第92話 閑話 ~ ある女の立場
今夜も遅くなりましたが更新がなんとか出来ました。
更新できない出来ない詐欺とか言わないでね(^_^;)
では第92話どうぞ
「貴様!我を侮辱する気か!許せん!!剣の錆にしてやる、そこに直れ!」
「うわわわあああ!何だこの女、つか何が剣の錆だ手前の持ってんのは只の箒じゃねえか脅かすなこの女が。」
男は激高した女が振り上げた剣に恐れおののいたのも一瞬。それが只の箒であったことに気が付くと再び気が強くなったのか女をあざけ笑う。
「なにおおお!貴様!」
振り上げた箒を剣のつもりなのか大上段に振り上げた女は一気に男の懐へ飛び込み剣をいや箒を縦一文字に振り降ろそうとした、が。
「そこまで!」大上段から一気に振り降ろす直前いつの間にか迫っていた別の女に剣をいや箒を掴まれ一ひねりで奪われてしまった。
「あっ!」獲物(剣いや箒)がその手からなくなり我に返る女。
「あんた、からかい半分で買う気が無いなら帰ってくれないか。それとも今度は箒じゃなくてあたしの本物で追い払ってもいいんだぜ」
と現れた女は腰に下げた本物の剣をコツコツと拳で叩きながら男を睨む。
「けっ何だこんな店。二度と来るかこのブス!」と捨てセリフを吐き男は人垣を押し割って逃げるように去っていった。
「ぶっ、貴様待て!」先ほどまで箒を振り上げていた女は男の捨てセリフに再び激高し追いかけようとするが
「こらあんたもいい加減にしな」と襟首を後ろから摑まれ引きずられるように店の中へと連れて行かれた。
「サーシャ殿・・・・すまない・・・」
店の奥にある広間へ連れて行かれた女は両腕を組んだまま不機嫌そうな顔をして黙ったままの女に頭を下げた。
「あんたはリラレット総支配人に何を指示されていたんだっけ」と怒気を込めた声で尋ねられる。
「私は・・・その、店の前を掃き清める様にと・・・」
「で、掃除は終わったのかい」
「いやだから表に出たらあの汚らしい男が何か卑猥な言葉を投げかけてきたので成敗しようと・・・」
「あんたは何?」
「何とは?」
女は質問の意味が解らなかった
「あんたは今どこで働くどんな立場の者かって事!」
「私はトーヤ様の麾下で働く剣士」
「剣士じゃないでしょ!」と言葉を遮られる
「・・・今は剣士ではないがいつかトーヤ様の」
「だから、今のあんたは何! 将来の事なんか聞いてないし、あんたの過去も関係ない。
今!今あんたは何でここに居て何をするの!」
「・・・トーヤ様の使用人で総支配人様から言われた仕事をしておる、いやしてます。」
「してないでしょ。何を言われたか知らないけど通りすがりの男が何か卑猥な言葉を投げかけたって相手にしないであんたは掃除してるか、掃除しながら適当に聞き流せばいいでしょ。なんで箒を振り上げて口上までいちいち言いながら剣士のマネなんかすんだ。アァ!!」
「・・・申し訳ありませんでした。以後注意いたします」
丁寧に頭を下げると叱っていた女は表は良いから裏庭の掃除をしててと言い残し去っていった。
「はぁ・・・」女はとぼとぼ下を向きながら裏玄関へ廻り裏庭の掃除を今度こそしなければと思いながらも「なぜこのような事に」とつい先日までの自分を思い出しながら未だ気持ちが定まらない様子でいると
「あれえ、どうしたんですか」と元気な男の子の声で顔を上げるとそこにはいつもニコニコと笑みを絶やさない若い男の子がいた。
「ああ、えっと・・」
「カンゾウですよ」
「あっそうそうカンゾウ殿。すまない未だ皆の名前も覚えていなくて」と女は自分よりだいぶ若いその男の子へ頭を下げる。
