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老齢オヤジが死んだけど異世界でゆっくり老後をおくりたい~チートに大金ゆっくり老後、あれ俺若返ってるけど?  作者: 通りすがりの浪人者


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222/257

第222話 去る者・訪れる者・文化の匂い ~「ここから出せ!!!」

三月に入って初めての更新になります。

では第222話です、どうぞ。






 ここ異世界にも少しづつ春の足音が聞こえて来た。


 この異世界の気候は知矢が住んでいた地球の日本に似通った気候ではあるが日本の関東の地方都市ほど凍てつく寒さという程ではないと知矢は感じていたがやはり気温が下がると人々の活動も停滞しがちになり活発に屋外へ出る事も少ない様であった。


 しかしやはり春の訪れを感じる気候を肌で感じると人も獣もそして魔物たちも活発に動き出す。


 冬の間は比較的数なかった鉱物や植物の採取依頼も冒険者ギルドに増え始めるのが定番だ。

 そして姿を見せ始めた魔物たちの討伐依頼や素材(ドロップ品)の依頼、街道を行きかう商人や人々の護衛依頼も増えて市民だけでなく冒険者や森林ギルド等も仕事の依頼を出す掲示板は活況を(てい)しそれを競う様に受ける者たちで混雑する。


 「てめえその依頼は俺が先に目をつけていたんだ横取りするとは不逞奴(ふていやつ)だ」


 「なにを!そっちこそ、この商隊の依頼はいつも俺達【森の剣団】が請け負っている。よそ者の出る幕じゃない」


 「「やるかこの野郎!!」」




 そんな小競り合いが起きるのも暖かい気候で人々が活発に動き出した証であろう。






 「良いかニャ。ここが冒険者ギルドニャ。そこの壁にある掲示板に冒険者ランクごとの依頼が貼ってあるだニャ。そこから自分たちの技量にあった依頼を選別して受けるニャ」


 「ニャアラス先生はBランクだよね。Bランクの依頼ってどんなのがるの」


 そしてそんな喧噪の中、ニャアラスを始めとした獣人族の大人たちが数名、幼い獣人族の子供たちを引き連れて冒険者ギルドを訪れていた。


 「この辺りがBランクだニャ。ほれこの文字が【Bランク】っていう意味だニャ。依頼はいっぱいある、例えばこれニャ。


 【帝都までの商隊警護依頼、人数6人、往復、食事付き、魔馬車同乗可、中金貨4枚-400イエン、前金中金貨1枚、出発〇▼日、モリモリ商会】

 っていうのがあるニャ」



 「凄い!一回のお仕事で400イエンも貰えるのね」

 10歳くらいのたれ耳をゆらゆらさせた獣人の少女が歓喜の声を上げる。


 「でもニャ、この依頼はかなり厳しいニャ」


 「先生どうして、魔馬車に乗せてもらって食事付きなら楽勝じゃん」

 今度は眉間を中心に白色黒色に分かれた毛並みの男の子の獣人が疑問を投げかける。


 「普通、前金がある高額依頼なら依頼金の半分だニャ。それが一部しかないのが怪しいニャ。それに帝都迄の護衛依頼の相場は大体もっと安いニャ。これは何か問題や危険が有ったり裏があるニャ。金額だけに釣られるときっと酷い目にあう、これは内容が怪しいニャ。

 お前らも文字を習いその内容を良く理解しないと危険な目にあったり騙されたりするニャ。解ったかニャ」


 「「「ハーイ解りました」」」



 『エッ!?おい今のニャアラスさんの話聞いたか』

 『ああこの依頼は危険だって言ってたな。おいどうする』

 『報酬は惜しいが止めておくか』

 『ああ、ニャアラスさんが言っているんだ間違いないな』


 周囲にいた冒険者たちがそんな話をこそこそしていたことにニャアラスや子供たちは気が付いてはいない。




 春を前に故郷や各地から幼い獣人の子供たちが集められ集団で教育を受けさせる試みが始まった。

 獣人は身体能力を生かし幼いころから野山を駆けまわり狩や採取を大人に混じり経験して育つのは昔からの伝統的な教育であった。

 しかし貨幣市場や流通経済の中で多少なりとも間違いが起こったり時に騙されることのある種族でもある。

 読み書き計算の学びよりどうしても身体を活用した教育を優先させていた過去の歴史がそう言った弊害を起こしている。

 時に騙されて時に勘違いで時に契約書を読めず時に計算が出来ず、そう言った事から引き起こされるトラブルで()()()()だけでなく(いさか)いになったり時に覚えのない借金を背負わされたりして奴隷に落とされる者も少なからずいた。


