第229話 旅そしてそれぞれの思い~「・・・兄貴~!」
三連休、皆さまはいかがお過ごしでしょうか。
お仕事の方はご苦労に御座います。
では早速第229話をどうぞ
「それじゃあ、行ってくる。留守は頼んだ」
「「「「「「「「いってらっしゃいませ!!!」」」」」」」」
知矢の言葉に、見送りの為に屋敷の門前へ並んだ使用人たちの内10名ほどが元気よく送り出しながら頭を下げそして手を振る。
「お早いお帰りをお待ち申し上げます」
その中から奴隷から解放され気持ちも新たに更なる忠誠を魅せる筆頭支配人兼家令のリラレットが言葉を添える。
「出発しまーす!」
同行する使用人の一人、御者台に座るアンドウが元気よく出発を告げると二頭立ての魔馬車は中型の荷台をゆっくりと引きながら動き出した。
魔馬車をゆっくりと進ませながら見送りの仲間へ手を振るアンドウ。それを見送る者の中にゼンゾウ、シンゾウ、カンゾウたちの姿も見える。
「おーい、頑張ってねー」
「ねぼうしちゃだめだよー」
「お土産忘れないでねー」
と特に仲が良く同郷の三人は大きな声を出しながら手を振って見送っていた。
荷台の後方の幌をが開け放たれている為そこに乗る面々の様子が見て取れる。
カーネタリア老人は前方、奥の方に腰かけ飄々とした顔つきでニコニコと見送りの者へ笑顔を見せる。
ニャアラスは何故か魔馬車の荷台に設けてある屋根の幌上で胡坐をかきながら皆へ手を振るが持ち前の運動神経なのか落ちる気配も無く次第に小さくなる見送りの者へいつまでも手を振っていた。
そしてそのニャアラスの傍には知矢の従魔、G・D・Sのピョンピョンも同じく幌の上で手?を振っているが場所が場所だ小さすぎておそらく見送りの者からは認識できていないであろう。
もう一人の従魔、フェンリルの上位種であるフェリシアは都市を出るまでは子犬の姿に変化したままであるが荷台の縁に前足をかけて静かに外を向いている。都市の門へ向かう道すがら時折魔馬車の荷台からから顔を出すフェリシアの様子を見かけた通りすがりの市民が 「かわいい」等とフェリシアへ手振っていた。
そして使用人を代表しアンドウと共に同行の栄誉を手にしたのはマリーであった。
マリーは他の者と同様に荷台から笑顔で見送る同僚に手を振っていたがその心中は複雑なものもあった。
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先日筆頭支配人に就任したリラレットから呼び出されたマリーは知矢の旅への同行を命じられると思わぬ事態に衝撃を受けた。
『筆頭支配人、何故 私なのでしょう。自分でいうのも変でございますが他の使用人の皆さまと比べ何も秀でるものも無くしかも・・・特殊な立場です。もっとご主人様の為にしっかりと働け、しかもご同行を強く願う方々は他に幾らでもいると思います』
マリーはなぜ自分がと全く理解できずしかも同行しても旅の足手まといになるのではないかと訴える。
『はい、貴女の言う通りですね。正直、私も未だ少々不安を覚えます』
マリーの訴えにリラレットもそれを否定せずそれどころか肯定の言葉を口にした。
『でしたら!』
『マリーさん!』
マリーの抗弁にリラレットは少しだけ声を大きくする。
『はい何でございましょう筆頭支配人』
リラレットの声に落ち着いた調子で背筋を伸ばし応えるマリー。
『良い傾向です。貴女が知矢様に連れられ店の裏木戸をくぐって来た頃とは見違えましたね。もうあの頃の貴女ときたら・・・・』
少し懐かしむように虚空に視線を上げるリラレット。
『・・・あの頃の事を思い出しますと恥ずかしさで身の置き場もございません』
うつむきながらしかしそれでも落ち着いた口調で答える。
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『―― よかろう!この勝負受けようではないか!私は真剣でも構わない!お前の財産などいらないが私の剣でこの身の潔白を晴らそう!そしてお前を一生奴隷としてこき使ってやる! 』
