第57話 伯爵様に於かれましては ~だから早く言えよ!
こんばんは
本日は昨日より少し早く投稿できました。
が、相変わらず話の中身は進みません。
じっと我慢してお読む下さると幸いです。
では第57話
知矢を乗せた帝国範旗を掲げている高級馬魔車は大通りをしばらく進み都市の中心部へと向かっていた。
この辺りは先日来何度か来た商業地や市民街から少し離れ高級アパルトメントやお役所の建物が多く見受けられる地区だ。
先日訪れた奴隷取引商会もこの一画である。
帝国では奴隷の扱いが厳格に定められておりその取引も言わばお役所の手続き、認可を必要とする為言わいる官庁街に近い場所にあるのも必然なのである。
いま、その官庁街を抜け見えてきたのは一際大きな区画を有し周囲を高い石塀に囲まれた場所だ。
塀の外側から中が見えないので敷地が相当広いかもしくは高い大きな建物が塀際に無いのかここからは推測もできない。
区画の広さを表すように走る馬魔車に沿って先まで未だ塀が見える。
すると突然塀が途切れたと思うとその途切れたと角を馬魔車がゆっくり速度を落としながら曲がるとその先には重厚で幅広く左右に広がる鉄柵状の門が現れ門の前には腰に剣、手には単槍を持つ衛兵が表に向かい4名、柵の内側に4名共に直立不動で警備をしていた。
馬魔車が門の前で止まると御者が何も言わずとも二人の衛兵が内側へ門を左右に引き内側へ大きく通路を開いた。
再び動き出した馬魔車はゲートをそのまま真っ直ぐ進むとそこは綺麗に敷き詰められた石畳になっており左右は低い生け垣や太く高い木々が等間隔で植えられて進路を誘導している。
先には大きな石造りの2階建ての建物が見えている。
建物は2階建てだが作りは豪華で石の装飾を配して重厚さと豪華さを兼ね備えていた。
知矢の目には各所に飾りに見立てた兵隠しが配されている様子が見え、見て呉だけでは無い事も伺えた。
建物の正面に配された花壇を中心に石畳がぐるりと回り込み正面玄関の車止め、いや馬魔車止めへ滑らかに停車した。
玄関前に控えていた使用人が馬魔車の戸を外から開けたので知矢は素直に馬魔車を降り立ち建物を見上げてみた。
正面玄関の上はバルコニーになっている様だが今は人の気配も感じない。
視線を玄関へ移すと左右に別れ並び立つ使用人達が静かに頭を下げていた。
その並び立つ使用人達の中央より歩み出た老練ながらにこやかな柔らかい物腰の者が知矢の前に立ち改めて深く礼をなし「ようこそおいで下さいましたトーヤ様、こちらが我がアンコール伯爵邸でございます。
主は中でお待ちでございます、どうぞこちらへお進みください。私めは執事でございます、何か御用の節は私を始め使用人へどうぞお気軽にお申し付けください。」
ではどうぞと手を差し出し誘導する様に知矢の数歩前を進む。
知矢は無言頷きそれに従う。
「どうぞこちらで少々お待ちください、主はすぐ参ります。ただいまお茶をご用意いたしますので」
執事の案内で玄関からすぐ近くの大部屋へ案内された。
そこは流石貴族の客間と称するべき豪華な作りをし、調度品も果たして大金貨何枚するのかと思しき焼き物の皿や壺が飾られ、正面壁の中央には帝国旗が堂々と飾られている。
市位では見かける事の無いガラスをはめ込んだ大きな窓からは暖かな日が差し込み知矢が良くよく思い出すとこの世界に来てからは見た覚えのないカーテンとレースのカーテンがあった事で改めて豪奢な物だと思っていた。
知矢は豪奢だとは思ったが実際豪商の生活と比べると実は貴族の暮らしはそれほどでもなかった。
確かに大きな石造りの建物を構え衛兵と使用人を抱え広い庭や生け垣を見るに贅沢な様子と見られてもおかしくはない。
だが実際は建物は確かに頑丈な作りだがそれは有事の際の最終防衛も想定しての物であるし使用人は必要最低限、ガラスもほとんどは外から訪れる客を迎える場所にしか取り付けられていないのが実情である。
裏では実はせせこましい物だった。
それが逆に質実剛健の帝国貴族の標準的な有り様でもあるのだが。
使用人が静かに茶を給して退室するとほどなくして扉がノックされ執事が入室すると
「主、アンコール伯爵が参ります」
と言うと扉の脇で頭を下げた。
直ぐに人の気配がし見たこともない人物が部屋へ入ってきた。
一応知矢は先ほどと異なりソファーから立ち上がり軽く頭を下げてみた。
「トーヤと申したな、先ほどは失礼した。改めて名乗ろう、
当商業中核都市ラグーンを預かる管理貴族アンコール伯爵である。」
と自己紹介を改めてしたので知矢も礼を返した。
