第55話 高貴なる義務と責 ~私はニーナさんのお茶の方が好きですね
こんばんは 2020年8月31日
今日は暑さが微かに控えめだったにもかかわらず湿度が多くこれも厳しい気候でしたね。
まだまだ気候も中国ウイルスも気を抜けません。皆さまご自愛ください。
では今夜は第55話を投稿いたします。どうぞ。
そこは古いがしっかりと強固に作られた建物であるのはうかがえる。
その建物の一室には二人の男女の姿があった。
女性の方は冒険者ギルドサービスマネージャーのニーナ・スコワールド。
男性はA級冒険者 トーヤ事知矢・塚田であった。
知矢とニーナの座るのは来客用だろう、割と作りのしっかりした豪華そうなソファーでその部屋の壁には古そうだが豪奢に飾られた剣や盾、そして金糸や銀糸で縁取られた帝国騎士団の旗が中央に飾ってある。
座っているソファーの目に前にはうっすらと湯気の出ている紅茶のカップが二つ並べられその脇には小皿に乗せられたクッキーのような焼き菓子まで添えられている様子を見ると客としての待遇はかなり良いと見える。
思わぬ出来事に加え慣れない場所へ連れてこられ困惑と遠慮で紅茶にも一口、口を付けただけである。
片や隣に座る知矢はすぐに一杯目の紅茶を飲み干すと、
「うん、香りもまあまあの茶葉だな。だがもう少し蒸らす時間を浅くした方が爽やかで飲みやすいと思うけどな」
などとニーナに同意を求めるがニーナは苦笑いを浮かべている。
そんな事を知矢は言いながら部屋の中に無言で控えている従卒の少年におかわりを要求するなど寛いでいた。
ここはラグーン都市防衛騎士団の本部である。
先の騒動に巻き込まれた形の知矢とニーナは「形式だけですから」と調書を作成する名目で同行を求められたのであるが。
あの後・・・
「失礼だが冒険者の君、名をきかせてくれないか」
とモンドール団長。
じつはモンドールはマリエッタの起こした騒ぎを「又かこのじゃじゃ馬め」と呪いながらも推移を見守り状況に応じてマリエッタを止めに入らねばと注視していた。
彼女も団長職にただ居座っている訳では無くそれなりに剣の腕を誇り下手な騎士では価値を得る事が出来ぬ技とキレを持っていたのは確かであった。
腕が確かであり上司である管理貴族の姫であったが故、父親でもあるアンコール伯爵が娘の我儘につい甘い対応をしてしまいモンドールへ命じてしまったのがそもそもの間違いであったのだが。
だがそのマリエッタが殺さぬ程度の手を抜いたとはいえ間違いなくその剣先は冒険者の肩口へと向かっていた。
だが実際には掠るどころか体一つ分を大きく外す、いや避けたことに驚いていた。
何かの間違いであろうかと見守っていると激怒したマリエッタがそのまま横薙ぎに剣を力任せに振るいそのままでは冒険者の首と胴がわかれ離れに成ると思い「しまった!」と焦って割って入るタイミングを失したことに焦りを覚えた。
だが結果はまたしても剣は空を切り切られたはずの冒険者は涼しい余裕の笑みを浮かべその場に佇む。
一方のマリエッタは空を切った剣の勢いでバランスを崩し無様に転がっている。
マリエッタ同様何が起こったのかわからずモンドールも一瞬ぼーっとしてしまったが
「貴様!言うに事欠いて私を強盗呼ばわりだと!
この第一騎士団長のマリエッタ・アンコールを侮辱するのか貴様!」
と再度激情したマリエッタの声を聴き我に返って慌てて二人の間に身を入れたのであった。
その後の経緯はあった物のなんとかその場を収め悪い噂の絶えなかったザザン一味を拘束できたのは幸いとマベラス司教へ再度詫びをいれ冒険者の男とギルド職員を調書作成のために同行させねばと思い名を聞いたところ
「おれは冒険者のトーヤ、本名は知矢・塚田です」と素直に答えた。
だがその名を聞いたモンドールは何か背筋に冷たい物を感じると同時に頭の片隅に聞き覚えのあるその名を必死に思い起こすのであった。
「!!!」
思いだしたのは先日騎士団を上げての大騒ぎと大捕物になった騎士団3番隊副団長とこれもまた悪い噂の絶えなかった第2商業ギルドとの癒着、そしてある小さな商店を舞台にした家宅捜索騒ぎであった。
一瞬にして驚愕の表情を浮かべたモンドールは恐るおそるまるでその首が機械仕掛けの人形の様にギギギと音がするのではないかと思うほどぎこちなく首をニーナへ向けた。
「スッ、スコワールド嬢・・・一つ確認したいのだが・・彼は冒険者のトーヤ殿はひょっとして・・」
モンドールの表情を見て瞬時に理解したニーナは
「ハイ、このトーヤ様は当ギルドの期待のA級冒険者であり先の魔鉱石を発見した方です。そして先日第2商業ギルドの事件でも主犯のギルド長捕縛の立役者でもありますよ」
とその表情はまるで知矢を自慢するかのように爽やかな満面の笑みを浮かべていた。
対するモンドールは顔から一切の血の気が引いた様に青白く唇はわなわなと震え声を出すことが出来ずそのまま過呼吸にでもなって倒れるのではないかと心配されるような様子だった。
(やってしまった・・・先日の事件でも第3部隊は面目をつぶし副団長は更迭、犯人を団を上げて捜索するも手柄を逃し今では魔道商店へ詫びと贖罪の為隊員を店への警護に勿論無料で派遣している始末だ
この上更にマリエッタのしでかした事実誤認による言わば殺人未遂・・・閣下・・・申し訳ございません・・・・)