 そう言った弊害や事件を無くすための取り組みとしてそして同族だけが多く住まう居留地ではなく多様な種族や多くの人々が活発に行きかう大都市での教育を行い将来に備える試みを考え出したのであった。


 勿論、今でも貴族や富裕層の子供は集団教育を行っているが一般市民はそう言った学びの必要性を軽視する傾向があり獣人族たちでなくとも読み書き計算が出来ない者も多い。

 大都市での幼い子供たちへの集団教育の学び舎はその都市を管理する貴族により無料で通うことが出来る。

 もっと成長した者への高等教育はそれなりにお金を必要とするが子供たちへの基本教育はタダだ。


 それでも商家以外の一般市民の家は最低限の算数程度を自宅で教える以上の教育の必要性よりも家の手伝いや商家や工家等へ働きに出す事を優先しがちな為、(まな)()に通う子供は少ない。


 そんな中でニャアラス達は考えに考えた末に思い切った行動を起こしたと言えよう。



 大都市で働く獣人族の大人が同族の子供を集めて都市の学び舎に通わせながら生活の面倒を見る。そうしていろいろな事を学んだ子供たちが読み書き計算が出来るのであれば就職や職業選択の幅も広がると言うものである。

 ニャアラスやほかの多くの大人が資金を出し合い子供たちの衣食住を用意して面倒を見ながら管理貴族の設けた学び舎に通わせさらにその都市で働く大人の姿を見せて色々な仕事への関心を芽生えさせる。そう言った思惑である。もちろん子供たちはただ学び舎に通う訳ではない。衣食住環境を用意されたとはいえ食事の支度から掃除洗濯に買い物迄すべてを自分達で計画して役割分担をし実行するのも含まれる。

 当然大人たちがサポートに着くのであるがそれでも大変な事ではある。


 獣人族の者にとって初めての試みでもある為上手くいく保証も無いが子供たちの将来を必死に考えた事である。


 この行動を知った管理貴族配下の役人が運営の為に多少の資金援助と集団で住まう場所のあっせんなども協力してくれた事も大きい。

 それに対する書面の提出などでニャラスを始め他の大人たちも慣れない書類に頭を悩ませたりもしていたがそこは上手くやった様である。(第158話参照)




 「ここには毎日多くの冒険者が集まって依頼を受けたりその成果を報告したりしてるニャ。だから普通は冒険者以外は入れないけど今日は特別ニャ。 さあみんニャ冒険者ギルドの職員さんに挨拶するニャ」


 そう言いながらニャアラスはギルド職員が居並びカウンターへ向けて手を指し広げる。


 「「「「「こんにちは」」」」」


 事前に言い含められていたのか子供たちは大きな声で一斉に挨拶を口にすると頭を下げるのであった。


 「こんにちは、あらあらかわいいわね」


 「この中からひょっとすると冒険者が生まれるかもしれないぞ」


 笑顔で手を振り挨拶を返す職員たち。



 「みなさんようこそ冒険者ギルドへ」

 そう言いながらひときわ奥に設けてあるカウンターから姿をみせて声をかける女性。ニーナである。


 「私は当冒険者ギルドの主任を務めます、ニーナ・スコワールドです。今日は皆さんが冒険者と言うのはどんなお仕事かお勉強しに来てくれてうれしいわ。良く見て何でも聞いてくださいね」