「そんな止して下さいよ。同じお店の使用人じゃないですか。それより元気ないですけどお腹でも痛いんですか」
ニコニコ顔のカンゾウであったが少し女を心配し顔色を窺っている。
「いや大丈夫じゃ・・・また失敗と言うか・・・剣、いや箒を振り上げて成敗しようとしてサーシャ殿に叱られてしまってな・・・はぁ・・」
「あははは、じゃあ僕と一緒だ」とぱっと明るい笑顔を見せて笑う。
「えっ?」
「僕とねゼンちゃん、あっ、ゼンゾウ君がね昨日二階で布団を干した後布団叩きで剣のまねごとしてたらサーシャ姉ちゃんに怒られて棒でお尻叩かれちゃった」と明るく話すのだった。
そんな同じ失敗をしながらも明るく笑うカンゾウを見て少しだけ心が軽くなった女であったが傍から見るともうそろそろ嫁にと言う声が掛かろうかと言う16歳を超えた女が箒を振り回した少年と同レベルで叱られたのはどうなのだろうかと思われるが。
「でもお姉ちゃんはまだお店に来たばかりだから仕方がないよ。一緒に頑張ろうね!」と更に励ます少年であった。
女は少年に連れられて裏庭に行き少年に掃除の指導を受けながら今度は隅から隅までしっかりと掃除をするのであった。
「ねえお姉ちゃん、お庭を見てごらんよ」はいた塵をかたずけ終えた女が少年の声で振り向くとそこには掃き清められ打ち水に輝く石畳や冬を前に葉を落としたり、紅葉する木々が広がっている。
「・・・」
女は以前は城とも館とも呼ばれる広大な敷地と大きな建物そして四季を彩る花々や草木が丁寧に手を掛けられている庭のある家へ住んでいた。
しかし今までその風景が当たり前で何も感じず思いでも何もなかった。しかし今少年と共に少しはいたり片付けたり、最後に打ち水をしたりしただけのほんの小さな裏庭なのにこんなにきれいな風景と感じている自分がいる事に驚いている。
振り返るとそのいつもニコニコしている少年は
「ね、お掃除すると気持ちいいよね。お庭の木や石も輝いて見えて僕好きなんだ。お店の表もそうなんだ。お掃除しているとね街の人が「ボウズ精が出るな」とか「いつもきれいにしていて関心ね」なんて喜んで声をかけてくれるんだ。だから僕たちいっつも頑張ってお掃除しちゃうんだよ。でもたまに剣術のまねをして怒られるけどね」と屈託なく笑う少年の笑顔。
女は以前住んでいた家で掃除などしたことも無く、掃除をしていた者へ声をかけた事も無かったなと考えていた。
「じゃあお姉ちゃん、僕次はお店へ出なくちゃいけないからまたね」と笑顔で手を振りながら小走りに去っていった。
残された女はバケツと箒を託され裏玄関の脇の倉庫へ片付けると何か考えながら2階の総支配人室へと向かった。
コンコン。総支配人室の戸を叩くとすぐに「どうぞ」と返事がかえり女は「失礼」と部屋へ入ってその部屋の主、総支配人のリラレットが執務をする机へと近づいた。
「あら、どうしました。ああ、先ほどサーシャさんからは聞きましたよ。それで裏庭の方は無事済みましたか」とリラレットは店の表の事はなんでもなかったかのように完了したかの旨だけを聞いてきた。
「総支配人様、またしてもトラブルを起こし申し訳ありません。」と頭を下げる。
一瞬その様子に驚いたリラレットであったがおくびにも出さず
「はい、わかりました。今後は注意してくださいね」と静かに優しい口調で答えた。
そして女は続けて「仕事の事でお願いがあってまいりました」と何か覚悟があっての事か真摯な態度を見せる。
リラレットは知矢からこの女を預かって様子を観察しながらどうしたものかと苦慮していた。