何度目になるであろうかそんな大言を知矢へ吐き父であるアンコール伯爵や騎士団長そして居並ぶ騎士たちを前に無様な姿をさらし続け最後には当時副団長扱いであったモンドールの鉄拳を受けた事ですべてを悟ったのかそれとも虚勢を張って認めていなかった心が知矢の剣技で折れたのか、その後はまるでつきものの落ちた様に激昂する姿は鳴りを潜めた・・・のはその場だけであったが。
『――貴様!我を侮辱する気か!許せん!!剣の錆にしてやる、そこに直れ!』
知矢の魔道具商店に於いて修行と言う形で方向を始めたマリエッタ・アンコールはその名をマリーと改め知矢の奴隷である他の使用人たちの指導のもと新たな生活を始めた。
しかし短慮で激昂する性格は直ぐに治るものでもなく先輩使用人から度々お叱りを受ける事となる。
『だから、今のあんたは何! 将来の事なんか聞いてないし、あんたの過去も関係ない。今!今あんたは何でここに居て何をするの!』
そんな叱責を何度も受けるうちに落ち込むマリー。しかしその中で
『あれえ、どうしたんですか』
『そんな止して下さいよ。同じお店の使用人じゃないですか。それより元気ないですけどお腹でも痛いんですか』
ニコニコ顔のアンドウであったが少し女を心配し顔色を窺っている。
『いや大丈夫じゃ・・・また失敗と言うか・・・剣、いや箒を振り上げて成敗しようとしてサーシャ殿に叱られてしまってな・・・・』
『あははは、じゃあ僕と一緒だ』とぱっと明るい笑顔を見せて笑う。
『えっ?』
『僕とねゼンちゃん、あっ、ゼンゾウ君がね昨日二階で布団を干した後布団叩きで剣のまねごとしてたらサーシャ姉ちゃんに怒られて棒でお尻叩かれちゃった』と明るく話すのだった。
そんな同じ失敗をしながらも明るく笑うカンゾウを見て少しだけ心が軽くなったマリーであった。
『でもお姉ちゃんはまだお店に来たばかりだから仕方がないよ。一緒に頑張ろうね!』と更に励ます少年。
『ねえお姉ちゃん、お庭を見てごらんよ。ね、お掃除すると気持ちいいよね。お庭の木や石も輝いて見えて僕好きなんだ。お店の表もそうなんだ。お掃除しているとね街の人が「ボウズ精が出るな」とか「いつもきれいにしていて関心ね」なんて喜んで声をかけてくれるんだ。だから僕たちいっつも頑張ってお掃除しちゃうんだよ。でもたまに剣術のまねをして怒られるけどね」と屈託なく笑う少年の笑顔。
マリーは以前住んでいた貴族である父の屋敷で掃除などしたことも無く、掃除をしていた者へ声をかけた事も無かったなと考えていた。
その頃から何かがマリーの中で変化の兆しがあった様であるが本人はもとより他の使用人も未だ気が付いてはいなかった。
しかしその頃ある事件が起きる。
知矢と知矢の店魔道具商店の技術と希少な魔道具を狙い南の潜入諜報員や破壊工作員による襲撃とアンドウ、マリー両名の誘拐事件が発生した。その過程で捕らえた犯人に殴られたのであろうマリー
『こんな奴らに抵抗も出来ない程・・・私って・・・弱かったのですね・・・』
と事件が解決し知矢達に救出されたときマリーは落ち込んでいた。
『何を言っている。お前は騎士でもなければ冒険者でもない今は只の使用人のマリーだ。しかも剣やナイフも持たずに上司のアンドウを連れて武器を持つ複数に囲まれたらかなうはずもないであろう。この場合の対処は捕まっても命を何としてでも保ち助けを待つことこそ肝要だ。その傷を見るにおまえはアンドウへ敵の気を向かせない様わざと反抗して殴られたのだろう。まあ、その手は諸刃の剣の場合もあるから常時使えないが今回はアンドウは無傷、お前共々救出されたんだ。上々だ!』
知矢としては身を挺しアンドウを守ったであろうマリーを褒めた。
マリーとしては不甲斐なさを覚えたが知矢から”只の使用人のマリーだ、武器もない”と言われ(そうだった私は使用人のマリーだ)とまた自分の立場を思い出したのだった。
