第8話 あれ?ちょっと待て ~散策での出会い 馬鹿には売らん
やっと8話まできました。
では今回もよろしくお願いいたします
知矢は転移3日目の朝を迎えた。
いつものごとく爽やかに・とは行かずどうやら昨夜の酒が少々残っている様で二日酔いとはいかなくても身体のだるさと思考の不明瞭さを自覚した。
「アファ~アア、まるで年寄りの深酒状態だな、やはり体の未熟な16歳が飲みすぎるとこうなるっていう事かふぁあああああ~」
と大あくびをかきながら反応の鈍い体に伸びを入れた。
取りあえず顔を洗ってさっぱりしようと裏庭へ降りまあまあ冷たい水を桶にくみバシャバシャ顔を洗うのだった。
「あら、今朝は早いねトーヤ」
さらに早起きのミンダは洗濯物を干しながら声をかけた。
「おはようございます、いや~昨夜は飲みすぎたせいかぐっすり寝てしまい逆に早く目を覚ましてしまいました」
「早起きは良い事さ、もっとも寂しく一人寝じゃあいつまで寝ててもしょうがないしね、ハッハッハッハー」
直ぐに朝食だよとからかいながら声をかけて厨房の裏口へと消えていった。
「全く、ミンダさんも勘違い止めてほしい、あんな若い子を相手にできるわけないだろ…」
もっとも今の俺はさらに若いけどなと口の中でつぶやきながらタオルで顔を拭きながら昨夜の事を思い出していた。
「トーヤ君て不思議な感じですよね」
「えっそうですか?どこにでもいる16歳のガキですよ「ヒック」」
「いえいえ、何か大きな秘密を隠しててそれが醸し出す雰囲気の根幹なんですよ」
「よして下さいよニーナさん、正真正銘!これからがまだまだ成長期のあと60年は生きる気満々の若者なだけです」
「そういう所が若者らしくないのよね、まるで先を見てきたような、見通せるような口ぶりが若者らしくないと言いますか……」
何を根拠にそう感じたかはわからないが、酔って話しているうちに何か口が滑ったのであろうか?
まあ、単なる酔ってとりとめの無い事を口にしただけかもしれんし、気にすることは無いか。
と、思考を置き去りにして、先ずは朝飯朝飯と食堂へ向かった。
朝食後、部屋に戻り今日はと考えた瞬間に何か忘れているような勘違いしているような違和感を感じて考え込んだ。
俺ってなんで昨日は魔力・魔法の訓練に行ったんだっけ?
ちょっと待てよ、そもそも最初の行動予定は街を散策して色々見聞きしながら”のんびり老後”への道を探るつもりだったはずだ。
そうだ、と異世界に転移する前、”指南書”を読みながら今後の行動予定を考えてて実際街に出てからの情報で方針のヒントを探ろうとしていたんだったと思い出したようだ。
実際は異世界に転移した興奮と過去に読んでいた異世界冒険の物の影響だったのか、思考がまず宿を決めギルドで登録~の流れに突っ走ってしまったようだった。
「いかん冒険者になって”Sランク”を目指すわけでも”迷宮攻略”でも”スタンピード撃滅”でも無いし逆にそんな事とは無縁の平和でのんびりとした生活を送る術を探していたんだった」
どこでこうなったかな?などと考えつつも、それがお約束なのかもと割り切り、今日からは方向性を正していこうと思った。
「さて順番的には途中まで、まずお金を得ている格好だけでも〜と思ってたんだよな。あっだから手っ取り早く冒険者登録って考えたんだっけ。その先がミスったよな、そんな急いで魔法の練習しなくても、取りあえず生活する最低限の魔法は使えるんだし。よし、街に出ていろいろ見て情報収集と行きますか!」
知矢は裏庭での魔法発動失敗から、急遽魔法練習をしようと思い立ったことは既に忘れたようだ。
早速身支度を整えた当知矢は(と言ってもマジックバックのリュックを肩にかけ、刀を腰にひっかければ完了だが)階下へ降り、忙しそうに働くミンダを見つけ声をかけた。
「お忙しいところ失礼しますミンダさん、これから出かけるのですが、今夜、明日以降もお世話になりたいのですが、部屋の空きはありますか?」
