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老齢オヤジが死んだけど異世界でゆっくり老後をおくりたい~チートに大金ゆっくり老後、あれ俺若返ってるけど?  作者: 通りすがりの浪人者


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223/257

第223話 縁(えにし)と ~「わし、もうおうちへ帰る!」

3月7日月曜日

週の初めですが昨日より執筆をしており何とか書き上げましたので投稿いたします。

では第223話 どうぞ





 知矢達は冒険者ギルドからの帰宅途中に見慣れない建物を見かけた。


    【文 書 館】


 その建物は異世界、帝国でいうところの日本の図書館のような物らしい。その話をボンタから説明を受けた知矢は興味を覚え

 「ボンタ。すまないが【文書館】へ行ってみたいんだが、そっちに回してくれないか」

 そう頼み乗っていた魔馬車の進行方向を変えさせた。




 たどり着いた建物は石造りの立派な建物だ。この都市の中にある行政関係の建物は総石造りが多いが殆どがただの箱に屋根を設けたような簡素な建物であるのに対しこの文書館を始め隣接する文化館、文劇館は凝った化粧が施された造りで随所に文様や植物を象った石板なども外壁の一部に見える。入り口には大きな磨き上げた石柱を並べて配し知矢は「古代オリンピアを彷彿(ほうふつ)とさせる」等と印象を受けた。

 「外部の壁は花崗岩(かこうがん)みたいな石だな、こっちのツルツルしているのは大理石か、床は御影石(みかげいし)に似ているな、あっちの花壇に枠は大谷石(おおやいし)そっくりじゃないか。結構似た様な石が存在するもんだな」

 知矢は建物を見回しその材質を日本で見かけた石と見比べていた。


 「ボンタ、中へ入れば受付でもあるのか」

 魔馬車を降りて周囲を眺めていた知矢は入り口であろう開け放たれている重厚な扉を目にしながら利用方法を尋ねた。


 「あっしも聞いた話だけですけど入って多分受付があって利用料金を払うっていうらしいっす。料金は高いって聞いてますけどいくらかは知らないっす」


 「そうか、まあ中で尋ねよう」

 知矢はフェリシアとピョンピョンを連れて入れるのか疑問に思いながら黒御影と酷似した石段を登り建物の中へ入っていった。



 「ハイ、利用料を払えば日の入りまで自由に本を読んだり資料を閲覧することが出来ます。ですが傷をつけたりした場合は高額な賠償金を課せられますのでご注意を。書き写す事は自由です。ですがもし無断で持ち出し等があればその場で身柄を拘束され騎士団へ引き渡されますのでご注意を」


 受付にいた年配の女性からその他注意事項を聞いたうえで利用料金小金貨1枚、10万イエンを払うと後は自由らしい。小金貨一枚、日本円で換算すると10万円になる。とても日本の図書館と比べられるものではないが本自体に希少性が高く料金を安くしたり無料で利用できる様にするとその希少性を理解できない者が本を傷つけたり時に盗んだりすることも考えれば致し方が無いのかもしれない。


 従魔に関しては規定がなかったが何かあれば(あるじ)の責任と念を押され同行することが許された。

 G・(ゴールデン)D・(デス)S(スパイダー)の姿を見てもそれほど驚く様子も無かったのでおそらくは知矢の事も含め知っていたのであろう。

 なお従魔の入場料はかからなかった。

 

 


 ボンタは

 「あっしはどうも本とかってやつは」

 と言い魔馬車で昼寝をしているそうだ。

 


 知矢は料金を払うと礼を述べ先ずはどこに何が収納されているかを示す大きな壁に掲げられた案内図を見回す。


 「さてどこから見て回るかな」

 案内板には帝国の歴史関係や地理、都市経済分野、大森林の調査報告、薬草やその他植物関係、魔獣・魔物関係、魔法関係等が大別されているようだ。

 中には物語の様な文芸関係もあったのは知矢は意外であった。


 そもそも知矢がこの異世界に来てから文芸や芸能その他娯楽的な要素の事柄に出くわした覚えがない。強いて言えば裏街で見かけた娼館が娯楽と言えば娯楽であろうが祭りなどがあれば人が集い楽器を打ち鳴らして輪を作り踊る事はあってもテレビやインターネットがあるわけではないのでそれを広く伝えて商売を成すのは今は無理な事だ。しかし都市や村々を回り芸や踊りを披露する旅芸人等は存在するらしいが知矢は未だ見かけたことが無い。


