第95話 古龍のお話し ~危機再びか、迫りくる何か
はい、今晩も何とか投稿いたします。
では第95話どうぞ。
『古龍さま、いや何もそこまでしてくれる様な事は俺はしていませんから』
追いすがり声をかける知矢の願いもむなしく古龍は独り合点をしたまま静かに湖の深淵へと帰って行った。
夕刻前の騒ぎで何か疲れた知矢は皆を残し1人と一匹従魔を従え自分のテントで軽く仮眠をとり精神的な疲れをいやした。
仮眠と言っても横になり目を閉じていただけで眠っていた訳では無かったが半刻程休憩できたのでだいぶ楽になった。
もっとも知矢のステータスはかなりスペックが高く体力や回復力も強力であるから肉体的には疲労をしていた訳では無い。
やはり突如現れた水龍、しかも数千年の時を生きてきた古龍が目の前におり、しかも高度な思考と言語能力を持つ言わば神龍ではと思う程の龍が現れた事への興奮と驚き、そして敵対しないよう気を使った会話で疲弊していたところに追い打ちをかける様に知矢のステータスを覗き見た古龍が最高神の加護を持つ知矢に対しがらりと態度を変え
『眷属は元より我が龍族に広くトーヤ様の事を伝達しておくとしましょう。さすればどこかで何か困った折に近くにいる龍族やその眷属へ声をかけて貰えれば皆すぐに喜んで力を貸すでしょう。うん、そうしよう』
と一方的に納得し知矢の事を広く龍族へと広報するなどと言われた事からさらに驚きを増し精神的な疲労を一気に蓄積したようだ。
ピョンピョンを肩に乗せテントを出た知矢は使用人たちが集う方へと向かった。
キャンプ地は湖に向かいテントを扇型に配置し後方には魔馬と荷車が並ぶ。
テントと湖の間にはテーブルと椅子、そしてその脇には簡易に石組で作られたかまどや火の魔道具、水の魔道具が置かれた台を配置している。
上を向くと木々や枯れ木の幹を杭代わりに利用し張った大きな布の天幕が張られており夜露や多少の雨でも過ごせるように工夫されている。
周囲には光を発する魔道具も配置されており周囲が漆黒のなかキャンプ地だけは煌々と明るく照らされた空間が出来上がっていた。
不思議な事に魔法で作られた光には虫が寄ってこない様で助かっている。逆にひょっとしたら虫よけの何か波動や超音波でも出しているのかもしれない。
「みんな、すまない少し休ませてもらった。」知矢はニャアラスや使用人たちに声を掛けながら指定されていた椅子へと腰を下ろす。
「おお、ご主人様お加減は如何ですか」
「ニャア、龍に脅されて疲れたニャ。俺なんかしばらく毛が逆立って、ほれ今も尻尾だけこんなんだ」
心配そうな顔で知矢の様子を窺がう使用人たち。
ニャアラスはガマの帆の様に膨らんだ尾を見せてくれた。
「心配かけたな、もう大丈夫だ。やはり俺も古龍を前にしてだいぶ緊張していたみたいだ」
「「「「「「エンシェントドラゴン!!」」」」」知矢から初めて聞かされた湖から突如現れた巨大な水龍が事もあろうに古龍であったと聞き皆が悲鳴にも似た大声を上げた。
そんな皆の悲鳴をさらりと受け止め
「ああ、数千年この湖に眷属たちと暮らしていると言っていたから、俺はてっきり古龍だと思って『古龍さま』って声をかけていたがあっちも否定しなかったからてっきりそうだと思ったが、・・・違うのか?」
「「「「「・・・・・」」」」」一同返答に困った様子である。
「ご主人様、わしは北の大森林や東の大森林の片鱗、そして少しだけ奥まで足を踏み入れた事が有りますがの、さすがドラゴンに巡り合った事は無いですわ。だからあれが古龍かただの龍か見分けも付きませんわ。」
歴戦の元冒険者であるギムも龍との遭遇経験は無かったようだ。
