第44話 であえであえ神妙に縛につけ!! ~くっそトーヤの奴に利用されちまった
突然ですが
2020/8/19 現在23:35
本日2回目の投稿です。
では第44話どうぞ
その日の朝も知矢の店、魔道具商店は朝から多くの人々が開店前から列をなし店が開くのを今か今かと待ち焦がれていた。
店で販売される商品の利便性、機能性、使いやすさそして何より今出回っている種々の魔道具に比べてはるかに便利なのに逆に値段はかなり安くなっているのだから注目を浴び無い訳が無かった。
ただ商品は一人に対して販売される数や種類が限定され1人一日一回しか購入できない為幾人もの人員をつぎ込み購入する者もいるがほとんどの者は個人で購入している。
ともかく都市へうわさが広がり入手した者からさらに他の者へ評判が広がってるのは間違いなかった。
そんな今朝も使用人たちが表戸を開け掃き清め打ち水をした後声をそろえて表に挨拶、その後支配人のリラレットによる開店宣言・・のはずであるがその日は違ったのである。
「待て待て!魔道具商店とやら、我々は都市警備を担う管理貴族”アンコール家”配下の者である。
この店に対して疑念の訴えが有った。
よって役儀により捜索する全員動くな!責任者は誰か」
突如通りの各所より武装兵とそれを率いる騎士団が店の前に躍り出てきたのだった。そして実は同時に裏門の周囲へも兵による封鎖が行われていた。
「これはこれはお役人様、役儀との事ご苦労に存じます。」
店の奥から颯爽と現れたのはもちろんリラレットであった。
「お前がこの店の責任者か」
指揮官と思しき騎士の詰問が飛ぶ。
「はい、私は当店の総支配人でございます リラレットと申します。このような早い時間から一体何の疑義でございましょう」
あくまでもリラレットの受け答えはゆったりとし自信に満ちた物である。
そんな落ち着いた様子に指揮官は本当にこの店か?と思いはしたが口には出さず役儀を勧めるのであった。
「うむ、其方が責任者か、ならば申す。昨日然るものによりこの店が帝国に対して叛意をもって商売をしているという訴えがなされた、それについての捜査であるから包み隠さず話すように、良いか!」
「まあ、叛意でございますか。そんな恐れ多い事は全く存じません、しかしお役目と有らばどうぞ何でもお聞き下さい。
必要であれば店の中もご覧いただきます。」
と未だ落ち着いた態度だがそんな事は無いと少し驚くそぶりも見せるリラレットであった。
「ただ、騎士様に一つだけお願いがございますがお聞きいただけますでしょうか」
「なんだ、事によっては聞こうではないか、申してみよ。」
「はい、ありがとうございます。お願いと申しますのはこれからお話しいたすことは商売に差しさわります事柄を多く含みます。出来ましたらお話をさせていただくときは私と騎士の方数名、そして兵の方々はお客様方を少し距離を離す役をお命じ頂き一緒に声の届かぬように願いたいのですが」
「うむ・・・」
リラレットの願いに指揮官である騎士はしばし考え一瞬視線を配下である兵の方に向けた。
「よし、わかっただが話をごまかすような真似は致すなよ、良いな」
と念を押すと配下の兵に指示し客をいったん店から遠ざけ兵士も客の傍で待機を命じたのであった。
この時兵士の中に1人怪しい動きをする者がいたがすぐ他の騎士から指示が飛びやむなくその場を離れたのであった。
実はこの兵士は第二商業ギルドに買収されている兵士であり捜索に紛れ所品の仕入れ元などが書いてありそうな書類を盗み出した場合多額の金銭を約束されていたのであった。
しかし騎士の命に従わぬわけにもいかずまだチャンスはあると少し離れた場所から様子を見るのであった。
「もう良いであろう、では話を聞こう。先ず真っ先に確認に無くてはいけない事が有る、それはこれらの魔道具の入手先である。どこで作られた、誰が作っている、入手先は。」
矢継ぎ早に核心から聞いてくる騎士であるがこの者達は買収されている事は無い。
逆に帝国の騎士や兵士の中で犯罪者やその他の物から金品を受け取り融通を利かせる、情報を漏らす、罪を見逃す、そう言った事が起きる事はゼロに近いほど有り得ないのだった。
先の金銭で買収されている兵士のような者はごくごくまれで稀有な事だ。
それだけ帝国の清廉潔白な体制が今日までの南の王国との戦いに屈しなかった根底でもあった。
それだけに理解しているリラレットは騎士だけに話をするのなら主人である知矢の秘密が外部に漏れだす可能性が低い事も解っていたからの対応であった。
「はい、お応えいたします。
先ずこれらの商品の構造部の加工はこの商店の中で使用人の分業にて制作しております。次に魔道具の機能部、魔法加工でございますが・・ここは決して表に出したくない話ですのでご注意を・・」
と一息つき指揮官を見つめながら続けた。
「帝国冒険者ギルドA級冒険者にて先日”魔鉱石”発見の功績でこの後管理貴族様から表彰の為の謁見が予定されております、トーヤ様、本名 知矢・塚田様 の魔法にて制作された物です。そしてこの店のオーナーでもいらっしゃいます。」
「な、何だと!あの噂の冒険者か!」
「お声が大きゅうございます!」
まさかの話に驚いた指揮官がうっかり大声を出してリラレットにたしなめられる。
「おお、すまんすまん、いやしかしまさかそんな大物が出て来るとは、うん、いや何か証明する物は有るか。」
