第231話 Ghost in the Night ~ 今は昼間だニャ!
第231話 を投稿いたします。
大変お待たせいたしました。
取り急ぎどうぞ!
春の風が緩やかに走る丘の中ごろ。そこにはこの大自然に似つかわしくない大きな布製の屋根といくつもの柱を備えた変わった様子の天幕が張られていた。
天幕は勿論知矢の使用人たちが今回の旅の為に作り上げた自慢の一品である。快晴でも降雨でも寒い風の日でも、あらゆる条件を想定して以下に主一行が快適に旅を出来るが使用人たちは過保護な程に思慮を重ね協議を繰り返し作り上げた天幕セットである。
今は程よい快晴と微風が小高い丘をかけている。そんな快適な環境の為、天幕セットは簡易な状態である。
主賓室とでも呼べばいいのであろうかメインとなる大きな天幕。そこには人数分の椅子そして中央に大きな丸テーブル。その脇にはワゴンの様な台が置いてありお湯を沸かす魔道具とポットや茶道具、軽食を詰めたマジック・バック機構の付いたバスケットが配置されていた。
隣に設けられた小ぶりな天幕には流し台や簡易的な調理台そして時間経過と温度管理のできる数種類のマジック・バック機構を兼ね備えた棚も置かれ主の要望でいつでも本格的な料理を出すことも出来る。もっとも今回はかなりの数と種類を誇り完成したばかりの熱々や冷え冷え、フレッシュな料理の数々を持ってきている為本格的な料理を作る機会はほとんどないかもしれない。
「カーネタリア様、紅茶のお代わりはいかがでございますか」
天幕の中に据えられた椅子に深く腰掛けて何を見る事無く景色を眺めていた老人に若い女の使用人が声をかける。
「ああ、お嬢さんやもう十分にいただいたでな結構じゃよ」
老人は飲み終えた空のカップをソーサーへ戻しながらにこやかにしわくちゃの笑顔を見せる。
「じゃーお菓子はいかがですかー」
もう一人、男の子の使用人、いやもう男の子では失礼かもしれない。だが未だ大人になり切れてはいない使用人が真ん丸の笑顔で菓子を勧める。
「ヒョッヒョッヒョ手代さんそっちも十分じゃて」
「「そうでございますか」」
二人の使用人は少しだけしょんぼりと答えた。
「まあただ待つと言うのも存外難しいからのう。こういった場所で旅の間いかに時間を使うかを考えるのも今後の役に立つじゃろ」
カーネタリア老人はくしゃくしゃの笑顔でそう言うと自身は椅子にゆったりと背を預け静かに目をつぶるのであった。
すると知矢の使用人であるアンドウとマリーは老人の言葉に顔を見合わせ「「うん」」と互いに頷き合うと何をしようか、何をなすべきかを考え、相談すべく目を閉じて休んでいる老人を気遣うように席を立つとそばを静かに離れパントリーとでも呼ぶべきか隣に設けた別の天幕へと移動するのだった。
『しばらく旅に出る』
そう知矢が宣しいよいよ数か月に及ぶ異世界で初めての旅が始まった。
知矢の友人でもあり B ランク冒険者のニャアラス、伝説の S ランク冒険者のカーネタリア老人そして旅の間、彼らの身の回りの世話役として知矢の使用人を代表しアンドウとマリーの二人が同行している。
正直なところ知矢の旅へ同行する使用人としての能力でいえばこの二人に勝る使用人は大勢いる。そしてその多くの使用人達も心から知矢の旅への同行を切望していた。しかしその中で筆頭支配人のリラレットが指名したのが手代のアンドウともう一人マリーであったのだ。
二人を指名したリラレットの意図は取りあえずおいて置く。
大きめの魔馬車に乗った一行は御者役のアンドウが2頭立ての魔馬を上手に操り多くの使用人たちの見送りを受けながら出発した。しかしラグーンを発ち二刻程魔馬車に揺られた草原の丘で小休止を始めた。
旅や御者になれない使用人の事を慮った知矢の好意と併せて以前ニャアラスやボンタと共に訪れたこの地にあった洞窟の奥へと続いていた通路、その別れ道、当時足を踏み入れなかったもう一方の洞窟の先はどうなっているのかを探索する為だ。知矢にとってその探索への深い意味はない、逆に言えば探索をする必要はないのだったが通りすがりにちょいと覗いておくかという程度である。本来の意味はアンドウとマリーへ小休止時間を与える為と魔馬の休息が目的だ。
「ここからは真っ暗だこれを使ってくれ」
知矢とニャアラスそして従魔のピョンピョンにフェリシアだけを連れ洞窟探索を始めた一行はいよいよ入り口から差し込む日の光が届かない暗い穴の中へと足を踏み入れようとしていた。知矢は無限倉庫から頭に着ける明かりの魔道具や肩に装着できる魔道具などを各自に配る。
「ニャアこれはあの時のより軽し小さいけど明るいニャ」