「それにご主人様、龍を見たっていう情報は冒険者ギルドでも大々的に広報されますし壁に貼ってある魔物の出現報告地図にもそんな大物が現れたら書いてありますよ。でも見たことが無いからラグーン周辺では初めてではないでしょうか。」
ミレも記憶を手繰る様に顔をしかめ頭をひねるが覚えがないようだ。
「まあ本人が数千年と言っているのだそう聞いておこう。
それに古龍さまは昔龍族を狙った人族が襲ってきたような事を言っていたがそれだってひょっとすると数百年前の話かもしれないしな。
何といっても数百年生きていれば百年などついこの間の様かもしれないし。」
「それでトーヤ、結局古龍さまはなんで姿を現したニャ」
とニャアラスがもっともな事を聞きたがるが
「・・・正直よくわからない」
「解らニャイ?何でニャ色々ずい分話していたみたいだったニャ」
ニャアラスと使用人たちは湖畔の林で夕食のおかずにと魔獣を探して狩っていたが龍が湖に現れた時の「Gyaaaaa!!」という叫び声に林を抜け湖畔からキャンプ地を遠目に見ると巨大な龍が湖上に姿を現していたのを見て慌てて湖畔を走り知矢の元へ駆けつけようとしたが近くまでたどり着いては見た者のやはり魔獣、魔物の頂点に君臨する龍。その存在するだけで周囲を威圧する勢いに近づく事さえできずにいたのだった。
辛うじて知矢の姿が確認できる岩肌の小山まで戻ってきた一行だったがどうしてもその先へ進むことが出来なかった。仕方が無くそこから龍に気が付かれないよう隠れて様子を窺がっていたのだがその距離では知矢と龍の間に起こっていた何物も知ることが出来ずにいた。
「そうなんだ、いきなり現れ『お前たちはここで何をしている』って聞かれたけどどう返答していいものか俺もやはりあの時は焦っていたって言うか驚いて言葉が出なかったみたいだな」
「それはそうですよご主人様、なんといっても龍ですから。私なんかその姿を問う目で見ただけで危うく失神しそうでしたし」ミホはその時の自分の心境を身振り手振りで語り卒倒する真似まで見せていたが実際それ位衝撃的であったのだ。
「それでなんとお答えに」ササスケが先を望んだ
「ああ、いやただ正直に水の浄化実験で」知矢はその後古龍との会話の流れを一通り使用人たちに話した。
「じゃあやはりご主人様の言っていた通りスライムには水をきれいにする能力が備わっていると言う事ですね!」ワイズマンは少し興奮気味に確認する。
「ああ、古龍が言っていたのだから間違いはないだろう、それにミミと観察していたが、なあミミお前もみただろう。」と知矢は皆が狩りに行っている間の出来事を聞かせミミに同意を求めた。
「はい、私とご主人様が鍋の中を覗くと既に排水の匂いも減り水も少し透明になり始めていましたよ。あっそうそうご主人様、お休みになっている間にまた観察すると匂いは全く感じず水もすっかり透明になっていました。時間で言うとおよそ1刻程だと思います。」
「えっそんなに早くかよ、あの汚い水がか!」ノブユキが驚きの声を上げた。
それもそうである。濁り悪臭を放っていた排水を樽に必死の我慢で詰め込んだのがノブユキであったのだ。
あの時は「こんな汚い水が綺麗になるわけがない」とぶつぶつ文句を言いながら我慢して仕事をこなしていたのだから。
「ええ、もうすっかり。まあそれでもそのものを飲む気にはなりませんけど。」とミミは素直な感想を述べた。
知矢は取りあえず浄化の第一弾は目途が付き今後繰り返して確認実験は行うものの先は見えたと確信していた。だがミミが言った通り見た目や臭いが澄んだとしてもそれを飲むとなると話は別だ。
確かに飲むことを目的にはしていないが河にそのまま流して良いものか、更なる処置が必要か。その事も考えなければと思いその件は一度店に戻り元研究者である転生者のサーヤと相談する事にした。