 「ニャーニャさん(ニーナさん)ありがとうニャ」


 「「「「よろしくおねがいしまーす」」」」


 「はい、じゃあ先ずあそこのテーブルでお話ししましょうね。こちらのマレットさんが詳しいお話をしてくれるわ。マレットお願いね」


 「ハーイみなさん私に付いてきてくださいね」

 そう言いながら若いギルド職員の女性が元気よく子供たちを先導していった。



 「ニャアラスさんどうですか都市に来た子供たちの様子は」


 「ニャア、みんな物珍しそうにわくわくしてるニャ。でもこの間、勝手に都市内を冒険をしに行って迷子が出て。大変だったニャア、ボイドス」

 ニャアラスは隣にいた大柄で馬の様な獣人の仲間に声をかける。


 「だな、でも俺達も最初は似たようなもんだったろ。何てったってこんな大都市へ来ることは無かったからな。何でも珍しいし街は広いしとにかく俺もわくわくしたものだ」

 懐かしそうに思い出を口にする。



 そんな会話をしながら大人たちも子供たちと共にギルド職員の話を聞きに行ったあと残されたニャアラスとニーナ。


 そこへ 「ようニャアラス、子供たちの活動は順調そうだな」


 冒険者ギルドの奥に併設されていた食堂兼居酒屋に珍しく知矢がいた。ニャアラスの姿を見て声をかけて来たのだ。 もちろん肩にはピョンピョンが乗り、足元にはフェリシア犬バージョンが控えている。さらに今日はお供にボンタも姿を見せた。


 「ニャ!トーヤ。お前のおかげで子供たちの教育が始められるニャ。感謝するニャ」

 ニャアラスは知矢の肩を抱いて頬ずりするのだった。


 「あはははは・・・・感謝の気持ちはは十分受け取ったから・・・」

 強引にニャアラスを引き離す知矢だった。


 「ニャアまだまだ足りないニャ。今度店の掃除でも何でも使って欲しいニャ。それも勉強だニャ」



 知矢は魔道具商店の売り上げもあったが魔鉱石発見の褒章金も合わせかなりの資産を有している。その額軽く10億円にもなるだろう。もちろんこの異世界へ転移する時に最高神から貰った2億円にも上る資金はほとんど手つかずのままである。


 以前知矢はニャアラス達獣人族の子供たち教育活動を支援する目的で資金の援助を申し出たことがあった。しかし


 「そんな大金見返りも無くもらえないニャ。子供の教育に悪いニャ」


 と言い現金を受け取る事を良しとしなかった。 知矢はそれに代わりニャアラスを自分の仕事の手伝いを頼んだり冒険者ギルドで受けた依頼を共同でこなすなどしその報酬としてそれなりの金額を提供した。

 当初過剰な報酬に受け取りを躊躇したニャアラスであったが

 「おいおいこれは施しなんかじゃないぞ。お前がその身をもって危険を顧みず命を懸けて協力してくれた見返りだ。十分その報酬に見合う働きをしてくれたからこそ達成できたんだ」

 そう言って半ば押し付ける様にまとまった金額を提供した。そのことを含めてニャアラスは知矢へ感謝をしてるのであった。


 「わかったわかった、じゃあその内子供たちの社会勉強にうちの店で少し労働でもしてもらうさ」

 そう言いながらニャアラスを引きはがす知矢であった。



 「それにしてもトーヤ君がお昼過ぎのこんな時間にここに(ギルドに)姿を現すなんて珍しいですね。しかも食堂に居たみたいですけど」


 「ええそうですよね。確かに久しぶりかもしれません。いえ大した理由は無いんです今早朝、厄介者を送り出すのを見送る為大森林の手前の街道迄出向いた帰りなんですよ」






 本早朝、騎士団や兵士を乗せた4台の魔馬車そしてそれに挟まれるようにもう一台の魔馬車が市民の目に触れにくい早朝このラグーンを発していった。


 途中までその魔馬車の集団をボンタが御者を務める自前の魔馬車で知矢は同行して行ったのだった。

 勿論その厄介者と言うのは先日来騎士団本部の牢へ好待遇で収監されていた魔神王国国王、いや魔王の孫ジーオの事である。


 最終的に帝国政府並びに皇帝は魔神王国と協議の上当初先方が望んでいた通り帝国と神聖教国の国境までジーオの身を送り届けそこで出迎える魔神王国の一団へ引き渡すことと相成った。