「こちらも改めまして、A級冒険者 知矢・塚田、通称トーヤと申します。お呼びにより参上いたしました。」
と腰を軽く折るのだった。
まあ座るが良いとの言葉で伯爵がソファーへ座るのを受けた後知矢も再び着座するのであった。
執事が改めて2人へ紅茶を給すると音もなく退出していった。
互いにゆっくり喉を潤したのちアンコールが口を開いた。
「うむ~、どうもさっきの印象とかなり感じが変わるのだなトーヤとやら、そちも変化の術が使えて中身は先ほどと別人かのう」
と声もなく笑いながら知矢の様子を窺がいつつ冗談ともつかない事を言う。
「恐れながら申し上げます。私も最低限ではありますが礼儀をわきまえているつもりではございますが、例えばその相手が身分を偽り人を試すような場面での礼儀は不要と考えます。これは失礼でしょうか」
とニーナが隣に居たらギョッとするような事を一応ではあるが丁寧に述べた。
「はっはっはー、確かにそうじゃな、偽る相手には礼儀など関係ないかもしれんな。」
となにがそんなに気に入ったのか喜様子で大きく笑う伯爵であった。
「では、再度言わせてもらおう、先ほどは騙したようですまなかった。
そして今回の出来事について改めて詫びよう。特に娘の件は相手が君で良かったと報告を聞いて冷や汗が出たほどだ。伯爵としてではなく父親としても謝らせてもらおう、申し訳なかった。」
と豪快な笑い声を潜ませ真剣なまなざしで娘の所業を詫びるのであった。
「いえ、もう十分に謝罪は頂きましたし先ほどは過分な補償もお約束していただきましたので」
「いや、あれは騎士団としての公式の詫びである、今は伯爵のそして父としての詫びとして受けて欲しい」
先ほど上級騎士団長の姿は50歳代の小柄な昼行燈の様な姿であったが今知矢の目の前で詫びるのは70歳にそろそろ届こうかと思われる老人の姿だった。
老人と言っても感じる気迫は流石皇帝より領地を預かり騎士団を率いる者のそれであったが娘の事を詫びる姿は少しこの弱い一面も見せる。
「あの娘はの5人の息子がそろそろ一人前になるかという頃に突然授かった子でな、まあそれだけに親兄弟や使用人からも大事に育てられておった。じゃがけっして甘ったれに育てた訳では無い、民を守る騎士の家柄を解き正義とは何ぞやと教えてきたはずだ。
兄達がそれぞれ騎士や軍属だったこともあり剣の修行も厳しくしつけられて女と言えども十分に騎士団の1隊を率いれられる才があると思い試しに先日来、第1団を任せてみたのだが。」
と力なく話すのであった。
黙って話を聞いていた知矢だったが一人年の離れた娘を甘やかしただけじゃねえかといささか憤慨していたが可愛い孫を得た知矢も息子や周囲から「全然昔と違い甘すぎる!」と言われていた事も有ったので少し気持ちも理解できた。
だがそれでも権をもって律をただすべき立場の者に甘えは許されない。
繰り返しになるがあれが知矢で本当に幸運だったのだ。
知矢の鍛えた身体能力に併せて最高神からもらった力が合さりマリエッタの剣は何のことも無くかわすことが出来たが一市民ではその場で最悪殺されていた。
「アンコール伯爵さま、これより先の無礼をお許しいただけませんでしょうか」
突如知矢はアンコールへ申し出る。
いささか戸惑いを見せた伯爵だが「ああ、構わん」と父親から伯爵の立場に戻ったように鷹揚に答えた。
では、と言葉を切り
「結局はあんたたち家族や配下、使用人が甘やかしただけじゃねえか。
聞けば俺以外にも街で巡回中に勘違いして殴りかかったり剣を向けて威圧したりとトラブル続きで他の騎士や兵士がそのしりぬぐいをしてたんだろ。
詫びるならその街の人々と騎士にも謝罪した方が良いぞ。
そんな風に奴を今まで育てたのあんたたちだ。
もう屋敷に閉じ込めて花嫁修業させてさっさと嫁に出すんだな。
もっともあんなじゃじゃ馬で短慮な奴を嫁に貰う奴がかわいそうだがな。」
フンガ!と鼻息も荒くまくし立てる知矢の言葉をアンコールは唖然として聞いていた。
知矢は確かに孫が「最高にお利口でかわいい」と公言してやまなかった。
だが同時に5歳にして武術の心得を解き、正義とは何か、力とは何かそして先ず動的先を読み心の中を見透かすこと、何が善で何が悪かを見極める。
それを常日頃から教え込むことを常としていた。
おかげで幼稚園でもむやみな暴力を振るう事も無くクラスで弱い者がいれば一緒に対し、力に頼る者がいれば話をもってその心を解く術は最低限身に着けていた。
(まあ、何度か喧嘩になりどうしても力を使う場面で相手をコテンパンにして親の代わりに俺が幼稚園に出向いて事を収めたこともあったがな。)
と孫を思い出しながら伯爵へつい意見してしまったのである。