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『あの頃の貴女からはとても想像できない程成長しました。それは日頃の行動だけではなくこうして話している時の姿勢や所作、口調など多岐にわたりますが格段の進歩であると皆が口をそろえていますし私もそう思います。ですからそれについては自信を持って結構だと思います』
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以前、知矢達が緊急指名依頼でベフィモス・ゾンビの討伐を終えた慰労会での出来事。
その宴会に招待された都市警備騎士団のオースティン騎士伯配下のジェシカ・エクワドルは楽しい宴席と美味しい食事を堪能していたが
(姫様のお顔を拝見する機会はあるだろうか)
と以前伯爵の娘としてのマリエッタのご学友として親交の有ったジェシカが考えていたが、ワゴンから茶器を目の前へ置いた使用人をわずかに振り返り「ありがとう」と声をかけた、しかしそこにいたのはただの使用人ではなくまさにマリエッタ・アンコールその人であった。
『姫様!』ジェシカの驚く声に。
『あら、コホン。これはこれはエクワドル様。本日は当屋敷に御出でくださりありがとうございます。
こちらは北部産の茶葉をふんだんに使いました香しいまた微かに渋みをアクセントにしております紅茶でございます。デザートの菓子にぴったりでございますので御ゆるりとお召し上がりください』
そう言ってジェシカの目の前へ置いたカップへ優雅な手さばきで紅茶を注ぐと 「失礼いたします」 と微笑みを残しワゴンを押して去っていった。
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その様に以前の親しい知り合いと顔を合わせても感情を乱すことなく自然と振る舞い使用人として十分な所作を披露するまでになった事は実に驚異的と言うか画期的な事だと言える。
『今回の抜擢はその集大成だと思ってください。貴女がなぜ知矢様の元で仕える事になったのか。以前の様な振る舞いに至った経緯など私は殆ど存じ上げません。しかし貴女は変わりました。それが今後貴女の将来にとってどのような影響を及ぼすのかそれも私の知りうるところではありません。しかし使用人の皆をまとめる立場としての私に貴女のこれまでの結果を見せてください。それが今回知矢様方の旅に同行させる理由です。
これまでは他の使用人や上司たる者の支えなども有ったでしょう。しかし旅先ではそう言った手助けなどない物と覚悟してください。
そして旅を終え、お戻りになった知矢様がどういった評価を下すのか。それはあなた次第です』
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そんなリラレットから知矢への同行を命じられた時の事を思い出しているうちに二頭立ての魔馬車からは知矢の屋敷が見えなくなっていた。
「ではお通り下さいトーヤ殿。無事の御帰還をお待ちしております」
大門にて騎士団の確認を終えた知矢達の魔馬車はゆっくりと商業中核都市ラグーンを出て行った。
「ありがとうございます。暫しの旅ですが戻りましたらまたよろしくお願いします」
そう騎士へ声をかけながら軽く手を振りながら大門を出た魔馬車は少し速度を上げると街道を進んでいった。
少しづつ小さくなるラグーンの城壁を見つつ進む魔馬車、すると屋根の幌からするりと身軽に荷台へと降りて来たニャアラスが疑問を口にする。
「そういえばカーネタリア様、あのペットはどうしたニャ。姿が見えないニャ」
ニャアラスは門の外で大きな小屋を与えられていたカーネタリアの騎獣ともペットとも言うべき大森林の魔獣ギガント・ポメラニオンの姿が無い事を指摘した。
