第214話 さっきの殺気 ~ 臣下の諫言は耳に痛い
はい、珍しく数日しか間を開けずに更新が叶いました。
では第214話どうぞ
「おぬしはいったい何者だ、何の目的があってこの地に、帝国へと姿を現したのだ――」
静かに供された紅茶をじっくりと味わう知矢の様子を黙って観察していたバスラムが鋭い眼光を向けながら突如口を開く。
「――俺の目的か。俺がこの都市へ居る理由か・・・。そんなものは1つしかない」
一見心胆寒からしめる様なバスラムの問いにも知矢は何も動じることなく静かに紅茶を口にしていた。
そして静かに茶器をテーブルへ戻すとそっと顔をバスラムへ向けると”ニヤリ”と微かな表情をみせその真意を口にする。
「俺の目標、目的はただ一つだ! この都市でゆったりと静かな老後を送る!それだけだ!!!」
そうはっきり宣言した。
知矢はこの異世界へ転生して後、今まで誰にもその目的を語ったことは無い。 懇意にしている冒険者ギルドのニーナやBランク冒険者のニャアラスでさえもその心の内を語ったことは無い。
知矢のみの周りをや仕事のことも全て絶対的な忠誠をもって献身的に支えているリラレットもそうである。
唯一知矢が別世界、地球からの転移者であり日本人であったことを知っている元貴族令嬢の転生者サーヤにでさえその話をしたことは無かった。これは単にタイミングとその場の話題にならなかったからだけであったが。
その内に秘めた目的をとうとう知矢は口にした。しかも交友があるわけでもなければこうして対面するのも2度目であるバスラムへと宣言するかのように言い放った。
「エッ???」それを聞いたアンコールが間の抜けた声を出す。
当のバスラムも眉間に僅かな皺を寄せながら怪訝そうなそして困惑をもみせて言葉を失っているかの見えた。
「って言ったら信じるか」
知矢は素の表情で二人を見返す。
「なんだ、冗談でしたか・・・ハハハッ・・・」
汗を流しながら驚きから戻ったアンコールが苦笑いを浮かべる。
「・・・・・」
バスラムは無言のまま知矢を見つめている。
「いや冗談ではない。俺はこの都市に来てまだ2年もたってはいない。しかし一歩この都市に入った時から、そしてその後出会った、交わった人々の全てが気に入った。人々は見知らぬものにも親切丁寧。待ちを有り浮けば活気にあふれ、それでも通りはゴミも無く綺麗で清潔に保たれている。まあすべてが善人だなんて言わないがとても気持ちのいい人が多いというのが俺の印象だ。
それに気候や立地も良いし気候災害や川の氾濫も無さそうだし住むには十二分の環境じゃないかと思ったわけだ」
知矢が最高神の導きによりこの異世界に転生して初めて訪れた都市でまさに初めて異世界人と交わした会話が都市の門を護る門番の兵士とのものであった。
知矢は最高神から授けられた【指南書】により予備学習は済ませていたが実際に異世界人を前にして相手がどういった態度で。知矢の異世界知識(小説より引用)によると
『なんだお前は胡乱な奴め。ここを通してほしければ出す物だしな!ケッケッケ』
と言ったやり取りでもあるのではないかと内心想定しながら対処を想像していた。
しかしそんな兵士など全く存在もせず逆に若い知矢が田舎から出てきたことを憂慮してアドバイスまでしてくれた。
そして門番もにこやかに「商業中核都市 【ラグーン】へようこそ、歓迎するぞ若者よ!」
と笑顔で気持ちよく向かい入れてくれたことが今でも印象に残っていた。
幸先の良いスタートを切った知矢は露店で初めての買い物そして異世界で初めての宿。その日出会った人々と景色が素晴らしい感動を知矢に与えた。
確かにその後は失敗をしたりギルドで騒ぎに巻き込まれ命まで狙われるなども有ったりしたがそこはそれ【異世界転移のテンプレ】と素直に受け入れる自身がいた。
それも含めて知矢はこの都市がそして人々が、この帝国がお気に入りになっているのだ。
