第90話 旅の醍醐味と現実 ~丑三つ時に現れる・・・・・
こんばんは
昨日、本日と日中はまた少し熱いですね
上着の下に長Tを着て失敗でした。(-_-;)
この季節の変わり目、中間期は毎年難しいです。
さて
では今夜も投稿させて頂きます
第90話
どうぞ。
知矢達一行は初日の行程を予定通り進み森の脇に広がる草原へとたどり着き「よーし、止まれ!」
先頭の馬魔車を操るワイズマンの号令で2台の馬魔車は今夜の宿泊地へと停止した。
「うあーぁ!乗っているだけでも結構疲れますね」と荷台から這い降りたマクは体を存分に伸ばしながら声を上げた。
「おおい、まだのんびりしている場合じゃないぞ。寝床と夕食の準備だ!」
今回の旅における知矢を覗いたリーダーを務めるギムはマジックバックから寝床となる資材を次から次へと出し並べながら慣れない馬魔車の旅で疲れ気味の仲間へとはっぱをかける。
今回持ってきている宿泊用のテントは知矢の日本での知識とこの世界で利用できる材料を勘案し作らせたものである。
知矢の無限倉庫やマジックバックがあるのでほぼ組み立てたままの状態で収納できるため設置は簡単だ。
ただしアルミやグラスファイバー、カーボン樹脂などの骨格素材は作成できない為基本の骨組みは竹や笹のような植物の幹や枝を利用しているので分解収納には不向きであった。
それらを骨格に防水性能のある獣の革や木の皮を利用したカバーが取り付けられており1張りに付1人が休むことが出来る。
大きく半円を描く様に10基のテントを設営し中央の広場をたき火や食事を作るかまどを設け、更に少し離れて洗い場も設けてある。
もちろん洗い場には水の魔道具が取り付けられており併せて各所に光の魔道具も設置する事でまるで昼間の様に不便なく作業も出来る。
ただし残念ながら浄化設備の関係でトイレだけは穴を掘りトイレを置いただけの物だが、一般的なこの世界の旅人などは林や木の影で済ませる事を考えるとかなり快適である。
貴族の一団が旅をしていたとしてもとても知矢達の快適さには程遠い。
テントの設営や寝具の準備が終わると今度は夕食の支度だ。
既に太陽は東の地平線に隠れ始めていたが灯りの魔道具があるので時間の心配はない。
各々使用人が手分けをしながらかまどでパンを焼く者、火の魔道具で肉を焼いたりスープを作ったり、テーブルを並べ皿などを準備したりとてきぱき行動していた。
そんな中、知矢とニャーラスは使用人たちからゆっくりしていてくださいと言われたこともあり椅子に腰かけて知矢が無限倉庫から出したビールやワインを飲みながら話している。
そこへ知矢の従魔、ピョンピョンが膝の上に飛び乗り何かを訴え始めた。
手を振りながら頷くようなしぐさで知矢に許可を求めているのである。
「従魔は何を言ってるニャ?」横でその様子を観ながらワインを味わうニャアラス。一瞬何事かと思ったがニャアラスの聴覚嗅覚そして感が今のところ周囲に異常や危険が差し迫ってはいないと告げているのでのんびりしたものだ。
「ううん、そうか。だが危ないところや遠くはダメだぞ。きちんと戻ってくるようにな」
知矢は従魔と真剣に話してどうやら許しを与えたようだ。
「了解!」と言う感じで手を振り上げ文字通りピョーンと知矢の膝の上から森の方へ飛び去ったピョンピョンを見送ると知矢は再びビールでのどを潤しながらニャアラスへと向き直った。
「いや、あいつがどうしても森の中を探検して出来たら自分の食事は自分で確保して食べたいって熱心に言うものだから。まあ、危険は少ないだろうから大丈夫だろう」
と従魔が飛び去った方向を振り返り見送った。
「そうだニャ。あいつはゴールデン・デス・スパイダーにゃのだから心配いらないニャ
でも何を狩りに行ったのかニャ。幼体の大きさじゃ精々ブラックスピアかのっそりうさぎ位かニャ」
等と話をしているうちに日はすっかり地平線の下へ降りて行った。
それでも魔道具で煌々と光を放つこのキャンプ。
誰か通りかかったらさぞ驚くかもしれないがここは主要街道からかなり外れた脇間道でも昼間木材などの輸送隊が通る程度で間違っても夜旅で商人などが通る事は無い場所だった。
そうこうしている内に食事の準備が整ったとササスケが呼びに来たので二人は使用人が腹を空かせて待つ簡易食卓へと移動した。
「頂きます!」
「「「「「「頂きます!」」」」」」
知矢の号令で合掌した全員が唱和し食事が始まった。
知矢独特のその風習は案外皆に直ぐ受け入れられ知矢のいない時でも使用人たちは「頂きます」「ご馳走様でした」と合唱しながら
楽しそうに笑顔と笑い声があふれる食事風景を観ながら知矢も使用人が作ってくれた食事を味わっていた。
当初、貴族のメイド出身のリラレットは「食事中に会話をするなどマナーに反します」と使用人たちに厳しく言い含めていたが知矢から
