際の、あの大きなクローゼットを開けた。


クローゼットの中に何があるのか気になり、覗いてみると、それは俺の予想を大きく外れていた。

俺はてっきり何かの道具でも入っているのだろうと思ったのだが、そんなものじゃなかった。

クローゼットの中には、別の空間が広がっていた。

でも、その空間はこの地下室の隣の部屋みたいな感じではなく、

まるで、どこかの洞窟みたいな印象を受ける。

壁は凸凹していて、まさに洞窟のそれだ。

しかし、洞窟に似ていると言っても、広々としている訳ではない。

クローゼットの先に、ドアみたいなものが見えることから、

多分ここは玄関みたいな役割を持っているのだろう。

それでも、この先の洞窟が現実の世界の物でないことだけは分かる。

少なくともここ東京には存在しないだろう。

何故なら、この洞窟の壁に俺が今朝拾った、あの石と似たような石があちこちに見えるからだ。

あんな物、現実世界にたくさんあってたまるか。

きっと向こう側の世界は、魔法かなんかで作られた世界なのだろう。

そしておそらく、このクローゼットを通じて、別世界へと繋がっているのだろう。

俺は戸惑いを隠せない。


そして俺が戸惑っているうちに、彼女はそのクローゼットをひょいと飛び越え、向こう側に渡っていった。

「早くこっちに来て。」

彼女にまた急かされる。

「今行くよ。」

俺も勇気出して、渡ってみる。

こちら側と向こう側の境目をまたぐ。

なんか不思議な感覚だ。

生温かいプールに飛び込むような、なんとも言えない変な感じがする。

そして、自分の体全てが、今までいた世界からの向こう側に入った。


後ろを振り返ってみると、こっち側にもクローゼットがあるみたいで、

そのクローゼットからはさっきまで俺達がいた、あの部屋が見える。

「…ここは?」

俺は彼女に聞く。

「ここは、私達が、パラレル-フィールドと呼ぶ場所。」

「パラレル-フィールド?」

「そう。ここはあんた達がいつもいる現実世界とは違う、別世界。」

やっぱり、ここは別世界なのか。


そして彼女は言う。

「ついて来て。扉の向こうに私の仲間たちが待ってる。」

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