今までの経緯でこの都市、国を出て他の国や街を探そうと思う訳も無く本人曰く『よし!老後を楽しむぞ』と日々を送っているのであった。
「何を言い出すかと思えばその様な事か。おぬしのその表情を見るに本心から言っているやに聞こえる。だがそれを信じろと言うのか。お前は幾つだ、わしやこのアンコール卿などが口にすればまだしもお前の様な若造がそれを目的と言って信じる奴はおるまい・・・・・100歩譲りその思いが真実だとして、だがお前は何者なのかを答えておらん」
バスラムは相変わらず鋭い視線を知矢へ向けさらには以前の様に殺気を知矢へと向けた。
同じ部屋で二人の会話を聞いていたアンコールは二人を交互に見ながらただおろおろとするばかり。
知矢は再びバスラムより殺気を向けられても相変わらず平静のまますました顔でいた。
(おうおう、相変わらずこの爺さんはえげつない殺気を向けるのう。ったく歳とってこれだ、若いころはさぞやその力をいかんなく発揮したことであろう)
そんな事を考えつつどっしりとソファーへ背を預けていると知矢の背後でその殺気に反応する者が。
『そこの者!主様に対してその様な無礼許すわけにはいきません!』
ピョンピョン達と少し離れた席で静かに茶を喫していたはずの知矢の従魔。最高神より新たな裑を授かり知矢の元へはせ参じたその姿を聖獣フェンリルの姿に変え今は人化の術を用い人の姿で知矢の従卒の様に付き従うすらりとした体躯ながらその中身は高位の魔力を有しあらゆる魔法を操り時に刀を、時に弓を携え縦横無尽にその力を知矢の為に発揮する。それがこのフェリシアである。
主が他の人族と話をしている間、その傍らで静かに見守っていた彼女であった。が、しかし単に意見を交わし話をしているだけであればフェリシアの出る幕ではない。
しかし一旦相手が主へ凶器の刃を向けたとあらば黙っている訳も無くフェリシアは尽かさず知矢の側へと音も無く瞬時に進み出で腰の刀の鯉口を切るや否即座に抜刀しその細身の業物の切っ先を知矢へと殺気を向ける無礼な人族へと向けるのであった。その剣先と共にフェリシアの裑からは紫色と黄金に輝く妖気が立ち上り併せて聖獣としての聖なる殺気を溢れ出していた。
「ウッっくっくつ・・・」大権を有し老練なる帝国の重鎮であったバスラム辺境伯も人智を超えた聖なる気配と妖艶な殺気を向けられ息を詰まらせる。
『主様への無礼はその命を持って償いなさい』
そのままフェリシアは溢れる紫金に彩られた殺気を纏った刀をバスラムの首元ヘススっと向けた。
「へっ、辺境伯様!」アンコールの叫ぶ声が部屋へ響く。するとその声を部屋の外で聴き及んだ騎士団長のモンドールが戸を開け飛び込んできた。
「何ごとです!!アッ!!」
モンドールの目の前に展開される光景。モンドールは騎士団長としてその身に沁みこんだ動きで即座に腰の剣へ手を伸ばして抜剣しようとした。
「まあ待てフェリシア。十分だ」
モンドールが抜剣しようとした時部屋へのんびりとした声が響いた。
「ありがとうフェリシア。しかしお前の殺気をそのままにしておくと刀の錆になる前にその爺さんはあの世に行っちまうぞ。爺さんの殺気ももう出せまい。ありがと引いて良いぞ」
知矢は後ろ手に手のひらをひらひらと振りフェリシアへ殺気を鎮め刀を引く様に命じた。
主大事のフェリシアであるが勿論主の命令が第一である。
即座に殺気を霧散させるとバスラムののど元の切っ先をするりと引き戻し無音で納刀した。
「辺境伯様、むやみやたらに未熟な若者へそんな殺気をぶつけるモノではありませんよ。そんな恐ろしい殺気を出せばこいつが過剰に反応するのも無理はない。という訳でお互いさまってことで納めましょう」
そう言い放つと知矢はフェリシアへ目配せをすると手元に残されている紅茶のカップへ手を伸ばした。
主の指示を受けフェリシアは一歩身を引き知矢の斜め後方で待機する。
その位置は何かあれば一瞬で目の前にいる主に害をなすものを全て一刀のもとに伏せることのできる間合いだった。
