第48話 ギャアアアアーー ~兄貴!今度こそおいら活躍しましたよね
週末投稿完了です。
皆さんお仕事お疲れ様です。
お勉強の方は進んでますか
なんにせよまだ暑い毎日
中国ウイルスを寄せ付けない様にしながら楽しい週末をお送りください。
明日は更新がありません。
ではだい48話どうぞ。
リラレット達を乗せた馬魔車は快調にラグーンへ向かう街道を順調に進んでいる。
この辺りの気候は冬を前にし快晴と穏やかで湿度も無く過ごしやすい地方だ。
だが冬を迎えると丁度いま通過している両側が切り立つ崖に挟まれた様な場所は南からの冷たい乾いた風が吹き抜ける通り道になる為冬の難所の1つに数えられている。
だが今日は快晴、晴れ渡る青い空に雲の欠片も殆ど見受けられない、また風も強くなく弱くなくまさに絶好の日和と言えそうだ。
そんな、秋のピクニック日和ではあるがリラレット達はこれから起こるであろうあまり経験をした事の無い出来事に緊張のせいか言葉も少なく周囲を落ち着きなく見回す者もいるなどとてもピクニック気分にはなれなかった。
そんな中でも元冒険者組の警備担当の者たちは泰然とし、たまに軽口をきく者もいたが他の使用人達がそんな様子では話も盛り上がらなかった。
そんな中レベルはそれ程でも無いが気配感知魔法を持つノブユキが前方に待ち受ける者がいる事だけは知り得て皆に伝えると冒険者組も含め緊張が走った。
「ミホにササスケ、お前たちは敵と確認しても相手を十分引きつけるまで魔法は撃つなよ。そして 達は弓の準備。後方!サーシャは風魔法で敵の接近を阻止、それでも接近する様ならアヤメの火魔法と併せてファイヤーブレスをお見舞いしてやれなあに慌てる事は無い全てトーヤ様の作戦通りだ!」
とサンドスは警備組へ迎え撃つ準備を指示した。
「戦闘へ参加出来ない私達は馬魔車が止まったら直ぐに前方の荷台の陰に隠れるのですよ!
背を低く顔を出さないようにね。
矢を補給する者もあまり出過ぎないよう注意。盾を持っている人は上からの矢にも注意をね」
とリラレットが非戦闘員へ指示を出す。
速度を落とすリラレット達、前方に見えてきた20人ほどの集団。
切り立った崖は昔の干上がった渓谷の名残、幅はおよそ馬魔車二台が余裕をもってすれ違えるほどは有る。
だが前方の集団は馬魔車を見ても避けようとしないどころか逆に弧を描く様に散開し弓を構えだす様子が見て取れる。
サンドスが馬魔車へ停止を命じ1人前に出て大声で叫ぶ。
「おおい、見ての通り馬魔車だ、悪いが端に避けて道を譲ってくれんか!」
と叫びながらも(まあ譲るわけはないか)と思ったが一応暗黙の了解、通行するときのマナーだしなと嘆息する。
すると一人男が一歩出てきて叫び返す
「おう!通りたけりゃ通っても良いぜ、その代わり通行料だ、馬魔車の荷とついでに女も置いてゆけばなひゃひゃひゃぁ」
と品の無い笑い声をあげるとその周囲の者達も同調しそうだそうだと喚きだした。
「ならば押し通る!後で泣くなよ」
と言いながら下がりミホとササスケに場所を譲り自らは背中の大剣を抜くのであった。
ミホとササスケが身構えながら呪文を唱える準備をしている間に後方からも馬魔車が近づく気配がした。
「後方より馬魔車接近、敵です!」
眼の良い獣人の使用人マイガ叫ぶ。
後方の馬車に乗っていた非戦闘員の使用人は盾を前後に構えながら前方の馬魔車の陰へと移動する。
その時荷を満載した馬魔車の御者の老人は身動きが取れないのか荷を預かる責任からなのか降りようともしなかった。
そんな御者を気にしながらも避難するリラレット達。
その瞬間「ウォー!!」とばらばらに叫び声を上げながら前方の敵がかけてきたのだった。
ミホとササスケは手を前方へ押し広げ魔力を込め敵との距離を測った。
どたどたかけて来る敵が20m程の範囲に入ったし時
