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第96話 閑話 日常①  ~「おいら久しぶりっす。もっと出たいっす!」

はい、こんばんは。皆さま今宵もありがとうございます。


ではさっそく第96話どうぞ。





*****女の日常*****




「・・・・」ごそごそとベットの毛布が動き出す、がまた動かなくなった。


「・・・・」ごそごそと再び毛布が動き出す。しかしその動きは何かを逡巡する様子にみえる。


「・・・・あー・・・もう朝ね。分っているわよ、今起きるから・・・・・あっハイハイ起きます、寝てませんよ・・・・・」誰もいない部屋で女は何かと会話をしている。


しかしまたその部屋は静かになった。






「・・・!!!はっ!いけない!」毛布をはねのけ寝間着を脱ぎ去りその締まった体躯とささやかに主張する胸部に下着を身に着けると女は主より特別に支給された鏡の前に座り髪を整える。


「はあっ、さてと今日はご主人様はご不在で、ええと今夜はお帰りの予定だからお酒を冷やして、夜のおつまみも、は昨日ミミが仕込んでいたのもあるし大丈夫ね。それと・・・」



女は身だしなみを整えながら今日の予定を口に出しながら確認するのは毎日の習慣であった。


最後に薄く紅を指した女はこれも主より支給された紺色のワンピースの制服に身を包み最後の身だしなみを確認すると改めて鏡に向き直り。


「知矢さま、おはようございます。本日もご機嫌麗しく」と丁寧に腰を折り頭を下げる。


そして一呼吸置き顔を上げると鏡に向かいにこやかな笑顔を魅せると朝のルーティンワークの終了である。



女は与えられた部屋のドアを開け静かに今日の一歩を踏み出すのだ。






「はい、では本日の予定は以上になります。ではよろしいですか。

では!本日もご主人様の為に頑張りましょう!」


「「「「「ハイ!!」」」」」



女は使用人を集めた朝礼で訓示を述べ予定を確認すると皆で声を併せ一日が始まる。

この声出しと呼ばれる瞬間が女は一番気持ちが入りキリットした空気になるので大好きであった。


使用人たちがそれぞれ決められた仕事に分れ散って行くと今度は同僚の若い女との打ち合わせだ。


「新しい使用人の育成はまだまだ予定通りですが40%ほど。最近はご主人様の不在が多いので忠誠心の育成が鈍化しているのが問題。」


若い女の報告に眉をしかめる女。


「それは大問題ですね。如何にすればご主人様のすばらしさが彼女たちに早く浸透するか、早急に教育プログラムを考えましょう。」

二人の打ち合わせは熱が入る。




打合せを終え朝食の準備が整うとこの店では手の空いたものから順次食事を頂くことになっている。


「お先に失礼します」先に食べ終えた使用人が食事の終えたトレーをかたずけながらダイニングへ入ってきた女へ挨拶をし片づけを終えると忙しく仕事へ向かったようだ。



「ササスケさん今日のお味噌汁は御芋のお味噌汁で美味しいですよ」


「おお、拙者芋の味噌汁が大好きでござる。いやあ白いご飯とお味噌汁がこんなに幸せを感じるなんて拙者奴隷になってよかったでござる」


大テーブルで食事をしている警備のササスケと手代のシンゾウは楽しそうに会話をしながらご飯を掻き込んでいた。


「ハイハイ、楽しく食事も良いですがマナーだけは守ってくださいね。ササスケさん貴方口からご飯が飛びましたよ。口に物が入っているときは喋らない事!」


ハイとささすけは答え慌ててとんだ米粒を拾い口に戻した。


女はそれもどうなのだろうかと思ったがあまり細かくがみがみいうのを避けるためにキッとした目線だけにとどめた。




食事を終え今度は商店の開店だ。


店を担当する使用人一同が表戸を開け掃き清めた店先に居並び店の前に客がいようがいまいがに関わらず

「「「「「おはようございます。」」」」」と声を出し腰を折って挨拶をするそしてその後


「魔道具商店開店のお時間です。本日もよろしくお願いいたします。」

「「「「「お願いいたします」」」」」


女の挨拶に使用人たちが唱和し商いが開始される。




店がオープンした当初は毎日客が押し寄せ説明も時間がかかり大変混雑した。

そしてその後マジックバックを発売すると更にうわさを聞きつけ遠方や普段市井しせいの店にはあまり顔を出すことない貴族やその関係者まで押しかけ大騒ぎとなった。


しかし次第に購入客も安定し落ち着きを見せる様になった店先はそれほど混雑をする事も無かったがそれでも未だ他の都市から魔道具のうわさを聞きつけ買いに来るもので繁盛していた。が!