主の命で引いたフェリシアであったがこの状況ではこれ以上引くわけにもいかないと判断。知矢も彼女の気持ちを組みそれ以上は何も命じない。
「フウフウフウ・・・・」未だ呼吸を荒げていたバスラムであったがわずかな時間で立ち直ったのは流石であった。
「閣下、大丈夫でございますか。今医務員を・・・」
バスラム辺境伯の部下であるアンコールは側へと近づくと労わる様に声をかける。騎士団長のモンドールは状況を掴み切れずそして知矢へ剣を向けることも躊躇し動くことが出来なかった。
「だ・・大丈夫じゃ」片手でアンコールを押し返す気丈さを見せたバスラムは呼吸を整えながらその視線を知矢と側に控える謎の女へと向けた。
「お前は・・・いったい何者だ。その者ただの女ではあるまい。魔族とも異なるがしかし放置することも出来んその力・・・モンドール!この女を拘束して取り調べろ。罪状は帝国皇帝陛下より遣わされたワシへの反抗だ。これは皇帝陛下への反逆とも受け取れる!」
呼吸を整えたと言っても未だフェリシアから受けた未知の殺気に混乱をしているのかバスラム辺境伯ははたで聞いていても無理のありそうな冤罪の罪状をもってフェリシアをそして知矢を拘束すようと命じていた。
命じられたモンドールは直属の上司の上司でもあり帝国の重鎮の命と知矢との間で動くに動けないでいた。
「閣下、ひとまず落ち着いて下さい。おい水を持て!」壁際で控えていた老執事へ命を発した。
老執事はこの場の状況に動くことが出来ず呆然とした様子であったが主の命を受けはっとすると自身を取りも戻したかのように慌ててゴブレットへ水差しから水を移しバスラムへと差し出した。
ひったくるように水を受け取ったバスラムは一気にあおる様に飲み干すと一呼吸を置いて再び口を開いた。
「何をしておるか騎士団長ともあろう者が目の前でわしに剣を向けたこの者をなぜ放置するのか!!アンコールお前もだ。直ぐに配下の者を招集しないか!」
水を飲み干し一呼吸置いてなおバスラムの興奮は冷めやらぬままだ。
アンコールもモンドールもどうしたら良いのか定まらず互いに目を合わせ困惑の極みであった。
そこへ
「ヒョッヒョッヒョ。辺境伯殿よまあ落ち着きなされ。ほれフェリシアさんやあんたの気持ちはわかるがそんな傍で睨んでおったらこやつも気を鎮めることも出来んだろう。ここはもう少しだけ引いてやってくれんかのう」
気が付くと知矢の側にいつのまにか来ていたのかカーネタリア老人がしわくちゃの笑みを浮かべて仲介の労をとる。
「フェリシア、言う通りだピョンピョンの傍にいてやってくれ」知矢が優しい声で命じると今度は軽く頭を下げ最初の位置まで下がるのであった。
「おー良い子じゃ良い子じゃ。さて少し落ち着いたかのうバスラム卿。じゃがいくら何でも先ほどの命は無理があるじゃろ、ほれお前さんの部下たちも困惑して動くことが出来ん」
そうゆったりとした口調でしわくちゃの笑みを浮かべながらカーネタリアはいつのまにかに知矢の隣へと腰を下ろしていた。
「お前さんは魔神王国より迷い込んだ子供の件でトーヤから話を聞きたかったのであろう。まあ最も最初から目当てはトーヤであったのだろうが」ヒッヒッヒと笑いながら老人は続ける。
「しかし今日のところは引くがよい。これ以上続けると互いに引けなくなるであろう。この爺の顔に免じてな」
「なんだ貴様は!わしに対して引けだと。オイこ奴も含めて全員拘束しろ! 何をぼさっとしておるアンコール!!」
「バスラム辺境伯様」アンコール伯爵が背筋を改めキリリとした口調でバスラムへと向き直る。
「なッなんだいったい、何が言いたいんだ。言ってみろ」
配下の者が上司、上役へ向け姿勢を正し諫言の姿勢を見せた。その場合如何なる高位の者であってもその言に一度は耳を貸さねばならない。それが貴族社会の不文律である。これを否定するものは如何なるものであっても以降配下の者たちの信を失う決定的な事となる。