「今!」ミホの合図でササスケが「ウォーターイレーサー」と薄く鋭い水の刃物を散弾のようにまき散らす。
ミホは「ファイヤーショット」と唱えると小規模の火球が連続して打ち出された。
弧を描き散開していた敵は数人二人の攻撃を受け切られたりはじけ飛ばされたが半数以上の者はなお勢いに乗せて剣や槍を掲げて突進してくる。
距離が急接近する中ミホとササスケは次の魔力を込める事を諦め腰や背中の刀を抜刀し構える。
「よし少し数を減らせたな、じゃあ次はおじさんたちに交代だ」
と柄の長いハンマーを肩に担いだギムと大剣を持つサンドスが進み出てきた。
ミホとササスケはすぐにその場を譲ると刀を持ちながらも魔力を込め出し後方よりの援護の準備に切り替えた。
「当たるとちいと痛いぞー!」と叫びながらギムがハンマーを振り廻しながら敵の中央へ突進する。
突撃して来た敵は逆進するギムのハンマーを見て停止しようと試みたが行きおいをつけすぎ急ブレーキをかけたため剣や槍のバランスを崩した4人は一撃でギムのハンマーを浴び吹き飛ばされ吹き飛ばされた先にいた者も巻き込んで崖に打ち付けられたのだった。
その吹き飛んだものの逆側から突進してきた者はサンドスの大剣の一撃をかろうじて避けた物の勢いを殺され剣を切り結びながら体勢を立て直そうとする。
4人を相手にするサンドス、その後方より頭の上をミレ達が放った矢が越えて行き後方より接近する敵を寄せ付けない。
奮戦する前方、その頃後方から一歩遅れて近づいて来た馬魔車よりも武器を構えた者達がわらわらと降り始め突進を始めていた。
後方で守りを固めていたサーシャとアヤメは各個に火球のファイヤーショットと風の刃を放ったが敵の馬魔車付近へ着弾寸前”ファアン”と空中で微振動を起こした瞬間魔法がかき消されてしまった。
「何!?」驚くアヤメにサーシャは「魔法防御盾よ。私のファイヤーボールに併せてウインドウショットを放ちなさい、良い、3,2,1!ファイヤーボール!!」「ウインドウショット」
二人の併せる魔法で豪火球となったファイヤーボールを魔法防御盾に向かって放った、しかし再び”ファアン”と空気を震わせるだけで魔力が消失してしまうのだった。
「ムハハハハ!馬鹿めこのボンザンス様の魔道具はお前らごときの安物とは違うんじゃグフグフ。おいお前ら魔法は封じた早く切り刻んで荷を奪え!!」
やっとの思いで馬魔車の荷台からはいずり降りてきたボンザンスは自分の魔道具の性能に満足しながら配下をあおる様に怒鳴った。
アヤメとサーシャは剣や短剣に切り替えると敵の突進に備え両足を開き身構えた。
「オイ!前の馬魔車まで後退だ!!急げ」
大剣を掲げて気を威嚇しながらノブユキが二人に叫ぶ、すると三人の頭上を援護の矢が飛んで行き突進してきた先頭の敵の胸へと刺さり転倒させた。
その先頭の勢いが滞った隙に三人は前方の馬魔車へ荷台後方へ移動。
荷台から大盾を下ろし防御の陣を張った。
前方はギムとサンドスの突進に加えミホとササスケの援護により20名ほどの敵はそのほとんどが先頭不能に陥っていた。
「ワイズマン!!」
サンドスの合図に先頭の御者台に隠れて攻撃をやり過ごしていたワイズマンが「おう!」と手綱を操り馬魔車を前進させる。
それに合わせて非戦闘員の者達は馬車の前方に走り出て後方との戦闘の邪魔にならない様にしながら戦闘不能にした敵の武器を奪い手足を縛るなどし戦闘の邪魔にならない場所へ無情にも蹴り転がす。
前2台の馬魔車が前進したことにより置いて行かれる形になった3台目以降の馬魔車、3台目に御者の老人以外他の者は前方へ移動が済んでいた。
2台目の馬車後方に盾を並べ敵の突進に備えるサンドス達。
20m程空いた空間、敵は3台目の荷を満載した馬魔車へ取りつき御者に刃物を突き付け「馬魔を動かすなよジジイ」と脅していた。