 勿論最後まで

 「嫌だ!俺は帰らない!!ここから出せー!」

 と騒いでいたジーオであったが無事に魔力拘束と身体拘束の上輸送用の厳重な防備を備えた、まあ詰まるところの無理やり檻が設けられた魔馬車に乗せられてラグーンを後にしたのだったが。



 「ツカダ様、態々(わざわざ)のお見送り誠にありがとうございます」

 球形の為一度停車した騎士団の一行。ジーオを乗せた魔馬車の荷台から姿を見せた三人を代表してモスリーが丁寧に礼を述べた。


 「いや礼には及ばない。結局俺は奴に対して何もしてやれなかった。そのことが少し心残りな程だ。ジーオが帰国してどんな罰を受けるか知らないがこの機会に反省をして十分に学び直し大人になった暁には正式にこの国へ遊びに来てくれと伝えておいて欲しい。今俺の顔を見たら多分また怒りまくるだろうからな」


 「多分、国に帰りゃこっぴどく叱られるのは目に見えている。それで落ち着いてくれたら俺達も嬉しいんだがな。後の事は魔王様とご家族様達の仕事だ」

 ハザトは俺達には関係ねえと言うような口調で言うがその表情は(うれ)いを見せていた。


 「ジーオ様をお送りした後、私たちは直ぐにまた帝国へ戻って活動を再開するわ。姉様も腰を据えるって言うし。その時はよろしくね」

 エルは再び冒険者として帝国で活動する旨を宣言した。その際は居を構え姉であるモスリーは錬金術師としても活動をすべく準備をするとの事である。


 「ああ、楽しみに待っているぜ。家や工房は探しておくから戻ったら顔を出してくれ」

 そう言うと知矢は三人と握手を交わすのであった。



 大森林の片りんを通る街道、その先は深い森に消えていく。

 森の木々に吸い込まれるように進む魔馬車の集団を見送る知矢。帝国の人族とは多少毛色の違う魔族の少年。

 その行動も突拍子もない事であったが自身の思いを形にすべく己の能力だけで遠い国を超えてここまで来た少年。

 今回はその行動が法や秩序を無視する無謀な物であった。しかしその能力と行動力を良い方向に発することが出来れば魔族として大いに活躍するかもしれない。しかしそれには先ずは法を犯した責任を果たすと言う大人になる為の壁を越えなければならない。

 その後どうなるかは最終的に本人次第である。そう思いながらも知矢は少し寂しそうに見送るのであった。






 「よしラグーンへ帰るぞ」

 森の奥へ姿を消した魔馬車の一行を暫く見送っていた知矢は振り返るとその表情明るく元気に命じた。


 「ヘイ兄貴!乗ってください」

 元気に応えたボンタの操る魔馬の荷台に乗った三人はコトコト揺られながら来た道を再び戻っていった。






 「まっそんな訳で先ほど戻ったのでたまにはギルドの食堂で昼食も良いかなと」


 「ニャアやっとあの馬鹿は帰ったかニャ」

 全くもうと言う顔でニャアラスは両手を肩の脇に上げる。


 「そうでしたか。お疲れさまでした」


 「でもあの三人はまた戻って来るニャろ。大丈夫かニャ」

 ニャアラスはハザト達が魔族の正体を隠してこの都市で活動する事を心配している。


 「あの魔道具はかなり性能がよさそうだから大丈夫だろ。それにもし正体がばれても管理貴族や騎士団には事前に報告済みだから市位では少し騒ぎになるかもしれないが帝国の人々は心の広い穏やかな種族だ。受け入れる度量はこの国の人間なら十分有るだろう」


 知矢が知る範囲でのこの帝国の人々の寛容さ、懐の大きさは如何に物語に出てくる魔族でも十分種族として分かり合い友好的に接することが出来ると感じていた。


 それに先日管理貴族のアンコール伯爵からも

 「帝国として今後魔族の存在と友好的で知的な種族であることを積極的に広報するつもりだ」

 との話が帝国政府として決まった事を聞かされた。


 今回のような騒ぎがきっかけとは言え特定の種族が物語の中とは言え悪者のような印象を国民に与えたまま放置するのは良くないと今後再び魔族が公に訪れる前に広く周知する事となった。