興奮していたバスラムも凡庸と評していたアンコールがその姿勢を見せたからには落ち着いて耳を貸さねばならなかった。
「では失礼して。閣下はご存じないのはやむを得ません。先ほどのあの女性は人族では御座いません。ハイ、魔族でもございません」
「何、お前は知っているのか、申せ!」
「かの女性はトーヤ殿の従卒の様にふるまっておりますが実のところその実態は最高神様よりのお使い。聖獣であられますフェンリル様でございます」
「・・・な、何だと何を寝ぼけた物言いを」
「真実でございます。トーヤ殿」
アンコール伯爵は知矢へと願うように軽く頭を下げた。
「フェリシア!」
「ハイ主様」即呼応したフェリシアは尽かさず人化の魔法を解きその身を一瞬黄金と新緑のような眩しい光に包むと裑を本来の姿へと変じた。
光が静まると当然のごとくその場にいた細身で高身長の女性の姿は無く変わって表れたのは【フェンリル(変異種)】の姿であった。
その姿は高い天井に届くごとくの身丈を持ち漆黒の銀色に光る光輝く毛並みと恐ろしい顔の頬に三本線の様に光り輝く緑色のラインをあしらった見るからに恐ろしくもあり逆に神々しい輝きも有する一目見れば誰もが聖獣であるとひれ伏すであろう姿であった。
「あわわあわわ・・・・・・」
再び心を乱したバスラムであったが先ほどの様に興奮するのではなく驚きのあまり言葉が出なかった様子だ。
「トーヤ殿、刺激が強いと思われますので」アンコールは上司の体をいたわり知矢へフェンリルの姿から戻るように頼んだ。
すると再びフェンリルの身に輝きが起こるとあっという間に先ほどの細身の女性の姿が現れるのであった。
その光景を唖然として見ていたバスラムであったがハタと気が付きアンコールへと顔を向ける。
「卿が言いたかったのはこういう事か・・・・確かに最高神様のお使い様を拘束するなどわしのいやこの帝国の終わりも同然じゃ。止めてくれたことに感謝する。しかしだ、しかしこの件は報告に無かったではないか!お前が事前にきちんと報告しておれば・・・」
バスラムはいつもの落ち着いた老練の高位貴族の姿を失い慌てた様子で配下の責を口にする。
「恐れながら閣下。流石に私も最高神様のお使い様が現れたなどと喧伝や報告等を軽々しく・・・」
アンコールはこの世界の不文律ともいうべき慣習にのっとっただけであると言い訳をした。
その実は知矢に関する秘事を公にしたくはないというのが本心であったのだが。
「むむむ、まあそうだな。最高神様のかかわり人では致し方ないか」
知矢はその話を傍らで聞きながら
(やはりこの世界の常識をわしはまだまだ全然知ってはいないのう)と思うのであった。
そうは言っても実のところこういった最高神がらみの配慮は明確に言うと宗教関係者又は政府要人の中では広く周知されている事ではあったが知矢が普段生活する一般市民の間では確かに最高神や母神デミレサス、魔神などの神々を崇める事は一般的ではあるが神の秘事や聖獣の立ち位置などに関する詳しい話は深く伝わってはいないのであった。
「ご明察恐れ入ります」
アンコールはバスラムが素直に受け取ってくれたことに感謝の意を表す。
「お前が言いたのはそれだけか」
もう勘弁しろと言いたげな顔の上司に対しアンコールはそれを否定して続ける。
「いえ、実はもう一点お伝えして於かなければならない事がございます」
上司に恭しく頭を下げるアンコール。
「なんだと!まだあるのか!」
バスラムはこれ以上衝撃的な事柄は無かろうと一瞬気を抜いたところに聞かされた言葉に思わずも上ずった声を上げてしまった。
バスラムへの話はまだもう少しだけ続くのであった。
それにしても1/25に都内感染者が1万2千人を超えてしまいましたね。全く中国はオリンピックどころじゃなかろう。責任をとれ責任を。何千万人◎せば気が済むんだ。
ではまた次話にて。