 この世界に印刷技術は存在する。しかし木の板に文字を裏返しに彫った原版にインクを塗り紙を押し付ける所謂(いわゆる)日本でいうところの江戸時代などに見かけられた浮世絵や瓦版などに使われていた印刷方法が主流である。原始的な凹版印刷と言うのであろうか。

 この方式は確かに一度元となる原版を作成すれば同じものがな何枚もすることが出来る。しかし文字をいちいち裏返しにノミなどで彫る必要がある為効率は悪い。しかも木の原版が擦れて破損などすると再利用が出来ない為何千枚も印刷する事は出来ない。そしてノミや刃物で彫る為そして原版が木の為微細に彫り込む事も出来ないので板一枚に彫れる文字が大きくそして文字数が少なくなる。


 印刷以外では同じ本を一枚一枚書き写す筆写の方法もあるがこれは労力がかかる為そう大量に書き写すには労力を必要とする。


 現状ではどちらも精密な大量生産発行にはあまり向かない。


 よってどうしても本は希少性が高く値段も高い為一般の市民が気安く購入する文化は無い。

 しかし紙やインクは市民の間でも普及している為識字率はそう悪くはない。都市で40%程、農村で10%程か。帝都では70%程であったが中には技術と経験のみで生きていく職業の者などは読み書きが出来ない者もいる。

 冒険者もどちらかと言うと識字率が低い傾向にあるのはやはりどうしても経験則からくることを重要視している点と師匠や先輩達から学ぶと言う綿々とした冒険者の歴史の流れからかもしれない。


 その他絵画、絵を描くという文化も確かにあるがやはり一部の貴族や富裕層などの文化だろう。ただし一枚の紙に卑猥な女性を画いたいわゆる春物などの絵に関しては貴族であろうと一般市民であろうと秘かに取引、流通しておりそう言った絵を専門に書くことを生業とする者がいるらしい。それも文化と言えば文化であろう。


 知矢は今日はそれ程腰を落ち着けて読書をしたり書き写す時間も無い事からざっと全体を見て歩きながら気になった表装があれば手に取って開いてみた。


 従魔のピョンピョンは知矢の肩に乗ったままじっと動かず寝ている様子だ。もう一人の従魔フェリシアは子犬の姿のまま知矢の後を短い脚で付いてきている。時折あちこちに視線を送るがあくまでも知矢の警護の為の様だ。



 「おっ魔道具関係も結構あるな」

 知矢も魔道具商店と名を冠し商売をしている事からこの異世界に於ける既存の魔道具というのはどのようなものかと関心を持ち目についた本棚に並ぶ本を一冊手に取り開いてみた。


 手に取った本は一般的な魔道具の種類やその効能、機能を紹介してある。簡単な挿絵もついており中には発明した者の名や工房の名も明記してある。

 ざっと斜め読みをしてみたが特に興味の引く道具は目につかなかった。そこに並ぶ他の本もみな魔道具の紹介、所謂(いわゆる)図鑑の様なものだ。もちろん作り方などは記載されている訳ではない。

 ただ中にはどんな種類の魔石でどのくらいの魔力が必要か等は紹介されていたりもする。


 その中で一冊の本が目に留まった。


 【トゥワイスの秘術】


 そう書かれている薄手の本。表装は古くかなりの年代物であることが見て取れた。


 「どこかで聞いた名だな」そう思いながら手に取った本。それは魔道具の図鑑ではなく大昔に名声を誇った魔道具工房について書かれていた。





 『――この様にある時彗星のごとく現れた男の手により次から次へと珍しい新たな魔道具が世に出されるようになった。その男の名は【トゥワイス】、トゥワイス工房の(あるじ)である。

