第85話 舞い降りる紙吹雪 ~私の豪剣を見よ!!!!
少々遅くなりましたが何とか更新を。
今日は剣技教室です
では第85話どうぞ
「セイ!」ヒュン!
「ハッ!」ヒュン!
「ダメだダメだ、そんな空振りばかりしてたら疲れるだけだ。それに空振りした後の隙を突かれるだけだろ、もっと相手の動きを見て予測しろ!予測を。」
「ハイ!セエエイヤーッ!」キーン!ドサ
その女が細身のロングソードを相手が回り込むのに併せ左薙ぎ(なぎ)を放ったが相手の剣で己の剣の力を逸らされたまま流され、その勢いのままバランスを崩し地面へと転がった。
「馬鹿かお前は。相手の動きに併せたってそんな片手の手先で剣を振ったって利きはしないぞ。相手の動きを手先で追うな!脚で追え!腰を向けろ!まだまだ足腰の鍛錬が足らん!ほれ起き上がって装備のまま10週走ってこい!
次!」
「行きます!セエエエエイ!ハッ!」キーンガシャンゴロン
次に男が勢いを込め俊敏な踏み込みを見せながら大剣を上段より振り降ろす。
しかしまたも剣筋を流され勢いのまま大剣で地面を叩きながら転がされる。
「お前アイツの時寝てたのか。何も参考にしてなかろう。ボケっと立って待つな!お前も10週行ってこい!」
「ハイすみませんでした!」男は起き上がり直ぐに走り去っていった。がしゃがしゃと甲冑を鳴らしながら。
ここは冒険者ギルドの併設された訓練場である。
30m四方の区画に盛られた闘技場の上では知矢が若い騎士へ刀を向け叱責する声が響き渡っていた。
先日アンコール伯爵主催のパーティーにてオースティン騎士伯麾下の騎士、マジェンソン・ボドーとジェシカ・エクワドルに約した剣の指導の為である。
「二人に命じる、明後日勤務終わり後冒険者ギルドの訓練場へ来るように」と言われた二人は約束通り勤務終了後急ぎ冒険者ギルドを訪ねた。
そこで受付にいたニーナに案内され地下の訓練場へ向かうとそこには細身の剣、日本刀を鞘からゆっくり引き抜きそのままゆっくりとした動きで水平に動かしたりゆっくり大上段に構え又ゆっくり切り降ろすなどの動作を繰り返す知矢の姿があった。
騎士である二人には知矢が何をやっているのか、剣をゆっくり動かす意味があるのか全く理解できなかったがこれから指導をしていただく方が黙々と続ける動作に口をはさめない空気を感じ暫くそのまま見学していた。
やがて日本刀を再びゆっくり鞘へ納刀した知矢が脚の構え(足踏み)を解き振り返った時二人は未だ理解も付かなかったが先ずは挨拶をするべく知矢へ近づいて行った。
「トーヤ様、お待たせいたしました。本日はご指導よろしくお願いいたします。」
マジェンソンが頭を下げる。
「トーヤ様、先日はご無礼を致しました。この様な機会を設けていただき感謝いたします。」
とジェシカもそろって頭を下げる。
「ああ、約束だからな。だが俺の剣技とお前らの剣技はそもそもの質も違うし武具も異なる。そこから派生する全ての動きも異なるのだから参考になるかはわからんぞ。それでも良ければお前らの剣技を見てやろう」
「ハイ、どのようなご指導でもお受けいたします。しかしですが、その前に先ほど拝見させて頂いた動作は土のような意味があるものなのかお教えいただいても・・・」
マジェンソンがさっそく先ほどの知矢の動きについて聞いてきた。
「ああ、あれか。あれこそお前たちの剣と全く考えが違うからな。あんなのそのそとした動きに何の意味があるのかわからんだろう」
マジェンソンと共にジェシカも黙って頷く。
「じゃあ、そうだな先ず俺の剣と同じ”刀”を貸すから真似てやってみろ」と無限倉庫から練習用に作ってもらった一見に日本刀に見えるがその作りは全く異なる形だけの刀を二振り出し渡した。
この刀は街で知り合った鍛治士のガンテオンの店を再び訪ねた折日本刀の作りに興味を持ったガンテが見よう見まねで試作したものだ。
勿論日本刀の様に鋼と鉄を折り込んであるわけでもないが丁寧に鍛造され焼となましを繰り返し見事に研がれた剣は刀には遠く及ばないものの練習刀になら使えると思い購入してきた。
だがガンテは己の力を熟知しており知矢の刀との差は歴然であると支払いを拒んで「そんなのはゴミだ」と知矢へ渡すのを拒んだ。
だが知矢が折に触れ、いや他の刃物の研ぎの度に訪れたら自分の刀をその度見せて剣作りの資料とする事を約してくれた為あくまでも練習刀として購入したいとの申し出を受けてくれたのだった。
