ボロアパート25
「お母さ〜ん!うわぁん!」
「茜!どうしたの?泣かないで〜。ほら抱っこしてあげる。」
「うぇ〜ん。」泣きながらお母さんへ手を伸ばす。
お母さんに抱っこしてもらって泣き止んだ私は、ふとお母さんに聞く。
「ねぇ、お母さん。」
「ん?なぁに?」
「お母さん、なんで死んじゃったの?」
「え?死んじゃっ…私、死んだの?」
お母さんの顔が青ざめる。
「やっぱり。お母さん気づいてなかったんだね。」
「うそ…私、死んだ…の?」
力の抜けた腕からズルッと私の身体が滑り落ちる。
「私も自分がどうなったのか気づくまで時間がかかったの。いつもお母さんに話しかけてたけど気づいてもらえなくって。ずっと悲しかったよ。」
お母さんが私をまた抱きしめる。
「…茜、ごめんね。ごめん。」
「ううん。今はもうお母さんと一緒だから大丈夫!それよりね、なんでお母さんが死んじゃったのか気になるの。」
「…確か仕事から帰る途中で立ち止まった時に声が聞こえて、初めは茜の声だと思ったのよ。でも違った。その後アイツは私をずっと追いかけてきた。走り疲れて止まったこの交差点で背中を押されたのよ。たぶんアイツが押したんだ。」
「…アイツって?」
「茜にそっくりだと思ったんだけど、よく見たら全然違った。…真っ暗な目をしてた。押されて振り返った時に顔を見たの。」
「その後轢かれちゃったんだ。」
「そう。…私、死んだんだ。」
お母さんはホッとしたような悲しいような何とも言えない顔をして言った。
「お母さん。私、その子に会ったかも。」
「え?会ったって…。」
「お母さんが事故に遭って、たくさん人がいた時にたぶんすれ違ってる。私にそっくりな子を見た気がするの。」
「そんな。でも…」
「私はお母さんに酷い事なんて絶対しないもん。だから私、その子の事絶対に許せない。」
「お母さんの為に怒ってくれるのは嬉しいけど、その子をどうするつもり?」
私はう〜んと唸って言った。
「…お仕置きしなくちゃ。」
「お仕置き?どうして…」
そこまで言いかけてお母さんは黙る。
「お父さんがそうだったもん。悪い事したらお仕置きだって。」
「茜…ごめんね。沢山怖い思いしたもんね。」
お母さんが涙目で謝る。
「お母さんのせいじゃないよ。」
お父さんはお母さんがいない時にいつも私を叩いた。
そして必ず同じ事を言っていた。
「悪い事をしたらお仕置きだ。」って。
お母さんに酷い事したんだもん。許さない。
「…あの子もお仕置きだ。」