 彼の作り出す魔道具は過去の先人達の考えも付かない奇想天外なものが多くどんな利用方法があるのかもわからない物が多かったがその中から画期的な魔道具が世に送り出されるとその名声は国をまたぎ轟くのであった。


 中でもやはり画期的であった物の一つに魔力を補充し続ける魔道具が有名だ。これにより戦争が大きく変わった。魔力枯渇を気にすることなく大魔力で敵を翻弄できるのは希少な大攻撃魔法や広範囲殲滅魔法を使える魔法使いや魔導士を如何にそろえる事が出来るかと言う戦いの根底を覆すものだ。数十人の魔法使いを魔力枯渇で交代させながら戦うのではなく数人が常時攻撃に参加し続けることが出来ると言うアドバンテージは戦いの勝敗を決定づける物の一つであろう。自然に魔力回復を待つのではなく魔石を利用しそこから魔力を吸い上げ魔法使いへと供給するその技術はかの者の工房でしか作ることが出来なかった。

 いや工房ではなくトゥワイス自身にしか作ることが出来なかった。その為その魔道具自体が希少性を持ちさらにはトゥワイス自身の身の安全にまで話が及ぶこととなった時謎の大魔道具士はこつ然とその姿を消しその後決して人前に現れることは無くなったのであった。そしてそれら画期的な魔道具のほとんどは現存せずその作成方法も不明となり現代では幻の魔道具となった。

 こつ然と現れこつ然と消えた名工。その出自を知る者も無くまさにもはや幻の名工であった』





 「500年ほど昔の話か。まるでゲームに出てくる魔法の指輪とか魔力の指輪みたいだな」

 知矢は子供のころ楽しんだテレビゲームのRPGを思い出した。


 「凄い魔道具を作る人がいたのか。しかし権力や強者に利用され命の危険を感じ身を隠した、または秘かにと捕らわれたのか・・・。まあ大昔の話だからな」

 知矢は自身が起こした店、魔道具商店を思い出し使用人たちに危害が及ばない様にしないといけないなと改めて考えるのであった。


 事実過去には店へ侵入する者や使用人へ接触を図り秘密を探ろうとしたりそしてついには使用人を誘拐して魔道具の製作者の秘密を聞き出そうとする事件まで発生していた。(第116話~参照)

 最近は魔道具を盗もうと言う者は殆ど現れてはいなかったが身代が大きくなったことだしここいらで改めて警備や防備について警備担当主任のサンドスたちと話し合った方がよさそうだと思案していた。



 『主様、宜しいでしょうか』

 そんな時知矢の周囲を歩き回っていた従魔、フェンリルの上位種とも呼ばれているフェリシアが声を発した。


 「どうした。お前も何か本を読みたいのか」


 『いえ、本と言うのは結構です。その件ではなく主様先ほど呟かれた言葉に聞き覚えが』

 足元から知矢を見上げるフェリシアへ知矢はしゃがみ込んで顔を近づけた。


 「俺の呟きだって。何か言ったか」

 知矢は昔から真剣に施行する折り極稀にだがつい考えが口に出る事があった。今回も色々本を読みながら考えていたことが口に出てしまったのだろう。


 『はい、先ほど【トゥワイス】 と仰いました』


 「ああひょっとしたら口から洩れたかもしれん。今読んでいたこの本に出ていた大昔の魔道具を製作する有名な人の名だな。それがどうかしたか」


 『・・・(私、思い出しました)』

 知矢の肩で寝ていたはずのもう一人の従魔が念を発した。


 「なんだ起きたのかピョンピョン。で何を思い出したんだ」


 『・・・(フェリさんが前に古いお店で見つけご主人様が買った魔方陣が刻んであった棒の名前ですよそれ)』


 『ピョンさんのおっしゃる通りでございます主様』


 「古い店で買った・・・ああ、・・・これか!」

 知矢は二人の従魔に言われ以前フェリシアから『主様、少々気になる力を感じます』と言われ立ち寄った古い雑貨店で見つけたアクセサリーにしては重い金属の棒を思い出し無限倉庫から取り出した。


