1つ目の夢②
まず、僕が少女の罪を庇っていると言うのが全くの嘘だった。
僕はずっと人身売買のブローカーをしており、少女は初期の僕の被害者だった。
遠い国(あえて説明すれば、文化言語などは日本と全く同じだが日本から遠く離れている貧しい国)の少女を拉致して、必要があれば洗脳してこちら側の国で売っていた。
数年前に公安に足が着き、両親とともに逃避行の生活になった。
少女のことは僕が捕まらないように逃避行の補佐をする、いつでもトカゲのしっぽとして切れる人間のうちの1人として使役していた。
僕が少女を庇っているとかその辺の話も、少女を買い手から買い戻して再び洗脳した時に叩き込んだ記憶だった。
家の事情でお金が必要だったために闇の仕事に手を染めたことも思い出した。
次第に、自分が少女たちをコントロール出来る快楽、支配欲を満たすことの方が重要になっていったのだった。
最終的には「使い終わったオモチャが高く売れる」感覚で人身売買に携わっていた。その感覚がふつふつと蘇った。(これ書いてて思ったんだけど、夢の中の自分は何歳設定なのだろうか。現実と同じ23歳だったら流石に若すぎる気がする)
少女との馴れ初めも思い出した。
出会ってから最初の買い手のもとに行くまで、洗脳の影響もあるだろうが、ずっと僕を信頼してくれていたのだった。
少女の笑顔。
僕が買い戻してからも、全幅の信頼であり全面的な献身を僕にしてくれていた。
彼女の仕草。
彼女の声。
彼女と行った場所、その時かけてくれた言葉。
そんなに多くは無かったが、彼女と過ごした時間の全て。
——以上が一気に頭の中に入ってきた。
文章で書くと中二病その他丸出しでなかなかイタいのだけれども、夢の中の自分は(全てを真実と思い込み)まともにダメージを受けていた。
罪悪感、絶望感、後悔、諸々の負の感情が、(夢の中の)過去の記憶をトリガーにして爆発した状態だった。
立ちくらみがした。
フラフラ歩きながら、父の罵声を聞きながら、リビングスペースに戻ると、壁一面に紙が貼ってあった。
借りたお金の返済を迫る警告書や自分の指名手配のビラが暗い部屋の六方の面全てに敷き詰められていて、いや、待てよ、この光景は見たことがある。
蛍光灯の紐がぷらんぷらん揺れていて、薄暗くて、詳細に描かれたモノクロで、誰かの怒鳴り声がするこの状況は、間違いなく最近見た夢だった。
これは夢だ。
起きなければいけない。
起きればこの最悪で最低の気持ちが段々と薄らいでいく事を僕は知っているから、早くこの悪夢から覚めないといけない。
僕が夢を自覚するのは例外なく悪夢の時であり、夢を自覚した時に僕が行うことは決まっている。
どうにかして目をかっぴらこうと顔面の筋肉を無茶苦茶に動かす(夢の中で)。
とりあえず目をかっぴらけば夢から覚める。
当たり前の事のようだが、夢の中にいる自分が現実世界にいる自分に干渉するのは毎度毎度至難の業だ。
今、夢の中にいるこの自分は確かに目を開いているのだが、その状態で僕は「目を開かなければいけない」。
実時間で5分程度だろうか。
体感時間は無限に長かった。
今回は本当にとても長かった。
僕はやっと夢から醒める事が出来た…