「リラレット、我々は貴族では無い。確かにマナーは大切だから皆にその教えを指導する事は歓迎する。しかし食事はな出来れば笑顔で楽しくそして一日の出来事などを話しながらゆったりとしたいと思うがどうだろうか」
との一言で前言撤回をし「食事中は楽しく話をしながら食べましょう」と方針を変えたのである。
苦笑いを浮かべる知矢だったが使用人筆頭の総支配人を務めるリラレットは特にご主人様第一主義の所があるので知矢も下手にリラレットには細かい事までは言えないのだ。
なぜならそれが知矢の意向であれば全ての事を朝令暮改以上の対応をしてしまう。それでは他の使用人たちも困惑するしリラレットに対する信頼も損なうのではと基本的な事はすべて任せる事にしていた。
「やっぱり焼き立てのパンは美味しいな」
「ミミ、でも時間経過無しのマジックバックに入れておけばいつでも作りたてよ。スープだって熱々で湯気まで出ている物を食べられるわ」とマクが異論をはさむ。
「嫌ね、それじゃこんな風の通る気持ちの良い風景やかまどの中で焼けていく匂いは取り出せないじゃない。便利だけどそれだけじゃないって事よ料理は。」
とミミは旅での食事の醍醐味を語る。
「しかしな旅の食事と言っても俺たちの簡易食や干し肉を入れただけのスープだった旅を思うとマジックバックはやはりありがたい。荷物も最小限にすることなく十分用意できるしな。」
ノブユキは以前仲間との旅の事を思い出しながらありがたみを痛感していた。
「いやねノブユキ、あの頃の拙い食事なんか思い出させないでよ」と話に酔っていたミミから苦情が入るが
「あらてっきりミミさんは昔から旅で優雅な食事をしていた様なセリフでしたけど、やはり現実は過酷なんですね」
貴族の屋敷でメイドをしていたマクはこれまで旅の経験はない。それ故にてっきりミミの語る旅の空での優雅な食事のイメージ、そして今回の便利な旅しか知らないので干し肉しか入っていないスープを想像してげんなりした様子だった。
楽しく会話が弾んだ食事を終え使用人たちがかたずけ後顔をそろえてお茶の時間に成ると知矢が全員を見渡しながら話を始めた。
「皆、今回は俺の突然の思い付きにつき合せて済まない。しかしもし俺の考えるスライムの生態が確かなら今後の我々だけでなく多くの市民の生活が劇的に変わるしそれでも河を汚すことも無く生活できるようになると考えている。改めて協力をしてくれ。」
知矢の話に使用人たちは大きく頷き同意を示すがもとより知矢の考え、行動に否を言い出すもの唯一人もいないのだが。
「ありがと。ではギム、明日の予定の確認だ。」
一堂を見渡し賛同に礼を述べると明日からの行動予定の確認をギムに促す。
「はいご主人様。では皆もいいかの。明日は・・・」
出発前に粗方検討してあった事を再確認し移動先や行動予定を全員に示して役割分担も発表する。
とは言っても実際その場へ行けば知矢の探知と鑑定を使えば見つけるのはたやすいとは思っているが実際捕獲など誰もしたことも無いのでそこは知矢とニャアラス達冒険者組のぶっつけ本番、試行錯誤に成るであろうと思っていた。
「よし今ギムが話した通りだ。だがその場では俺たちがスライムと格闘している間に危険が背後に迫る事もある。他の者も気を抜かずに頼む。では今夜は解散しよう」
と就寝を告げ使用人たちを開放したのであった。
なお夜番を置くと言うギムたちを押し留め知矢の魔法があるから大丈夫と伝え全員に就寝させるkとにした。
未だ夜もあまり更けていない時刻の為各自が思い思いに集い未だあちこちからおしゃべりが聞こえていた。
知矢もギムとワイズマンが話したそうであったので三人でとりとめのない会話を楽しんでいる。
その横ではニャアラスが未だワインをゆっくり飲んでいたが時折ギムの視線がニャアラスを横目で羨ましそうに見て居るのは気が付いていた知矢だが黙っていた。
・・・出発前
「良いですか皆さん。今回の旅は比較的安全だというお話ですがこれだけは徹底願います。
旅を終えるまでご主人様を除く使用人は全員飲酒禁止と致します。良いですね!ギムさん」
と総支配人から念を押されたギムは大好きな酒を必死に我慢しているのだ。
知矢はそこまで厳しくしなくてもと裏でリラレットへ聞いてみたが
「いえ、トーヤ様。旅慣れぬ者が多いのもそうですが使用人が旅先で飲酒をするなど言語道断です。これは規律とケジメの問題ですのでトーヤ様はお気になさらず旅の間もご存分に召し上がってくださいませ。」
と譲らなかったので知矢も無理強いはしなかったが密かに知矢も酒を口にせず過ごそうかと思っていたが
「トーヤ、酒持ってきてるんニャろ出してくれ出してくれ」とニャアラスにせがまれそして一緒に飲酒してしまったのだ。