先ほどあった通行人とのもめごとは日常茶飯事、店に来た客の横柄な態度にも激高し、時に表で警備を担ってくれている騎士団から派遣されている兵士の様子を注意したり、内向きの仕事に就かせると皿は割る、水の魔道具は出しっぱなし、包丁を持たせるとまな板ごと切断し洗濯をさせても洗い物がボロボロに。全てがこんな始末であった。
他の使用人たちといざこざは起こしていないがどうも皆との距離感があるというか互いに何かを遠慮している空気があり指導する者も上手く行かない様子が見受けられた。
そんな時本人から「仕事の事でお願いが」と真剣な顔をされると何かと身構えてしまうのだがそこは知矢の信頼厚い総支配人。「お伺いしましょう。」と執務机に両手の肘を立て両手を握り顎の下で頭を支える様に上目使いに女を見る。
「・・・皆さんにご迷惑をかけている事は重々わかっているつもりだ、いやつもりです。しかし私は既に帰るところも無くトーヤ様の下で何かを成し得る、己を変えることが出来る様頑張るつもりでおった、いえおりましたが未だ何も変わらず何もできず・・・」俯きながら言葉を絞り出す様に話す女をリラレットは黙って最後まで話を聞く様子だ。
「・・・このような様子だともっと皆に迷惑をかけ、如いてはトーヤ様の迷惑になる。
・・・そこで考えたのですが」
女はいったん言葉を切り思いを訴えるように話を続けた。
「立場を明確にし、カンゾウ殿たちの下へ置いてはくれまいか。いやカンゾウ殿たちの部下としては正式に配置をして頂きたくお願いに上がりました。」
女はうつむいた顔をあげリラレットへ真剣なまなざしを向けその思いが強い事を無言理に訴えるのだった。
「・・・・」リラレットは瞑目し女が考えるその意図と他の使用人やカンゾウ達への影響を考える。
「カンゾウたちは今13歳から14歳。貴方より3つも4つも年下ですよ。しかも彼らも未だ見習いを少し超えた程度、丁稚です。その様な者達があなたを配下に置き指導が出来るとお思いですか」
リラレットの言う事はもっともである。
「歳だけで考えれば総支配人様のおっしゃることは至極ごもっとも。ですがこの商店、知矢さまの配下の中で一番の未熟者は・・私です。
立場をしっかりと自分でも明確にし、カンゾウ殿たちの下で今までカンゾウ殿たちが成し得てきたことを学びながら本当の使用人として一から学びたいと思いました。」
「・・・・・」暫し無言で考え込むリラレット
。
女は不安そうにその様子を見守る。何かまた間違った考えであったかと不安を持ちながら。
不意に顔を上げたリラレットは執務机の脇に天井から下がっている赤いロープを二度強く引いた。
その直後瞬時に女は後ろに飛び去り腰を低く身構えた。
「?何をなさっているのですか」女の唐突の行動に驚くリラレット。
「?・・えっ、いやあの・・今、紐を突然引っ張ったので床のトラップが作動し私を地下牢へでも落とすのかと・・・違ったみたい・・」女は早合点をしたことに気づき情けない顔になりリラレットを見つめた。
「ここは只の商店で私の執務室です。しかも下はお店ですよ。そんなところへあなたを落としたら大騒ぎです。
どこかの悪徳商人や獲得貴族の屋敷でもあるまいし。その様な物語に出てくる仕掛けなど現実にはありませんよ」とあきれながらも少し笑みが浮かんでしまったリラレットだった。
「こんこん失礼します。お呼びでしょか」とノックと共に元メイドのマクが入室してきた。
「ああ、ごめんなさいね。すまないのですがアンドウ、ゼンゾウ、シンゾウ、ガンゾウの四人を揃って呼んできてください。」
「ハイ分りました、メイド長さま」とすぐに4人を呼びに出るマクであった。
「私は総支配人です、いつまで昔の役職で呼ぶの貴方は!」とリラレットが注意をした頃には既にその姿は無かった。