騒ぎが有った為すっかり遅くなった夕食を始めた知矢達。
湖畔の林で狩った一角うさぎや森ネズミを焼いたりスープにしたり、かまどではパンを焼きそのパンの生地を流用してナンのような物を試しに作ってみたりとワイワイ言いながら皆で料理をして夜を過ごしたのだった。
相変わらず使用人は禁酒を貫いていたが知矢は勧めもあってニャアラスと今夜も杯を交わしていた。
「おいニャアラス。今夜はあまり飲み過ぎるなよ。湖から魔物が襲い掛かって来ても酔いつぶれていたら置いていくからな」
「ニャニャ、大丈夫大丈夫今夜はほどほどにするニャ。だけど置いてくのは無しにゃ!」と知矢にすがる様に訴えると周囲でお茶を飲む使用人たちの笑いを誘う。
その傍らでは普通に与えられた皿にのる食事をする知矢の従魔の姿があった。
それを横目に見ながら(次の進化はいつか。また大食いをして教えてくれるだろうが)と考えながらも古龍は 『あやつらの王はわしにも匹敵するほど巨大でのう』と言っていた。
ピョンピョンの仲間、その王はそれほど大きい、ならこの従魔もいつかそれ程の大きさにと少しだけ心配をするのだった。
そんな知矢の心配をよそにピョンピョンは食事を終えその少し大きくなった体で皿を持ち上げ器用にもピョーンと跳んで炊事場の方へ片付けるまで人間の生活に慣れてきたようだ。
「うわ、ピョンピョンさんありがとう。きちんと流しまで持って行ってくれるなんて、ノブユキさんも見習った方が良いですよ」とマクが従魔を褒めノブユキに見習う様にと注意する。
「えええっ俺かよ、ピョンピョンがやっているんだからなハイハイ、今度からやるよ」とすねた様子を見て皆の笑いを誘うのだった。
その後使用人たちは片づけを終えると交代で魔馬車の荷台に狩りに作った水浴び場で温水シャワーを浴び各自が自由にテントでくつろぐ時間となった。
そんな様子を見ながら知矢は未だニャアラスと酒を飲んでいたが
「ニャアトーヤ」
「何だ」
「しかしホント古龍様は何しに来たのかニャ。人族が湖のほとりに姿を見せるニャんていつもの事だニャ。態々毎回姿を見せないニャ」
先の話を繰り返すニャアラスだが実際その通りである。
元々龍族は人族に興味があるわけでもなく自分たちの脅威にもならずましてや人族を食べる訳でもない。
日頃交流も無ければ獲物の少ないまたは獲物の小さい地域、人族の生活圏に姿を現す理由が無いのである。だから龍の目撃情報が殆ど無い理由の一つでもあった。
この湖にしても対岸が全く見えない程遠く、しかもその先遠くに見える山に広がる森森は東の大森林だ。
そんな広大な湖の岸辺にいた極小さな存在の人族の若者、知矢へと注意を向けたには訳があるのではとニャアラスは言うが知矢もそれに関しては全く理解できなかった。
「まあ、多分たまたま通りかかっただけじゃないかな」と知矢はそうしか言えなかった。
「たまたまニャ」
「そうたまたまだ」
酔っ払いの二人はその後も結果や結論が出ない話をグダグダと話しながら夜が更けてゆく。
しかしその時、知矢達がキャンプを張る岸辺をはるか遠くの湖面から見つめる者がいた事を知矢のレーダさえも未だ感知してはいなかった。
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誠にありがとうございます<(_ _)>
まあ、他の書き手の肩のアクセス数に比べれば私などは底辺も底辺ですがそれでも毎回読んでくれている皆様が居る事が本当に!嬉しく思います。
出来ますならば感想なども書き込んでいただけると皆さんがどういった思いを持って読んでくださっているのかが知ることが出来ると思います。
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