 「これか」

 それは細い革ひもを穴に通してあり用途の物か一目では判然としない古びた細長い六角柱の形をした15cmくらいの金属の棒だった。一辺が10mm程しかないがその細い棒にはびっしりと細かい字と文様が刻まれている。



  【尋ねよ、さらば与えられん。探せよ、さらば見いだされん。鍵を持て、さらば開かれん】



 6角柱の側面に彫り込まれた文字がそれだ。そして文様の様なものはピョンピョンに言わせると魔法陣であるとの事だが三人には魔法陣を読み解くことはできなかった。


 鑑定魔法を行使し知り得た情報は


 【トゥワイスの印。トゥーラス山脈にあるトゥワイス工房の扉の鍵。ダンジョン化したその工房内部を封じている封印を解くための鍵 】


 とだけ記されていた。

 「そうだった、しかしそれにしてもここでその情報と巡り合う事になったか。フェリシア、ピョンピョン二人ともよく覚えていたな、ありがとう。俺はすっかり忘れていた」

 二人の従魔に感謝を述べ撫でる知矢に二人は満足そうであった。特にフェリシア(子犬バージョン)の尾は激しく左右に揺れていた。



 「謎に包まれた大昔の高名な魔道具士、その行方も定かではなくそして秘められた工房の存在そしてその工房を開く鍵がこの手にあるか。こりゃああれか、必然てやつなのかもしれんな」

 知矢は何か偶然とは思えない何か因縁や出会いを感じた。


 『必然とは如何なる事でしょうか主様(あるじさま)

 知矢へ可愛い子犬のあどけない姿をみせながらフェリシアが訊ねる。


 「うん、まあ古い言い方だが、(えにし)とでも言うか。お前が偶然感じた力から手に入れたこの【トゥワイス工房の扉の鍵】そしてたまたま目についたこの【文書館】を訪れそしてたまたま目に付き、手に取ったこの本。そしてこの文書館には帝国内の地理が解るであろう地図の様なものが収容されている。もうすべて条件が整っているじゃないか。後、必要なのは」


 そう言いながら二人を見つめる知矢

 『『・・・』』

 そして知矢を黙って見つめる二人。


 「うーん。どうするかな、後は俺のやる気と言うか行く気になるかと言うか気持ちの問題だな。それはともかく地図を見てトゥーラス山脈って言うのはいったいどの辺りの話なのかを確認してからだな」

 知矢は早速地図や地方の情報が収められている棚の場所へと移動した。



 てっきり地図帳の様な本があるのかと思いきや地図などが収納されていた場所にあったのは山のような丸い紙の筒であった。

 大きな紙に描かれた地図を丸めて棚へ収納してある。その棚に掛かれた地方の名前から目的の地図を探す様だ。 しかし知矢達の知識にどの地方にトゥーラス山脈があるのかも分からない事を悟った知矢は受付へと途って帰り受付の女性へと問うてみた。



 「すみません。【トゥーラス山脈】という場所を探しているのですがどの地方の地図を探せばよいのか教えて頂けますか」



 受付カウンターの中で書類に目を落としていた年配の女性は知矢の声に顔を上げ

 「トゥーラス山脈ですか。あらご存じないのね貴方、帝国の生まれじゃないご様子だから仕方がないわね」

 そう言うと脇に置いてあったメモ用紙の様な白紙にスラスラと何かを書いて知矢へと差し出してにっこりと笑みを見せた。


 「北部辺境伯領(ほくぶへんきょうはくりょう)の広域地図をまず探して、そしてその中の大工業集約都市バスランドを場所を中心としたメルタリア地方の地図がこれ、そこにトゥーラス山脈一帯も含まれて(えが)かれているわ」