「まったくもう・・あなたしばらくそこで待っててくださる。ちょっと仕事をしていますから」と女へ伝えると書いている途中であった書類へと目を落とし続きを書き始めた。
サラサラと筆記用具が紙に擦れる音だけが支配する空間で女は言われた通りじっと不動で待つのだった。
「コンコン失礼しまーす」とノックと共にアンドウを先頭にニコニコ顔の4人が何故か楽しそうに入室してきた。
「皆さんお仕事中に呼び出してごめんなさいね。」
「大丈夫でーす。丁度お客様が途切れていたのでサーヤさんがついでに休憩もしてくるように言ってましたー」とアンドウが元気よく答えると他の三人もニコニコしながら首を縦に振る。
「そう、では丁度良かったわ。
実はね話と言うのは彼女の事なのですが。彼女からのたっての希望で仕事の配属をあなた達の下へ置くと言う話なのだけれでも良いかしら。」
リラレットの問いに4人は顔を見合わせニコニコ顔で頷き合いながら
「ハーイ大丈夫です。お姉ちゃんいろいろ教えてくださいね!」とカンゾウが元気よく答えた。
「あなた達、少し勘違いをしているわよ。
彼女の下であなた達が働くのではなくて、貴方たちの部下として彼女をあなた達が使い、指導するの。分った?あなた達は彼女の上司になるのよ!」
また4人は顔を見合わせニコニコ何かを話し合っているがすぐに顔を戻しアンドウが答える。
「ええと総支配人様、僕たちは丁稚ですけど?」
「はい、そうですね。では通達します!」との凛とした声にアンドウ達はキリット直立し姿勢を正した。
「本日付けをもってアンドウ、ゼンゾウ、シンゾウ、ガンゾウ以上4人を手代へ昇進と致します。以後お給料も上がりますし手代になったのですからいっそう新たな仕事を覚え部下も指導していかなければいけません。今より忙しく責任のある立場になったのですから大変ですよ。頑張る様に。」
そしてと言を繋げ
「マリー、貴方は正式に丁稚として奉公していただきます。今後は上司であり先輩のこの4人の下で指導を受け仕事の指示を受けてください。いいですね!」
「「「「ハーイ、頑張りまーす」」」」と4人はニコニコ元気に答えるのだった。そしてマリーへ「お姉ちゃん一緒にお仕事しようね」と元気に声をかける。
「ハイ!こちらこそ先輩たちを見習い頑張りますのでよろしくお願いいたします。
それと・・私の事は”マリー”と呼び捨てでお願いいたします。上司がお姉ちゃんと部下を呼ぶのは・・」
えーどうしようかと4人は顔を突き合わせて考える。
「じゃあ初めてのぎょうむめいれいを出します。お姉ちゃんの事はマリーさんと呼ぶのでよろしくお願いします。」
楽しそうな4人はマリーを連れリラレットの執務室を辞していった。
「ふーっ」と肩の力を抜いたリラレットはどうなる事やらと思いながらも
「案外彼らなら上手くマリーを使うかもしれませんね」と前向きにとらえしばらくは4人に任せて様子を観る事にしたのだった。
果たしてマリーは直属の上司4人の下で今後どんな成長を見せるのであろうか。
楽しみである。
来週日曜日、栃木県の茂木サーキットで
KCBMが開催予定で楽しみにしておりました。
中国ウイルスの影響で今年は予定開催が全て中止になりやっと今年の第一回目が開催されます。
楽しみに・・していたのですがあいにくの雨予報30%から50%
う~ん残念だがやめておくかと思っていたら
息子「ライダーは雨なんて関係ないんじゃなかったの?」
以前雨の中をツーリングを強行した時のセリフを覚えていやがって・・・でも濡れたら寒いよな・・・どうすっかな