食堂のテーブルをかたずけながら話を聴いてるミンダは「ああ、十分空いているから好きなだけ泊まっとくれ、ただし宿を壊さないならねw」
と、またしてもからかいながらも快諾してくれた。
そこで知矢は当分の宿泊料として中金貨(約100万)を取り出すとミンダに手渡し
「取りあえずこれで足りるくらいお世話になります、もし足りなくなったら言ってください」
と、渡された中金貨を見つめて唖然としているミンダをそのままに外へ繰り出すのであった。
さて出発点に戻ろうと思ったわけではないが都市の入り口、門へ来て都市の方を振り返ってみた。
「まだ三日なんだよな。ここから、もう一度じっくりいろいろ見て回るか」
と改めて周囲を見回す。
都市は門を入って真っ直ぐ都市の中心部へ続く馬車が3台並べるほどの広い中央通りが一直線に延びている。
門から一番近い建物は衛士の詰め所、その脇には大きな木の看板が立っており絵がかいてあるのは都市の略図だった。
大まかに門は4カ所、知矢の入ってきたのが北の門、そして通りを真っ直ぐ突き抜けると南の門、南の街道へ通じているが都市の中央には都市評議会の建物や行政関係の建物があるらしく実際は真っ直ぐ通り抜けられない。
西門西の街道から南北の門同様に中心部に抜けている、対して東門は割と大きな川へ面していて水運があるように見える。
川はそれほど広くもなく流れも緩やかなので小規模の荷運び船的な感じか。
知矢は中心部へ続く広い通りではなく、先ず門と門を横で繋ぐ外周に近い通りをぐるっと散策しようと思った。
先ずは東に歩を向けた。
都市の外壁の内側はぐるりと一周出来るらしい
勿論メインストリートよりは狭く馬車なら2台がやっとすれ違える程度。
メインストリートには両側が出店、露店が多いのに比べこちらは固定店が軒を連ねているのが大きく違う点だ。
多分有事にはメインストリートの出店は撤去され有効に使う為だろう。
かたや外壁側はバリケードや障害物を置けば簡易な防壁になりそうな造り。
日本では有事には縁が無い生活だった為その街並み、造りの違いは興味深い。
歩きながら左手の店を眺めていると食料品店は案外少なく、門に近い場所は武器屋・防具屋・道具屋が多く、それに付随するであろう工場や職人の姿が見受けられる。
一件店先に大小刃物を並べて脇で刃研ぎをしている職人さんがいたので足を止めて魅入っていた。
滑らかな律音で流れる様な指先の動き、中々の腕に見えた。
「見物ならアッチ行ってくれ、気が削がれる」
一瞥もくれることなく言い放つ、つっけんどうな物言いだが邪魔をしているのはこっちだし文句はない。
しかし、その研がれている刃物と研いでる姿勢を見て俄然興味が湧いてきた。
「邪魔したのなら申し訳ない、ただ、あなたの研ぎを見ていてその刃物に興味が出ました。俺はトーヤ、今は駆け出しの冒険者ってところですが、実はナイフ、出来れば投げナイフが欲しくなり、あなたが作ったそして研いだナイフが有れば見せていただきたいのですが」
とっさに口にでたが投げナイフ又は小型のナイフが欲しいと思っていたのは事実なので丁度良い。
「小型ナイフならその棚に並べてある、欲しいのが有ったら持ってけ値段はどれでも一振り小金貨5枚(50万円)だ、高いと思うなら止めとけ、最も駆け出しの冒険者に出せる金額じゃあねえけどな」
と相変わらず手先を止めることなく言い放つ。
知矢は棚に並べてある小刀を確かめる様に一振り一振り見させてもらった。
12本有った小刀を一通り見終わり疑問に思い考え込んだが、一本を手に取り財布代わりの革袋から小金貨を5枚出すと
「ではこのナイフをください、支払いはこれでよろしいですね」
と研ぎ台脇の机にそっと置いた。
すると一瞥もくれずに刃物を研いでいた男はその挙動をぴたりと止め、じろっと知矢の選んだ小刀と知矢を凝視し
「おい、お前何故それを選んだ」と低い声で問いかける。
知矢は、やっぱりかと思いながらも答えた。