 そう言いながら年配の女性はメモを渡してくれた。そしてちなみにと続け


 「その広域地図とメルタリア地方地図は写しをお売りしていますよ」と言った。


 知矢は地図を写し取る苦労を考え即答で

 「買います買います!売ってください」と食いつき気味に応えた。


 「しばらくお待ちくださいね」と笑みを浮かべた年配の女性は一度席を立ち奥の方へ向かったが即その身をひるがえし

 「そうそう先に伝えておかなければいけないわね。 地図の写しは1枚中金貨一枚と小金貨五枚、二枚併せて中金貨三枚三百万イエンになるわよどうします」

 と知矢の懐を心配したのか確認してきた。


 「はい即金で払いますからお願いします」

 知矢はにこやかに即答するとマジックバックに偽装したリュックの無限倉庫から皮袋に入れられた金貨の袋を手に取った。


 まあ、と少し小声で驚きを発した年配の女性は再びにっこりと笑みを浮かべ「じゃあちょっと待っていてね」と気を取り直して告げると再度奥へと進んだ。




 「こちらになります」

 四半刻(しはんとき)程待つと年配の女性は1m程の長さの紙の筒を二本手に抱えて戻ってきた。

 (四半刻:1刻がおよそ2時間。その1/4が四半刻、つまり約30分にあたる)




 革ひもの封をシュルリとほどき大きな紙をカウンターへ広げた女性は


 「こちらが北部辺境伯領の広域地図になります。ここがいま私たちが居るラグーンね。そしてここから西へ行ったここがメルタリア地方よ。そして」


 もう一枚の紙の筒を解き広げると


 「ここが大工業集約都市バスランド、そしてあなたが探しているトゥーラス山脈と言うのはバスランドからさらに北へ行ったこの辺りの山々が連なる周辺を呼ぶわ。でもこの辺り一帯はほぼ北の大森林の西側に含まれるから山脈一体の詳細は不明ね。現地に行ければ地元の人々が何か知っているかもしれないけれど」



 そう言うと再び地図を巻き取り革ひもで封をすると知矢へと差し出した。


 知矢は受け取ると引き換えに中金貨三枚を払い丁寧にお礼を伝えてその場を後にしようとしたが一度立ち止まり再び受付の女性の元へと取って返した。


 見送った若者が慌てて戻る様子に少し驚いた表情の女性はそれでも「何か忘れものかしら」と笑顔をむけた。


 「申し訳ありません一点確認を。この文書館の書物、本などは貸し出しなど行っているのですか」


 「いえ、残念ですが貴重で高価な物ばかりなので個人への貸し出しは行っておりません。ですが・・・」

 知矢の顔を確認する様に見つめた年配の女性は一度言葉を切り


 「アンコール伯爵様のご許可があれば持ち出しも可能だと思いますわ。もし必要でしたら伯爵様へお尋ねになってみては」

 女性はやはり知矢の事、アンコール伯爵との繋がりを知ったうえでアドバイスをしてくれた。もちろんこの施設は帝国政府の機関の一つでありそれを管理監督する長はアンコール伯爵その人である。よって許可権限の最高責任者が「良し」と言えばまず反意を示す者はいないのであろう。


 「そうかその手があったか。ありがとうございます、近々伯爵様へお伺いをしてみます。許可がもし下りた時はまた来ますのでその時はよろしくお願いいます」

 知矢はそう言うと再び頭を下げて文書館の扉を後にした。



 『主様、その工房とやらを探しに行かれるのですか』

 『・・・(わーい旅ですね、冒険ですね)』


 「いやまだ何とも言えんが先ずは色々情報を手にしてから検討しよう。あまりにも場所が漠然(ばくぜん)としているからな。だがそれも楽しみだ」


 知矢は当初それ程気乗りもしなかったが段々元来の探求心に火が灯ってきた様子だ。

 転移前、技術者として、そして学生時代は研究者として活動していた頃の血が騒ぐのであろうか。それと同時に

 (よくよく考えたら未だそう遠くに出かけたことは多くないな)

 と思い返していた。




 衛星集積都市ラッテへ行ったのは船と魔馬車で1泊程度。これは知矢達を狙っていた者たちをおびき寄せて捕縛するための作戦だった。


 河を下り南の地方の小さい町や地方都市へは緊急指名依頼中に覗いた程度で数泊。


 南の工作員の根城を探した目に出かけた時は近場だ。


 東の大森林方向へは何度か訪れたが一度目はスライムの捕獲調査のため、二度目はスタンピードの調査とその後現れたベヒモスゾンビ討伐の任である。



 そう言った事を思い出しながらもっと遠くの大都市などへ依頼や仕事ではなく個人的な楽しみの一環としての【旅行】へ行ってみるのも面白いと共に【大工業集約都市】と冠したバスランドという都市にも興味を覚えたのだった。