「ボンタさん、あのゼンゾウ君が説明しているお客様ひょっとしたら」

女は店先から一歩奥まった場所で店全体を注意していると一見にこやかな旅の行商人に見えるが違和感を感じる男が目についた。


店の奥で姿を客に見られない様にしている別の男に声をかけ様子を窺がわせる。


「ああ、支配人様ありゃあ南の奴ですね。間違いない。必死に繕ってはいるが南の匂いがプンプンしやす」男は匂いと言ったがその能力は気配感知に優れており怪しい客を見抜く力を備えていた。



女は店先で荷の引き渡しをしていた細身の長身の男に合図を送ると

「あのゼンゾウ君が相手している行商人南の人よ表の兵士さんに伝えて。」


細身の男は黙って頷くと軽やかに身を返し静かにさりげなく表に出てその行商人から見えない場所で兵士に話をする。


「毎度ありがとうございました。」ゼンゾウが商品と引き換えに料金をもらいその行商人が店を出て10m程歩いた所でいきなり兵士たちに囲まれた。


「なな何なんですか!私は只の行商人ですよ。きちんとお金を払って買い物してるんだお前らみたいなやつに囲まれる覚えはない!」とまだ何も言ってもいない兵士に必死になって自らが正当な人物だと訴え、しかも何故か怒気をはらむその様子はいかにも自分は悪い事を考えていますよと言っているようなものだ。


「いいからちょっと来い」両脇を兵士に掴まれ前後を囲まれた男は無理やり店の近くに臨時に設けられた都市騎士団詰め所へと連れて行かれた。



「もう何人目でしょうね」女がぼそりと呟くとボンタと呼ばれた男は「さて、まあまだまだ続きそうで気が抜けやせんわ」


二人とも落胆をしながらも周囲にさりげなく目を光らせるのであった。




その男は南の大国 ”ルドマリッド人民共和王国”から不法に潜入した工作員であった。


先述した彼の国の事は既にご存知であろう。


知矢の魔道具商店で格安でしかも値段が安い魔道具、特に戦争に有用なマジックバックを入手すべく商人や市民を装った工作員が頻繁に潜入し買い求める事案があった。


商売としては売ることはやぶさかではない知矢だが戦争の道具として帝国の民衆や軍人に被害が及ぶようなことに手を貸すわけにはいかないと南の大国へ物資が流出するのを防ぐ防護の魔法を施し国境を超えるとマジックバックの開閉が出来なくなる処置まで施した。


これには一部の商人から苦情が入ったが南の大国対策だと言うとほとんどが納得してくれたがほんの一部は密かにあっちへ売り込み大金を得ようと画策していたのであろう。大分ごねていたが知矢と商店の方針は変わらなかった。


但し小商いをする者向けには使用者限定やその他の秘密の対策を施し国境超えでも使用できるようにしていたがあからさまに南の国の関係者には販売を禁じていたため身分や姿を偽る者達が後を絶たない。


しかし都市を管轄する管理貴族のアンコール伯爵などは「工作員の捕縛に良いエサになる」と喜んでいるとの話が知矢に伝わると伯爵に対して怒気を顕にした知矢だがまたその話が伯爵に伝わると慌てて「警備の兵士の派遣期間を更に無償で延長する」と連絡が届いた。


そんな時に慌ただしい魔道具商店であったが使用人たちは皆楽しくまじめに皆が仲良く働いて暮らす良い雰囲気であった。


これは知矢の使用人に対する奴隷とは思えぬ破格の待遇があったのは大きいがそれと共に使用人の筆頭総支配人を仰せつかった女があれこれ気を使っている事も大きい。


毎日の食事に始まり、人の配置、それぞれの者の体調にも留意し時に休ませ、時に配置を変え、時に叱責し、時に皆で楽しむ。


そんな店作りを心がける女であった。


それもこれも女が主である知矢に心酔しているのが大きい。

そして今ではその心の仲間、サーヤと言う元貴族令嬢が加わり共に店や使用人を盛り上げ()いては知矢の為ご主人様の為と苦心するのであった。



「また貴族から招待状」


「ご主人様はそう言うのは好まないと言ってあるのに。良いは御断りのお手紙を出しておきましょう」


「こっちはどっかの都市の豪商から『手形を送るからマジックバックを送れ』と。」


「それはトーヤ様のご意思に反しますから直接対面販売しか受けない旨丁重に返信いたしましょう。」


「ご主人様に外郭都市リックの冒険者ギルドから指名依頼がギルドにに来てるそう。」


「ご主人様はお忙しいので無理とお断りしましょう」


「都市警備騎士団から指導の依頼」


「それも無理ね。丁重にお断りして」




あれやこれやと知矢への雑事を減らそうと腐心する女だった。




この日も一日の業務を終了。店は表戸を閉め在庫の確認や明日の準備をする使用人達。

その傍らで使用人を交えて一日の報告を受けたり元貴族の女がまとめた帳簿の確認、奥向きの使用人から生活関係や料理の材料の報告や注文を整理、警備担当からの報告、研修中の新人使用人の様子の報告や追加指示の伝達、そうこうしている内に主の帰宅の報が届き急ぎ他の使用人を連れ裏玄関へと急ぐ。