3台目の前に敵が進み出サンドス達と対峙する形になるが敵は既に荷を手にして勝った気でいるようだ。
盾の中からじっと相手を睨みつけると馬魔車後方から脂肪に満ち溢れた男がその重い体を揺らしながら醜悪な顔に本人曰く笑みを浮かべ姿を現した。
「やあ、これはこれは魔道具商店の皆さんでは無いですか、こんな所でお会いするなんて奇遇ですなググフグフ」と気持ちの悪くい声まで上げて。
「とうとう姿を現しましたね、すでに帝国中にあなたの手配が廻っている頃です。諦めて司直の元へ許しを請いなさい。」
リンと声を張り上げリラレットが対峙する。
勿論リラレットもその他の使用人たちもボンザンスが降伏し自ら刑に服するなど考えてもいなかった。
「ガウハガウア、そこのお嬢さんは今の状態が解っておられないようだ。まさか我々が何も知らないでここに来たと思っているのなら大笑いだ。」
リラレット達は(こっちが笑いたいわ)と思ってはいるがまだ知矢の考えた作戦の途中だ、気が抜けない。
「お前たちがここまで運んできたこの荷物は私が責任をもって某国へ向けて販売してやろう。その方がよっぽど高値で売れる。
お前らの様に物の価値が解らない奴があんな値段で庶民へマジックバックを売りつけようなど馬鹿げている、それをこのわしが正してやろうと言うのだから感謝するがいい。」
「そんな事は許されません、その荷から離れなさい!決して触れてはいけません!言いましたからね!」
リラレットが何を言おうが一向に気にする気配もないボンザンスは傍にいた配下の冷たい目をするあの男に、
「そうだお前、まさかと思うが荷を確認してみろ」というと男は黙って頷き荷台に飛び乗ると腰の短剣でロープを無造作に切断し木箱の蓋をあける。
すると一つ一つ丁寧に藁や獣の毛皮で覆われた背負子やポーチが出てきた。
「ボンザンス様この大きいのが特大サイズで時間経過をしない最高級で青金貨2枚はするやつで」
とあの日リラレットの新発売説明を聞いていた男はぼそっと言うと箱から出した特大マジックバックをボンザンスへと差し出すのだ。
「おおこれが青金貨2枚とは物の価値を知らん奴だ。彼の国なら白金貨で売れるであろうクックックッ」
とバックを開けようとした時
「いけません!登録前のマジックバックを開けない様に!大変なことが起きますよ!」
と再びリラレットが大仰に叫ぶがそんな事は耳に届かないボンザンスは不用意にバック、背負子の上の紐を解き蓋を開けるのだった。
が何も起こらなかった。
「何だ何か飛び出す仕掛けでもしているのかとも勘ぐったが何もないではないか、馬鹿め!」
と言い放ち中へ手を差し込み何か触れた物があるが何かわからず引き出してみた。
「みんな伏せろ!」どこからか聞こえた声でリラレット達は大盾に隠れながら身を伏せた。
すると突如
「バリバリバリ!!シュバババババァー」
掴み上げた何かが突如せん光を発し落雷にも似た衝撃と周囲に鋭い電気を発しながら衝撃波をまき散らした。
「「「ワァアアアアアーーーーーー」」」「「「ギャアアアーーー」」」
3番目の馬魔車の周囲にいた者は皆一様に喚き、転がり卒倒しはじけ飛ばされるのであった。
せん光と衝撃波、落雷のような大音響が静まり返った後リラレット達はそっと立ち上がりながら大盾の隙間から様子を探るのだった。
そこに立っている者は一人もいなかった。衝撃で飛ばされたのち気を失った者や倒れ伏してうめき声をあげる者ばかりである。
「支配人が触るなと言って触った。自業自得」
と落ち着いた様子でサーヤがダメ出しをする。
そこにどこからか
「オイ、皆無事か」と知矢の声が。
使用人たちが立ち上がり周囲を見渡すと崖の切り立った岩の中腹にたたずむ姿を見つけた。
「トーヤ様ご無事で!」リラレットが崖に走りよると皆も後に続く。