「ヒョッヒョッヒョ、あやつは大人しくよく言う事を聞く可愛い奴じゃ。しかしのう、まさか旅に連れて歩く訳にもいかんし、かと言ってこの都市に置いて行かれても困るじゃろう。じゃからあやつと話をしてのう暫くの間大森林へ帰る様に言ったのじゃ。もう今頃は親の元で甘えている頃かもしれんのうヒョッヒョッヒョ」
知矢に誘われ旅への同行を決めたカーネタリアであったがやはりギガント・ポメラニオンの扱いが問題になった。
それと言うのも知矢とカーネタリアの動向が都市警備騎士団の耳に入ると 『留守にするのであればギガント・ポメラニオンを置いて行かないで欲しい』との嘆願書が出されたのである。
『お前もあのフェンリルの様に小さくなれんか。それなら旅へ連れて行くことも出来るのじゃがな』
などと話しかけるとギガント・ポメラニオンはカーネタリアの言う事をよく理解しているのかその身を必死にちぢこませるように四肢を折り曲げたり頭を腹へ丸め込んだり色々試してみたがどうやってっもその身は縮まることは無く何かをカーネタリアに訴える様に情けないしょんぼりとした顔を見せるのだった。
『やはり無理かのう、仕方がないのう、お前は森へ帰っておれ。また帰ってきたら呼ぶかもしれんが暫く親の元を離れて恋しくもあるじゃろ』
そう言いながらカーネタリアにその巨体を寄せて縮こまるギガント・ポメラニオンと暫しの別れをするのであった。
知矢が道具屋に願い特性の首輪を作らせプレゼントされたギガント・ポメラニオンはカーネタリアの騎獣であると記載した金属プレートを下げたまま遠い大森林へと名残惜しそうに見送くる老人の姿が見えなくなるまで何度も振り返りながらその巨大な姿を森の奥へと没していった。
「ニャアそうだったのか。まあ慣れるとあいつも可愛い顔してたニャ、いないと寂しいニャ」
そんな話をしているうちに都市周回街道から主街道へと進んでいった。主街道に出ると道幅は広く遮る物も少ない事からさらに速度を増す魔馬車。
因みに、この異世界で魔馬が引く荷台には車輪の受け口にエア・サスペンションや板バネなどのショックを吸収する構造機工は存在しない。車輪に軸を通しそれを直に客車や荷台へ固定するのが一般的である。
貴族の魔馬車や金持ちが所有する魔馬車は荷台ではなく客車構造で中にはソファーが備わっておりそれをクッションにして体をいたわる構造である。それでも揺れや窪みによる衝撃は車体を揺らし快適な乗り心地とは決して言えない。
つまり魔馬車での旅は苦行の様なものである。
知矢は独立懸架やトーションビームなどの構造や機構を熟知していたがそれをこの異世界の工業レベルで作り出す事は難しく今のところ断念していた。
しかし車軸や車輪の主構造を一般的に普及している木材などではなく金属で加工する事と併せ車軸間を金属の板バネで受ける縦置き式板バネサスペンションは試行錯誤の上、作り上げることに成功した。
フルオーダーで試作を繰り返したため商業ギルドと工業ギルドに支払った報酬は莫大なものになってしまったが完成を見た時に工業ギルドから「生産権」そして商業ギルドから「販売権」を嘱望されサーヤ書き上げた構造図と共に販売額の50%の権利を得て技術を売り渡した。
大量生産が叶った暁には相当の利益が見込める事から知矢としても安定収入を得た事となる。
それはともかく今回知矢達が乗る魔馬車の荷台にはその板サスが装備されており従来の乗り心地と比べると格段に良くなっていた。
しかしそれでも荷台は木板敷である。そこでビックモーモーという柔らかな毛長毛の革で突撃シープの毛を包んだマットレスを作り全面に敷き詰めてありさらに各自にはいくつもクッションが配されていれば快適な長旅を送れる事であろう。
「アンドウ、疲れたら代わるニャ、遠慮はするニャ。先が長いからニャ」
ニャアラスは御者台で魔馬を操る知矢の使用人へ声をかけた。
「はーいわかりましたー。まだ大丈夫ですが疲れたら代わってくださいねー」
元気に応えるアンドウである。
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出発前夜、知矢の魔道具商店2階にある使用人たちの部屋での事。