「ご主人様お帰りなさいませ」「「「「「お帰りなさいませ」」」」」


「ああ、今戻った。留守中は問題なかったか」


主へと挨拶を終え主の部屋へ同道する女。


主の外套を受け取り”クリーニング”魔法を施してから皺にならぬようハンガーへとかける。


「知矢様、改めましてお帰りなさいませ」と丁寧に腰を折り頭を下げる。


「本日も些細な事は除き無事商売を終えることが出来ました。帳簿などは後ほどデスクへ置いておきます。ご主人様はお食事になさいますかそれともお風呂に・・」



知矢の身の回りの事も率先して勤める女であった。



夜も更け主と共に皆が顔をそろえる、夕食の時間である。


主が居る時は勿論であるが不在の時でも夕食は全員が顔をそろえて楽しく会話をしながら食べる。

これがこの店の使用人のルールだ。


女は元々高家貴族のメイド長を務め長く貴族のルールの中過ごしてきた経験を活かしながらこの店の、使用人たちの教育にもその経験を生かしてきた。


当初厳格なルールの元”食事中に話をするなど以ての外”と規律を定めていた女であったがある日主より『食事は皆で楽しく話をしながらゆったり食べると尚美味しい』と言われたことから方針を180度転換。

今に至る。


夕食後主の側に付き従い酒をたしなみ話をするのを相槌を打ちながら聞く女。

女にとってその時間が至高の時である。


時に主に勧められ一緒に呑むこともあるし他の者も同席する事もあるが主の横顔を見ながら見ながら聞く冒険談や新たな試みの相談、時に食に関する事柄などそんな時間が女にとって貴重で幸せな時間であった。



女の生まれは貴族家の庭にある使用人の為の別宅であり両親は父親は庭師、母はメイド。産まれ持って貴族のメイドになるべくして育った女であったが仕えていた貴族の不祥事と借金の問題が絡む騒動で使用人一同も奴隷へとなってしまった。


仕えていた貴族は使用人の事など気にもしなかったが奴隷の様には扱わなかった。それが奴隷の身分になる事が決まった時女は何としても未だ見習いで幼いメイドや使用人を助けるべく奮闘したが所詮ただのメイド長でしかない女の浅知恵と何もない財力ではどうする事も出来なかった。


多くの奉公人がどんどん散り散りに売られていく中まだ少女からやっと育ってきたばかりのメイド見習いたちを励ましながら誰か纏めて良い方に買ってはもらえないかと奴隷商会へ嘆願しながら過ごしていた。


その際も色々な事はあったが結果として知矢に買われたが当初面通しの最受けた印象では『若い冒険者ではばらばらにしかもこの若い娘たちがひどい目に遭わされるのではないか』と心を痛めていた。


蓋を開ければ全員が一緒、しかも女も含め他にも冒険者や商家の奉公人だったものなど一度に驚くばかりの人数を買った主の意図が解らなかったが全員を連れ古い商家の空き家へ連れてこられてからの見聞きする話のそれは想像を絶する事ばかり。


主の魔法を存分に活用した魔道具の販売の話や奴隷の使用人たちの待遇の話、女を見込んで総支配人へ抜擢し『お前を信じてすべてを任せる』という言葉を受けた時女は『この方に一生従おう!一生涯の忠誠を』と心に決めたのであった。



実際は知矢の中で彼女を信頼して任せたのは事実だが(俺にはまとめるのは面倒だし大変だから丸投げで)という意思があった事はこの場では伏せておきたいと思う。


そんなこんなで女には主に対する絶対的な忠誠心が宿りそれを他の使用人へも強く促している。


そんな様子なので元貴族令嬢の使用人から『心身使用人の忠誠心の育成が鈍化しているのが問題』と聞けば穏やかではいられない。


何とかしてご主人様への忠誠心を教えなければ。そうすればあの者達も幸せになれる、と信じているのだから。



主との楽しい夜の懇談も終え先に休んだ主を見送り店や周囲の状態、他の使用人の様子をさりげなく確認すればもう女も寝る時間である。


主が作ったお湯と水を自由に出せる魔道具の備わった快適な風呂で一日の疲れを汗と一緒に流し自室へ戻って日記を書けばもう眠気をもよおす頃合いである。


既に寝間着に着替えてある女は朝の様に再び鏡の前に立ち


「ご主人様今日も一日お疲れ様でございました。どうぞごゆるりとお休みくださいませ」と深々と頭を下げるのであった。実はこの時女の寝間着は胸元がゆったりとあわせられておりもし目の前に主が本当に立って挨拶を受けていたらとても良い物が見られたかもしれないが女は寝間着姿で主の前に出る事は無く使用人として自室の鏡の中にいる主への想いを密かに表現する行為であった。




朝が訪れればまた女の一日が始まる。



何か騒がしい店先へ出てみると使用人と警備担当、そして老齢の客が何やら揉めている。


「いいから店の主を出せ!お前らじゃ話にならん!!」若い手代が丁寧に説明している様子だが老害は興奮を増すばかりだ。警備の者もただ文句を言うだけの者を手荒く扱うのに躊躇している。



「皆さん、どうかしましたか」女が店先へと顔を出すと

「何だお前は!女じゃ話にならん!主を出せ!!」

すると女は




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と威儀を魅せ堂々と大きく宣言するのだった。







「ニャアトーヤ」


「何だ」


「閑話って何だ」


「そうだな・・・話の続きに悩む作者が話の続きを考える間に時間稼ぎをする話・・・の事かな」


「ニャんだそれ?」




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