「私は刃物の専門家でも研ぎの知識もあまりありませんが、強いて言えばこのナイフなら!と言う感覚ですかね。
説明になっていませんが、正直その他のナイフにはコレと惹かれなかった中で、この一振りだけは握った心地よさ、重心、刃の反り具合、切先から中頃へ至る刃の様子とでもいうのでしょうか。うまく説明できませんが、とにかくこれが気に入りました」
すると男は僅かに考えるそぶりを見せると立ち上がり、棚の裏から皮に包まれた物を取り出し、脇の机の今払った金貨の横に広げた。
中から出てきたのは4本の小刀。今、知矢が選んだ1本と同じ拵えの物が並んだ。
「これも持ってけ」
と、言い放つと再び研ぎ台の前に腰かけ、先ほどの続きを研ぎ始めた。
知矢は置かれた小刀を再び一本一本確かめる様に見てから
「これは、全く同じ研ぎですね、素晴らしい!ですが私は5振りを買い求める程の持ち合わせは有りませんので、この1本だけで結構です」
知矢のマジックバックには最高神より渡された大金が仕舞われているが、さすがに冒険者になりたての若者にしか見えない者が、小金貨25枚(250万円)をポンと払う素振りを見せるわけにもいかなかった。
どこかのボンボンのふりをして支払っても良いかと思える位にその小刀は素晴らしいとは感じたが、しばらく日を置き後日また購入すればよいかと考えての返答だった。
「1振り小金貨5枚って値段は刃の良し悪しも解らん馬鹿への値段だ、お前は5振り持ってけ」と相変わらずのつっけんどうな物言いで言い放った。
少し黙考したが、小刀を見る目を褒められたのだと喜び素直に受けとる事にした。
「ありがとうございます、おかげで良いナイフを手に入れられました。またお金がたまったらお伺いさせて頂きますね」と素直に喜びを伝えて立ち去ろうとしたその時、
「おい待て!」男の声が響いた
えっ?と振り向くと
「その腰の剣、お前の物か?どこで買った」
と知矢の刀が気になったようだ。
「はい、これは私の刀です。購入、手に入れた経緯はわかりませんが、祖父から譲り受けた物です」
「よかったら、その剣見せてくれないか」
男は先ほどまでの口調と打って変わり、立ち上がって頼むように手を差し出した。
構いませんよと刀紐を解き右手で差し出す。
男は両手で大事そうに受け取ると、鞘から抜こうとするがピクリともせず抜けなかった。
「ああ、その剣は刀(かたな)と言い、抜き方には少々コツが要ります」と言いながら鯉口の切り方を教えた。
男はなぜそんな面倒な構造に?と思いながらも見よう見まねで鯉口を斬りやっと刀を抜いた。
「・・・これは・・・・」
刀を頭上にかざし太陽の光を反射させるように照らし刃を繁々と見つめるのであった。
しばらくして満足したか鞘に戻そうとするが、片刃で反りのある剣を納刀した事の無い事が見て取れ、知矢はこの職人が手指を傷つけはしまいかとハラハラしていたのであった。
男はやっとの思いで納刀した後、今度は鞘の形状や握りをしばらく丹念に観察しやっと知矢に返した。
「ふ-っ、この様な剣、見事な剣は見たことがない。ナイフや斧しか作れないしがない俺でも心が沸き立つ様な素晴らしい剣だった。若いの、すまん感謝する」
「いえ、私の方こそ素晴らしいナイフを売っていただきありがとうございました」
「確か、名は・・」
「トーヤです、お見知りおきを」
「そうか、トーヤ、俺は鍛冶士と武具屋をやってるガンテオンと言う者だ。そこら辺の奴らはガンテって呼んでいる。近くに来たらまた寄れ、お前の使えそうな物が倉庫にあるから見せてやる」
「あっ、ありがとうございます!ガンテオンさん。必ずまた来ます」
では、今日はこの辺でまた。と、年のころは40前後、不愛想だが偏屈ではない、逆に人のよさそうな男に札をして歩を進めたのであった。
おかげさまでPVっていうやつが490まで到達しました。
皆さんのおかげです。
でも面白いと思うのかが書いている本人も疑問です。
つたない書き方ですがこれからもゆるゆるよろしくお願いいたします。