 この異世界に於ける工業という位置づけは知矢には曖昧(あいまい)に感じる。この世界では化学や工学が殆ど研究されず発展の度合いが遅い。それと言うのも物理的な省力化や光や炎、水や土等を扱ったり制御することを科学や物理、工学等ではなく何でも 【魔法】で行うことが出来るが故だ。


 簡単で便利な魔法が身近に存在すれば態々工業を発展させる必要に迫られる事も無い。 ある意味工業化による自然破壊や環境破壊、鉱物資源の枯渇など知矢が地球で見聞きし経験してきた負の面を知らなくて済む。

 そう言った事から知矢は以前サーヤが独自に研究し開発していた巨大高炉から発電へ至る研究等はさせていない。

 もっとも本人もそう言った研究開発はもうしないと心に誓っているのだが。


 しかし大工業集約都市と聞きそこにある工業とは一体どんな物なのか、それは気になる知矢であった。



 しかしやはりまだまだ情報が少なすぎると考え情報収集と検討を()()()()()()から実行に移すかを決めようと思案するのであった。




 以前日本に住んでいた頃から知矢にとって楽しい旅の始まりは情報収集からスタートするのが常であった。


 ツーリングを計画し目的地を決め、そこに至るおおまかなルートを選択。そのルートに沿ってどんな町や村そして寺社や名物料理などが無いかを調べ地図へメモを記載していく。その過程自体をも楽しむのが知矢の旅であった。


 もっともいつも気軽な一人旅(ソロ・ツーリング)だからその場その場であっちに美味しそうな店があれば寄り道、こっちに史跡や城跡の看板を見かければ道を外れる。

 そんな気楽な一人旅(ソロ・ツーリング)が大好きであった。


 バイクショップ主催で数十台を連ねて行くツーリングや友人仲間と温泉ツーリングなども言っていたがやはり一人旅(ソロ・ツーリング)が一番であると知矢はそれを好んでいた。





 「アッ兄貴お帰りっすか、早かったっすね。見る物が無かったっすか」

 御者台で横になっていたボンタが知矢の戻った気配を感知して起き出した。


 「おう待たせたな。いや興味深い本も多かった。それに地図も手に入れたしな暫くこれで楽しめそうだ」

 そう言いながら屋敷へ帰ろうと言うと魔馬車の荷台へ乗り込んだ。


 ボンタは「地図っすか。地図観て何が楽しいんすかね」と理解が付かない様子で首をひねりながらも御者台で手綱を振るい魔馬車を屋敷へと向けるのであった。






 ――場面は変わり同じく商業中核都市ラグーンのここは管理貴族の居城。アンコール城。





 【◎年▲発 第688号皇帝勅令発。 帝国内における精霊使役の行使禁止に対する令を一部変更する旨通知。精霊を強制使役する行為は従来通り禁止とする。しかし【精霊への願い】等精霊に対し苦痛を与えず精霊の意思に対し願いをもってかわす契約において有効に使役する術に関してその行為を正当とみなし行使を許可するものである】




 「閣下のご尽力で皇帝陛下から格別な御恩情を持って勅令を一部廃するとの令が出されましたぞ。これも日頃から皇帝陛下に対する閣下の信頼の証。おめでとうございます」

 アンコールは執務室のソファーで上司たるバスラム辺境伯へ帝国政府より発せられた新たな令を布告する文章を読み上げ捧げつつバスラムの前へと差し出した。


 その布告書を一度手に取り頭を下げ礼の姿勢をとったバスラムは書面を書類箱へ恭しくしまうと肩の力を抜きソファーへと背を預けた。


 「皇帝陛下の御恩情(ごおんじょう)には格別の感謝を申し上げるがどうもな」

 切れ者で帝国に並ぶ者無しと言われるほどの皇帝から真の厚い臣下である切れ者との評判が高い辺境伯がそのいつもの切れるような気配が薄い。


 「どうされましたか閣下。未だお体の調子がすぐれませぬか」

 アンコールは内心解っていたが素知らぬ顔をして上司の体調をうかがった。


 「卿は解っておってそう言うのか」

 片目だけ開けでぎろりとアンコールを睨む視線はやはり鋭さをうかがえる。


 「これは失礼いたしました。しかしかのトーヤ殿の功績を称える為の褒章でありますし殊更本人のたっての要望でございます。これを成したのは閣下のお力に違いはありません。トーヤ殿もきっと閣下に感謝するでしょう」



