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新たなる戦いへ

結局シェイは、より多くの食料等の報酬と引き換えに、新たなる戦場へ旅立つこととなった。ヴァイスタらは、より詳しい調査のため上司へと熱心に働きかけ認可を取り、その護衛のためにエスケーらを付け同行するといった。


「で、どこなんすか?」


「もちろん激戦地よ!」


 スタグビイ教会がその向かう先だった。要所に存在するために過去激しい争奪戦が繰り広げられ、すでに教会そのものは破壊しつくされ消滅していた。


現在はニキンに奪取されており、カサルは都合9度目の攻略作戦を準備中だった。小競り合いへ送られるのが精々だったシェイは、初めて長期間の大規模な戦闘へと投入されることになった。


 事前に現地へ研究員が送られており、そこで合流後作戦を開始する運びとなる。


 緊張はすれど、これまでも戦場で命の危機に晒されてきた。彼はムウラやシェイ派の家族へ言伝を残し、出来る限りこれまでと同じくあろうとした。船に残った家族たちが送迎会を開いてくれて、ムウラの世話も約束してくれた。


 教会へ向かう途中、シェイはエスケーらの暴行暴言と、シルバの襲撃に悩まされた。前者は陰湿極まりなく、後者は半ば意地になっているようだった。


「今に見ておれなのだー‼」


 撃退後、真っ赤な顔で涙ぐみながら逃げ出す彼女を見ていると、シェイはどうにか双方に納得いく結末を用意できないかと思ったが、自身の首を求められていては不可能だと諦め、せめて怪我をさせないようにと苦心するようになった。


 現地へ到着すると、ヴァイスタは指揮官リッチイン団長へ書面を渡し、シェイの参戦が命令として正式のものであると主張した。


リッチインは従いはしたものの、現場を荒らされてよい顔はしなかった。また、『恥を知れ(グレット・ライトマン)』の助力を得るのはもっと嫌がった。兵士らも同じ感想で、冷たい視線をシェイらへ送り中傷の言葉を浴びせた。


 シェイは傷つき腹を立てたが、同時にムウラや家族らに想いを馳せた。彼女たちはこれに耐えきれず、『四つ葉(シンサリー)』へと逃れてきたのだ。そう思うとやはり、見捨てておくことはできない。


 用意されていた仮設の陣で、シェイはヴァイスタから作戦の説明を受けた。


「ばっといって、がっとやっつけて、戻ってくるんです。ここで―」


 ヴァイスタは地形図の一点を指さした。教会跡地の一角で、ニキン兵の前線基地が備え付けられていた。


「見晴らしがいいからよく見えます」


「作戦じゃないすよこんなの……」


 苦言を呈したところで、拒否権などないとシェイはわかっていた。結局これは実験なのだ。研究者たちにとって戦果はあくまでおまけで、『鬼堕ち(トゥルス・グレット)』の情報を得ることが目的である。死亡に追いやっているわけではないが、必ずしも生還を目指してはいないのだった。


「大丈夫! 『鬼堕ち(トゥルス・グレット)』の力は並じゃないんですから! 死体もきちんと回収します!」


「……絶対死なないっすからね」


 シェイ個人としては、色々と融通をしてくれるヴァイスタは好ましい人物である。その一方、やはり『恥を知れ(グレット・ライトマン)』であることへの偏見を確かに感じてしまった。


 エスケーらも、陣内に入ることは許されず粗末な野営道具で過ごすことを強いられていた。兵から罵倒され、反論もできずただ時が過ぎるのを待つ姿を見ると、シェイはそれまでの恨みも忘れて哀れむ気持ちになった。


 『恥を知れ(グレット・ライトマン)』は確かに言い逃れようのない事実である。だが、それによって受ける暴力や非難をすべて当然として甘受せねばならないのだろうか。


 渦巻く想いを隠し、シェイは到着から数日後、『鬼堕ち(トゥルス・グレット)』によって変身し、命じられた戦場へ駆けていった。


 見送るのは新たな情報に期待するヴァイスタら、妬みと憎悪を抱くエスケーたち、軽侮と反感、怪物の姿に恐怖するリッチインと兵士たち。


 見慣れたものであるはずなのに、シェイは胸が詰まる感覚に苛まれた。追跡してくるシルバの気配を背に、彼はニキン兵ひしめく前線基地へと突撃した。


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