流石話を聞いただけで丸め込まれるような落ち度をみせる事の無いのは大したものである。
「はい、こちらに申請書と許可証、そして魔道具を予め販売する旨を書き記し現物を進呈した受領書にございます。」
とリラレットがあらかじめ用意していた書類を恭しく盆にのせ指揮官へ見せるのであった。
一枚一枚の書類を精査した指揮官はその最後に確認した受領書を恭しく掲げた後盆に丁寧に戻しリラレットへ返すのであった。
「総支配人、いやこれは完全なるこちらの落ち度であった。単なる疑念の訴えをうのみにし全うな商売を行う店へこの様な早朝から邪魔をしたとなるとこちらの申し分も無い。大変申し訳なかった」
と衆が見守る中で大声で伝わるように謝罪ししかも貴族の配下である騎士が頭を下げたのである。
周囲で見守っていた客や市民が固唾をのんでいた上での騎士の詫びである。この光景は非常に重い物として市民に受け入れられるであろう。
「これは騎士様、頭をお上げください。
何か疑義があれば捜査する、これが帝国にて犯罪を防いできた騎士様のお仕事。
当然の事でございます。先ほどの事だけお守り頂ければ私共は何も気に致しません。」
慌てて騎士へ詫びは必要ないと声をかけ頭を上げさせしかしつかさず釘だけは差しておくのであった。
「いや誠に申し訳ない。先ほどの約束は固く守らせていただく。この件を話すのは上司を越えてただ1人、アンコール伯爵さまだけに留める事を約す、では商売の邪魔になる、早々に引き上げるとしよう」
総指揮官は宣言し周囲を振り向き部下へは急ぎ撤収の命を、市民には再度自分たちの落ち度であった、これからもこの店をひいきにしてやって欲しいと周知し足早に撤収するのであった。
唖然としている客と市民に対しリラレットは
「お客様、そして通りの市民の皆様大変お騒がせいたしました。
遅れましたがこれより”魔道具商店”開店いたします。」
と晴れやかに宣言するのであった。
その様子を見守っていた者がいた。
「くくくく!!何で騎士の奴らは帰ってしまうのだ!店に入り込み証拠を持ち出すんじゃないのかくっそ!!何がどこで狂った・・・こうなったら・・」
その脂肪に満ち溢れた顔を真っ赤に腫れ上がらせ今にも顔から脂肪が噴出しそうな顔をしながらその男、ボンザンスは次の手を打つべく慌ててその場を立ち去るのであった。
取り巻きの者は慌てながらも怒りが向かぬように少し距離を置きながらついていった。
そして更に、その様子を見守っていた者がいた。
「兄貴、どうやら穏便に済みましたね。アイツのあの顔、いっひっひっひ!」
「おい、そのいやらしい笑いはやめろ、しかしお前の掴んできた情報も役に立ったぞ」
ボンザンスとは反対の店の2階から様子を見ていたのは知矢とそして配下として付き従うボンタであった。
先日からボンタはその特技、能力 ”気配消失LV20”そして、我慢強さLV15”をいかんなく発揮しそれこそ我慢強く数日間ボンザンスに張り付いてその様子言動を記録し先回りして知矢へと伝えていた。
「しかし兄貴、いくらリラレットさんでも何であんなに騎士が慌てて謝罪したり早々に立ち去ったんですかい」
と種明かしを望んできた。
「うん?あああれか、そうだなお前にいってなかったな。実は・・」
知矢は日本で会社を経営してきて至極当然の事と思っていた”役所の事前許可”の概念があまりこの世界に無かったことを聞いたときこんなトラブルを回避するため事前に許可と黙認を取り付ける策を考え手を打っていたのだった。
・一つ 冒険者ギルドに対し魔法道具の製作販売をA級冒険者のトーヤが行う事の通知と申請許可
・一つ 第一商業ギルドに対し冒険者ギルド長名で商店開設と販売行為の許可申請
・一つ 都市管理貴族へ新たに制作販売する魔法道具の承認のため商品を無償提供し如何に有用な物かを確認してもらうための譲渡を行い受領書を引き換えに受ける
以上3点を準備していた。
ギルドへの申請書はニーナに協力してもらいギルド長の承認を膨大な書類の海に紛れ込ませうやむやの内に決済させたのである。
都市管理貴族へは賂と思われぬ様に「市民に販売する前に安全・安心・高性能な事をご説明したく進呈いたしますので長くご使用ください。」と添え、代わりに受領証明を受け取ったと言う訳である。
騎士が掲げ恭しく戻した書面がそれである。
帝国に叛意を抱く南の大国の手先の疑い、そう聞きおよび勇んで捜査に訪れてみると自家の統領が受け取った書類が出てきてはその商品を製作販売する店を疑れば主の顔をつぶす事にもなる。
もちろん両ギルドへ申請許可がなされているのであればそれこそ何の疑義もないどころか昨今話題の帝国に強い武器と勝利をもたらす原動力の魔鉱石を大量に供給できる大発見者のA級冒険者が店主であれば何一つ疑問を持つ必要も無い訳である。
それどころかその英雄とも目されている者の店の妨害を確たる証拠も無くしたとあっては騎士の立場も危うくなるかもしれない。
そう思い指揮官は捜査を命じた上司である副騎士団長とさらに念のため騎士団長も飛び越し主である貴族へ直接説明を行う事にした。
と言う訳で知矢は店を守る警備達の他に紙の盾も準備しておいたのだった。
知矢の説明にあまり道理と仕組みが理解できないボンタも「さすが兄貴ですね」と解った様な事を言うのであった。
しかし知矢もそろそろ面倒になってきたなと考え先日リラレットやサントスと話し合った策を実行する事にしたのだった。
はあもう疲れましたのでお休みなさいませ