ひょいっと殆ど音もたてずに飛び降りた知矢は皆を見回し
「うん、作戦成功!皆よくやった。怪我をした者はいないか!」
「ハイ!全員無事でございますご主人様。しかしご主人さまがよく無事でございました」
実は3番目の御者台に座る老人は知矢の変装であった。
当初変装の得意なアカネがその役をやるはずであったがバックを開け風魔法”サンダー”が無事発動しそのタイミングで瞬時に逃げ出せるのは知矢しかいない為ともし御者に対して攻撃を向けた時に対応が出来なかった時の為を考え知矢がアカネに変装のメイクを施してもらったのだ。
「ああ、心配かけた、だがこの通り全て上手く行った、皆のおかげだ!」
と再び周囲の使用人たちを見回しねぎらうのであった。
こんな芝居じみたことを実行しなくても正面から攻撃を撃退しても良かったのだがそれでは奴、ボンザンスが痛めつけて今まで陰で泣いていた者の仇を取った気がしなかったため司直に単に引き渡すのではなくいい気になった所で一気に痛い目に合わせて地獄へ落としてやる、そうリラレットやサンドス達と飲みながら考えた作戦であった。
因みに昨夜工房の使用人のじいさんを演じて飲みに行った店で酒で敵に情報を流したのはアカネの変装であった。
そのサンダーを浴びて死屍累々のごとく倒れている者はおそらく死んではいないであろう。
あとの面倒は騎士団へ頼んで引き上げるつもりだ。
「よし、誰か合図だ、ファイヤーボールをめい一杯魔力を込めて打ち上げろ!」
すると火魔法をつかえる物が全員で一斉に青く澄んだ大空めがけてファイヤーボールを打ち上げた。
夜見れば綺麗な打ち上げ花火の様であったろうが残念なことに昼間では遠くに向かっての合図にしかならないのが残念であった。
騎士団が到着するまでの間倒れている者に縄を打ち市場のマグロのセリが如く地面に転がしておいた。
ボンザンスだけは非常に重たかったので冒険者組も二人掛かりで縛り転がすのであった。
四半刻も立たずに来た街道衛星集積都市ラッテの方向から獣魔や馬魔のかける音が近づいてきた。
先頭を駆けるのはボンタである。
馬魔上から大きく手を振りながら疾走してきた。
知矢の前についたボンタはぴょんと身軽に馬魔上から飛び降りその身軽さは流石一応冒険者であった。
「兄貴!皆無事だったんでやすね!いやあ山向こうで待機している間気が気では無かったっすよ」
「おうお前もご苦労だったな」と素直にねぎらう知矢だ。
こそ数日ろくに食事もとれず、睡眠もまともに出来なかった状態でボンザンスに張り付き情報を集めていたため相当疲労しているはずであった。
他の使用人がゆっくり船旅をしている間も休むことなくである。
「ボンタさんお疲れ様です。そちらの方が危険でお疲れになったでしょうね、帰りは荷台にマットを敷いてゆっくる休みながら戻れますよ」とリラレットがねぎらうと使用人のイーシャが「ハイ!ボンタさん様に食事もお酒もたっぷり用意してバックに仕舞ってありますよ」と伝えた。
そんな話をしているうちに騎士団の一行も到着し
「冒険者トーヤ殿ですね、手配犯及びその配下一行の捕縛お見事でした。ご協力感謝します」
と知矢に対して騎士団の隊長が礼を述べる。
「いえこちらが狙われていたのですから撃退する必要に迫られてです。でも過去には相当の余罪があり苦しめられた人々がいたと思います、それらを暴き刑を与えるのがこれからの皆さんのお仕事です。大変でしょうがよろしくお願いします。」
と隊長と握手を交わすのであった。
「よし!それじゃあ俺たちの家があるラグーンへ帰ろう!」
「「「「「「ハイ!」」」」」」
元気に快晴の空へこだまする皆の返事を聞き帰ったらニーナやニャアラスも呼んで家で豪かに宴会だなと思いながら帰路に付くのであった。