『・・・・・・・』アンドウは翌日に備え早々とベットに入った。しかしなかなか寝付けずその身ヨゴロゴロとベットの上で動かしながら早く寝なくてはと思うが余計に寝ることが出来ない。
『アンちゃん寝れないの』
ゼンゾウが隣の二段ベットの上から声をかける。
すると下のベットに寝ていたカンゾウトシンゾウも姿を見せ四人で二台の二段ベットへ集まり顔を見合わせる。
『緊張しているんだね、大丈夫だよ。ご主人様やカーネタリア様ニャアラスさんフェリシアさんピョンさん、みんなとっても強いし魔物に襲われてもすぐにやっつけてくれるから安心だよ』
カンゾウが旅への不安を感じているのだろうと慰める。
『ううん、そんな心配はしてないよ』
『じゃあ旅先でお仕えするのが不安なの? 大丈夫だよマリーさんも一緒だし』
シンゾウが声をかける。
『ううん、それも心配してないよ』
『じゃあ初めて遠くに行くから不安なんだね。大丈夫だよ行くのは帝国内だけだもの。この間聞いた遠くの知らない国、魔神王国とかまで行くわけじゃないし』
ゼンゾウが声をかける。
『ううん違うよ。そんな事を心配しているんじゃないんだ・・・・・』
『『『じゃあーどーしたの??』』』
『あのね・・・みんなと何日も離れるのが初めてだから・・・・』
『『『あーあ!!』』』
アンドウは他の手代ゼンゾウ、シンゾウ、カンゾウ達と同郷であり幼いころからそしてさる商家へ働きに出るのも一緒であった。
そして商家の主による商売に失敗に伴い生活に困窮したことによる借金によって奴隷になった時も皆一緒、そして知矢の元へも一緒に買われて今に至るが考えてみるとアンドウは他の仲間と長い期間離れて暮らすのは初めての事であった。
知矢の同行をリラレットから命じられた時 『わーい頑張りまーす』と仲間とともに大抜擢に喜びさらには『良いなー、旅なんてした事無いよねー』と仲間に羨ましがられた。
アンドウも当初は旅の準備に追われ色々な者から詳細に知矢や他の者へ旅の間どの様に仕えるか、食事の支度から機材の準備、維持管理、風呂の支度や洗濯など、そしてたち寄った村や街で宿の手配や関所があった場合の対応方法その他、都市内に暮らしていては決して経験することの無いようなものまで迅速に対応できるように指導を受けた。
そんな忙しさですっかりと仲間と離れて暮らす事など考える暇もなく前日の夜を迎えふとその事に気が付いた時、不安が込み上げてきたのだ。
「そーだよね。僕たち気が付いたら一緒にいたしねー」
「そうそう村でも兄弟みたいだっていつも言われてたねー」
「奉公に出てからも離れた事無かったねー」
「・・・そうなんだよ。だからさ・・・」
アンドウは寂しそうに下を向く。
「でもこれでお別れじゃないんだしさ大丈夫だよ。僕たちはご主人様とみんなそしてアンちゃんが帰ってくるのをちゃんと待っているから」
「「そうそう」」
「うんありがとう。他の人たちもご主人様と一緒に行きたいって言っているのに僕がこんなんじゃ申し訳ないよねー。ごめんねみんな」
「そうだ!あれをごらんよ」
ゼンゾウが僅かに開けられていた板窓を指さしベットから降りてその板窓を押し上げて皆を手招きで呼んだ。
「なんだいゼンちゃん」
「みんなみてよお月様が綺麗だよ」
「わー本当だ。おっきいね」
「もう春だから暦は大月なんだね。でもそれがどうしたのさ」
「アンちゃん、もし旅先でさ寂しくなったらお空の月を観なよ。僕たちも毎晩夜にお月様を見るからさそしたらいつもおんなじお月様を見ているんだよ。こうして一緒に見ているのと一緒さ。そうすれば寂しくないだろう。
それにあのまん丸いお月様をじっと見ているとさ何かに似ていないかい」
「似ていいる?何に」
アンドウは月を見上げて考えるが思い浮かばない様子だ。
「えーよく見てごらんよ。じっと見ているとシンちゃんの顔に見えてこないかい」
ゼンゾウはシンゾウと月を見比べながら言う。