実は出発前リラレットがニャアラスに
「お優しいご主人様の事ですから飲酒を禁じられた使用人の手前ご自身もご遠慮なさるかもしれません。しかし主人が使用人に遠慮するなど有ってはならないのです。
そこでニャアラス様、マジックバックに充分各種お酒を収納しておきますので知矢さまと一緒にお飲みください。ニャアラス様の勧めであればご主人様、トーヤ様も使用人に気兼ねなくお楽しみいただけると思います。」
と言う話が在った為ニャアラスはそれこそ存分に飲むつもりでいたのだった。
そして夜のとばりが十分に降りそろそろ眠気をもよおし欠伸をする使用人たちが出始めた頃、森の奥から何かの音が聞こえてきた。
それは「ズッズル、ズルズル、ギイギイ・・ズルズル」と何か大きな重量物を引きずる様な又は何か大きな獣が這って迫っているようなそんな異様な音だった。
「皆!武器を持て、警戒しろ!」すぐさま反応したギムが傍らに置いてあった大槌を握りしめ暗闇を凝視する。
ギムの声で素早く戦闘準備をする使用人達。
冒険者組はそれぞれの武器は身から離さず携帯しており、さらに馬魔車の荷台へ立てかけてあった弓矢や槍を他の使用人に手渡したり大盾を準備したり皆一瞬の内に体制を整え終えた。
この素早い行動は日頃からの訓練のたまものであった。
元冒険者組は元よりその指導の元他の使用人もとっさの折に如何にその身を挺し知矢を守るかまたは一緒に戦うか。もしくは足手まといにならない様にはどうすれば。
等、各種場面を想定し実戦さながらの訓練を定期的に行っているのだった。
その成果がいかんなく発揮されたといえよう。
しかし・・・
「皆、大丈夫だ。」
と知矢の声が闇に包まれた夜空へ響いた。
「見てみろ」と知矢が指を指し示す方を見ると草むらの奥がガサガサ揺れたと思うとその数メートル手前に
「ピョン!」
と知矢の従魔ピョンピョンが姿を現した。
しかしその姿はいつもと様子が異なり前足で白い糸を何本も掴み引いている。
知矢の姿を確認したピョンピョンは一生懸命にその糸を引きながらそばに寄って行った。
その糸の先は草むらに向いておりそこから「ズッズル、ズルズル」と先ほど聴こえていた音が聞こえてくる。
知矢の元へ来た従魔は主へ片手を上げると後ろを振り返りその持っていた白い糸の束をどんどん起用に引き遂に草むらからその音の正体が現れた
「「「クレイボア!!!」」」
白い糸にがんじがらめにされた2m程の巨体と鋭い牙で突撃攻撃を得意とするイノシシの魔物であった。
一体何キロあるのか。大人の冒険者でも二人がかりで担ぐのが精いっぱいのその巨体を手のひらに乗る様なクモ、ゴールデン・デス・スパイダーの幼体である従魔のピョンピョンが引きずって森から運んできたのだ。
「「「「・・・・・」」」」その凶暴性と攻撃力、巨体の重さを知る元冒険者組は当然だが他の使用人たちもあっけにとられて言葉も無い。
「おお、ピョンピョン、お帰り。しっかしずいぶん大きな夕食を獲ってきたな」と喜んで歓迎する知矢であったが内心
「おいおい、物理的におかしくないか?」と思いながらも「やっぱり異世界は俺の常識で測れない事がまだまだたくさんあるものじゃ」とも考えていた。
きっとその事を口にすると使用人たちは「プルプルプル」と首を横に振る事であろう。
狩って持ち帰った獲物を主人や皆に自慢するかのようにその獲物の上に飛び乗り「やあやあやあ!!」とでも言っているかのように後ろ足で獲物の上に立ち両手をぶんぶん振って気持ちよさそうであった。
その後何か釈然としないながらも知矢の言で解散が告げられ就寝の為に各自のテントへ向かう使用人たち。
その後しばらく従魔は主へ狩りの様子を身振り手振りで説明したあと満足したのか知矢の許可を得てから早速遅い夕食にクレイ・ボアを食べ始めるのだった。
「じゃあ、俺は先に寝るからな、食べ過ぎるなよ」とムシャムシャ音を立てて食事中の従魔に声をかけ知矢もテントで休むのだった。
そとでは未だ酒を1人で飲むニャアラスが横目で見ながら「おみゃあどこに胃袋繋がってるんにゃ?」とあきれ顔をするのだった。
夜はまだまだ長い。
しかし皆度に初日で疲れたのか静かに眠っている様子である。
聴こえてくるのはどこか遠くで鳴く鳥の声とニャアラスがワインをグラスに注ぐ音、そして
「ムシャムシャムシャ」ピョンピョンが一所懸命食事をする音だけであった。
先日の投稿で訪れてくれた方が11000人を突破!
と記載しましたが早くも本日12000人を越えました。
誠にありがとうございます。<m(__)m>
これを励みに今後とも少しずつのんびりと更新したく思いますのでよろしくお願いいたします。
出来ますなら率直な感想などを戴けたら幸いです。