ニャアラスはヘッドライトと共に両肩のベルトにも魔道具を装着して具合を確かめながら大喜びだ。
知矢は槍の様な物の先へ周囲と上部を照らす魔道具を取付て手で持っている。これはいざという時に地面へ刺して自立させることが可能として戦闘時にも周囲を明るく照らせるようにと考えた物だ。
フェリシアは知矢と同じものを手にしておりこちらは前方や天頂方向以外に後方へも光を放っている。
もちろんG・D・Sのピョンピョンは大きな物を持っては活動できないので今はフェリシアの肩の上で周囲を警戒する役目を担っている。
「よし準備は良いな。行こうか」
知矢の掛け声でニャアラスと知矢が並びながら進みフェリシアが背後を守る。
太陽光の差し込まないごつごつとした濃い褐色の岩肌洞窟をゆっくりと進む一行。以前来た時に一応は南の工作員の設置した罠は全て取り払ったつもりではあったが念のため周囲を確認しつつ進行する。勿論知矢の感知レーダーは常時展開中である。
洞窟へ入り進むとすぐに見知った分かれ道へとたどり着いた。
「アッ見えたニャ。ここだニャ」
ニャアラスは以前通った分かれ道を見つけ声を上げる。
「ここまでは一度通った道だ。ここからだな」
知矢はそう言いながら右側の洞窟へ指向性に特化した高照度の明りの魔道具を照射しその先を確認した。
「何にもないニャ」
先の方まで照らし出す光の線に映し出されるのは障害物の無い真っすぐで緩やかな坂の洞窟だ。100m程先は曲がっている様子であったがそこまでは何もない、それは以前と全く同じである。
「レーダーにも特に何も無しと、ニャアラスやフェリシアは何か感じるか」
「うニャ、なーんも聞こえないし臭いもニャイ」
『今のところ怪しげな気配も感じません』
「よしじゃあ注意しつつ進もう」
一行は周囲を警戒しつつも緩やかな坂を下り始めた。
100mほど緩やかに下りながら進むとその先は緩やかなカーブをえがいておりその先は目視出来ない。しかし知矢の感知レーダーもニャアラスの鼻にも感も特に危険を感じていなかった為そのまま歩みを進めた。
洞窟は若干の下り勾配で僅かに湿り気を帯びていたが内部の気温が低めであるためそれ程不快さは感じず足元が滑る程でもないのは幸いだ。
しかし曲がり角へ差し掛かった瞬間、何か妙な異変と言う程ではないがほんの僅かに何か違和感を感じた様に前を歩く知矢とニャアラスが一斉に立ち止まり僅かな声を発した。
「うん?」
「ニャ?」
知矢とニャアラスは同時にその何かを感じた様子だった、しかし敵意や攻撃を受けたという訳でなかった。
すると
「ニャアトーヤ、そろそろ戻るかニャ」
まだ洞窟へ入り10分も経っていないのであるが歩みを止めたニャアラスが振り返り突然奇妙な事を言い出した。当然知矢はその言葉に異を唱えるはずなのだが
「――そうだなもう戻るか・・・」
ニャアラスと同様に突然探索への興味を失ったかのように知矢も同意する。
『・・・(ご主人様?)』
「・・・あぁ・・・」
フェリシアの肩に乗る従魔、G・D・Sのピョンピョンが問いかけるが反応が薄い。
『主様、いかがいたしましたか。まだ来たばかりでございますが』
もう一人の従魔フェンリルの上位種であるフェリシアも唖然としながら知矢に問う。
「・・・もう十分だろう、皆も待っている事だしさっさと戻ろう」
フェリシアの問いかけには反応するものの言っている事がいつもの様子と異なる。明るい場所でよく見るときっと二人ともその表情や瞳にもいつもと異なる曇りを見て取れたかもしれない。
『・・・(フェリさんご主人様も獣人さんも何か変ですよ!)』
『ええ、いったいどうしたのでしょう、周囲になにも変化は見られませんし・・・敵――も気配はありませんね』
困惑する二人の従魔は改めて周囲を探るが特に異変は感じない。そうする内に知矢とニャアラスは何も無かったかのように今来たばかりの洞窟を戻っていってしまった。
『理由がわかりませんが仕方がありません。取りあえず私たちも続きましょう』
フェリシアはそう答えるともう一人の従魔へ声をかけつつ元の道をどんどん引き返していく主達の後を追うのであった。
「あれご主人様たちが戻ってきたぞ。ずいぶん早いですね」
使用人のアンドウは知矢達一行が丘の下から歩いてくる姿を見つけマリーへ声をかけた。
「そうですね。でも目的が洞窟の確認だけですから思ったほど深くなかったのでしょう」
マリーはそう答えるとお役目が出来たとばかりにすぐにお茶の準備を始めた。
その声に椅子へ深く腰掛け目を閉じていたカーネタリア老人も目を開けその様子を見る。