知矢の突然の暴言に怒り出すどころか言葉もなく黙り込み考え始めたアンコール伯爵であった。
知矢もすぐ伯爵から暴言に対する叱責や反応があると思っていたので少し拍子抜けした。
(少しやり過ぎたかの)
と知矢が思っていると静かに伯爵が口を開いた。
「・・・トーヤ殿わしは確かに歳の離れた娘を可愛がったし他の者も大層幼い妹を喜んでくれてなあ、実はあれの母親は産後の状態が悪くてなまだ娘が小さい頃に亡くなっておるのだ。
だからと言う訳では無いが皆もわしも幼い娘を大事に育ててきたがどこか間違ったのか・・」
知矢の発言でこんなに落ち込まれては知矢も何も言えなくなってしまった。
「・・・・・」
「・・・・・」
しばらく無言の刻が過ぎ去っていった。
「トーヤ殿、いや済まなかった。忙しい其方をこんな泣き言で引き留めてしまったな。許してくれ。」
「いやそれは構わないが、自分で行っておいてなんだがこれから姫様はどうするんだ?俺の言った通りやはり嫁に出すのか」
「ウムゥ、実はの其方をここへ招いたのもその事で願いがあったからなのだ、聞いてくれるか」
少し落ち込んだ伯爵の語気に力が戻ったようだがしかし何か別の決心を持った様子もうかがえる。
「願い?まあ俺で出来る事なら聞くが」
(伯爵の娘に関わる願いか・・まさかな)
「待ってくれ、話を聞くのは良いが出来る事と出来ない事が有るぞ、因みに結婚とかは無理だから先に言っておく!」
少し不安になった知矢は念のため先にくぎを刺しておく。
一瞬笑顔になった伯爵は「結婚か!それも良いな、その方なら幸せにしてくれるかもしれん」
「止してくれ、いまダメだと言ったろ」
「ハッハッ、すまんすまん娘を大事に思うがそろそろ年頃だしな、いつまでも置いても於けぬ。」
「年頃と言ってもまだ15歳位だろ?」
「ああ、いや今年にはもう16歳になる。貴族間の結婚だと生まれてすぐに相手を決める事もあるからな、15歳でまだ決まっていないのは遅いぐらいだ。」
「そうか俺は貴族の結婚や付き合いには疎いからな、しかしその様子だと未だに話も来ないと言う事か?」
先ほど一度断りを入れているとはいえすっかり対等に話す知矢に伯爵は機嫌を壊すどころか何か当然のように感じて素直に受け入れていた。
「いや、まあ何度か話は来たのだがな、私の立場もあるから当家と縁を結びたいと思う家はいくらでもある。
だがやはりあの調子だと噂が伝わりやんわりと話が立ち消えするのだよ。
だから今回の事件は君には申し訳ないが良い切っ掛けになってくれるのではと思っている。」
「うん?一体俺に何をさせようと思っている?また剣で叩きのめせって事か。」
「おお!その通りなんだ」
得たりと顔を輝かせるアンコール伯爵
対する知矢は何言ってんだこいつとあきれ顔だ。
「まあ、そんな顔をしないでもらいたい。娘を切り殺せなどと言う訳がないであろう。
聞けばトーヤ殿は冒険者としても優秀だが剣の腕前は特に素晴らしいと冒険者ギルドのガインからも聞いておる。それに今では小さいながらも商会を立ち上げ多くの使用人も使っていると言うではないか。」
(ガインの奴はペラペラと、いつか見てろよ!)
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ウッ!ハーーーーーックシュン!!!」
「っ!ギルド長!口を押えてクシャミしてください」
「そうですよ!こっちまで何かとんできましたよ」
「キャー」
「お前ら!うるさい! クシャミ位させろ、ったく」
今日も平和な冒険者ギルドです。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「で、じゃあ具体的になにをさせるんだ。
因みに商会じゃなく小さな商店だぜ、しかも使用人は全員奴隷を買ってきてる。
まあ、売っている物は先に献上しといたから解っていると思うが」
「ああ、頂いたよ。マジックバックには驚かされた。
今後はぜひ当家と騎士団としてでも予算を組んで積極的に購入したいものだ。
それにあの生活に役立つ種々の魔道具、うちの使用人たちの評判もすこぶる良い、あれらについても是非とも購入させてもらおうと思っているのだ。」
と献上品を活用して使用人たちがよほど求めているのだろう。
しかし
「まあ、商品をほめてくれるのは嬉しいがそんな事より今はお姫さんの事だろう」
いい加減にしてくれと再びあきれ顔の知矢。
「おおすまんすまん、実はな・・・・・」
知矢はのんびりと老後を過ごす予定であるが何故かどんどんあれこれをしょい込むのであった。