 「そんなわけだ。三人が戻ってくるまでにはまだ間に合わないだろうがおいおい情報が広まるだろう。そうなれば彼女たちも大手を振ってこの国で活動できるようになるだろう」

 そんな日が早く来ることを願う知矢であった。





 ニャアラスとニーナと別れ冒険者ギルドを後にした知矢はそのまま魔馬車で一度屋敷への帰路についた。



 最近の知矢は特に忙しい用事、毎日決められた仕事の予定などは無い。魔道具商店や屋台の運営も軌道に乗り魔道具の製作も商業ギルドを始め工業ギルドや木工ギルド等へ外注したものを知矢の使用人が商店の中で知矢の貼り付けの魔法を応用した【魔力スタンプ】を使い最後の仕上げを行っている為たまに顔を出す程度で用はない。


 屋敷の運営も筆頭の家令リラレットを始めとする使用人が問題なく行っている。

 貴族相当の権を与えられたと言っても領地を持ち領民を抱えている訳でもなく徴税の手間も無く領地運営の苦労も無いのである。


 今のところ騒ぎさえ起らなければ実に悠々自適の【のんびり老後】を実践しているようなものだ。


 唯一の懸案は南の大国から来た元潜入工作員補助の二人の処置である。

 (第131話~ 参照)


 知矢は先日の褒章の代わりとして皇帝勅令の規制緩和若しくは撤回を望んでおりその件はアンコールからバスラム辺境伯を通じ帝国政府に掛合っている最中だ。


 アンコールからは

 「確定ではありませんが恐らく願いは聞き届けられることでしょう」

 との話が内々にはあったばかりだ。


 信賞必罰の理念はあるものの次から次へと知矢が成した功績に対する褒賞をどうしたらよいのかと苦心していたことが幸いし皇帝の思惑、『有為な人材を帝国から逃すわけにはいかない。その方かの者と友好を結びその心の内を探るべし』 とのバスラム辺境伯へ皇帝自らが指示した事と併せ持つ事から知矢の希望が受け入れられる方向であった。


 今は協議と正式な手続きを待っているところだ。その許可をもってコルサミルとミサエラは無事帝国への亡命を許可されたうえで南の大国の工作員が所持していた精霊魂石に封じてある精霊を友好的に解放する手はずである。


 その後冒険者として活動を予定している二人。ミサエラは精霊術【精霊への願い】を使って活動する事も可能になりはずだ。


 今はそんな状態であるから知矢は比較的のんびりとしているのである。




 知矢を乗せた魔馬車を操るボンタは人々が行きかう通りをゆっくりと進む。

 帝国の都市内では非常時や帝国範旗を掲げている時を除くと通行の優先権は歩行者となるのが決まりだ。その決まりにのっとりゆっくりと進んでいるのだ。


 そんなのんびりとした魔馬車の御者台でボンタの隣の座り何気なく街に視線を巡らせながらボンタととりとめのない話をしていた知矢がふと目についた建物があった。


 「なあボンタ、あそこに見える建物は何だ。今まで気にもしなかったがこうして少し高いところから見ると普通の建物の様には見えないし行政施設にしては妙に華美な印象がある。それにその脇にも何件か似たような大きな建物が見えるが」


 珍しく御者台と言う少し視線の高い場所にいた知矢が気になった建物はこの都市の中では珍しい造りに見えた。 行政施設の建物は基本的にシンプルで無駄な装飾等は無いのがこの帝国では当たり前だ。 これは行政施設には華美な物は不要であるとの意識からくるものである。不要な装飾等は国民から集めた税金を無駄に消費するものである、との理念からである。


 そんな話を聞いて知っていた知矢は民間の建物以外で華やかな施設を見た事も無くさらに今目についた建物はどう見ても民間の施設には見えなかったから気になったのである。


 「えっとどれっすか、あああれっすね。兄貴知りませんでしたかあれは左から文化館、文劇館そして文書館っす」


 ボンタの説明に内心驚く知矢。

 (今まで文化的なものに接する機会が無かったがこの世界にも芸術や文化の施設があったんだな)