「・・・・(はてあれは・・・)」
椅子にこしかけたまま知矢達の様子を見ていた老人は口の中で僅かなつぶやきを漏らす。それは勿論アンドウ達の耳に届くことは無かったが嬉々としてお茶の準備をするマリーと異なりアンドウはそのにこやかな丸顔を少しだけ引き締めた様に見えた。
「カーネタリア様、何かご主人様がいつもと違う様に感じるのですが」
何を根拠に自身がそう言ったのか解らなかったがアンドウは感じたままそう言葉を漏らすとそのアンドウの言葉に
「ヒョッヒョッヒョ。手代さん、お前さんは何かしらの能力か才能を持っていそうじゃわい」
カーネタリアはそう言いながらもアンドウが感じたと同様に自身も感じた何かを確かめようと口内で微かに呟く 「【鑑定】・・・・(さて何にやられたのかいのう)」
カーネタリアは鑑定結果を見ながらそう心でつぶやくが椅子に腰かけたまましわくちゃの顔で知矢達を見守るのであった。
「ぼくはただの商店の手代ですから冒険者の皆さんの様な凄い能力とか行使力なんか持っていませんよ。ただ何となくいつもはご主人様って張りがあるって言うかキレがあるっているのかな、良く解りませんがとにかく今のご主人様は何か違う感じがしただけです」
そう呟きながら主達を見つめるアンドウは (そう、ご主人様っていつも優しいけどそのお体に纏う物って何か鋭い雰囲気なんだよね)
そう考えつつアンドウは知矢達を出迎えるのであった。
「お早い御戻りで、ご無事で何よりです。今マリーがお茶を用意してますのでどうぞこちらへ」
アンドウは主達の様子を観察しつつもいつもの様に出迎えた。
「・・・」
「・・・」
アンドウの言葉を受けても知矢とニャアラスはやはり何かぼーっとした様子であった。
「ご主人様?・・・」
『少年少し待つが良い。ご老体良いだろうか』
アンドウが知矢達へ声をかけるのを遮る様に知矢達を後ろから追ってきたフェリシアが間に割って入るとカーネタリアへ声をかけ目配せをした。
肩にもう一人の従魔ピョンピョンを乗せたままフェリシアはカーネタリアを少し脇へ誘うと小声で
『ご老体、感じていると思うが主様達の様子がおかしい。特に敵の攻撃や罠にかかったわけではないと思うのだが突然様子がおかしくなって引き返すと言いだしてしまったのだ』
『・・・(そうそうご主人様変です)』
二人の従魔から訴えを受けたカーネタリアはフムフムと話を聞いていたが既に理解していたように話を返す。
「ヒョッヒョッヒョ、フェンリルの嬢ちゃん達は主の異変を感じて鑑定はしなかったのかのう。なら鑑定をしてみる事じゃ」
既に鑑定を行って結果を知っている老人は慌てる事も無くいつもの飄々とした様子で答える。
『・・・主の事を許可も受けずに鑑定するなど不敬でございますが・・・。しかし今はそのような事を言って居る場合ではなさそうですな。主様、御免 【鑑定】』
フェリシアは知矢へちらりと視線を送りながら僅かに頭を垂れ許しを請う様に呟くと鑑定魔法を行使した。
『――何と! 慮外者めが!!許せん!! ピョンさん行きますよ!無礼を働いた輩を始末せねば!』
鑑定魔法の結果を見たフェリシアはその身から怒りのオーラを発する如く憤怒の形相でもう一人の従魔へ声をかけ手に日本刀を掴みながらその身を翻した。
「まあまあ待たぬかお嬢さん方」
老人ののんびりとした声が掛かる。
『――ウッ!これは・・・ご老体!何をなさる』
のんびりとした声をかけたはずのカーネタリアから発せられた気の圧力にその身を捕らえられたかの如く動きを制せられたフェリシアは抗議の声を上げた。
『・・・(おじいさん相変わらず凄いですね)』
ピョンピョンもその気を受けたがこちらはフェリシアとは異なり老人と同じように飄々(ひょうひょう)と受け止めた。
「ヒョッヒョッヒョ、まあそう急くでない、相手は逃げやせんよ。それよりもだ」
フェリシアから逆に抗議の怒声と共に気激を発せられたカーネタリアであったが一蹴だにせずが如くひょっこりとした歩みで知矢とニャアラスが茫然とした様子で座る方へと足を向けた。
読者の皆様お久しぶりです。
通りすがりの浪人者は4月4日に病の為、更新が滞る旨を告知させていただきました。
その段階で医者より「1ヶ月ほどで投薬すれば70%の方が完治します」
と言われましたが30%を引き当ててしまったようです。(-_-;)
平常でも耳鳴りはやまず、薬が切れると脳圧が昇り激しい頭痛に悩まされております。
間を見ながら少しずつ書く様にしておりますが更新期間は体調次第という事でご理解ください。
参ったな・・・・・