「それを言うならガンちゃんの方が似てるよ」
シンゾウはガンゾウと月を見比べながら反論する。
「えーそれを言うならみんなお月さまみたいだからみんなの顔だよ」
「「「そうだね」」」
ガンゾウの言葉に真ん丸とした笑顔の四人は互いの顔を見比べながら笑いだす。
「そうだよ、お月様をみてみんなで顔を思い浮かべるんだ。そうすればいつも一緒だよ」
ゼンゾウが月を観ながら真ん丸の笑顔で言った。
「うんわかったよ。いつもお月さまを見ながらみんなの顔だと思うね!」
「うん僕たちもこうして夜にアンちゃんの顔をみんなで見ているから一緒だよ」
こうして四人は寝るのを忘れた様にいつまでも夜空の月を眺めながら互いの顔を思い描くのであった。
「・・・・・」アンドウ達の隣に部屋を宛がわれている猫獣人族で警備副主任に就任したミレがその様子を耳にしていた。
(大分しっかりして大人に近づいたと言っても旅は初めて。不安があって当然だ。アンドウ、頑張って奉公しろよ)
そう心で励ますミレは不安を仲間たちと一緒に解消したアンドウ達がいつまでもワイワイ旅の話に盛り上がるのを暫し黙って見守っているのであった。
「・・・・・」
「でさ!」
「・・・・・」
「えーそうなのすごいなー」
「・・・・・」
「わー僕も一緒に行きたかったなー」
「・・・・・」
「でも天幕の設置が思ったほどさ・・・」
「お前ら!いい加減に寝んかい!!!寝不足で御者は務まらんぞ!!」
黙って見守っていたミレであったがいつになっても静まらぬ四人、さらに話が盛り上がり始めた時板窓を跳ね上げて怒鳴った。
「わーごめんなさい」
「すみませんでした」
「もうねます」
「おやすみなさい」
ミレに注意された四人は飛び跳ねる様にベットへと潜り込んでいった。
「えへへ怒られちゃったね」
「でもやっぱりもう寝ないとね」
「うんそうだね」
「あしたからもそれぞれがんばろうね」
「「「うん!がんばろう」」」
「「「「おやすみー」」」」
こうして夜は更けていった。
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「トーヤ今日はどこまで行くニャ」
アンドウと御者台に座るニャアラスが荷台を振り返りながら訪ねる。
「取りあえずおおよそも目標の街は決めているがそれも必ず到達する必要も無いからのんびりと行くさ。太陽の様子で今夜の寝床を見定めよう」
知矢は事前情報の収集や綿密な移動距離の算定は行っていた。しかしあくまでもそれは知矢の趣味であり予定ではない。
何と言っても今回の旅は物見雄山であるのだからと鷹揚に考えている。それこそが知矢の言うのんびり老後なのであるから。
「ただ先ず俺が少々気になっていた物がこの先にあってな」
「なんニャ」
「以前ミサエラ達と出会った森、そこに至る裏ルートをボンタから聞いた洞窟の奥に見つけた事があっただろう。あの洞窟の奥に伸びていた通路。途中にあった分かれ道を覚えているか」
知矢は南の工作員が森の中に秘かに設けたキャンプ地を探しに行った時のことを話し出した。
「ニャア、覚えてる覚えてるニャ。俺が風の流れでこっちだって言った先にあいつらがいたニャ」
「ああそれだ。よくよく思い出すとあの別れ道のもう一方。あの先はどうなっているかと思ってな。通りすがりだからちょっと確認だけしとくかと思った。まあそれだけなんだがな」
(第123話~参照)
知矢はその洞窟の件は詳細に報告書として管理貴族宛へ報告していた。しかしこの報告書がもし冒険者ギルドにも回覧されていたとすれば未知の洞窟への調査が成された事であろう。
しかし管理貴族の騎士団や兵士は知矢達により偽装されたカモフラージュ用の魔道具から解放されたキャンプ地後の確認は行ったものの洞窟としての調査はなされなかった。
これは騎士団と冒険者の価値観、視点の違いであろうが。
「ニャア、さっそく何か物凄い発見があるニャ」