知矢は街で買い物のついでに度々ガンテの店を訪れる様になりその度に気に入ったナイフや鉈、手裏剣などを買い求め時に警備担当の使用人を同道し彼らの剣を研いでもらうなど友好を深めていた。
ガンテはその度毎に食い入るように日本刀を観察していたが吐息がかかると剣が錆びる事も教わりそれ以来ガンテは口にマスクをして剣を詳細に観察するようになった。
そのようにしてこの模造刀と呼んだ練習刀を手に入れたのである。
「いきなり使い方も解らんだろうから鞘から抜いて抜き身だけ持ってみろ。」
一見、細身で軽い”刀”を鞘から抜き片手で持つ二人。
(こんな細く薄い剣何てどうするんだ?すぐに折れ曲がってしまうだろう)と思いながらも知矢の指示で向かい合う。
「よし先ずは俺の剣の動きを全くそのまま真似て動かしてみろ。良いか始めるぞ」
知矢は先ほどの様にゆっくりと刀を正眼に構えるとゆっく斜に構え直しゆっくり袈裟へ振り降ろしそこからゆっくり剣を返し横薙ぎにゆっくり振り抜きその先で左片手に持ち替え左にゆっくり横薙ぎそして刀をゆっくり上段に戻しながら右手を添えた。もちろん脚の捌きも併せてである。
「どうだ。何か感じたか」と構えを解いた知矢は二人に尋ねる。
「トーヤ様、申し訳ありません。何が何やら」と二人とも困惑顔だ。
「まあ、初めてではそうだろうな。いいかこのゆっくりとした動作の時にも常に刃の向きこれは”刃筋”と言うがそれと剣先の動き、脚の捌きに体重移動まで全て実際素早く剣を振る時と全く同じ動作が出来なければだめなんだ。
じゃあマジェンソン、俺と一緒にもう一度やるぞ。ジェシカは二人の動きを見比べながら観察しろ。いいか」
二人がまたゆっくりとした動作で同じ動きをするのをジェシカは真剣に見比べていた。
構えを解いた知矢はジェシカに質する。
「どうだ、何が違う」との問いに
「・・・マジェンソンの剣は・・・一見同じ動作に見えますが剣先が波を打つ様にゆらゆらとしていたと思います。後はわかりません。」
マジェンソンはジェシカの言った意味が解らないようだ。
「まあ、正確には足らんがおおよそそんな感じだな。
良いか、剣を振り抜くとき刃先が波打って相手に向かうとどうなる。斬撃がぶれて致命傷にならんだろう。先ずはそこだ。そして波打つと言う事はだ刃がきちんと向きをなしていない事にもなる。すると剣の振りに大きな風の抵抗が生まれなおさら剣の力が阻害され弱まる事に繋がる。
先ほど言った刃の筋を通す、それらを体に刷り込ませ早く剣を抜き放っても刃先が最善の切れと最速で相手に到達させるための訓練だ」
知矢の説明を聞いても二人はぽかんとしている。
それもそうだった。
彼らが使う剣は硬さと重さ、速さで敵を圧倒し斬るより殴ると言う方が適切な武器だ。
確かに両刃は研がれてはいるが日本刀のそれとは全く異なる。これは仕方が無い事かもしれない。
「そうだなじゃあこのぶら下げた紙を切ってもらうか。その練習用では刃が今一つ研がれていないから俺のを貸すからやってみろ。」
と知矢の日本刀を渡し棒の先に糸を垂らしその先端に大き目のメモ用紙状の薄い紙をぶら下げた。
二人が交互に刀を振り紙に斬りかかるが「ぐしゃ」っと紙が崩れ折れ刀と一緒に糸から外れたのだった。
この動作に何の意味があるのかわからない二人はまたしてもぽかんと顔を見合わせる。
「じゃあ今度は俺だ」と軽く刀を振った知矢。すると紙は音も無く切られ刀は振り抜かれたが紙はそのまま静かに下へ落ちて行った。
またしてもポカーンとその様子を観ていた二人だがハッとし「なぜ?」と知矢に再び刀を借り紙を切るのを繰り返すが何度やっても同じように紙が糸から落ちるのみであった。
「「ハアハアハアハア・・・」」肩で息をする二人。
(力が入り過ぎだな)と思いながら「少し休んで息を整えておけ」といい今度は鞘に刀を戻した知矢が二人から少し離れて足踏みを入れる。
「良いか見ていろ」と言うといつの間にか手にしていた数十枚程の紙束を頭上へと高々と放り上げた。
ばらばらと落下してくる紙束に向け「セッ」っと微かに息を吐きながら左腰の剣を右手で上空に抜き打つと刀を右に左に右に左にと目を見張る素早さで次々と振りに来ながら紙を切っていった。