 「その施設は自由に使えるのか、見学とか鑑賞とか。料金はどうなんだ」


 「えっとあっしも実は全く行った事が無いんで詳しくは知らないんすけど」


 ボンタは知矢と出会うまで文化的な事に興味も無かったが実際のところ毎日生きていくだけで精いっぱいであったため生活にかかわること以外に金を使う事など考えられなかった。 知矢から安定的な仕事を任されたり高額な報酬を得るようになってもそういった衣食住に無関係な物へ関心を向ける習慣も無かったため詳しくはない。



 「文化館ってのは料金払えば中には入れるっすけど絵とか人形とかが飾ってあるだけらしいっす。文劇場って言うのは貴族とあとは豪商なんかが金を出して物語の話を演じているそうっすけど、あそこはいつもは練習とかしててその時は締まっているそうっす。発表会の看板が出た時だけ中に入れて演技を見ることが出来るらしいっすけど観に来る市民は少ないっすね。文書館っすっけどあそこは入場料を払えば保管してある本を読めるっす。でも結構入場料が高いって話でまあ、あっしは入ったことは無いっすけど」



 ボンタの説明で日本で言うところの【美術館】【劇場】【図書館】の様なものであると知った。

 知矢は転移前の日本で美術・芸術にはほとんど興味はなかった。否定する事も無かったが足を運ぶことは無かった。唯一興味を持って1度だけ私立美術館の特別展に行ったのが

 【曜変天(ようへんてん)目茶碗(もくちゃわん)

の展示会場だけであった。



 新聞の展示会開催の広告に写っていたその写真に惹かれ会場を訪れた。


 仰々しいディスプレーや前振りにへきへきしながら目当ての展示物の前にたどり着いた知矢はその美しさと吸い込まれる様な錯覚を覚えた意匠に虜になった。

 その器にまるで宇宙を見たような錯覚を覚えた知矢は飽きる事なく何十分も角度を変えながら展示台の周りをゆっくと歩を進め見ていた。

 同行した妻も最初は一緒に見入っていたが余りに集中して見続ける知矢を置き去りにして近くの百貨店へ買い物へ行ってしまったほどである。

 そんな事を思い出した知矢であった。



 補足するとテレビで希少な美術品などを面白おかしく鑑定士と呼ばれる者たちが一般の者が持ち込んだ美術品などを鑑定して金額を付けるようなものが昔ありそこに知矢の観に行った曜変天目茶碗と称した茶碗が登場した。

 知矢は一目で「偽物だ」と断じたが有名鑑定士は数千万の価値があると断言していた。

 ちなみに後年、蛍光エックス線分析装置まで持ち出して真偽の確認をしたそうである。その後、実は中国製の偽物であることが判明するなど騒ぎになった。



 閑話休題



 しかし今の知矢が注目したのは美術や芸術ではない。


 「おいボンタ。すまないが【文書館】へ行ってみたいんだが、そっちに回してくれないか」


 「へい了解っす」

 知矢に指示で魔馬車の首を返すボンタ。


 「文書館って本とかしか無いっすよ」

 ボンタは魔馬車を進めながら訝しそうに問う。


 「ああ良いんだ」

 そう言いながら知矢は目の前にだんだん近づいてきた文書館の建物を見ながら

 (この国の歴史とか文化が知れるな。地図とかもあるかな。だが地図は測量技術が無いと大した精度の物は出来ないだろうし。魔物の図鑑とかあるかな、ああそうそう魔法の研究資料なんかもあればいいな)

 そんな事を考えてこの異世界の文明の証や歴史そして見知らぬ知識に触れることが出来るとエンジニアとしての血が騒ぐのか少しワクワクし始めているのであった。





 最近考え方を見直しました。

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 皆様いつもご覧いただきありがとうございます。

 良かったら感想などもお聞かせいただけたら幸いです。


 ではまた次話にて




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