ニャアラスはその分かれ道が次第に下へと向いていたことを思い出し奥に何か秘密があるかと期待するのだった。
「まああまり期待するな。だいたい南の奴らがすでに先に入り込んでいたんだ。勿論既に探索済みだろうからな」
知矢旅へ出発したばかりでそうそうそんな冒険イベントが起こるわけが無いと思いながら話を流したのであった。
商業中核都市ラグーンを発ってのんびりと2刻ほど、主街道を進む知矢達の先に東へ向かう枝道が見えて来た。ここまですれ違った魔馬車や旅人は何人もいたがトラブルらしいことは無く順調な旅立ちである。
「そうそうここニャ、アンドウここを曲がっていくニャ」
ニャアラスは当時の事を思い出す様に御者のアンドウを案内する。すると暫くのち先に大きな森が見えて来た。
その森を迂回し枝道を外れ草原の丘を少し下がるとその先に森の木々に覆い隠された洞窟の入り口で当た処が見えてくる。
「アンドウ、あっちの方だニャ」
ニャアラスの指示でアンドウは魔馬を御してゆっくりと丘を下っていった。
「よしこの辺りでいいだろう。アンドウここで休憩を兼ねて少し洞窟を探って来る。その前に軽く何かつまんでお茶にしよう」
知矢は慣れない旅の御者を務めるアンドウの事も考慮して小休止を指示した。
知矢とアンドウそしてマリーは手分けしてマジックバックから日よけの天幕を出したりお茶や軽食の用意、そしてニャアラスは魔馬に餌と水を与えるのであった。
「カーネタリア様どうぞこちらへ。少し体を伸ばしてください」
マリーが椅子を指し示しながら老人へ荷台から降りて休息を即した。
「ヒョッヒョッヒョお嬢さんすまんの」そう言いながら荷台から姿を見せた老人は体を伸ばしつつ用意された椅子へと腰を下ろす。
尽かさずマリーは各自へ温かい紅茶と軽食を差し出す。お湯は勿論熱々に沸かしたものをポットに詰め時間経過の無いマジックバックから出されたものだ。同時に供された軽食はスコーンの様な焼き菓子であるがこちらも焼き立てのままである。
それぞれ支度を終えると水の魔道具を使い手などを清浄すると席に着いた。
「カーネタリア様俺とニャアラスは少しこの後洞窟を見てきますがどうされますか」
紅茶でのどを潤しながら知矢が老人へ尋ねる。
「そうさのう、まだ旅は始まったばかりじゃて。ここでのんびりと待たせてもらうかの」
そう言うとしわくちゃの顔で微笑みながら軽食を口にする。
『では主様、ご老人がお残りになるのであれば私はご主人様に同行させていただきたいのですが』
子犬の姿から人化の術で変化したフェリシアが願う。
『・・・(じゃあ私も一緒に~)』すると同じく従魔のピョンピョンが賛同する。
「そうですか。では留守を頼んで宜しいですか。ならピョンピョンとフェリシアは付いてきてくれ。アンドウとマリーはこの場で休んでいてくれ。カーネタリア様がおられるから心配はない」
「「了解いたしました」」
こうして知矢とニャアラスそして二人の従魔が洞窟の探索へ向かう事が決まった。
早朝にラグーンを発って2刻、ちょっとだけ中を覗いて戻れば昼過ぎあたりだろうと知矢は読んだ。その後昼食をとり再び進むと夕刻前には衛星都市の一つへたどり着くかと計算するのであった。
「じゃあちょっと行ってくる」
「カーネタリア様直ぐに戻るニャ」
「「お待ちしております」」
知矢はニャアラス達を連れ森の木々に覆われた洞窟の入り口へと入っていったのだった。
昨日はお休み。本日は会社で一人待機中。(暇)
昨日は朝から各所街道、高速道路には渋滞と多くの車が見受けられました。
私は裏道ばかりを選んで奥多摩へ。
渋滞は無かったのですが峠を無謀なチャリダーがスポーツタイプの自転車で暴走していて危険でした。
あいつら下りで無茶しすぎだろ。
対向車やハイカーもうろうろしているのに。
噂ではバイクより高いらしい自転車だが乗っているのがああいうやつではもったいない。やるときは独りでタヒんでね。他の方を巻き込まないように祈ります。
ではまた次話にて