空中を自由落下で舞い落ちる数十枚の紙は知矢が日本刀を振るう度に再び軽やかに舞い上がりながらその紙片は刀が振るわれるたびにどんどん小さくなり軽くなった紙片はさらに上空へと舞い上がる。
30枚が60片、120片240片・・・・・知矢が軽く日本刀を振るう度に増えていく紙片は恐らくすでに60000片は優に超えているかもしれない。
その紙片は極細片へと生まれ変わり知矢の頭上で訓練場の証明に照らし出されキラキラと光を反射させながら音も無く舞い降りて来た。
それはあたかも粉雪が静かに降り積もる光景を見ているがごとくであった。
そして”キン”と金属音を微かにならし鞘へ納刀した知矢の周囲には細かく切り刻まれた紙片が静かに厳かにそしてそれは荘厳な空気を醸し出していた。
「「えっ!?」」二人は呆然と舞い降りる紙片が全て最後の一片迄知矢の周囲、足元へ降り落ちるまで呆然としていた。
納刀の時に腰を深く落としていた知矢は残身を解き足踏みを直すと立ち上がり
「さっきお前たちにやらせた事が全てできるようになるとこんな芸も出来るわけだ」
と笑いながらはなすがマジェンソンたちはその技の凄さに気づいてはいた。だがそれが剣の修行に繋がるのかが解らなかった。
「うーん、まだあんまりわからんか。それじゃお前たちの剣でこれを切ってもらおうか」
と知矢が次に持ち出してきたのは一般的な重甲冑である。
4体の古い甲冑が並べられ丁度人が立っているように据えられた。
「そうだな、分りやすく真上から半分に切り裂く様にやってみろ」と言われ二人とも自分の真剣を抜き上段に構えると一気に力任せにその重甲冑へと振り降ろした。
ガコーン!!マジェンソンはその重い大剣でカブトから真下へと向け首の下まで押しつぶす様にへこませた。
ジェシカも兜を首辺りまでは剣を打ち込ませひしゃげさせる。
マジェンソンの大剣でも中々一撃でここまで押しつぶす事が出来る物は中々おらず少し自慢げにその成果を誇る表情を見せた。
ジェシカにしてもその細身の剣でしかも女性の膂力とは思えぬ成果であった。
「なるほどな。やはりそうだよな。では観てろ」
と軽く言う知矢は鞘から刀を抜き上段に構えるとさしたる力を入れているように見えないがすっと刀が降ろされたと思うと殆ど音も無く兜の上から甲冑の下まで刀を振り抜いた。
残身を解き納刀した瞬間 カラーンガシャンと木枠で固定されていた重甲冑が半身に切り裂かれ左右に分かれて床へと転がり落ちた。
驚愕した二人はそれこそ目が飛ぶ出るほど驚き床の甲冑と知矢を交互に見ながら言葉も無い。
「最初の訓練の成果がこれだ。刃先を一点に真っ直ぐ通す意味と言うところかな。」
まだ理解の付かない二人だったがジェシカがやっと言葉を発する
「と、トーヤ様、恐れながら剣の差では・・・」と恐るおそる聞いてみた。
「まあ、そう思うよな。じゃあそうだなマジェンソンの大剣より打ち込めなかったジェシカの剣を貸してくれ。その剣で同じ事が出来るかやってみよう」
と恐るおそる差し出されたジェシカの剣を上段に構えた知矢。
二人は(切れるわけがない)と思いどこまで押しつぶせるかを見て自分たちとの力の差を比較しようと思っていた。
ゆっくり、そうゆっくりとした動作でカブトの上段から日本刀の時と同じようにジェシカの剣を振り降ろす!
ガシャーン
日本刀の時にはしなかった金属との触れる音が響き知矢は最下部で残身をしていた。
「「・・・・・・・・・・」」結果を目の当たりにし呼吸が止まるほど唖然と、驚愕している二人。
残身を解き剣を持ち替へ柄をジェシカに差し出す知矢。
その背後では刀の時ほどではないがほぼ真っ二つに切り裂かれた重甲冑が左右へ別れ転がっていた。
その後二人は自ら進んで教えを請い、最初学んだゆっくりと剣先をブラさぬ動きを必死に繰り返し繰り返し毎日毎日指導の最初の時間をその動作で繰り返すこととなったのだった。
刃先、刃筋が安定し力みなく振り抜く、その結果が出るのははて何カ月先の事であろうか。
今日の内容は剣術における居合術の基礎を絡め大げさに表現しました。
たまにテレビで「甲冑割り」とかいってどこかの有名らしいおっさんが日本刀で鎧兜を切るとかやってますが・・・まあ、コメントは差し控えます。
青竹割りとかをYouTubeなどで見かけますが(-_-;)なぜ手で刀の重みだけで振るのでしょうね。理解が付かない。