 先日のバスラム辺境伯と知矢の会談。皇帝より命じられた

『帝国を辞する事にならぬよう良い関係を築き互いに未来を語れる様交流すべし』

を受けて


『かの冒険者と話、語らいを持ち帝国の未来を担う人材かこの目で確かめてまいります』

との命を自身で無理やり解釈を変じ知矢を帝国で良い様に使えるよう圧力をかけて引き込もうとした。


 しかし自らその老齢から想像もつかない殺気を知矢へと向けた瞬間、警護のフェリシアより逆に強烈な殺気を受け心神耗弱(しんしんこうじゃく)に陥りさらに追い打ちをかける様にカーネタリアの自出、Sランク冒険者そして元神聖教国の教皇である事を告げられさらにさらにカーネタリアと知矢から精神的なプレッシャーを受けた時その心の糸が緩む、もしくは切れたのかもしれない。



 「まあ良い()()()殿()へは(けい)から早速に知らせるが良かろう。わしは一両日中にここを立つ事とする」

 渋い顔をしながらそう告げるバスラムは知矢に会う事を暗に拒んでいる様だ。


 「もうお帰りですか。先日お見えになったばかりですが。しかし閣下が管理される地域も広うございますし帝都では陛下もお待ちでしょう。お忙しい閣下をお引止めも出来ませんな」

 アンコールは上司が早々に都市を離れると聞き内心ほっとしながらも流石にそれを表に出す事も無かった。



 (心にも無い事を言いおって)

 そう思いつつもバスラムも貴族としていちいちその様な言葉に反応は示さない。それが貴族社会の付き合い方の一つでもある。


 「いやこの後は帝都に戻らず自領(じりょう)へ一度戻る。陛下からもご許可を頂いておるしな」


 「それはそれは、閣下(かっか)がご自身の領地(りょうち)へお戻りになる、2年ぶり程でしょうか」


 「ああもうすぐ3年近くなる。領地は息子と家臣に任せてある(ゆえ)問題も無いが陛下よりも 『しばし自領へ戻り休むが良かろう』 との御言葉もいただいた。折角じゃから2月、3月ほど戻ろうと思ってな。もし何か変事があれば即魔電で知らせるが良い」


 「はっ、出来る限り閣下のご負担にならぬよう精進いたします。()()()()()()は広うございます。お気をつけてお戻りください。しかしご本領の()()()()()()()()()()()()も魔鉱石の大鉱山発見で湧いておる事でしょうな」


 「ああ、卿らのおかげでまた人が多く集まり活況(かっきょう)だそうだ。その分問題も多いらしいがな。まあそう言った事も含め一度戻らずにもおれん」


 バスラムはそう言うと席を立ちアンコールの執務室を出て行った。

 その背に礼をとるアンコール伯爵。


 (早速トーヤ殿に吉報をお知らせせねば)

 そう思うと執務椅子へ移り早速手紙をしたためるのであった。




 皆様から★★★★★のご評価を頂きありがとうございます。

 総合評価も少しづつ上がって嬉しい限りです。今後とも頑張って更新しますのでよろしくお願いいたします。



 さて国際的な戦局も心配ですが知り合いの会社で2度目のクラスターが発生したとの情報を耳にしました。

 うちの会社や親しい者は今のところ感染したことが無く何とか過ごせております。

 しかし、私は明日、2年2か月ぶりに電車に乗って東京さいがなくてはなんね~

 行ぎたぐねえ!!!!!


 では皆様もご健勝で、次話にてまた。
















 糞バカ兄貴め!!!!!

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