黙って下を向いてしまったモンドール、しばらく無言の刻が三人の間を通り過ぎる。
ようやくゆっくり顔を上げたモンドールは知矢へ向き直ると
「重ね重ね申し訳ございませんでした」
急に跪き、頭を石畳に打ち付ける様にさげるのだった。
突然のいわば土下座に困惑する二人を前にモンドールは手にしていた剣をその身の脇に置いたと思うと腰に下げていたもう一本の短剣をさやから抜きグリップを逆手に持ち替えると一気にその剣先を自身の喉元へと突き刺す。
様に見えたがその瞬間モンドールの両手は短剣ごと知矢によって摑まれ喉に剣先が埋まる寸前引き戻されたのであった。
「おいおい、勘弁してくれよ。急に詫びを入れたと思ったら目の前で自害なんかされたら余計こっちが困る。
あのお姫さんの失態はその親の責で副団長がその身をもって詫びるのは筋が違うだろ。
それに死をもって償うのはその上司に対する責任の取り方であって俺みたいな一介の冒険者へ対する詫びで死んでもなにも報われないどころか残された家族や部下が負い目を追うだけだ。止めときな。」
短剣を取り上げモンドールに諭すように話す知矢。
その様子をドキドキ見つめるニーナ。
その様子は未熟な者に何かを諭す老練な者のようにニーナの目には映り、モンドールもそう感じ取ったのか知矢の言葉を受け入れての力を抜き両手も肩も落とし下を向きながら
「・・はいおっしゃる通りです・・ここで死を選んでも逆にトーヤ様に迷惑を更に重ねるところでした・・・」
そしてガバット顔を上げたモンドールは
「トーヤ様この不始末は私の責任をもって償わせて頂きますので今はこの命、貴方様へお預けしとうございます。」
と懇願する始末だ。
騎士といえば貴族の部下であるがその地位は民間人、平民と異なり知矢のいた地球でも”高貴さは義務を強制する(ノブレス・オブリージュ)”と言われ、特権、権力はそれを持たない人々への義務によって釣り合いが保たれるべきであり、逆に言うと義務を果たす責を貫いている間はその立場と権を有するとの考えと似た意識はこの世界にも強く浸透していた。
よって高貴なる立場の貴族の配下である騎士たちもまた高位な権を有するがそれは市民を守るべき立場を堅持しているからこそ得られるものだ。
ひと時の激情で市民を殺しそうになるなど論外であり義務は成されず立場は喪失した事と同意であった。
つまり高位など既に失墜しているのである。
その事を解っていたためモンドールは自身の命をもって許しを請おうとしたが知矢によって阻まれしかも説得されるに至り心から頭を下げ詫びるとともに知矢の言った事を痛感したのであった。
これも知矢が日本で60を超えた人生経験と社会的立場から来る賜物であったのかもしれない。
「モンドール団長、お立ち下さい。これから隊に戻り諸事の後始末を付け管理貴族様へもご報告いたさねばならないのではありませんか。
それをなせるのはモンドール団長だけです。どうかお立ちになり部下を指揮なさって下さい。」
傍で推移を見ていたニーナは優しくモンドールへ声をかけるのであった。
「そうであった、私はこの騒ぎの後始末を付け閣下にご報告いたさねばならないのだ!
スコワールド嬢ありがとう、目が覚めました。
そしてトーヤ様必ずこの始末はきっちりつけますのでもうしばらくのご猶予を。
オイお前たち!帰ったら大急ぎで奴らの尋問と報告書の作成だ。急ぎ戻るぞ!」
と残っていた部下を叱咤し帰還命令を発した。
1人の若い団員を呼び寄せ
「お前はお二人を丁重にご案内しろ、丁重にだぞ!」
と言い含め
「ではお先にお戻らせて頂きます、お二人はどうぞ後からこの者とおいで下さい。」
失礼いたしました、と再度腰を深く折り頭を下げた後走るように去って行った。
知矢達は唖然と見送った後若い団員に「どうぞご案内いたします」と頭を下げられ仕方なくついて行く事にしたが先にマベラス司教へ再度別れの挨拶をするのだった。
「いえいえ、こちらこそ騒ぎに巻き込んでしまい申し訳ありません。
トーヤ様の身が無事であったので安心しましたが私の不徳の致すところ・・この寄付は」
「だめですよ!そのお金は既に教会のものです、しかもそれを返して困窮しまたどこかでお金を借りる事に成ったら私の騒ぎが無駄になります。どうか有意義に使ってください。」
と知矢からの寄付を返そうとした司教へ釘をさすとともに軽やかな笑顔でウインクをするのであった。
そして知矢とニーナはやっとマーベラス司教の見送りを受け教会を後にするのであった。
そして騎士団本部へと案内された二人は
「ここでお待ちいただきますように」と若い騎士に案内された応接室で従卒の接待を受けながらお茶を飲むのであった。
皆様のおかげをもちまして
25,000アクセスを突破し ユニーク数も4,500人を超える事が出来ました。
大変ありがとうございます。
ですがここで大幅な編集を考えていることをご報告いたします。
まだまだ未熟な文章で皆様にはお読み頂いている事に大変恐縮致しておりますが、
一番初めのプロローグの内容を読み返すに至り大幅な書き直しの必要性を感じております。
少しずつか、一気にかはまだ未定ですが次話投稿の合間を見ながらそちらも進めていきたいと思います。
もしご意見等ございましたらどんどんお願いいたします。
本日は以上です。




