果実はまだ実らず
その日から数日間、ヴァイスタ達によりシェイは徹底的に調べられた。白い研究本部の一室に押し込められ、それこそ尻の穴の中まで探られた。どうやって彼は、仮面無しで変化を成し遂げ
たのか。ヴァイスタ達の関心はその一点のみにあった。
『鬼堕ち』、変化の事をヴァイスタらはそう仮称した。条件、その力、昂奮しきった研究者たちはそのすべてを知らんと欲していたのだった。
当然、シェイはそれを大いに不満に感じたが、致命傷だった太腿の傷を治癒してもらった恩があり無下にできなかった。また、自身の状態を知る必要もあると感じていた。傷は癒えたが足が思うように動かない。『鬼堕ち』がなければ生き抜くことは難しい、持ち前の現状把握能力が結論を提示していた。
調査の結果、原因の究明はならなかったものの、激しい怒りによって『鬼堕ち』は発現するとわかった。怪力と治癒力、武器の過剰強化といった本来の仮面の力をそのまま使うことができた。研究者たちはその再現に強い望みを見せた、仮面を作る工程を省ければ、軍団を容易に作り出すことができる。
だが、それはシェイに幸福をもたらしたわけではなかった。傷の後遺症で素早い動きがとれなくなり、変化を日常でも行わねばならなくなった。
あくまで仮面の力は、それを発現させている時にしか反映されない。その姿を反シェイ派やエスケーらは怪物と呼び、敵意と憎悪を強めていった。
シルバは森へ潜伏し、なおもシェイを狙い続けているのだった。
「今に見ているのだ!」
『恥を知れ』に負けたことで火が付いたのか、彼女は何度も何度も挑んできた。シェイはその理由を知ったために殺すこともできず、変身し撃退してはその姿を家族らへ晒す羽目になった。親しかった人々にも恐れが見えるようになっていた。船の残骸から退去する家族が増えていき、反シェイ派へ合流するものも現れた。
ムウラは変わらず部屋にこもりきっていた。ヴァイスタはシェイへ興味関心を強め、船の残骸へと移り住んだ。そして、詳しい研究結果を得ようと、しきりに仕事と称して激戦区へと彼を送り込もうとするのだった。極限状態で得た変化のため、似た状況におけば何らかの糸口が見つかると推測したためだった。
あくる日の夜、シェイはそうムウラへと報告しながら夕食を共にしていた。
「小賢しい女だ……貴様はどう思う?」
「見返りは倍っすからね、受けようと思います」
「そうか……よし、今日こそ一緒に寝るな?」
「ベッドが別なら……」
「なんでだあ! 私が嫌いなのかあああ⁉」
「そ、そうじゃなくて……」
彼は一人逃げても良かったが、そうする気が起きなかった。ムウラ、そして家族達を放り出していく判断が、どうしても決められなかったのだ。
変わらずシェイへ接してくれる家族はもちろん、反シェイ派へ転じた者たちも見捨てられなかった。
それは優しさであり、また彼らを堕落させる一因でもあった。未来をどうすべきかわからぬため、現状を維持することに重きを置いてしまう。
今の彼はまだ導き手ではなく、流されるがままであった。