世界のイロ
『私の世界には生まれてからずっと色がなかった。
「無彩色症候群」という奇病らしい。
モノクロームに彩られた、つまらない世界に私は生きていた。
お医者さんが言った。「人を愛する事を知れば、世界は色づくでしょう」
なんとロマンチックなお話でしょうか。なんて、私は皮肉めいた口調で独りごちた。
そんな私も結局は普通の女の子のように恋に落ちた。
あの人の事を考えている間だけは、世界が色づき、噂に聞く宝石箱のようにキラキラと色んな色に輝いていた。
新緑と木漏れ日の輝き、夏の海の輝き、他にも、たくさんの色を知った。
彼とともに過ごした日々は、みんなと違う世界を見て育ち大人ぶっていた私をすっかり消してしまった。
「カミサマはきっと私がこの瞬間を最高に楽しめるように試練を与えてくれたのね」なんて冗談めいた口調で笑って。そんな幸せが永遠に続くと思っていた。……疑いも、しなかった。
私は知ってしまった。――大好きなあの人に、恋人が出来たことを。
ほんの一瞬だけ、視界が心を抉られた血にも怒りの炎にも思われる赤に染まり、それからまた私の色づいた綺麗な世界は、モノクロームの世界に変わってしまった。
世界がどんなに綺麗で、輝いていて、楽しいかを知ってしまった私はそんな世界に絶望した。
深く深く絶望した私を嘲笑うように。あるいは、私の心に共鳴するように、病状が悪化した。
私の世界は色どころか光すらも映さなくなってしまった。
まあ、そんな私がどうしたかなんて言わなくても分かるでしょう?
今は光り輝く全てが綺麗な、ふわふわの雲の上で世界の美しさを記す仕事をしているの。
……死んだ後に生きる喜びを実感するなんてなんて皮肉なのでしょうか』
それから少女とも女性ともつかない彼女はふとこちらを見て言った。
「ねぇ、こんな感じでよかったかしら?私の神様。私の一生は、楽しんでいただけた?」